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■マーケティング|日本では、いまだにマーケティングの重要性が認識されていない

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マーケティングは、セールスではない!

 マーケティングが日本では認識されていない、と言うと「あちこちで使われてるし、認識されてるだろう」といわれるに違いない。

 たしかに、言葉や用語としては定着しているし、新聞やテレビでも見たり、訊いたりする機会は数多い。それは間違いないところである。

 しかし、その意味や内容はというと、甚だ疑問に感じざるをえない。それは、日本では本来のマーケティングの意味や内容とだいぶ様相が違っているからだ。どこが違っているか、以下に事例を出して検証していきたい。

広告/販促をマーケティングとする
 日本でマーケティングというと、まず思い浮かべるのが広告や販売促進である。かつて多くあったSP(セールスプロモーション)会社は、いまではほぼマーケティング会社に呼称を変えている。しかし、やってることは概ね、従来通りのSP(販売促進)であり、本来のマーケティングの仕事はほとんどしていない。

 広告・販促は、マーケティングではあるが、その一部であり全体を意味するものではない。ところが、なぜか広告・販促=マーケティングという認識が広がってしまった。それは、やはりSP会社や広告会社がマーケティングを都合よく解釈して使ったこともひとつの要因となっていた、と思われる。

 一般企業のなかでもそれが浸透して、広告や販売促進を担当する部署がいつの間にかマーケティング部になっていたりした。そのことに対し、企業の経営者も社員たちもなんら疑問を感じずに現在に至っている。

 一方、知識のある人はマーケティングの概念をよく理解していた。啓蒙もしていたはずだが、それでもマーケティングの概念は日本ではおざなりにされて、一部だけを活用するに留まってしまった。なぜかといえば、大企業の経営者たちが、日本の企業風土に合わないと判断したのではないか、と想像するがいかに。

営業/販売をマーケティングとする
 企業のなかには、営業や販売をマーケティングとしているのが見受けられる。ソニーマーケティングしかり、キャノンマーケティングしかりである。これらは、かつては販売を担っていた部署、または小会社であった。

 営業や販売も、これもまたマーケティングの一部であり全体を意味していないのは、上記した広告・販促とおなじである。

 ソニーやキャノンが、マーケティングの概念を知らない訳はないと思うが、なぜか、このような呼称をする日本の企業が実に多く存在している。

市場調査/分析をマーケティングとする
 広告や販促の次に多いのが、市場調査をマーケティングとすることだ。とくに一般の人々には、これが一番浸透しているかもしれない。たしかにマーケティングには、市場調査が付き物ではあるが、それがすべてではない。

 市場調査は、マーケティングの基本中の基本である顧客満足に端を発している。製品や商品があれば、そこには当然のように顧客がいる。顧客満足という目的を達成するために、市場や顧客のニーズ(顕在化した需要)、シーズ(潜在的な需要)を探るのが、いわば市場調査の役割となっている。

 だからといって、市場調査=マーケティングではないのは言うまでもない。

いったいマーケティングとはなんだ

 上記したマーケティングの例えは、いずれもマーケティングの重要な要素ではあるものの、あくまでひとつか、ふたつの要素でしかない。

 なぜこのように解釈の仕方が違っているか。それは、マーケティングを日本語で端的に言い表す言葉がないからだ、と思われる。アドバタイジング=広告、セールスプロモーション=販促、セールス=営業、または販売、リサーチ=市場調査という具合に、それぞれ日本語に当てはまるものがあるが、マーケティングにはそれがない。

 あえていえば、マーケティング=市場創造、あるいは顧客満足か。しかし、これには異論が多くあると思われる。なぜなら、個人的にはそれで十分であっても、誰にでも通じるものとは思われないからだ。

 では、いったいマーケティングの本来の意味とはなんだろうか。それを端的にいうことは難しいが、そこをあえていうと、次のようになるはずだ。

 マーケティングとは、企業(企業だけとは限らない)のビジョン(長期的目標)に基づき、企業、製品や商品、ブランド、サービスなどの方向性を定め、それぞれの担当部署と連携しながらビジョン達成に向かって、ブレることなくひとつにまとめ上げていくこと、ということができると思われるがいかに。

 したがって、マーケティング本来の目標は長期に比重があり、けっして短期のものではないといえる。このように捉えると、上記した例えば、広告や販促は短期のものであり、本来の意味とは違っているのが分かるはずだ。

 しかし、逆にいえば長期目標の達成は、短期の繰り返しであり、けっしておろそかにできないのも言うまでもない。

まとめ/マーケティングは企業活動全体にわたる
 さらに補足を付け加えれば、マーケティングとは、ビジョンという目標達成に向かって、企業イメージ、商品や製品の開発、ブランド、広告・販促、サービス、顧客管理等々、企業活動のすべてにわたってコントロールしていく、ということだ。

 マーケティングは、どれかひとつが重要なのではない、企業活動全体に行きわたることが、最大の課題となっている。

日本企業は昔のパンパースと同じ間違いを犯している
米プロクター&ギャンブルの元グローバル・マーケティング責任者/ジム・ステンゲルへのインタビューより

 ブランドの価値が会社の価値の半分を占めるなら、当然、それに責任を負う人間が必要だ。日本企業には、そういう人間がいないのではないか。

 マーケティング部門の責任者は必ず必要だ。多くの日本企業はマーケティングを財務や技術開発のような専門として見ていない。販売促進活動の一環のように思っている。それが問題だ。

 販売が目指すのは、今日、明日、来月などの短期でたくさん売り上げること。マーケティングは長期的に需要を創造するもの。製品開発を根本から変えるようなもの。マーケティングは消費者を理解し、企業に長期的な勝利をもたらすものだ。

── 具体的には?

  企業のビジネスの背景にある理想を定義づけ、それを広く全社員と分かち合い、一丸となってその理想を追い求め、各部署で理想を具体化するための行動に落とし込む。これがマーケティングで、この一連のプロセスを完結させるにはリーダーがいなければならないし、強力なマーケティング部隊がなければ実現は難しいだろう。

日本では詐欺的マーケティングが全盛である
 昨今、日本の企業は短期的利益を追求するあまり、企業・ブランド価値を棄損する例があとを絶たない。例えば、最近では東芝がそうであり、DeNAなども典型的な釣り師マーケティングをして企業価値を落としてしまった。その他にも事例はあるが、どこにも共通しているのが短期的利益の追求が仇となっていた。

 また、IT系や健康食品などには、なにがなんでも顧客を釣り上げよう、とする姿勢が強く漂っている会社が多く見られる。嘘でもなんでもいいから、興味を抱かせて購買に繋げていくことをしているが、はたしてそのような企業活動に永続性があるのか甚だ疑問を感じざるを得ない。

 例えば、水素水などは、ある意味典型に違いない。効果・効能を偽って、顧客を金づるとしか考えていないのが見て取れる。

 そのような企業は、たぶん、短期的に利益を上げることを目的にした詐欺会社と断定してもなんら問題ないに違いない。ところが、そんな企業が実に多くなっている。日本では詐欺マーケティングが蔓延している、と言っても過言ではない。

いつまでもあると思うなインバウンド消費
 百貨店は、過去の栄光は何処へであり、インバウンド消費が増加すると揃って右へ習えをする有様だった。そこにビジョンはないに等しかった。百貨店はインバウンド消費に多額の投資をしたが、実に粗雑な判断だったといえるだろう。

 判断を誤らせたのは短期的な利益が欲しいからだった。利益に目がくらんで、ビジョンを忘れたツケは近いうちに現実化すると思われる。ちなみに業種は違うが、東芝などは、先がまったく見えなくなったのは言うまでもない。

 日本の企業には、大企業といえどもビジョン(長期的目標)が見えてこない企業が実に多く、いったい何をしようとしているか、何を顧客に届けようとしているか、その辺りが曖昧であり、また一貫していないことが顕著である。

 その原因は、やはりマーケティングが本来の意味で実践されていないからだ、と思われるが。いまこそ、日本の企業にはマーケティングの概念を、本来の意味を真摯に受け止めて、企業活動をやり直してほしいと切に願います。

 マーケティング業務の端っこにいるひとりとして、そのように思います。

おまけ/マーケティングの定義
アメリカ・マーケティング協会
 マーケティングとは、顧客、依頼人、パートナー、社会全体にとって価値のある提供物を創造・伝達・配達・交換するための活動であり、一連の制度、そしてプロセスである。

日本マーケティング協会
 マーケティングとは、企業および他の組織がグローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動である。

マーケティングミックス
 マーケティング戦略において、望ましい反応を市場から引き出すために、マーケティング・ツールを組み合わせること。

<組み合わせ/例>
4P=Product(製品)、Price(価格)、Promotion(プロモーション)、Place(流通)

4C=Customer solution(顧客ソリューション)、Customer cost(顧客コスト)、Convenience(利便性)、Communication(コミュニケーション)

新4C=commodity(商品)、cost(コスト)、communication(コミュニケーション)、channel(流通経路)

参考文献:コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント 第12版、ほか

ー追記ー
 当方の経験から一言。かつて、いくつかの企業にマーケティングの提案をし続けていたことがある。いずれもよく知られた企業であるが、そこでは何度か提案の内容を理屈として退けられて、やり直しを求められた。

 そして短期利益、要するにすぐに儲かる提案に内容を変更して採用されたことが何度かあった。とにかく、どの企業でもビジョンを示されたことが一度もなかった。仕方がないので、こちらで想定したうえで企画提案したぐらいだった。

 ほとんど誰もビジョンなんて気にしていなかった。

 のちに、某上場企業のなかで仕事をすることになり、その実態を垣間みることになった。ビジョンという長期的視点に基づいて仕事をする人は皆無だった。重要とされたのは、短期的な利益であり、そして結果が求められていた。

 仕事を続けているうちに、ふと疑問が湧くことが多々あった。それは、この会社は何をしようとしているか、それが見えないということだった。いくら短期的に利益を上げても、トータルで捉えるとどうなのか疑問に感じていた。

 事業主体のなかでトータル・マーケティングがしたいと常々思っていたが、そんなことは遠い夢でしかなかった。その後、この企業はいずれ衰退するな、と思うことが日々強くなっていた。そしてその通りになった。

 現在、その企業は某企業に吸収合併されて、かつての存在感はすでにない。たまにメディアで見かけるが、相変わらずビジョンが見えず、何がしたいのかはっきりしていない。いやはや。

 マーケティングがうまくいっている企業は、どこを切り取ってもその企業らしさが感じられる、または見て取れる。例えれば、アップルがそうであり、スターバックスとかディズニー、あとはグーグルもそうかもしれない。

 しかし、日本の企業では残念ながら、思い浮かべる企業がない。かつては、ソニーがそうだったが、いまではそうではない。

さらにおまけ/「世界で最もイノベーティブな企業」ランキング

 最新(2017)のベスト10は、以下のとおりです。11位以下は中国企業がずらーーと並び、日本企業は50位以内に1社も入っていません。
Apple、イノベーティブな企業ランキングで今年は4位に

1.Amazon
2.Google
3.Uber
4.Apple
5.Snap
6.Facebook
7.Netflix
8.Twilio(クラウド通信企業)
9.Chobani(ギリシャヨーグルト)
10.Spotify

 比較的、新興の企業ばかりがランキングされています。日本企業のイノベーティブはいずこへ。東芝などを考えるとそれどころではないようですが…。

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グーグル、ザッポス、ジャックダニエル、メソッド、ディスカバリーチャンネル…消費者との強い絆を築いた企業だけが利益を挙げ、市場に君臨できる。P&Gのブランド王国を築いた伝説のマーケターが提言する、ビジネスを加速する理念の法則。
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