■映画|欲望の翼 時は過ぎても記憶は残る

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狂おしい程に満たされぬ想いが、官能的なまでに美しい

映画「欲望の翼」は、ウォン・カーウァイ監督が香港映画界のニューウェーブとして認知され、その後のキャリアに影響を与えた作品となった。独特のモノローグの語り口とスタイリッシュな映像感覚を重ね合わせて、これまでにない新しい美的価値を創造している。

60年代初頭の東洋と西洋が渾然一体となった香港、そこにいる主人公たちの青春の一瞬の輝きと戸惑い、情緒性豊かな官能的なセリフ、そして背景に流れるラテン音楽など、それらが混じり合って不思議な魅力を醸し出している。

その不思議な魅力は、香港が背負ってきた歴史と宿命とも無関係ではないと思われる。

この作品に出演したレスリー・チャン、アンディ・ラウ、マギー・チャン、カリーナ・ラウ、そしてトニー・レオンなどはのちに香港の大スターとなっている。

日本では、1991年の第4回東京国際映画祭で、『デイズ・オブ・ビーイング・ワイルド』のタイトルで上映された後、1992年に劇場公開された。

「夢で会おう」「寝ればきっと俺に会える」「この一分を忘れない」「君とは一分間の友達だ。この事実は否定できない」など多くの名台詞が印象的に散りばめられている。

そして、今は亡きレスリー・チャンの瑞々しい演技と容姿は、その魅力を余す事無く見せている。「欲望の翼」は、レスリーの代表作のひとつであるのは間違いない。

本作は、続編が作られる予定だったが、諸事情でそれは叶わなかった。しかし、時を経て「花様年華」「2046」という作品に、その世界観は引き継がれている。

「欲望の翼」とは
ウォン・カーウァイ監督が、60年代初頭の香港を舞台に、若い男女の限りある青春の一瞬の輝きを魅力的な映像美として表現した傑作である。
欲望の翼|ストーリー

1960年の香港。やさぐれ感が漂うヨディという青年がいた。ヨディは、蹴球場(サッカー場)の売店の店員スーに「君とは一分間の友達だ。この事実は否定できない」「夢で会おう」などと言い寄っていた。

そして店員スーはヨディと恋に落ちた。ナイトクラブのダンサー、ミミもヨディの虜になった。ヨディの友達サブはミミに、警官タイドはスーに密かに想いを寄せていた。

ヨディを中心に若者たちの目眩く想いは交差し、擦れ違っていく…。

1960年の香港。蹴球場(サッカー場)の売店の売り子スー・リーチェンは、ある日ヨディという青年に口説かれる。1度は断ったスーだったが、やがてヨディに惹かれ始める。

だが、結婚を望むスーに対してヨディにはそのつもりはなく、傷ついたスーはヨディの元を去る。やがてヨディはクラブのダンサーのミミと付き合い始めるが、ヨディの親友サブはミミに恋心を抱き、傷ついたスーを慰めた警官のタイドは彼女に惹かれていく…。

ヨディは、ミミを残して実の母親を探しにフィリピンへと向かう。ミミは、突然姿を消したヨディを探してまわる。そんなミミにサブは、募る想いを告げていた。タイドは、警官をやめて船乗りになっていた。スーは、タイドを想い連絡するが繋がらない…。

若い男女のそれぞれの想いは、満たされぬまま揺れ動き、そしてすれ違っていく。

限りある一瞬の輝きとともに…。

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ヨディは「夢で会おう」、とスーに言い寄った

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ヨディ(レスリー・チャン)とミミ(カリーナ・ラウ)

「欲望の翼」は、情緒性豊かな映像美と、ラテン音楽が奏でる情熱性が不思議な調和を醸し出している。そして、なんといっても主人公ヨディ(レスリー・チャン)が語るセリフが忘れがたい印象を与えている。

「夢で会おう」
「寝てないな。寝れば俺と会える」
「君とは一分間の友達だ。この事実は否定できない」
「この一分を忘れない」

オープニング、主人公ヨディが蹴球場(サッカー場)の売店にタバコをくわえながら登場し、売り子のスーに「夢で会おう」と言い寄っていた。その後すぐに、ムード感たっぷりのラテン音楽とジャングルを背景としたタイトルが現れる。

このオープニング・シーンのセンスの良さに心をぐいと掴まれた。ちなみに、この魅力的なジャングルは、フィリピンで撮影した様である。

売店を再び訪れたヨデイは、売り子のスーに問いかける。「寝てないな。寝れば俺と会える」。そして、また訪れてはスーに「友達になろう」と言い寄り、「一分間だけ時計を一緒に見ろ」と半ば強引にそれを行う。

そして、その後に「この一分を忘れない」、「君とは一分間の友達だ。この事実は否定できない」とヨディが言い放つシーンが印象的である。ヨディは強引で自己中心的であるが、なぜか魅力的な青年でもある。

このシーン以外でも、時を刻む時計が印象的に使われている。時は人の気持ちとは関係なく、否が応もなく進んでいき、交差する想いさえも過去のものにしていく。まるで時計は、ときに切なく、また癒しともなることを象徴しているかのようだ。

カーウァイ監督曰く、
「背景は変わり、時は流れても、変わらないものもある」

カーウァイ監督はこの映画に関して、「背景は変わり、時は流れても、変わらないものもある」と語っている。時間(記憶)は重要なテーマとなっているようだ。

主人公ヨディ役のレスリー・チャンが、粗野で生活感がなく、すべてに投げやりでありながら、密かにナイーブな心情を有する男を見事に演じている。レスリーの発するセリフ、と同時に、その動作が魅力的である。

ヨディは、スーにもミミにも好意をもたれるが、かれは彼女たちの想いを叶えようとはしない。まるで女性を信じていないといった趣にある。それは実の母親に捨てられたというトラウマが、心の傷となっているせいか。

スー役のマギーチャンは、まだ都会に染まっていない清廉な女性を儚いまでに美しく演じている。ヨディを忘れられなくて家を訪ねた後、脇道で佇むスーのスカートが、風でひらりとはためくシーンでは胸がキュンとした。

そのとき背景に流れる音楽(パフィーディア)も忘れがたい印象を残している。


ヨディに想いを寄せるダンサーの女ミミ(カリーナ・ラウ)

ミミ役のカリーナ・ラウは、すれっからしのダンサーを好演している。ミミはクラブのダンサーであるが、ヨディと同じく、どこか投げやりな言動、態度の女性である。ヨディを最初は拒絶するが、ヨディの魅力に堪えがたく深く愛する様になってしまう。

ミミがヨディの虜となっていく様子は、なんとも可愛くもあり、また痛々しくもある。そして、その想いはどこか官能的でさえある。

ヨディが、実の母を探しにフィリピンに行った後、突然姿を消したヨディを探してまわるミミを心配したサブ(ヨデイの友人)と雨の中で諍いを起こすシーンは印象的である。また、ミミ役のカリーナの狂おしいまでの演技振りは、一見に値するものがある。

映画のラストシーンに、トニー・レオンが少しだけ顔を見せている。しかし、このシーンは映画の内容とは関係なく不可解であり、謎めいている。これは、続編の予告的なものだったのかもしれない。なお、続編は作られなかったが、時間を経て作られた「2046」の主人公のやさぐれ感に似たものがあるようだ。

ちなみに、ミミ役のカリーナ・ラウは、のちに長い交際を経てトニー・レオンと結婚している。「2046」では、再びミミ役を演じてトニーとも共演している。

追記:
本作を観た後にCDを買いに行った。しかしサントラは出ていなかった。
そこで「欲望の翼」という映画で使われていた音楽は何かと店員の方に話したところ、それは「ザビア・クガート」ですね、とすぐに返事があった。これにはさすがと関心しました。渋谷の大きなレコードストア(タワーレコード)での出来事である。
欲望の翼|デイズ・オブ・ビーイング・ワイルド

監督/脚本:ウォン・カーウァイ
撮影:クリストファー・ドイル
美術:ウィリアム・チョン
音楽:ザビア・クガート、ロス・インディオス・タバハラス
出演者:レスリー・チャン、カリーナ・ラウ、アンディ・ラウ、マギー・チャン、ジャッキー・チュン、トニー・レオン
公開:香港1990年12月15日 日本1992年3月28日
上映時間:97分

<キャスト>
ヨディ:レスリー・チャン
ミミ(ルル):カリーナ・ラウ
タイド:アンディ・ラウ
スー・リーチェン:マギー・チャン
サブ:ジャッキー・チュン
レベッカ:レベッカ・パン
スマーク:トニー・レオン

本作は、第10回香港電影金像奨で最優秀作品賞・最優秀監督賞・最優秀主演男優賞(レスリー・チャン)を、第28回金馬奨で最優秀監督賞を受賞している。

もともと前後篇二部構成の予定でウォン・カーウァイ監督の下、アイドル時代のトップスターたち多数が集結して共演しており、再集結は予算的に不可能とされていたが、2000年の『花様年華』と、2004年の『2046』に役名や設定が一部受け継がれており、この2作が実質的な続編ともいわれる。


印象的なシーンが撮影されたクィーンズカフェ(皇后飯店)

参考文献:DVDの解説、ウィキペディア

マイ・ショール ~ベスト・オブ・ラテン
「欲望の翼」のなかで使用された楽曲が収録されている。
マイ・ショール ~ベスト・オブ・ラテン

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