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■映画|藤田敏八「八月の濡れた砂」 限りある青春のひと夏のできごと

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青春は記憶の中に埋まっていた!

70年代の幕開けを飾った青春映画の傑作

大人になることを拒み、大人に牙を剥ける若者たちのひと夏を描いた映画である。

映画「八月の濡れた砂」は、71年に公開された。当時、経営的に苦境にあった日活が、旧体制で製作した最後の作品となった。この作品以降、日活はロマンポルノ路線に活路を求めることになる。

この映画を観たのは、公開からずいぶんと年月を経た70年代後半か、80年代のどこかであったと思う。記憶はあいまいだが名画座で観た記憶がある、しかも何回も。池袋か高田馬場あたりの名画座で上映された藤田敏八監督の特集か何かだったはずだ。

しかし、それも確かではないが。この映画をあえて要約すれば、青春期の真ん中にある若い男性特有の衝動的で、行き場のないやりきれないほど熱い思いを描いた映画である、ということができるだろう。(また女性もおなじく)

背景には、当時の政治的状況もちらほらと伺える。ベトナム戦争も間もなく終わり、学生運動の暑い季節も終わろうとしていた。

70年代はしらけの時代とも称されていた。60年代に世界各地で起きた、若い世代による革命的運動は何ら成果を得ないまま終わり、70年代はその反動で無気力で投げやりな態度が、時代の空気を支配していたからだ。

そのような時代の雰囲気を先駆けて描いたのが、「八月の濡れた砂」であった。


【予告篇】八月の濡れた砂 投稿者 Rui_555

いずれにしろ、青春はいつか過ぎ去る

この作品の出来は、当時でも評判は大変良かったようである。

70年代、アメリカでは既存のハリウッドシステムが限界を迎えていた。そして若手を主体としたニューシネマが登場して映画の常識を覆していた。いわば映画のパラダイムシフトの時代となっていた。

それとおなじく日本でも映画の旧体制が綻びはじめていた。そして、本作品のような青春映画が登場し、日本のニューシネマの先駆けとなった。

個人的には、内容も然ることながら、題名に強く惹かれたと記憶している。「八月の濡れた砂」という題名は、なんとも男の気持ちをざわめかすところがあった。そして、儚さと同時にロマンティックな香りもわずかに漂わせていた。

映画の舞台は、八月の暑い真夏の湘南である。空は真っ青に晴れわたり、どこまでも青く、照りつける日差しが汗を滴らせる。そして、そんな真夏は、若い男女の季節と言っても過言ではなかった。

本作では、真夏の本当に暑さが身に応える雰囲気がよくでていた。主人公は、大人たちの不条理な仕打ちに怒りを抱えた高校生とその親友である。境遇の違うふたりではあったが、身の置き所のない気持ちは共通していた。

しかし、真の主役は二度とない青春期の夏(八月)であると思われるが、どうであろうか。とにかく、かれらはこの世代の男特有の行き場のない熱い思いを抱いて、日々どうしたらいいかを思い悩んでいた。

しかし、かれらはそれを表立って見せることはない。それが、若い男特有の粋がるところである。ある日、主人公は避暑に来ていた金持ちの姉妹と出会う。姉は堅物で、妹は奔放ではあるが未成熟であった。

主人公と親友、そして金持ちの姉妹との関係性は、一度しかない青春期の真夏の八月を背景にして展開していく。

なお、最近久しぶりに観るまでは詳しいストーリーは遠い記憶の彼方へと忘れられていた。なんとなく雰囲気は覚えていたが、内容は真夏の入道雲の中に閉じ込められたままだった。そして幾年月が過ぎていた。

久しぶりに観たこの映画で、いまさらながらに感じるものがあった。それは、青春とは「真夏の八月」と同義といえるということだった。暑すぎる夏も、時が経てば秋になり、身も心も落ち着きを得てくるからだ。

短く、そして儚いからこそ青春は尊いといえるに違いない。

石川セリの歌うテーマ曲が秀逸である!

エンディングに流れる、石川セリ(現・井上陽水の妻)が歌うテーマ曲が、なんともこの映画の雰囲気を増幅させる効果を発揮している。そのメランコリックな調べは、いずれにしろ、あっという間に過ぎ去る青春を懐かしむように響くのであった。金持ちの娘(妹)を演じる、テレサ野田が瑞々しく、その水着姿がまぶしい。

この映画を観た当時、彼女のその姿に胸がときめいたのを思い出した。

ストーリーが、アマゾンの商品説明にあったので以下のようにご紹介します。なお、この映画は、現在DVDを購入するしか観る手だては無いようだ。レンタル用に販売はされていない。(追記:レンタルもされているようです)

「八月の濡れた砂」|DVDの解説より

大人になることを拒み、大人に牙を剥ける若者たちのひと夏を描いた日活青春映画の最高傑作であり、時代を作った映画でもある。

ギラギラした太陽、洋上を走るヨットで繰り広げられるクライマックスは、日活映画への鎮魂歌でもあり、藤田敏八映画の新たな船出となった。

ストーリー

朝の海辺。オートバイをぶっとばす清は、緑色のオープンカーから下着だけで放りだされる少女を目撃する。それは不良学生に暴行された少女早苗で、全裸になって海へ飛び込んだ彼女はごしごしと身体を洗う。清は無人の売店小屋へ彼女を入れ、家に帰って、服を持ってくるが、彼女の姿はなかった。

しばらくして、早苗の姉、真紀が清を訪ねてきた。彼女は、清を暴行犯人と思ったらしく、車に乗せ警察につきだそうとするが、怒った清は、車の中で真紀に強引に挑む。しかし、途中で気が変ってしまう。

数日後、早苗が清を訪ねてきた。その時海岸で彼女を犯した例の不良学生たちを見つけ、友だちの野上健一郎も加わって、オープンカーを奪いさんざんにいためつけ、そのまま早苗の別荘にいって遊んだ。

翌日の晩、健一郎は裏通りで三人のヤクザらしい男たちに襲われ、半死半生の目にあう。そして、それから….

<スタッフ&キャスト>
監督・脚本:藤田敏八
主題歌:石川セリ(八月の濡れた砂)
広瀬昌助(西本清)
村野武範(野上健一郎)
テレサ野田(三原早苗)
藤田みどり(三原真紀)
1971年公開 日活

以下は、「八月の濡れた砂」の主題歌石川セリのMP3と映画のDVD。

日活100周年邦画クラシック GREAT20 八月の濡れた砂 HDリマスター版 [DVD]

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