■小説自作|アイドルも楽じゃない! その2「インディーズ・アイドル」

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アタシたちには、失うものは何もない!

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この写真と当該小説とは特に関係はございません

アイドルも楽じゃない! その2「インディーズ・アイドル」

作:cragycloud
登場人物:アタシ(地下アイドル)

 アタシは、いまアキバの駅周辺で公演のチラシを配っている。この糞暑い最中にジョーダンじゃない。しかも、アノニマスの仮面を被っているのだ。この仮面は、なんでもイギリスが発祥らしい。良くはしらないが、抵抗のシンボルと化してるようだ。

 ハッカー集団のアノニマスが被って注目された。それを、うちの糞社長が見て、これは受けると勘違いしてアタシたちに被らせている訳だ。アタシたちは、腐ってもアイドルだ。顔を見せてなんぼだと思うが、社長は違うようだ。

 なんてことよ。まったく。この暑い中で仮面を被ってチラシを配っているが、みんなこの異形さに恐れて遠ざかっていくじゃないか。アタシたちは、アイドルよ。と思い切り声を出して呼び止めたい思いに駆られる。

 あー、なにやってんだろ。アタシだけでなくメンバーのみんなもそう思ってるに違いない。そもそも、この事務所のオーディションを受けたのが間違いだった。

 自慢じゃないが、アタシは有名なアイドル・グループのオーディションは、ほぼすべて受けた。そして、ことごとく落ちたのだ。最初は、悔しかったが、そのうちそれも慣れた。落ちる事が、当たり前であった。それでも、受け続けたのは何故か。

 それは、ただアイドルになりたいという一心であった。ちょっとは可愛いという自覚があったのは言うまでもない。しかし、飛び抜けてとはさすがに思っていない。それでも、なぜかアイドルになれると思ってオーディションを受け続けたのだ。

 そして、唯一受かったのが、いまの事務所だった。この事務所は、何か怪しかったが、それでもはじめて受かったうれしさで一杯であった。なにが怪しかったか、といえば事務所の場所であった。秋葉原からほど近い、錦糸町というところの風俗街の一画にあったのだ。

 秋葉原に近いのはいいが、なんで風俗店ばかりのなかにあるのか。はじめて行ったときは、これはなにか新手の風俗穣の募集かと思ったぐらいである。

 それでも、いまこうしてアイドルのはしくれをやってるのは仲間がいたからだ。なんと、アタシと同じ思いの女の子ばかりがいた。境遇も同じようなもんだった。有名どころのオーディションを落ちまくった女の子ばかりだった。

 そんなこんなで居心地の良さを感じてもう半年が経つが、なんらメディアに注目されることもないほそぼそとしたライブを時々やるぐらいである。ライブと握手会と撮影会が一緒になった活動がメインである。いま配ってるチラシも、そのライブのものだ。

 最近じゃ、メンバーのやる気も削がれて惰性でなんとかやってるという感じだ。なにしろ、アイドルなのにそれらしい楽曲も無いのだ。社長の好みで昔のロックかなんか知らないが、その原曲に社長の知り合いが作詞したものが、このグループの持ち歌だ。

 なんだよこれ?。そう思ってるのはアタシだけじゃない。糞社長の趣味の悪さがだんだんと判ってきた。最初に感じた怪しさは、正解であった。2ヶ月ぐらい前から、メンバーを呼び出してはAVに出ないかと言いはじめた。ジョーダンかと思ったが、そうではなかった。

 糞社長は、赤字だから犠牲的精神で助けてくれと言って懇願したのだ。なにが、犠牲的精神だ。最初から、これが目的なのではないか。という疑問が浮かんできた。なにしろ、アタシたちは腐ってもアイドルだ。

 そのアイドルが、AVに出たとなれば飛びつく物好きもいるはずだ。くそー、やられたかもしれない。そんな思いが過るが、どうしたらいいか思いつかない。自慢じゃないが、頭は良いほうじゃ無いからだ。無い知恵を絞る必要を感じていた。

 最初、アタシたちは契約を交わしていなかった。それが、数ヶ月前に一番の美人だったメンバーが、他の事務所に移籍していった。それをきっかけに、残ったメンバー全員に契約が交わされた。そして、1年間は事務所の方針に従って仕事をすることになった。

 しかし、AVに出るなどは論外だ。アタシたちは揃って抵抗した。糞社長は、意外な抵抗に合いたじたじとなった。それもそうだ、アタシたちは底辺にいるアイドルだ。有名アイドルと違って失うものは何も無い。だから、ここぞと覚悟を決めれば強くなる。いや、もともと強いからこそ地下アイドルがやれていると言えるかもしれない。

 ともかく、糞社長の言い分はとんでもない。だから、アタシたちは、もしAVに出ることを強制するならば、ネットでこれをばらすと宣言した。これが、思いのほか効果があって、最近ではあまりAVの話はしなくなった。

 それでも、一部のメンバーにはこっそりと話しかけているようだ。なかでも、メンバーのなかで一番セクシーな子は熱心に口説かれているようだ。アタシたちは、とにかくお金がない。なにしろギャラはないに等しい。むしろ持ち出しと言ってもいいぐらいだ。だから、メンバーのほとんどが、アルバイトをしている。

 アタシは、コンビニとメイド喫茶を掛け持ちしている。なかには、風俗でバイトしてると噂されている子もいる。それでも、みんな夢があるからアイドルにしがみついてるのだ。そんなアタシたちを、金儲けの道具のように扱おうなんて許せないわ。

 ゼッテー、糞社長には報復してやる。アタシは、そう心に誓っていた。とにかく、このままでは未来はない。なんとかしなくては。そこで、アタシはメンバーのなかで一番大人である風俗でバイトしてるらしいと噂されてる子に相談した。

 そして、なにより新しい楽曲をつくるべきだという意見で一致した。それは、当然であった。しかし、社長に言っても埒が開かない。そこで、最近流行のボーカロイドで曲をつくる人を捜して頼んだらどうか。という話になった。それは良いかも知れない、

 素人でも良い曲をつくる人達がいるのだ。うまくすればオリジナリティーが獲得できるかもしれない。これをメンバーに話したら、みんなもいまよりは良いかも知れないと賛同してくれた。

 まだ何も決まっていないが、ほんの少しだけ、何か未来が見えてきたように感じた。アタシは、もうすぐ20歳になる。もうアイドルの限界点かもしれない。とにかくやるだけやってやるぞ。という決意が漲ってきた。駄目で元々だし、失うものは何も無いのだから、と改めて感じていた。

「インディーズ・アイドル」 おわり

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