■デザイン|デザインの見方(2)アールデコのポスター

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スピード、巨大さ、遠方への憧憬の視覚化

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曲線から直線へと時代の美の表現は変わった

19世紀末のアールヌーボー期に登場したポスターは、絵画の路上への進出を果たした。それは、街の通りを美の表現場所として解放したのであった。その当時の人々は、歩きながらゆっくりそれらを眺めたはずである。

しかし、時代は変わり1920年代になるとポスターの役割に変化が生じた。それは、人々の移動する速度に対応することであった。かつての馬車や、徒歩が中心であった時代から、自動車や機関車の時代になっていた。

その問題に対応すべく登場したのが、直線の美アールデコであった。ゆったりと時間が流れる時代の表現であったアールヌーボーの曲線とは違い、その美の表現は単純化された直線による明快さが特徴であった。

アールデコは、まさに目的を明確にした美の表現であった。

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左/アールヌーボーと右/アールデコの表現の違い

スピードの表現

1920年代は、スピードの時代であった。自動車が普及し始めたのである。そして、機関車は大陸の隅々まで拡張していた。アールデコは、そのスピードの表現を単純化して表現する手法を編み出していた。

直線による仰角構図と強調した遠近法を用いて、速度を視覚化したのである。その代表例が、カッサンドル作「北方急行」である。低い視点から捉えた構図は、遠近法をさらに強調し、見るものに速度感を与える事に成功している。

この時代、人々はスピードに魅了されたようである。それは過去にない出来事であったはずである。自動車や機関車から見る景色は、あたらしい体験であった。遠方にあった景色もあっという間に近づいてくる。そして流れゆく景色などは、とても新鮮な驚きであったに違いない。

そこでポスターにも、そのような感覚を追体験させるような表現が求められた。また、その表現は機能性も有していた。単純化された直線の美は視認性に優れていたのである。

広告主と人々が求める美の表現性、それが合致していた。いまでいうところのマーケティングの概念(顧客満足の創造)に、まさにピタリ一致していた。そんな時代の表現がアールデコのスピードの視覚化であった。

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カッサンドル 北方急行 1927年

巨大さの強調

この時代(1920年代)には、自動車や機関車に加えてもうひとつ目立った技術の革新があった。それが巨大な客船であった。巨大さが与える感覚もこの時代特有のものである。それは、これまでに見た事もない大きさで迫ってくる。圧倒的な存在感を発していた。

工業技術の革新によって、陸には摩天楼が、海には巨大な豪華客船が誕生していた。人間が古来から有していた巨大さへの憧れを新しい技術で成し遂げたのがこの時代であった。豪華で巨大な客船は、海を渡る旅の憧憬を覚醒させたのであった。

そして、アールデコの表現はこの巨大な客船の魅力を、確実に人々に伝えることに成功した。それは大胆で単純な構図にあった。巨大さを強調する下から見上げる仰角構図、巨大さを示すクローズアップされた巨船、それと比較する小さな舟などである。

この単純ともいえる構図は、いまでも、これを超える事ができないほどに完成された表現となっている。

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カッサンドル アトランティック号 1931年

遠路への憧憬

かつてヨーロッパでは、多くの人が出生地から離れることなく暮らしていたそうである。旅は、一部の人々が行うものであったらしい。しかし、時代は変わり機関車の誕生から人々は遠方への旅立ちを容易なものとした。

そこには、これまでに感じることのなかった遠方への憧憬を齎したのであった。かつては、行く事も敵わなかった地域でさえ行く事ができる。そんな想いを抱いて夢を見る事ができる時代になった。それは、現在の旅への想いより遥かに遠方への憧憬が強かったに違いない。

ここでも、またカッサンドルは傑作を残している。それが「北極星号」である。このポスターでも、やはり強調された遠近法が使われている。しかし、よく見ると遠近法を無視した表現がある。大きな星が、地平線上に描かれている。これは意図的に遠近法を無視し、さらに旅情を掻き立てることを目的としたようである。

また、このポスターではぼかしの表現が効果的に使われている。明暗を強調するぼかしは、まさに鉄道のロマンを増幅させる効果を発揮している。雄大な空間の先にあるものは何か。それを期待させるのである。

これもまた、目的(旅情のロマンとその増幅)を達した名作である。カッサンドルは、あくまでポスターの目的を明確にしていた。また、それがアールデコの役割であるように。

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カッサンドル 北極星号 1927年

この時代最高の作家であったアールデコの代表的デザイナー、カッサンドルであったが、晩年は残念ながら不遇であったと伝えられている。そのあまりにも時代(1920〜30年代)に即していた作風から、クライアントが敬遠したそうである。

しかし、それでも晩年にイブ・サンローランのロゴという傑作を残している。

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サンローランのロゴ

参考文献:西岡文彦著「デザインの読み方」、他

<アールデコの時代/海野弘著>
一九二〇年代、退嬰的な十九世紀末芸術アール・ヌーヴォーの後に、明るく花開いた装飾様式、アール・デコ。ジャズ、ダンス、ファッション、パーティ、車、そして摩天楼祝祭的で都会的な美が第一次世界大戦で疲弊した欧州から生まれ、瞬く間に世界を席巻する。

アール・デコの時代 (中公文庫)

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