■映画|天使の涙 刹那にしか愛せない

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天使の涙 03

堕落天使、仕事は殺し屋!

恋しくても、刹那にしか生きられない宿命がある

香港、それは東洋と西洋が交差し融合した街である。そこではきらきらと輝くネオンが人を妖しく魅了し、刹那でしか生きられない若い男女たちは、限られた時間を限られた情熱で疾走する。まるで残された時間がすぐそこまで来ているかのように…。

映画「天使の涙」(原題:堕落天使)は、日本でもヒットした「恋する惑星」に続いて、1996年(日本)に公開されたウォン・カーウァイ監督の作品である。当初は「恋する惑星」の一部として考えられたストーリーであったが、諸事情により独立した作品となった。しかし、その根底にあるテーマ性や若い男女の物語という構造は引き継がれている。

監督は、前作の続編ではないが、そのスピリットやティストは引き継いだと語っている。ただし前作が、希望のあるポップな雰囲気を漂わせていたのに対し、本作は刹那的で退廃感が色濃い作品となっている。それが何故なのかは知る由もないが、これからそれを推測してみたいと思うのである。

映画の冒頭シーンは、殺し屋とそのエージェントがモノトーンの画面に大写しで登場して始まる。アンニュイな雰囲気を漂わせた女エージェントの髪型がなんとも特徴的である。そして、殺し屋の若い男もまたおなじ匂いを発している。タイトルが、画面目一杯の大きさで「堕落天使」と出てくる。

とてもスタイリッシュな出だしである。端的に言えばカッコいい雰囲気が画面から迸るようである。このスタイリッシュな映像は、映画全編を通して観る事ができる。例えば、殺し屋のエージェントがエスカレーターで上へと昇る様子を捉えたカメラアングル、地下鉄の風景の切り取り方や色調などである。さらには、香港の夜を象徴するきらきらとした街中のネオンを魅惑的に映像化している。

「恋する惑星」もポップな色調と独特なカメラアングルで話題となったが、本作もおなじくらい斬新な映像美となっている。ただし、雰囲気が微妙に違っている。前作は、明るい未来志向が微かにあったが、本作には人生の先行きが見えない、そんな感じである。退廃感、倦怠感、先行きの不透明感、苛立ちなど不安要素が画面の雰囲気を支配するかのようである。

なおこれはマイナスではない、映画は素晴らしい出来であることに間違いない。


天使の涙 予告編

考えてみれば、カーウァイ監督は明るい?基調の映画は「恋する惑星」しか撮っていないのではないか。さらには、現代(撮影当時で)を題材にした映画も「天使の涙」以後はあまりないはずだ。たしかそうである。何故か過去に題材を求める傾向にある。本作以後、「ブエノスアイレス」「花様年華」「2046」などを撮ったが、いずれも情感は深くてたっぷりあれど明るさは無いに等しい。

個人的には、インザムードという雰囲気に浸れる映画が好きなので、どの作品も好きであるが、一般的にはどうか。「恋する惑星」が世界的に受けたのは、やはり軽やかなポップ感覚にあったと想像する。そしてユーモア感覚である。本作でもユーモアはあるが、何故かブラックな趣である。

前作で好評を得た軽やかなPOP感覚や、ユーモア感覚をあえて控えるようにしたのは何故なのか。監督の気持ちの変化と言うべきか、もとよりそういう性質なのか。気になるところである。それとも続編ではないが、繋がりはあるということで意図的に「陽」と「陰」に分けたのかもしれない。

カーウァイ監督は、本作以後はその表現を情感に重きをおいて映像化していると感じられる。あくまで推測であるが、「花様年華」「2046」などでは豊かな情感がたっぷりと表現されていた。そして、それはまるで溢れるが如くであった。どこから発想してその雰囲気を創りだしたか。不思議に思ったほどである。

「花様年華」でひとつの頂点を極めたカーウァイ監督の本流の序章は、「欲望の翼」にあったと思われる。「欲望の翼」は監督の映画のいわば源流と言っても過言ではない。そして「花様年華」「2046」が、その流れにありそれは大海原に出て完結したのである。

「天使の涙」は、いわばカーウァイ監督の本流からずれたもうひとつの流れにある作品であった。本流から脇に入り込んだ傍流である。そしてそれは、ポップな趣のカルチャームービーであった。この傍流は「恋する惑星」と「天使の涙」となってつがいのコンビとなった。

そして、そこでは青春という限られた人生の「陽と陰」が描かれていたのである。

以上が、カーウァイ監督作品「天使の涙」が、何故、刹那的で退廃感漂う雰囲気であるかの推測である。あくまで想像である事をお断りしておきます。

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天使の涙 殺し屋(レオン・ライ)

追記、カーウァイ監督の青春映画には何故かヒロインが掃除をするシーンが必ず出てくる。「欲望の翼」では、ダンサーのミミ(カリーナ・ラウ)が主人公の住む部屋の床を磨いていた。また「恋する惑星」では、軽食堂のフェイ(フェイ・ウォン)が登場するのは、店の掃除をしているシーンである。そして密かに想いを寄せる警官(トニー・レオン)の部屋を訪れては掃除をしていた。

「天使の涙」でも、殺し屋のエージェントの女は、殺し屋のアジトを隅々まで掃除するシーンが印象的である。

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殺し屋のエージェント(ミシェール・リー)

天使の涙/ストーリー

殺し屋(レオン・ライ)と、そのパートナーである美貌のエージェント(ミシェル・リー)。共にアンニュイな雰囲気を濃厚に漂わしていた。仕事に私情を持ち込まない。それが彼らの流儀であった。二人は滅多に会うことはない。しかし、その関係が揺らぎつつあるのを2人は知っていた。

エージェントのアジトである重慶マンションの管理人の息子モウ(金城武)は5歳の時、期限切れのパイン缶を食べすぎて以来、口がきけなくなった。定職に就けない彼は、夜な夜な閉店後の他人の店に潜り込んで勝手に“営業”している。時に強制的にモノやサービスを売りつけるが、いたって明るく屈託がない。

ある日、モウは失恋した女の子(チャーリー・ヤン)に出会って初めての恋をする。しかし、彼女は失った恋人のことで頭がいっぱいで、彼のことなんか上の空だった。

一方、殺し屋はちょっとキレてる金髪の女(カレン・モク)と出会い、互いの温もりを求める。彼と別れた金髪の女とエージェントは街ですれ違いざま、互いの関係を嗅ぎ当てる。エージェントは殺し屋に最後の仕事を依頼した。殺し屋は最後の仕事で最初の失敗をし、数発の銃弾が彼の途切れる意識に響く。

モウは父親を亡くし、再び元の商売に戻った。バーガー・ショップで“営業”している時、初恋の人と再会したが、彼女の方は少しも覚えていないようだった。エージェントは街でモウに出会う。彼のバイクに乗って家まで送ってもらう道すがら、彼女は久しぶりに人の温もりを感じた。その暖かさは彼女にとって永遠だった。

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<作品の製作概要>
天使の涙 
原題:堕落天使 英題:Fallen Angels

ウォン・カーウァイ監督が、深夜の香港を舞台に交錯する5人の男女を映し出すラブストーリー。顔も知らないエージェントに惚れられ、彼女の前から姿を消す殺し屋、声を失った男と期限付きで付き合う失恋女性など、すれ違う美しく切ない恋の行方を描く。(アマゾン解説より)

監督・脚本:ウォン・カーウァイ
製作:ジェフ・ラウ
撮影:クリストファー・ドイル
編集:ウィリアム・チョン、ウォン・ミンラム

出演者:レオン・ライ
   :ミシェール・リー
   :金城武
   :チャーリー・ヤン
   :カレン・モク

配給:プレノンアッシュ
公開:香港1995年 日本1996年
上映時間:96分
製作国:香港

冒頭写真:金髪の女(カレン・モク)

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