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■小説自作|ありふれた街 ゴールドタウン

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そこに国籍はない、あるのは漲る生命力であった!

ありふれた街 作:Cragycloud

 かつてどこの地方に行っても必ず見られたのがシャッター街であった。
しかし、2019年の新移民法により海外からの移住者が急激に増えたことで、シャッター街には賑わいが戻っていた。が、しかし、その様相はかつてのものとはまったく異なっていた。それは、「ここは日本か?」と思わざるを得ないものであった。

<首都東京から約一時間の通称「都田舎」>

 東京・品川経由で川崎に至り、そこから海を渡った先にあるのが、ここ「都田舎」である。もちろん、それは正式名称ではない。しかし、そんなことは問題ではない。もはや、地方はどこに行ってもおんなじ風景となった。いまさら、固有の地名を言うまでもないことであった。

 2029年、二度目の東京オリンピックが終わってから、もうすぐ10年になろうとしていた。ザハなんとかという建築家がデザインした珍妙な国立競技場は、すでにガタがきていた。何度かの地震のあと構造に問題があるのが発覚した。どうやら無理矢理に建てたのが露呈したようだ。

 橋桁のように歪曲した構造は、大きめの地震に堪えるかどうか疑問が呈された。屋根に掛けられた新素材はすでに綻びはじめ、すでに開け閉めができないようだ。一時的なメンテナンスに掛かる費用がなんと数百億円になると噂されている。過激な人達は、もはやフィールドを残す以外、上物は壊せと言っている。

 建設当時は、未来的なデザインと言われたが、いまでは3流のSF映画の基地のようだと言われる始末である。

 それはさておき「都田舎」である。ここは、東京に近いが昔から田舎であった。この街の中心街はシャッター街となって日本一地価が下落したことで有名であった。そんな凋落著しかったこの街のシャッター街は、ここ10年で様変わりした。2019年の新移民法以後、急速に進んだ海外からの移住者によってそれは齎された。

 駅前にあったかつてのデパート跡は、無国籍百貨店かと見まがうゴテゴテ感丸出しで、ドンキホーテも真っ青のものへと変貌を遂げた。そこでは、まるで海外の土産物屋があれもこれもとぶちまけた様相であった。色彩は統一されてなく無秩序の混沌が支配していた。極彩色に彩られた店内はまるでこの世のものとは思えないしろものであった。しかし、いつか夢で見た懐かしさがあった。

 この街の駅からは、まっすぐ伸びた広めの4車線道路が海まで続いていた。かつてはこの両側はびっしりとシャッター街であった。そして、歩道にはひとっ子ひとりとして歩いていなかった。この街では、ある時期から海側は発展から取り残されていたのである。

 そんな取り残されたかつての中心街にやってきたのが移民であった。かれらは、このシャッター街に活気を取り戻した。駅には近いが商売上はなんの利点も無いこの場所は、かれらにとっての天国であった。それは賃料が安かったからである。また市の行政もかれらの商売を後押しした。なんせ日本人はこんな場所で商売しても利益にならなかったからである。

 びっしりと埋まったシャッター街は、徐々にであるが移民が開く自国文化の商店街にと生まれ変わろうとしていた。それから10年が経ちいまでは無国籍一大商店街となっていた。中国はもちろん、インド、タイ、インドネシアなどのアジア勢が多かったが、アフリカ、トルコ、イランなども目立っていた。

 中国から来た移民は、当然のごとくチャイナタウンを形成した。かつての中心街には大通りの他に脇道にも商店街があった。そこも当然シャッター街であったが、その脇道を中心に枝葉のごとく周囲にチャイナタウンが出来上がっていた。そして、それに続いてインド街、タイ街などが派生していた。

 異文化が集積されて出来た不思議な魅力に吸い寄せられるようにいつしか多くの日本人もここを訪れていた。これまで特に特徴のなかった「都田舎」にはじめて出来た名所となった。しかし、それもつかの間であった。この現象は、すでに日本全国の地方に広がっていたからであった。

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世界は一家、もはやアイデンティティーなんぞはない!

「ヨシオは、いないよ。青龍園にでも行ってんじゃない!」とおばさんは言っていた。
「ありがとう、おばさん。分かった」と言ってオレは、青龍園に行こうかどうか迷っていた。

 ヨシオは、オレの高校の同級生で幼なじみであった。かれは青龍園という中華風無国籍料理店でバイトをしているのだ。この店は、なにかと問題がある店であった。どんな問題かと言うと料理屋は表向きで裏ではあぶない商売をしていると言われていた。ま、噂であるが、それはあっても不思議はなかった。

 ヨシオは、もちろん裏の仕事ではなく料理屋の方の仕事をしていた。かれが言うにはバイトの時給がとてもいいらしい。ヨシオはそのバイトで得た金で新型のバイクを買おうとしていた。

 オレは、バイト中のヨシオのところに行くのを止めてタイ料理や雑貨の店が多く集まっているタイ街へと足を向けた。タイ街は大昔は飲屋街として賑やかだったと言われる裏道りに広がっていた。車一台がようやく通れる細い道が曲がりくねっていて、さらにアリの巣のように枝分かれしていた。

 このタイ街は、どこかのんびりとした雰囲気と陽気さに満ちていた。働いている人達もどこか優しげである。オレはそんな雰囲気が好きであった。

 タイ街は、平日でも以外と人が多く、そのほとんどが他の地域から来た人達であった。なんせ、この街の無国籍街は成り立ちが早く、全国的にも有名であったからである。いまや全国にひろがった無国籍街の老舗といったところか。

「どこいくのー」とどこからか声を掛けられた。
「んっ」と言って後ろを振り向くとマリアのニコニコした顔が見えた。

「おっ、マリアか。元気?」
「元気ね。今朝会ったばかりじゃん」と怪訝そうに言った。
「おっ、そうだった」ととぼけてみせた。

 マリアは、タイ料理屋の娘でオレとおなじ学校に通っている。本当はマリラットという名前だが、みんなマリアと言っている。しかし、彼女はキリスト教徒ではない。勉強もできるが、それよりもなんといっても美人であった。

「じゃ、マリア。いそがしいだろ。がんばってね」と言ってオレは足早にその場を立ち去ろうとした。なんせ、美人といると何故か居心地が悪いのであった。

「宿題やんないとだめだよー」とマリアは言っていた。

 マリアはオレに気があるのか。なんて思いながら通りを歩いていた。ある訳ないか、なにしろこのあたりで有名な美人だ。ねらってる男は、タイ人はもとよりあらゆる国籍の男がねらってるはずだ。

 そんなことを考えながらタイ街を通り抜けて、河沿いの道に辿りついた。そこを海に向かってしばらく歩いていくと海岸公園へと辿り着く。そこのはじっこにある防波堤から見る海の景色がお気に入りであった。

 海のずーと向こうは横浜あたりになるか。見えやしないが、夕陽がそろそろと沈みかけていた。オレンジに辺りを染めていくその様が、なんともいい気分だ。海はきらきらと輝いて反射し、ゴールドに海を染めていた。

 その輝きを眺めながら、オレは想っていた。ここはゴールドタウンかと。

<つづく>

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