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■小説自作|ゲット・アップ!GET UP!

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オーマイ、ガーッ!

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ゲット・アップ!GET UP! 作:cragycloud
某月某日 本日も晴天なり

 とにかく暑い。朝のニュース番組では、アナウンサーのおねーさんが、今日は35度になると涼しげな顔で言っていた。いやはや、とんでもないことだ。

 首都圏では、雨が振らなくなってから久しい。しかし、日本の一部の地域では災害ともいうべき雨量があったらしい。いったいどうなってるんだ。などと、考えても無駄なことをあれこれと思案していた。

 会社の喫煙室でアイスコーヒーを片手にボーとしながら、煙草を吹かしていた。
これから外出するが、やだなーと思っていた。とにかく暑いし冷房の効いた部屋を離れたくなかった。何かいい理由はないか考えてみた。しかし、見当たらない。

 上司である女性管理職の顔を思い浮かべると、たちまち股間の一物が萎える感じがした。なんでこの会社は女ばかりなんだ。会社で所属する部署は、広告・販促・広報を担当している。そのなかで広報を仰せつかっている。

 この部署は、何故か女性ばかりである。女性8割、男性は2割といった感じである。会社は、百貨店でもスーパーでも、アパレルでもない。ハウスメーカーである。なんでも、最近では家の購入に際し女性の意見が重視されるらしい。

 そんなこんなで女性主体のマーケティング部隊も会社の中にはある。女性に囲まれて羨ましいなどと言う人もいるが、とんでもないことだ。彼女達は、仕事をバリバリこなすことに生き甲斐を感じている、いわばキャリアウーマン達だ。

 そして、その多くはおばさんである。おばさんの定義は、オーバーサーティと勝手に決めている。オーバー30=オバサンだろ。違うか。しかし、会社のなかでこんなことを言う訳はない。そんな考えは、危険思想そのものだからである。

 彼女達はあくまで女性であるが、何故か容姿が似たり寄ったりだ。要するに仕事はできるが、容姿があんまりという具合である。ついでに個性も強烈である。仕事のできる人材を選んだ結果、そうなったのか。それは知る由もないが…。

 そんな訳で、いくら女性ばかりに囲まれていてもときめくことはなかった。

某月某日 異変のはじまり

 朝、目が覚めると何か違和感があった。あれ、あれれー。いつもある股間の勃起が起きていなかったのだ。おかしいなとは思ったが、疲れているせいかと思い直して、深く考える事はしなかった。

 一般男性は、朝から男性自身が勃起する確率はそれほど高くないそうである。しかし、かれこれ20数年に渡って続いている。つまり、その方面に目覚めてからずーとということである。いやはや恥ずかしい。

 たいして問題があるとは考えなかったが、異変はまだあった。駅に向かう途中で出会う女性のミニスカートから覗く太腿や、ノースリーブの二の腕を見てもなんの変化もなかった。それは当たり前だろうと思う人は多いはずだ。

 しかし、違うのだ。いつもなら即反応が現れた。要するに勃起していたのだ。それぐらい、反応が鋭いということだ。もっと分かりやすく言えば、スケベだということか。自分でも不思議な感覚だが、これまでなんとかそれを誤摩化してきた。

 自分の反応が他とは違うと気付いてからは、そうとは気付かれないテクニックを身につけていた。したがって、周りの人にそれを気付かれたことはない。

 通勤の電車は当然のように混んでいる。いつもなら腰をやや引き気味にして出っ張りが目立たない様にしていた。しかし、今日は何のことはない。久しぶりに腰をまっすぐ伸ばしてつり革に捕まることができた。

 前に座っているミニスカートの女性の太腿も気にはならなかった。それよりも普段は目を反らすのだが、目立った反応がないからつい凝視してしまった。いやはや、エッチだなーと我ながら思っていた。朝から元気だ。ただし、肝心のマイサンは反応がないけど。しかし、このときもあまり気にはしていなかった。

 仕事を終えて帰宅した。時計はいつものとおり11時を過ぎていた。そして、シャワーを浴びた後には、少しのあいだテレビを観たり、ネットをしてから寝るのだ。これが、いつものパターンだ。もうひとつ寝る前には、ある儀式があった。

 それは、自らで欲望を処理することである。これは日課であった。現在、彼女はいない。例え、彼女がいたとしてもおなじである。とにかく元気がよすぎてそうでもしないと犯罪でも犯しそうであった。この日もいつもどおり、それを行おうとしていたが、いつもと様子が違った。

 何が違ったか。それはマイサンがゲットアップしてこないのである。あれー、どういう訳?。いつもなら、ちょっとエッチなDVDでも見れば即反応したのに、それがちっとも立ち上がらないのは何故?。あれれ、れー、と不安が過った。

 気持ち的には、用意は出来てるが肝心の一物が…。「どうしたんだ、ベイビー」と思わず呟いてみた。しかし、なんの反応もなかった。

 疑問が山のように浮かんだが、疲れていたのでいつの間にか寝てしまった。

 そして翌朝になっていた。

 起きてみるとやはり勃起はしていなかった。なんだか、さびしいー気分になった。それでも、いつもの習性でとりあえず会社に行った。そして、いつものように女性管理職にああせい、こうせいと言われてくたくたになった。

 そんな仕事の苦難に喘ぎながらも、密かにネットで原因を探ってみた。イデーだか、イーデーだとか検索結果にはあった。要するにインポテンツか。そうだよなー、そんな気はしたが、しかし、まだそう決めつけるには早いだろう。

 しばらく様子をみることにした。そして、それから時は経った。

某月某日 泌尿器科にて

「○○さーん、診察室にお入りくださーい」と若い女性の看護士さんに声を掛けられた。
「はーい」と思わず声をだしていた。ちょっと場違いな気がして恥ずかしくなった。

 診察室の扉を開けるとそこは場違いな雰囲気が漂っていた。何故なら、部屋の壁はピンク色をしていた。あれ?、何故ピンク?と頭のなかに疑問符が点滅した。

「どうぞ、こちらへ」と白い医師の制服を着た男性が言った。

 どうやらこの人が先生らしい。しかし、なんか雰囲気が普通ではない。それは先生の机がやけに派手だったからだ。それは甘い色合いで複雑に色分けされていた。

 先生は、頭髪は短くやや小太りでやけに血色がよかった。鼻の頭にうっすらと汗をかいていた。

「それじゃー、裸になって」と先生は唐突に言った。
「えっ?裸ですか」何故?、その前に問診というのがあるだろう?。そう思ったが、そう問い返す勇気はなかった。

「何か、不都合でも。あれでしょ、でしょ。見なけりゃわからんでしょ。ね!」
「はぁー、しかしーいきなりですか」
「そうです!」

 仕方なく衣類を脱ごうとした。ハンガーとか脱衣籠はないかと思ったとき、やけに体にフィットしたミニスカートのナース服を着た若い女性が近づいてきた。

「こちらでどうぞ」と彼女は間仕切りで仕切られた一角を指差して言った。

 なんだか情けなくなったが、ここまできて帰る訳にもいかず仕方なく衣類を脱ぎ始めた。惨めな気分になっていた。

「先生、全部脱がないといけないですか」裸になることに疑問を感じていたから、もう一度聞いてみた。
「ハッハッハッ、やだなーお客さん。あそこが見れればいいから下だけで十分ですよー」と馬鹿にするように先生は言っていた。

 くそー馬鹿にしやがって。なんだか無性に情けなくなってきていた。パンツを脱いだとき、例のミニスカナースがやってきてぐいっとバスタオルを手渡した。腰に巻けということらしい。

 しかし、無愛想なナースだ。それにしてもいい体してんなーと思っていた。とにかく、ピッチピッチのナース服で体のラインがこれでもかと強調されていた。普段のマイサンならいまごろ韋駄天を突くがごとしのはずだが、いまはなんの反応もない。いやはや情けない。

 腰にバスタオルを巻いて、おどおどした姿勢で先生の前にある椅子に腰掛けた。

「で、どんなんかなー。どれどれ」と言ってバスタオルをあっさりと奪われた。
「なるほど、あれれ。しなびちゃってるね」とだらんと垂れ下がったマイサンを揶揄するように先生は言った。

「いつから、こうなのかしらねー」
「一ヶ月ぐらい前です。いやもう少し経つかもしれません」
「そう、それから一度も勃起してないの」
「は、はい。そうです」
「こまったね。彼女はいる?」
「いや、いまは居ないです」
「そう、じゃよかったじゃん。役に立たなくて」

 何が聞きたいんじゃと思っていた。この先生で大丈夫だろうかとそんな思いが過っていた。何故なら、この先生はマイサンを手で転がしつつときおり握ったりしている。何をしたいんじゃ。そう思わざるを得なかった。

 しかも、例のミニスカナースが、そんな様子を覗きこんでいる。大きく目を開いてまるで珍しいものを見るような仕草である。

「じゃ、テストしようか」と先生が唐突に言った。

 テストってなんじゃ?。疑問に感じたが従うしかない。そのとき、ミニスカナースのナイスボディが、目の前に腰のあたりを近づけてきた。そして、思わせぶりな仕草でスカートをたくし上げた。そして、黒いレースのパンティにガーターベルトというある意味では定番のいやらしいものが目の前に広がった。

「あんっ」と言って思わず口を開けていた。

 先生は相変わらず、マイサンを握りしめたままである。気持ちは十分にスケベな気分となったが、いかんせん反応がないのは変わりなかった。

 ミニスカナースは、反応のない様子を見てプライドを傷つけられたようだった。がさつな態度でスカートを元に戻すとやや目が吊り上がっていた。

「ハッハー、だめかー」
「彼女のあれを見るとけっこう直る人がいるんだよねー」そう言いながら、先生はナースを見て目配せをした。

「じゃ、次いこうか」と先生は誰に言うともなく叫んでいた。

 次はなんじゃ。もうなんでもこいという気持ちになっていた。
ミニスカナースが、何かの装置らしいものを移動式のミニテーブルごと運んできた。なんだ、これは?。これでどうするつもりだ。不安を感じた。

「これはねー、うちだけのオリジナルね。ぼくが発明したんだ」と先生は言っていた。

 なんだか分からんが、箱状の装置にはいろんなスイッチと点滅ランプが付いていた。そこから伸びたケーブルの先には筒状の物体があった、そのなかは空洞らしい。どうやら、その筒状のなかにマイサンを入れて治療するようだ。

 大丈夫か?。なんか拷問を受けてるような気分がしてきた。
先生は、ミニスカナースに何事か指示をしている。すぐ外れるといかんからテープをしっかり巻けとか言っている。

 そして、ミニスカナースはマイサンを摘むとやおら筒状のなかに入れ込んだ。サイズがあーたらこうたらと先生に言っている。先生は多少サイズに伸びしろがあるから大丈夫と言った。なんのことやら分からんのが、さらに不安を掻き立てた。

 準備が整い、後はスイッチを入れるだけとなった。どきどきした。よもや、こんなことで死ぬ事はないだろうが、もしこれで死んだらとんだ恥さらしだ。そこで思わず先生に問いかけた。

「せんせいー、あのー」
「なに、心配することないからねー。だいじょうぶ」と察したように先生は言った。

「じゃ、スイッチ入れようか」とミニスカナースに目配せしていた。
「スリー、ツウー、ワン、スイッチオン!」

 ブーンと唸って装置の目盛りが一気に右に振れていた。ブーン、ブーンといやな音がする。

「どうかなー」
「とくに、痛くもかゆくもなんともありません」
「じゃー、パワーアップしちゃおう」

そう言うと先生は、ミニスカナースに目配せするとカチという音とともにブーンという音も大きくなった。

「今度は、どう」
「いちちー、あつー、なんだか。きてるー」
「そうかきてるかー」

「もう一段上げよう。効いてるなきっと」先生はそういうなり、ミニスカナースに目配せした。そして、さらにブーンと音は大きくなった。
「どう、どうよ」と先生は目を輝かせていた。鼻の頭からは汗が滴っていた。

 しばらくそのままの状態が続いたが、

「くー、つつー、ぐあーふーっ」と言ったあと、がくっと気を失っていた。

 どこか遠くで何かが騒いでいる。そんな気がしたが、気のせいか。しかし、それは気のせいではなかった。救急車の担架で運ばれて行くのが、なんだか現実の出来事とは思えなかった。これは夢だろう。そんな思いがしていた。

 それにしても、マイサンはゲロンパ(ゲット・アップ)したのか。それが気がかりであった。

<おわり>

冒頭の写真:沢尻エリカ 写真集「エリカ100+1」より

追記、断っておきますが、作者がこのような経験をした訳ではありません。あくまで、フィクションであります。なお、奥田英朗氏の「空中ブランコ」にインスパイアを受けたのは間違いないことを申し上げておきます。

<空中ブランコ/奥田英朗>
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