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■小説自作|コンビニの夜 by cragycloud

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真夜中のコンビニで…

コンビニの夜 作:cragycloud

遠くでパトカーのサイレンの音が聞こえる。それと入れ替わりにファン、ファンというバイクの空ぶかしの音が繰り返されている。いつもの夜の恒例行事だ。そんなことを思いながら、今日もコンビニの深夜勤務は始まった。

ここは東京からそれほど離れていない、したがって東京へ通勤する人も多くいる。しかし、田舎である事には変わりがないそんな某県某所だ。そんな場所にあるコンビニの深夜勤務に就いて約3ヶ月が経とうとしていた。

女性に深夜勤務はきついよという周囲の声をよそに時給がいいので決めたバイトだった。たしかに、きつくて、きつくて直ぐに止めようと思ったが、いつの間にか日は経っていた。

そんなきついバイトのせいで暇な時は寝てばかりいてお金を使う機会がない。それがいいのか悪いのか、それは考えないことにしていた。

<某月某日 金曜日 23:08>

「おねーさん、たいへんだね」と、男性のお客さんが煙草をカウンターに差し出しながら声を掛けてきた。年の頃は40歳過ぎか、または60歳過ぎか、それが皆目検討の付け難い風体の男性であった。レジには適当な年齢層で打ち込んだ。

「ええ、まー」と言葉を濁してさっさっとレジを済まそうとした。

ときおり、こんな風に声を掛けてくる男性客がいる。ここは、キャバクラじゃねーぞと思いながらも、適当に返答してごまかすのがいつものパターンだ。

バイトを始めた頃は、その対応具合が分からなくて長々と話されてうんざりしたことがあった。それから、だんだんと間合いと切り上げるタイミングを掴んだ。

「有り難うございました」と言ってお釣りを差し出しながら、これ以上話しかけるなと念じていた。年齢不詳の男性客は、まだ何か言いたそうだったが気合いでそれを躱した。

何故なら、仕事が山ほど溜まっているからだ。深夜のコンビニの仕事は、品出しの仕事がメインだ。昼間には届かない商品が次々とやってくる。それらの商品を品出し、陳列していくのだ。その合間に客がくれば接客をしなければならない。

だから、ときには客は来るなと思ったこともあった。それは、品出しで汗だくになりメイクが崩れてしまったときだ。いまでは、だいたいノーメイクのスッピンで仕事をしているが、始めた当初はメイクをばっちりしていた。

それが度重なり、いつの間にかメイクをしなくなっていた。スッピンにマスクを付けることもある。自分では、そのスタイルをざわちん(形態模写のタレント)より綺麗と思っている。それを、他人はどう思ってるかは知らない。

<某月某日 土曜日 01:05>

「すいません、おでんください」という声が聞こえた。えー、おでんかよーという思いが先に立っていた。

何故なら、ここのコンビニでは、おでんは店員が取って容器に入れることになっているからだ。めんどくせーんだよーと思いながらも、ここでも笑顔を忘れる事無く一応は愛想よく対応した。

いやー、アタシも人間が出来たのかしら。そんな訳は無いか、心の中ではコンビニのおでんなんか食うなと思ってるからだ。めんどーだ、めんどーだと心の声は言っていた。と同時にそれを自己嫌悪する自分もいた。

さて、客もいなくなったしドリンクの補充をするかと気合いを入れた。これが、なかなかの重労働だ。バックヤードに運ばれたドリンク類の箱を開けて冷蔵庫に入れて行くのだが、これがけっこうきつい。

いったい何本入れたら終わるのか、と最初は思っていた。

最近では、とにかく始めたものはいつかは終わると思いながら、ただひたすらに作業を繰り返している。いつかは終わる、そういつかは終わると繰り返していた。

そんなこんなで、いつの間にか深夜となった。ミッドナイトとも言う。

<某月某日 土曜日 02:23>

ピンポーンと出入り口のチャイムがなった。客が来たようだ。こんな時間に来るなと思うが、来たものはしょうがない。さっさと買って去れと思っていた。いやー、女子ながら最近は心が荒んできたようだ。

深夜勤務は、若い女子の美容には良く無い。それは当たり前か、なんせこのバイトをした日は昼と夜が逆転してしまう。やはり、美容に不規則なライフスタイルは敵だ。アタシの綺麗な顔になんとぶつぶつができてしまった。

たぶん、ストレスに違いない、綺麗なフェイスがだいなしだ。

陳列棚の列と列のあいだに商品の段ボールを積み上げて陳列作業をしていた。さっき入って来た客が、どこにいるのかは分からない。カウンターには誰もいない。もう一人のバイトはいま休憩中だった。

こんなときは、万引きに注意しなければいけない。

しかし、それも時と場合による。一人で品出ししてるときは、二つのことを同時には出来ないし、それを言い訳にして品出しに集中していた。

そのとき、バックヤードから休憩中のバイトの男性が出てきた。かれは、ぐるりと店内を廻る様に歩き始めた。そして、書籍の棚付近にいた客が何かを放り投げると勢いよく店の外に出て行った。

バイトの相方である男性は投げだされた商品を拾い上げながら、「あの野郎、顔を覚えたからな。ほんとにどうしようもねーな」と言っていた。

どうやら万引きを事前に防いだようだ。こればかりは男性のバイトには敵わない。アタシは、かれに「よく気が付いたわねー、すごい」と褒めて上げた。男性は、女子に褒められると悪い気はしないもんだ。

そうしておけば、何かのときには味方してくれる。

これは、若い女子の生きる知恵だ。かれは「いやー、そうでもないよ」とか言いながら、またバックヤードに引き上げた。

深夜に限らず、万引きは当たり前の様に起こっている。小売流通業の宿命らしい。

<某月某日 土曜日 03:32>

弁当が配送されてきた。弁当はコンビニには欠かせない商品だ。しかし、店員には手間がかかる商品でもある。それは期限の過ぎた弁当は廃棄になるからだ。廃棄する商品と入れ替える商品とで2重の手間がかかる。

弁当やパンの棚の前には、新しく納品された商品ケースが高く積まれていた。それを見ながら、さーて、やるかと自分に言い聞かせていた。

弁当のラベルを見ているとなんでこんなに添加物が多いのかと今更の様に思っていた。きっと体に良く無いはずだ。幸い、アタシは実家だしコンビニ弁当をあまり食べない。

美容にもコンビニ弁当はよくないんじゃないかしら、などと思いながら陳列を続けた。

ここのコンビニは、田舎ということもあって深夜の客はあまり多くはない。それが、バイトには幸いだ。なんせ、品出し、陳列作業だけでくたくただ。それにしても田舎のコンビニが、何故24時間営業する必要があるのか疑問だ。

しかも、この都田舎(東京に近いに関わらず田舎だから)にコンビニが多いのは何故?なのか不思議だ。アタシの働くコンビニから徒歩圏内にあと4件もコンビニがある。いずれも5分〜10分以内の距離だ。

すぐ近くに、アタシと同じく深夜勤務で働く人が8人(一店2人勤務)ぐらいいることになる。それを思うと何故かやる気が湧いてきた。アタシもやらなきゃねと思って作業を続けた。

<某月某日 土曜日 05:26>

そろそろ夜が終わりを告げていた。コンビニの外には薄ぼんやりとした明るさが漂い始めていた。

もうすぐ仕事は終わると思うと元気が出てきた。しかし、正直早く帰って寝たい。しかし、これから朝の早い客が来る時間帯になる。土木や建築関係の仕事をする人達だ。かれらの多くが、弁当と飲み物、そして煙草を買っていく。

かれらにとってコンビニは欠かせないようだ。朝早くから弁当を売ってるのはコンビニしかないからだ。

普段はそんなことは思わないが、次々とやってくるそんな肉体労働のエネルギーを購入する客には、何故か今日もがんばってねという気分になるのだった。

あともうすぐで仕事は終わるという開放感からなのか、優しくなれる自分を感じていた。そう、あと僅かで長かったコンビニの夜は終わるのだ。

「有り難うございました」という自分の声にも最期の気合いが入っていた。

そして、夜は明けた。

<コンビニの夜/おわり>

参考文献:元セブンイレブン店長の『コンビニは毎日がミラクル!』
http://blog.livedoor.jp/sunmonmarz/

<コンビニ店員は見たっ!〜レジの裏から日本が見える〜>
震災後に起きた買い占めとは何だったのか!?融通が利かないのではなくて、ルールで決まっているのです。コンビニが日本人をダメにする!?日本を支えるコンビニ弁当。子供のお菓子よりも、自分のタバコが大事な母親とは!?ごみは捨ててもなくなりません。原発が変えてしまったひとりの人生。

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