■映画|第三の男 終戦直後のウィーンを舞台にしたサスペンス

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闇に潜む謎の男とは、誰か?

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朽ちた帝国の名残りは、まるで熟し過ぎた果実のごとく

「第三の男」(1949)は、第二次大戦が終戦した直後のオーストリアの首都ウィーンを舞台に繰り広げられるサスペンス映画である。当時のウィーンは、連合国側の統治下にあり、英・米・仏、そしてソ連がそれぞれ区分けして管理していた。ナチス・ドイツに併合されたオーストリアは、連合国の爆撃によってハプスブルグ帝国の歴史と文化を誇ったウィーンの美しい街並も瓦礫に埋まっていた。

日本でもそうであったように、オーストリアでも終戦後の混乱期には闇の社会が台頭していた。統治が行き届かないことをいいことに、違法な行いもやりたい放題であり、それによって一般市民は被害を被っていた。いわば戦争後は悪の勢力が、利権を拡大する機会であった。これは、いまでも変わらない。

そんな戦争後のウィーンを舞台に、謎に包まれた闇の男ハリー・ライム(オーソン・ウェルズ)とそれを追いつめる英国軍、そして、ハリーの親友のアメリカ人作家、ハリーを愛する美女などが絡みながら物語は進展してゆく。

ストーリーも然ることながら、その舞台となったウィーンの景観が戦争の悲惨さを強く物語る。その背景無くては「第三の男」は名作とはならなかったはずだ。戦争が起こすのは、国どうしの混乱だけではなく、人間同士の混乱も同時に引き起こす。たぶん、それの方が被害は大きいかも知れない。

「第三の男」は、政治的な駆け引きもある戦後の混乱期を舞台にしたものだが、それはあくまで背景として描くに留めている。けっしてメインとはしていない。それよりも、戦争とそれを背景にした悪が成す要素はどこからくるのかを、それとなく示唆している。これは、ある意味でこの映画を奥深いものとしている。

あからさまに批判を映像化するのは簡単である。あくまで、映画としての面白さを踏まえつつも、同時に意味を含んだ内容を盛り込んでいる。これは、監督と脚本家の才能の賜物と言っていいだろう。また、終戦直後という時期に、この映画が撮れたのは運がよかったとも言えるかも知れない。

ウィーンで撮影が開始されたのは、1948年だそうである。まだまだ復興からは遠く、戦争の名残りが生々しいのもうなずける。

悪役のはずのハリーが、魅力的に見えるのは何故か

この作品で、なにより有名なのが悪役ハリー・ライムであるのは間違いない。かれは、悪役なのに何故か魅力的に見える。なかなか映画に登場してこないが、それが却ってかれを謎の男にしている。そして、ようやく闇の中から現れたかれの顔がとても印象的である。

闇に紛れていた顔を光が照らしたとき、にやりと不適に微笑む様が愛らしくもある。これは、演じたオーソン・ウェルズならではの演技であったと思われる。少し太り気味のその顔つきがなんとも愛嬌を含んでいる。ただし、そのかれが言う事、やっていることは違法な商売であり、市民を苦しめていた。

人なつこい笑顔を見せながら、かれは次の様に語る。

「ボルジア家支配のイタリアでの30年間は戦争、テロ、殺人、流血に満ちていたが、結局はミケランジェロ、ダヴィンチ、ルネサンスを生んだ。スイスの同胞愛、そして500年の平和と民主主義はいったい何をもたらした? 鳩時計だよ」

こような考えに至ったのは戦争の後遺症なのか、とにかく、かれの心情はねじ曲がってしまったようだ。かれの言う通りだとしても、だからといって違法な行いをしていいということにはならない。だから、かれの言う事は悪人ならではの自己弁護でしかない。しかし、なんとも蘊蓄の効いた台詞である。

どうやら、本当の悪人は、人なつこい愛嬌を通して世間をたぶらかすようだ。それは、いまでも変わらないことに違いない。

したがって、「第三の男」はある意味では、永遠普遍のテーマを描いた映画ともいえるだろう。


町山智宏の映画解説「第三の男」

光に照らされた影が、夜の街に妖しく映える

この作品の特徴に影の描き方がある。光に照らされて長く伸びた影は、悪役ハリーの影である。これは、かなり意図されたものであるようだ。監督のキャロル・リードは、ドイツ表現主義の映画作家、フリッツ・ラングに傾倒していた。

そして、その再現をはじめから狙っていたようだ、とにかく撮影方法が独特である。ラングの特徴を引用しつつ、さらにそれを押し進めたと思われる。例えば、とても低い位置に据えたライトで照らして撮影すると石畳は光を放ち、人の影は長く伸びて壁に投影される。

また、映画の途中からはアングルが斜めになってしまうが、いつのまにか、それは元に戻っているという具合である。

それぞれに意味があるようであり、興味深いがここでは解説を省きます。興味ある方は、「町山智宏の映画塾」をご覧ください。詳しく解説しています。

この撮影手法は、映画のミステリアスな雰囲気を増幅させて、物語の進展に期待感を抱かせるに余りある。そんな魅力のせいか、この手法を真似る監督も多いらしい。スティーブン・ソダーバーグ監督の「カフカ」や「さらば、ベルリン」などもそうした影響化にある映画であるとか。これは町山氏が語っていた。

現代のサスペンス映画では、説明的になってしまう映画が多いが、この作品はあまり説明的になり過ぎないのが、映画としての魅力となっている。あくまで、意味はさりげなく、そして映像の雰囲気は思う存分に魅せる、という具合である。

個人差はあろうと思うが、個人的には大変好きな映画である。これは間違いない。

第三の男02

アクターとしての、オーソン・ウェルズ

オーソン・ウェルズは、早熟の天才として26歳で「市民ケーン」(1941)を撮ってしまった。しかし、それ以後は自らの性格が災いしたか、映画界から干されてしまった。その結果、ハリウッドからは、お呼びが掛からなくなりヨーロッパに活路を求めた。

ヨーロッパでは、主に俳優として出演したようだ。この作品もそのうちの一本になるのか。とにかく、かれは性格に難があるようだ。この作品でも予定された撮影日には来なかったとか。したがって、かれのために撮影は押してしまった。

さらに、有名な地下水道(下水道?)のシーンでは、汚いからと出番をこばんだそうである。その結果、そのシーンでは監督と助監督が代役として行ったそうである。いやはや。

しかし、それでもなお、存在感を放っているのはさすがである。俳優としても天才性があったようだ。性格さえもう少しなんとかなれば、監督としてもさらに活躍できたと思われるが、なんとも惜しい人である。

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■第三の男 概要

監督:キャロル・リード
脚本:グレアム・グリーン
製作:キャロル・リード
  :デヴィッド・O・セルズニック
  :アレクサンダー・コルダ
出演者:ジョゼフ・コットン
   :オーソン・ウェルズ
   :アリダ・ヴァリ
音楽:アントン・カラス
撮影:ロバート・クラスカー
編集:オズワルド・ハーフェンリヒター
公開:イギリス1949年9月3日 日本1952年9月3日
上映時間: 105分
製作国;イギリス

参考:町山智宏の映画塾、ウィキペディアほか

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