■小説自作|堕ちた天使たち 序章:友、何処よりきたる

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はじまりは、すぐそこにあった…

都会のどこかで、脛に瑕持つふたりの女が繰り広げるものがたり。
社会の不条理との戦いの幕は、さながら70年代の日活映画?並みの展開で切って落とされる。それは、やがてくる未来のために。そして、堕ちた天使は立ち向かってゆく…。

湖上なつこ:元刑事の調査員
 上司の収賄疑惑を追求したことで警察組織と対立し退職を余儀なくされた。その後、元警察出身の会社経営者の元で調査会社の社員として働いている。モデル並みの容姿だが、目つきが鋭くその視線で睨まれると大抵の男は股間が縮み上がった。

山名うみえ:キャバ嬢
 なつこの同級生である。職を転々としていまではキャバ嬢をしている。見た目は派手な軽い女であるが、一方では古風な一面と頼まれると断れない性格であった。

堕ちた天使たち 序章:友、何処よりきたる

作:cragycloud

<東京のどこか、界隈のある商店街>

 カンカンカンカン…と踏切のけたたましい音が鳴り響いていた。遮断機の前でじっと待つ事、すでに5分が経っていた。いったい、いつになったらこの遮断機は上がるのか。イライラが募っていた。自慢じゃないが、気が長い方じゃない。そんなことを考えていたら、隣の自転車に乗ったおじさんが声を掛けてきた。

「おねーさん、いつものことだから…」
「そうなんですか。でも長いですよね」
「ほんとだよー、でもさおねーさん。そんな怖い顔してるとせっかくの美人がだいなしだよー、ほんとに」おじさんはそう言うとニコっと笑った。

 これはまずいと思った。たぶん、イライラが高じて挙動不振な動きをしていたのかもしれない。舌打ちぐらいはしたかもしれないが、自分では気が付いていなかった。やれやれと思って、自制する様に自分に言い聞かせた。

 開かずの踏切が開いたのは、それからさらに5分後ぐらいであった。踏切を渡ってしばらく歩くとアーケードの商店街が見えてきた。両側にはびっしりと商店が立ち並び、賑わいを見せていた。最近ではとても珍しい光景だ。

 その商店街の組合本部が、アタシの行き先だった。商店街のなかに入ると幅の広い通路が一直線で伸びていた。もちろん歩行者専用であった。都会でも地方でも商店街が寂れる一方のなかで、ここだけはまるで別世界のようだ。

 まるで昭和30年代かと勘違いするほどに賑わっていた。そんなことを思ったが、アタシは昭和30年代を知らない。たぶん、テレビや映画で見た記憶だ。

 珍しいものを見るかの様に、辺りを見回しながら歩いて商店街の中程にきていた。

 タイヤキ屋と総菜屋のあいだにある脇道を入って、その突き当たりにある雑居ビルの一室が組合本部であった。脇道の両側には、居酒屋などの飲み屋が並んでいた。どうやら、メインストリートは生活必需品が中心で、裏道は夜の飲食街になっているようだ。見たことのあるチェーン店に紛れてスナックなどもあった。

 夜の匂いがする飲食街の一角にある商店街の組合本部のビルは、これまた古い建物であった。なんだか、横浜のラーメン博物館を思い出した。ビルのなかに入ると壁面のクラックを修復した後が目立っていた。それでも雑然としたところはなく、整然とした趣があった。

 ビルを入ってすぐにあるエレベーターは、なんとめずらしや鉄製の檻みたいな扉になっていた。いつだったか日本橋三越の搬入口で見たものにそれは似ていた。それに乗って5階で降りた。そこは最上階だった。組合本部は、5階のフロアーをすべて使用しているようだった。なんだか懐かしい匂いがした。

 入り口らしい扉をノックすると、頭髪の禿げたオジさんが出てきた。

「はい、どちらさまで…」
「あのー、佐谷様のご依頼で訪問しました。ゴメス・リサーチの湖上といいます」

 ゴメス・リサーチとは、元・警察幹部が経営するマーケティング調査会社の子会社である。その実態は、警察に依頼できない案件を調査、または解決することを請け負っていた。社員は、数人しかいなくすべて元警官であった。しかも、訳ありの元警官ばかりであった。

「あ、組合長ね。ちょっとお待ちください」そう言い残すと奥にある個室に向かって歩いていった。
「組合長、例のリサーチ会社の方です」
「お、来たか。通して」とやや甲高い声がした。

 個室に入ると年代物らしい机の向こうに、ちょこんと座る小柄な老人がいた。

「いやー、遠くからわざわざすまないねー」と言いながら、応接用のソファーに座る様にと手を差し伸べながら、年代物の机から離れて近くにやってきた。
「はじめまして、ゴメスの湖上です」と名刺を差し出した。
「いやー、湖上さんお綺麗ですね。いや失礼、田川さんは元気ですか。警察にいたときは大変お世話になりました」

 田川は、アタシの会社の経営者で元・警察幹部だった人だ。とくに世間話することなく、すぐに用件を切り出した。

「それで、ご用件の内容はどんなことでしょうか」
「早速ですが、これを見てもらえませんかね」そう言うと組合長は手にしていたA4の封筒を差し出してきた。宛先は書かれていたが、送り主の住所、名前はなかった。

 依頼の内容は、その封書に入っていた文書に関係していた。それは、いわゆる脅迫文であった。商店街に対してあきらかに金銭を要求するものであった。文面では、金額その他は明記されていないが、それが目的なことは誰でも想像できた。

 なぜ警察に通報しなかったか。それは文面に、通報すれば何らかの報復をすると匂わせていたからであった。そこで、知り合いだった警察幹部が経営するリサーチ会社に相談したという経緯だった。

 商店街に最近変わったことがあったか聞いてみたが、とくに脅迫に該当する案件は思い当たらないとのことだった。何を根拠とした脅迫なのかが知れず、組合長はなおさら不安そうであった。まず、この脅迫の根拠がなんなのかを探ってほしいとの依頼であった。

 そのうえで該当する事案によっては、警察に通報するという段取りをとりたいと言った。組合に加盟する店舗は、約300店を超えている。それを考えると、新手のみかじめ料の徴収とも考えられた。決めつけるのはまだ早いが、これからもなんらかの脅迫があるかもしれない。

 とりあえず、商店街の店舗リストおよび地図のコピーを頂いて組合本部を後にした。まったく先が見えないので、タイムテーブルは設定しなかった。調査・相談料は、後日とした。どうせ元警察幹部の経営者と直接やりとりするはずだ。

 この商店街は、山手線沿線から少し離れた場所にある。しかし、その集客力は飛び抜けていて、地方の商店街、自治体関係者などの視察が絶えない。いま流行りのショッピングモールと違って、面で広がり界隈を有しているのが特徴だ。モールにはない、猥雑さも魅力となっている。

 地方では商店街が寂れて、もはや面で展開することが難しくなっている。そこで箱を造って、そこに店舗(主にチェーン店)をはめ込むショッピングモールしかなくなった。そこでは、地場の店舗より資金力のあるチェーン店が主力となり、したがって、地方の特性も必然的に失われていた。

 そんな商店街の置かれた現状を考えると、ここは商店街の最後の砦かもしれない。そんな風に思った時、ふっと思い浮かんだ。もしかしたら、この脅迫事案は、商店街を邪魔と考える開発業者や、モール関係者が背後にいても不思議ではないと。

 そんことを考えながら、また「開かずの踏切」にやってきた。今度は遮断機が下りていない。足早に踏切を渡って駅へと向かった。

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<ゴメス・リサーチ社>

 ゴメス・リサーチ社は、渋谷の閑静な住宅街・南平台にある一軒家を社屋にしていた。そして、親会社も、すぐ近くの高層ビルのなかにあった。この社屋である一軒家は、不思議な作りで半地下と、中二階がある三階建ての建物であった。

 いつ頃に建てられたか知らないが、年代物であるのは確かだった。床はすべて板張りで、それも使い込まれて黒くくすんだ色をしていた。通路は迷路のように入り組んでいた。半地下の広いスペースは、いまでは会議室と資料室になっているが、この建物の前の持ち主は、ここでパーティーなどを開いたと他の社員から聞いた。

 なんでも、前の持ち主は由緒ある家柄の人であったらしい。どこの誰とは知らないが、皇族に関係しているとか。

 上司である会社の実質責任者である後藤に報告しにいった。後藤は、元警察幹部の社長の信任が厚い。頭髪を黒々と染めて、それを7対3にきっちりと分けていた。

「いやーごくろうさんでした。で、どうでした」
「はい。それがまだ雲を掴むようで、どこから手をつけたらいいか」
「ざっと、社長から話はきいてるけど、商店街の様子はどう?」
「とくに問題はあるように思えませんでしたが」

「そう、時間がかかりそうだね」
「そうですね。なんともいえませんが」
「じゃ、例の変態の件はやく片付けて、これに専念してくれる」

 と言う訳で、いま掛かっている仕事をすぐに片付けろということになった。いまやってる仕事は、ある高級官僚が強請られている案件だった。この官僚はいわゆる性倒錯で、ずいぶん年下の女性と変態行為していた。それをよからぬ連中に嗅ぎ付けられて、あらぬことにその行為を撮影されてしまった。

 その動画を元に脅かされているという訳だった。官僚の持つ利権に絡ませろというのが目的であり、当然、反社勢力の仕業であった。官僚は警察にも言えず、社長に泣きついたことで、この仕事がはじまっていた。

 やれやれだと思いながら、尻を掻いていた。なぜか、プレッシャーが掛かると尻が痒くなった。どういう訳なの、と思案にくれた。少し離れたところで、おなじ社員の元警官がにやにやしながら見ていた。アタシは、ぐっと睨み返してやった。なんだこの野郎やるか、と頭に血が上りかけたとき、ふっとある考えが浮かんだ。

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