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■映画|ウォン・カーウァイの作品群 総集編

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そこにある情感は、まさに溢れ落ちるかの如く

一瞬の時は積み重なり、記憶の奥底に仕舞われる

ウォン・カーウァイ監督の作品は、日本でもファンが多いと思われる。それは90年代に「恋する惑星」が大ヒットして俄然注目を集めたからに他ならない。

ちなみに「恋する惑星」というタイトルは日本版のものである。たぶん、当時の配給会社であったプレノンアッシュが選定したものと想像する。原題は「重慶森林(チョンキン・エキスプレス)」というものであった。原題のままではヒットしなかったに違いない。日本でのタイトルを考えた人のセンスの良さが光っている。

カーウァイ監督の作品は、個人的に大変好きであり何度も繰り返し観ている。先日も「恋する惑星」を観たばかりである。ちなみに、この映画のDVDは2枚持っている。ずいぶん前に購入したものと、2014年にリマスターされたものである。たいして変わりはないが、一応購入したのであった。ポスターも持っていたが、残念ながらいまはない。

カーウァイ監督作品の特徴は、なんといってもその情感の深さにある。そして、それは魅力的な映像美となって観る人を魅了して止まない。とにかく、その映像から発せられる情感たっぷりの雰囲気は、深い情愛を通して心の奥底まで浸透していくようだ。しかし、それはひと時の夢、幻のごとく儚く、一瞬の輝きでしかないが…。

「in the mood for love」…愛が満ちてくる、そんな気分になって…。

個人的には、溢れ落ちるまでの情感とその雰囲気の頂点にある作品は、「花様年華」であると感じている。なお、あくまで2015年現在までのことであるが。しかし、いずれの作品も魅力的であるのは言うまでもない。なお、個人差があるのですべての人にお勧めはできないことを付け加えておきます。

■ウォン・カーウァイ監督のプロフィール及び作品

1958年、上海に生まれる。5歳で香港に移住する。
香港理工学院へ入学、グラフィック・デザインを専攻する。その後、テレビの現場を経て、映画の脚本家になる。

1988年、「いますぐ抱きしめたい」で監督デビュー。
1990年代、「欲望の翼」「恋する惑星」「天使の涙」などの青春群像劇を独特の語り口調と個性的な映像美で注目を集める。

2000年、「花様年華」が公開される。情感表現の豊かさを余す事無く映像化した最高傑作といわれる。(当方だけでなく、そう思っている人は多い)
2000年代以降は、製作本数は減ったが、公開された作品はいずれも長い時間と製作費を掛けた作品となっている。「2046」「グランドマスター」など。

いますぐ抱きしめたい(モンコク・カルメン)1988年

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カーウァイ監督のデビュー作品である

香港の若きチンピラが、成り上がりを求めて足掻く青春群像劇である。この作品では、後に見せる独自のスタイルをまだ確立していない。それでも、香港ではいきなり注目を集めたそうである。香港の映画賞に9部門でノミネートされたとか。

主役には、アンディ・ラウとマギー・チャンという将来のスターがすでに出演していた。この作品以降もカーウァイ作品には、香港のスター、または候補者が多数出演していくことになる。

欲望の翼(Days of Being Wild)1990年

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60年代香港の悩める若者達の揺れる情感を描いた傑作!

1960年代の香港を舞台に、悩める若者達の揺れる情感をたっぷりと描いた青春群像劇の傑作。独特の台詞とその映像美は注目を集めた。投げやりな退廃性を秘めたレスリー・チャンの演技も見所であった。また、将来の香港スターが勢揃いしていた作品であり、それもすごいことであった。

映画の冒頭シーンが、とても印象深い。レスリー扮する主人公が遊技場にやってきて、売店の女性従業員(マギー)に語りかける。そして別れ際に「夢で会おう」と言って去っていく。そしてタイトルバックとなり、ジャングルの景色を背景にラテン音楽が流れるという具合である。これには、当方は脳天がしびれました。

レスリーのやさぐれ感が見事な演技も魅力的である。レスリーがどれだけ才能豊かな俳優であったかが、いまさらながらに感じることができる。そして、マギーとカリーナの女優陣も忘れ難い演技を見せている。この作品は、当初は2部構成で考えられたそうである。しかし、予算等の問題で適わなかったとか。

映画のラストで、トニー・レオンがほんの少しだけ出ているが、それが何を意味しているか不明である。たぶん、それは続編が予定されていたせいか?。

出演陣は、レスリー・チャン、アンディ・ラウ、マギー・チャン、カリーナ・ラウ、ジャッキー・チュン、そしてトニー・レオンが出ている。

恋する惑星(重慶森林)1994年

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香港をポップな彩りで切り取った青春恋愛ストーリー!

「恋する惑星」は、カーウァイ監督の名を世界に知らしめた作品といっていいだろう。なんせ、あのタランティーノが注目し世界にその魅力を発信してくれた。日本でも当然の様にヒットした。その斬新なモノローグの台詞や、揺れるカメラワークなどはとても新鮮であった。そして、なによりも香港の魅力が輝いて見えた。

1990年代の香港を舞台に繰り広げられる一種の恋愛ドラマである。時間軸を変えて二つの物語が描かれる。一つは、重慶マンションを中心に、もう一つは軽食堂を中心にして物語は進められる。そして、主人公の二人の男は共に警官である。

ちなみに、重慶マンションは香港の目抜き通りにある雑居ビルである。いまでは、観光名所となっているそうだ。(映画を観て訪れる人も多い)

何故、警官かであるが、これは没個性の代表として選ばれたのでないかと想像する。一方では、もっとも世間で認知された職業でもある。いわば、ポップアートでいうところのキャンベルスープみたいな存在である。それは、当たり前の存在ということだ。そう考えると、何だか面白い設定である。

カーウァイ監督は、警官のようにありふれた市井の人々にもそれぞれドラマがある。それも掛け替えの無いものだとでも言いたかったのだろうか。

主役陣は、トニー・レオンとフェイ・ウォン、金城武とブリジット・リン。トニーのモノローグの台詞が魅力的である。また、どことなく可笑しみのある演技も見所となっている。金城武は、この作品で一気にスターへの階段を昇っていった。

有名な歌手であるフェイの可憐な魅力も素敵である。さらに、大御所感のあるブリジットは堂々の演技を見せている。しかも、金髪のウィッグが似合い過ぎている。

この作品の魅力はたくさんあるが、とにかく恋愛映画の新しい道筋を見せてくれたのは間違いないだろう。しかし、日本映画で、なぜこれに匹敵する恋愛映画ができないのか。いまもって不思議である。

楽園の瑕(東邪西毒)1994年

人生、生き様にゆれる中国・武侠の物語

「楽園の瑕」は、中国の有名な武侠小説を題材としたものらしい。なんでも、中国では、そのような小説が人気があるとか。この作品は、いわくつきで監督は何故かしばらく撮影を中断したそうである。そして、プロデューサーは暇を持て余した俳優を使って別の映画を製作したとか。しかも、それがヒットしたそうである。

この作品は長い時間が掛かったようであり、後に撮影した「恋する惑星」の方が先に公開されている。1994年に立て続けに作品が公開されたのは、そういう訳であった。そういう背景もあって監督の苦悩が伺える作品といえるだろう。

ちなみに作品のなかでも、主人公をはじめ登場する人物はいずれも苦悩に満ちている。まるで人生とはなんぞやという難問を抱えているようだ。

それでも映像は綺麗だし、撮影手法も斬新でありアートといっても過言ではない。2008年には、再編集して再公開されてもいる。監督にとっては、何か忘れ難い作品なのかもしれない。

天使の涙(堕落天使)1995年

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もうひとつの「恋する惑星」は、裏側を描いていた!

「天使の涙」は、「恋する惑星」の一部となるはずであったが、なにか諸事情によって別作品として撮影されたようだ。「恋する〜」が、どちらかといえば明るい要素があったのに対し、この作品は暗い要素に満ちている。

主人公の一人(殺し屋)は、最後には死んでしまう。また、もう一人の主人公の父親も亡くなるという具合だ。あの未来志向があった「恋する〜」の続編ともいえるこの作品が、なんだか暗い内容なのは何故か?。

それは、香港の「陰と陽」を描いたと考えれば、辻褄が合う。どの世界にも陰と陽はあるから、それを表現しただけなのかもしれない。

しかし、その表現には「恋する〜」とは違った魅力が満ちている。情感と雰囲気は、前作以上といっても過言ではない。香港の街中の景色を背景に「オンリーユー」が流れるシーンでは、涙がちょちょぎれるぐらいにじーんとした。

主演陣のなかで、金髪の女を演じたカレン・モクがとくに印象的である。

ブエノスアイレス(Happy Together)1997年

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香港からブエノスアイレスへ、ゲイのカップルの愛と苦悩と

この作品は、実に特異なものである。なにしろ、主人公達はゲイである。しかも、舞台は香港を遠く離れたアルゼンチンのブエノスアイレスとなっている。なぜ、アルゼンチンなのか。それは、残念ながら知らない。監督の脳裏に何かが点滅したのは、間違いないがそれが何だったかは知る由もない。

監督は、この作品を撮るにあたって撮影監督のクリストファー・ドイルに「今度はハッピートゥゲザーを撮る」と言ったとか。また、おなじく「南回帰線を映像にしてくれ」ということも言ったそうである。

ちなみに、英題は「Happy Together」という。ゲイのカップルの物語になんとも意味深なタイトルである。

映画の内容は、そのタイトルとは裏腹に「一緒に幸せ」どころか苦難の連続となっていく様を描いている。ここでもレスリー・チャンが、わがままなゲイを見事に演じている。そのやさぐれ感は他を寄せ付けないと言っても過言ではない。

ちなみに、実際のレスリーもゲイであった。これは有名である。一方、相方を演じるトニー・レオンは、どうなのか。トニーは、カリーナと結婚したし、ゲイではないと思われる。しかし、実態は知る由もない。あしからず。

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花様年華(in the mood for love)2000年

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その情感は、まさに溢れるかの如く

「花様年華」という作品は、カーウァイ監督が描く情感の豊かさの頂点に達した作品ではないかと思う。もちろん、監督はこの作品以降も映画を撮っているが、ここから先の作品では技術が洗練されていくだけのような気がする。それは、当方の見方のせいともいえるし、そうでもないともいえる。

そんなことを思わず口にしたくなる程にこの作品が発する情感、その雰囲気の表現には素晴らしいの一言である。おなじく60年代を舞台とした「欲望の翼」とは、物語の連続性はないが一連の作品にあるとカーウァイ監督は言っている。そして、この作品は次回作「2046」へと繋がっていく。

「花様年華」は、一言でいえば不倫の愛を描いたものである。しかし、そこにあるのは、もどかしいほどの想いばかりである。映画では、抱き合ったりするシーンもなければ、手さえも繋がない。ただ、気持ちは高ぶりを見せているのは画面を通して伝わってくる。そして、深い情感とともにその雰囲気は濃厚に漂っている。

それは、まさに「イン・ザ・ムード・フォー・ラブ」、愛が満ちてくるという、そんな気分に体全体で浸るようにである。それを増幅させるかの様に映画全体を象徴する「赤い色」がところどころで印象的に使われている。

主人公が、小説を書くために借りたホテルの長い廊下にかかる赤いカーテンは周囲も赤く染めて、そして風に揺れている。そこを訪れる人妻のコートもまた赤い色をしている。赤い色は、気持ちの高ぶり(愛する気持ち)を表している。と同時に風に揺れるカーテン、人妻のコートは、それに揺れる気持ちを表したものであろう。

気持ちは高まるが、それでいいのだろうかという自問自答が繰り返される。しかし、想いは募るばかりという具合である。

情感を否が応もなく高めるのに、音楽も効果的に使われている。なんと、日本の音楽家である梅林茂の「夢二のテーマ」が、そのままに使われている。つまり、「花様年華」のテーマ曲は、「夢二のテーマ」ということだ。

まるで、この物語は「夢まぼろしの如くなり」とでも言っているようである。

そんな事を考えると、なんとも意味深な内容であることが分かる。監督は、この作品で失われたかつての愛のあり方を表現したのではないかと思われる。そして、もうそれは戻ることはないと告げている。

2046(ニーゼロヨンロク)2004年

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花様年華の主人公は、なぜかやさぐれた男になっていた

この作品の映像美は、どこを切り取ってもアート作品のようだ。

「2046」は、カーウァイ監督を苦難に落とし込んだ「楽園の瑕」を踏襲するかのような作品となった。とにかく、時間が掛かったようだ。俳優達も戸惑ったようである。また、撮影監督のクリストファー・ドイルも我慢の限界を越えたのか、それは知らないが、たしかこの作品以後は一緒にやっていない。

なにが、そんなに困難を極めたのか。それは監督にしか分からないことかもしれない。しかし、勝手に想像すると、脚本が思う様に進まなかったのではないかと思われる。監督は、完成された脚本がなく制作を進めて行くといわれている。

現場で口頭で俳優に台詞を伝えるとか。脚本があっても現場で創造性が働くのだろう。しかし、「2046」では、現場で沸き上がるものがなかったのかもしれない。そのために、一旦撮影を中断したのではないか。なお、これは確かではない。ただし、「楽園の瑕」でもおなじような事が起きていた。

「2046」は、前作の「花様年華」の続編という位置づけにある。しかし、明確なストーリーの連続性はないに等しい。主人公(トニー・レオン)が、物書きであることに変わりはない。しかし、前作では純朴な様相であった主人公は、なぜかやさぐれた男に変わっていた。しかも、髭を生やしている。

しかし、その様相は独特の色気が漂う大人の男となって魅力を漂わせていた。前作では妻に浮気をされて、おまけに離縁を迫られていたのが嘘のようである。一方では、愛し始めていた人妻とはうまく続かなかったようだ。そんな試練を乗り越えた末に辿り着いたのが、この「2046」の主人公の姿である。

とにかく、中年男子トニーの魅力が、溢れるばかりである。そんな、やさぐれの中年男に想いを寄せるダンサー役のチャン・ツィイーが、これまた溢れんばかりの魅力を振りまいている。ちょっときついが、いい女を見事に演じた。また彼女が、着ていた衣装も素晴らしいの一言である。

ちなみに衣装や美術は、カーウァイ監督とはずーと一緒に仕事をしているウィリアム・チャンである。この人の美的センスには脱帽である。個人的には、ダンサーが住む部屋のインテリアが素敵であった。けっして豪華ではないが、細部に渡って気が配られていたのは間違いない。

ところで、「2046」とは何かであるが、これは部屋番号である。「花様年華」で主人公が小説を書くために借りた部屋が2046号室であった。映画「2046」では、主人公が書いている未来小説の題名にもなっている。(香港が中国に返還されて50年後という意味もあるとか)

その他の作品

2004年 愛の神、エロス/「エロスの純愛〜若き仕立屋の恋」
2007年 マイ・ブルーベリー・ナイツ/My Blueberry Nights
2007年 それぞれのシネマ「君のために9千キロ旅をしてきた」
2008年 楽園の瑕 終極版/東邪西毒 終極版
2013年 グランド・マスター/一代宗師

ここで述べた感想は、あくまで個人の見解であり、事実とは異なる?想像的な内容も含まれています。ご了承ください。

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欲望の翼


恋する惑星

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天使の涙

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日本でも大ヒットを記録した『恋する惑星』をはじめ、監督デビュー作の『いますぐ抱きしめたい』『欲望の翼』『天使の涙』の全4作品を収録。

ウォン・カーウァイ DVDコレクション デジタル・リマスター版

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