■小説自作|愛の食物連鎖 ライオンとシマウマと人間

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オレの名は、ジョン。百獣の王ライオンだ。

愛の食物連鎖 作:cragycloud

 オレの名はジョン、なんと百獣の王と呼ばれるライオンだ。それも雄だ。たてがみもふさふさとした男盛りである。そんなオレだが、実はアフリカのサバンナではなく日本の埼玉県にいる。なんてことだ、理不尽にも程がある。

 オレがいるのは、日本最古といわれるサーカス団だ。そこでオレは人間に仕込まれた芸を観客に披露している。いわば、ライオンの芸人という訳だ。いやはや、百獣の王が情けない、と思うなかれ実は案外満足である。それは何を隠そう毎日たらふく餌にありつけるからだ。

 とにかく、狩りをしなくても食うに困らないのは幸いだ。狩りはしんどいからな。とはいっても雄のライオンはあまり狩りをしないそうだ。サバンナでは雌が狩りをして雄はそれを横取りするだけらしい。

 実はオレは一度も狩りをしたことがない。これは幸いというべきか。日本には憲法九条という戦争をしない法案があるらしい。だからという訳ではないが、オレも平和主義を貫いている。とりあえず腹が満腹のうちは…。

今日は、移動動物園の日

 サーカス団では、飼育している動物を使って移動動物園をときどきしている。幼稚園とかその他イベントに動物たちを貸し出す訳だ。今日は、オレも何故か行く事になった。普段は、猛獣であるオレ様はあまり呼ばれることはない。

 なんせ猛獣ゆえに何かあると困るという訳だ。しかし、オレは満腹なら横になっているだけなんだけどね。何が危険なのか、埼玉育ちのライオンであるオレにはよく分からないが、猛獣に生まれたのは運命だから仕方がないと割り切っている。

 移動のトラックに乗せられてから一時間ぐらいが過ぎたか。オレの隣の檻にはシマウマがいる。サバンナではオレたちの餌になる動物だ。間仕切りがされているが、匂いで分かる。シマウマも気付いていると見えて、ときおり怯えた鳴き声を発している。

 まったく無知にも程があるぜ。オレたち飼われてるライオンは餌付けされてるから、お前なんか食ったりしねーんだよ。それもしらんとビービー、ビービーと泣いてばかりいやがる。

 あんまりうるせーから、「ガウォー!!」と叫んでやった。そしたら、「ヒーッ」と泣いてから静かになった。

 ガタン!ガタタン!とクルマが大きく左右に揺れた。少し前からアスファルト道路ではなく、舗装されていない道を走っているらしい。おいおい、大事なタレントが乗ってるんだぜ。こっちは猛獣だぜ、もう少し慎重な運転をしてくれよ。

 まったくしょうがねーな、と思った次の瞬間、クルマはゴーン!ドスン!という響きと共に左側に傾いていた。そしてそのまま横倒しになってズズーン!という音を立てながらしばらく進んで止まった。

 オレは横倒しになったトラックから、さらに離れたところまで檻ごと放り出されていた。2回、いや3回転はしたかもしれない。檻の鉄柵にしたたかに打ち付けられていた。いてて、くーっといった声を出してしばらく動けなかった。

 おーいて、おーいてなどと言いながら、ようやく起き上がった。しかし、言う程には痛みはなかった。さすが猛獣だ、しかもネコ科だからね。受け身が達者にできているのが幸いしたようだ。

 檻は逆さになっていたが、それはいいとして何故か扉が開いていた。鍵が壊れたか?。これって、出てもいいってこと?なんて想いがちらっと頭を過った。しかし、当然のように檻から外に出ていた。

 ここは何処?、あれ?まさかサバンナかと見間違うばかりの広い草原が広がっていた。遠くにシマウマが見えた。あれは、そうだよなーアイツだよな。オレの隣の檻にいたシマウマが草を食べていた。

 なんだかのんびりしたその様子を見て、オレは何故か闘争本能が芽生えていた。なんだアイツ、ちょっと脅してやろうか。風下であることを確認してから、ネコ科動物特有の低い姿勢を保ちながら前進した。

 シマウマまで、約10メートルぐらいに接近したとき勢いよく飛び出して襲いかかる振りをした。シマウマは、1メートルぐらい飛び上がってびっくりしたあとに、逆上して後ろ足でオレを蹴り倒そうとした。

 なんだこの野郎、あぶねーじゃねーか!とオレは後ずさりして後方に下がった。シマウマは、後ろ足で蹴りをし続けている、その様子をしばらく眺めたあと、オレはシマウマに言った。

ライオン「おい、もうやめようぜ。悪かったなジョーダンだから」とオレは日本語で言ってやった。

シマウマ「…….ヒン。いまなんて言った?」
ライオン「だから、ジョーダンだから。アンダースタンド?アーユーオケー!」
シマウマ「えー、日本語喋れるんだ」
ライオン「あたりめーだ。日本に何年住んでると思ってんだ。かれこれ20年だ、日本語が喋れてあたりめーだろ」
シマウマ「いやー、なんだあんたも話せたのか」

ライオン「お前だけと思ってたか。自惚れんなよ」
シマウマ「そうなんだー。はやく言ってよー」
ライオン「ところで、ここは何処だ?、それから運転してた調教士はどーした」
シマウマ「わかんないけど。青柳さんはまだクルマの中だと思うよ」

人間と会話する百獣の王

 青柳というのが、オレたち大型動物の飼育および調教を担当するニンゲンだ。この青柳はまだ半人前だった。前任者が腰を痛めて現場から管理に配置換えになったことから担当に抜擢された。師匠である前任者に比べるとなんとも心もとない事ばかりであった。

 とにかくコイツは、餌をケチろうとする。牛を減らしてチキンばかりを出しきた。前任者は牛と豚が半々に近かった。しかし、コイツはチキンで腹を含まらせろといわんばかりである。その根性が気に食わない。

 ある日、青柳が会計担当とオレの檻の前でライオンの餌はこれからはチキンを半分ぐらいにしたいなどと話していた。それを聞いたオレは、ガウォーと叫びながら檻の鉄柵から前足を出して威嚇してやった。

 そして、前任者がたまにやってくるとゴロニャンとばかりに甘えて、違いを見せつけてやった、早くお前も前任者を見習えとばかりに。

 シマウマと一緒に横倒しになったトラックの前にやってきた。土手になった道路からタイヤが脱輪して転がり落ちたようだった。左側面を下にしてトラックは僅かにエンジン部辺りから煙りを出していた。

ライオン「オーイ、アオヤギー。生きてるかー」
シマウマ「あーあー、やっちまったなー」

 オレたちの呼びかけにトラックの運転台から返事があった。

ニンゲン「だれかー、助けてくれー」と青柳が叫んでいた。
ライオン「いまいくからー、待ってろよー」

 トラックは、4トンだから車幅も有り横倒しとなった運転台まではかなり高さがあった。しかし、オレはライオンだ。ネコ科特有のジャンプ力を駆使して上になったトラックの右側面に軽々と昇っていた。そして、運転台の窓ガラス越しに青柳を覗き見ると、かれはシートベルトを締めたまま苦しそうにしていた。

ライオン「アオヤギー、窓ガラスを開けろ、シートベルト外せるか」

 顔を向けた青柳は、オレの顔を見てびっくりして仰け反った。

ニンゲン「あうー、なんなん。え、どういうこと?」
ライオン「助けてやろーていうんだから、言う通りにしろよ」
ニンゲン「なんでー?ライオンが話すの」
ライオン「話せるのが、そんなに不思議か?」

 青柳は、もうどうでもいいと諦めたように頷いた。窓ガラスを開けて、シートベルトが外せないと示してきた。オレは窓から頭を入れてシートベルトを噛むと思い切り引っ張った。そして、その開いた隙間から出る様に促した。

 青柳は、なんとかシートベルトから抜け出し、ハンドルに足を掛けて踏ん張って窓から這い出てきた。そして、草地に向かって飛び降りた。

ライオン「どうだ、怪我はないか?」
ニンゲン「いや、大きな怪我はないようだ」
シマウマ「アオヤギ、よかったね」

 オレは、青柳に近づいて顔をベロリと舐めてやった。よだれが顔からしたたり落ちた。

ライオン「どうだ、目が覚めたか」
ニンゲン「くっせー、なにすんのかなー」
ライオン「くせーのは肉食のせいだから、いまさらいうまでもねーだろ」
シマウマ「オレも舐めてやろうか?、植物繊維の匂いがするよきっと」

 ライオンとシマウマとニンゲンが、ひと時の達成感を味わっていた。
オレたちは、助けがくるまで車座になって話し合いをした。それは肉食の猛獣ライオンと草食の動物シマウマがしゃべれることは秘密にすることだった。

 何故なら、それが公になればニンゲンの社会に重大な変化が訪れると思われたからだ。喋れる動物がいたら、それを何かに利用しようと考えるのがニンゲンだ。しかし、オレたち動物はそれを望んではいない。

 そして、オレは青柳に言った。

ライオン「あのさ、鶏は飽きた。やっぱり牛がいいんだけどね」
ニンゲン「……分かりました」

<愛の食物連鎖/おわり>

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