■映画|預言者 欧州の移民・難民問題が垣間見える

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移民・難民、人種的偏見、その行き着く先に何が見えるか

■この映画は、欧州の未来の序章を告げている?

 映画「預言者」は、現在の欧州を揺るがしているシリア難民の問題とどこか通じるものがある。映画の主人公はアラブ系フランス人であり、かれが抱えている問題の多くは移民であることから発生している。

 2009年カンヌ映画祭で「預言者」は、審査委員特別グランプリを受賞している。しかし、当方は残念ながらごく最近まで知らなかった。この映画は、端的にいえば犯罪映画であるが、フランスの抱える移民問題、それに伴う人種的偏見などが背景に描かれており、社会派のドラマとしても重厚な作品となっている。

 映画の舞台であるフランスでは、多くの移民が暮らしており全人口に占める割合も年々増加している。アラブ系だけでも約7%いるといわれる。ちなみに、フランスでは人種的偏見を増長するとして、現在では人種別統計をしていない。フランス固有の人種と、それ以外の人種の2種類で統計がされているとか。

 映画の主人公は、フランスに移民してきたアラブ系の両親から生まれていた。ケチな犯罪を犯して刑務所に収監された主人公は、そこにも移民ゆえの差別があることを知る。刑務所内は、コルシカマフィア(コルシカ島出身の犯罪集団)のグループと、アラブ・アフリカのイスラム系のグループに別れていた。

 全体的には、コルシカマフィアの力が強かった。刑務所内で生きて行くには、どちらかのグループに所属することが不可欠であった。主人公は、アラブ系であるがイスラムに傾倒していなかった。したがって、イスラムのグループとは親近感もなく、なりゆきでコルシカマフィアのグループに接近していった。

 主人公は、コルシカマフィアのリーダー格である人物の雑用係となる。それによって刑務所内での待遇は改善されていく。しかし、その反面で殺しを依頼されても断ることもできない状態となる。アラブ系であることを、コルシカマフィアグループのボスにいいように利用されてしまう。

 主人公は、やがてその不条理な待遇に不満を抑えられなくなる。それはやがて来るであろう必然の帰結といえた。一時外出許可を得た主人公は、刑務所内のコルシカマフィアのリーダーから、外にいる自分のボスを殺害するように命令された。主人公は、それを機会に刑務所内のコルシカグループ一掃を計画していた。

 映画の中でコルシカグループのリーダーは、アラブ・アフリカ系の囚人を眺めながら言った、「数が多くても、何の役にも立たない。オレたちは頭を使う」と。しかし、その逆襲が始まろうとしていた。そして、その行く末は…..。

 以下はネタばれですが、

 映画のラストシーンがなんとも意味深です。主人公は刑期を終えて出所します。そのとき外には、かれが中心となって築いた犯罪集団が迎えにきています。その反対にコルシカのリーダーは力を無くし刑務所に残されています。映画のタイトルである「預言者」の意味が、なんとなく分かる様な気がしました。

 ちなみに預言者(よげんしゃ、英語: prophet)とは、自己の思惑に拠らず、啓示された神の意思を伝達、あるいは解釈して神と人とを仲介する者。 しばしば共同体の指導的役割を果たすとされます。(参考ウィキペディア)

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左が主人公 右がコルシカマフィアのリーダー

■移民・難民問題に揺れるヨーロッパ

 フランスだけでなく、欧州全域が移民・難民問題に難しい対応を迫られている。移民や難民の多くは、中東・アフリカ系であり、その原因は遠い時代の産物であるのは言うまでもない。かつて欧州の列強はその地域を植民地化していたからだ。

 第一次世界大戦時、オスマントルコと枢軸国を分断するために、アラブ民族を独立を餌にしてトルコに反逆させたのはイギリスであった。その後の中東地域は、分割されてイギリス、フランスなどが間接的に支配した。さらに、パレスチナにはイスラエルが誕生した。それを後押ししたのはイギリスであった。

 映画「アラビアのロレンス」には、その後の中東の行く末には混迷しかないことが、それとなく示唆されていた。

 フランスは、アフリカ北部のアルジェリアを長い間にわたって植民地化し数々の搾取をしていた。フランスがしてきたアルジェリアでの弾圧の様子は、映画「アルジェの戦い」で垣間見ることができる。

 現在、フランスやドイツ、その他欧州各国が移民や難民を多く受け入れているのは、過去に仕出かした数々の中東、アフリカへの搾取の歴史と無関係ではない。ただし、イギリスは傍観する様な姿勢にある。元から欧州連合に懐疑的なイギリスはいま何を考えているか、それは実に不気味である。

 欧州各国では、移民・難民問題と並行してナショナリズムが広がりつつあるとか。フランスでは、極右政党が注目されて支持を集めている。ギリシャ問題、難民問題、ナショナリズム、そしてVWの不正問題と、欧州連合が、これからも一枚岩でいられるか、試練の時がまだしばらく続きそうである。

 とにかく、厄介続きの欧州であるが、その原因を考えると「因果応報」なのではないかと、思わざるを得ないが。あしからず。

<因果応報の意味>
人はよい行いをすればよい報いがあり、悪い行いをすれば悪い報いがある。

■「預言者」(原題:Un prophète、英題:A Prophet)ストーリー概要

19歳のアラブ系青年マリクは6年の刑を宣告され、中央刑務所に送られて来る。そこは人種間の対立が激しく、互いに牽制し合いながらも、最大勢力であるコルシカ・マフィアのグループが実質的に支配している世界だった。

身寄りのないマリクはコルシカ系グループを仕切るセザールに目を付けられ、彼らのグループの人間を売ったアラブ系の男レイェブを殺すように脅迫される。逡巡しながらもマリクは刑務所内で生き延びるために初めての殺人を犯す。

これをきっかけにセザールの子分となり、読み書きとともに生き残るための術を学んで行くが…。セザールはマリクがフランス語とアラビア語に加えて、コルシカ語も使えるようになっていると知ると、マリクを外部との連絡係として利用するようになる。

セザールの手引きで外出許可を得たマリクは、外の世界に出る度に様々な「成果」をあげ、刑務所内ではジプシーのジョルディと手を組み、既に出所していた親友リヤドの協力の下、違法薬物の取引によって刑務所内外で力を付けて行く。

いつまでも自分を子分として支配し続けようとするセザールが邪魔になったマリクは、セザールから依頼されたボスの暗殺を逆に利用してセザールを陥れることにする。そして、それを実行する日がやってきた…。

監督:ジャック・オーディアール
公開:2009年(日本2012年)
上映時間:155分
製作:フランス、イタリア
受賞:カンヌ映画祭/審査委員特別グランプリ、セザール賞/9部門受賞、他

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