■小説自作|消えた女2 日常と隣り合わせの不可解

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消えた女2 日常と隣り合わせの不可解

作:cragycloud

いつもと風景は変わらず、日々は過ぎてゆくが…

<四日目……>

 妻の実家は、数ヶ月前に引越ししていた。自分はちっとも知らなかったし、はたして妻はそれを知っていたろうか。もし知っていたとしたら、自分に言わなかったのは何故なのか。疑問は次々と湧いてくるが、それを解決する手立てはなかった。

 もっとも、自分は妻の実家に感心がなかったのも事実だ。だから、話題にしたこともなかったはずだ。それに薄々、妻も気が付いていたか。

 だからといって、実家が引越ししたのなら報告ぐらいするだろう。普通は…。しかし、なんで?と思うしかなかった。まさに堂々巡りとは、この様なことを言うに違いない、そんなことを想像しながら途方に暮れていた。

 妻の会社にまだ電話していなかったのを思い出した。なんとなく、怖い思いが先に立って電話していなかったのだ。携帯に番号を登録してあるはずだった。その番号にかけるのは、実ははじめてのことだった。

 妻から会社には連絡してこないでと言われていたからだった。だから、なんとなく躊躇いつつ電話してみた。ピポパという回線を繋げる音が聞こえてきた。

 そして…その後には「おかけになった電話番号は…現在使われておりません…」という音声ガイダンスが流れてきた。こ…これは、なんということだ。妻の携帯、実家の電話、そして妻の会社とすべておなじことの繰り返しとは…。

「訳が判らん..」と思っていた。何がどーなっているか。しかし、その糸口さえ何もなかった。それがなんとも苛立たしかった。

 妻の会社を訪ねてみることにした。電話が繋がっていないことから、そこにあるとは思えなかったが、少しでも糸口を見つけたかったからだ。妻から貰った名刺にあった住所は、五反田駅から少し歩いた目黒川沿いにあるビルだった。

 目黒川沿いは、桜の名所として有名だった。川沿いの桜はすでに満開となって、川には落ちた花びらが漂いピンク色に染めていた。

 目指した住所は確かにあった。しかし、そこにあったビルは名称が違っていた。5階建てのかなり大きいそのビルは、研究所か何かのようだった。某有名企業の冠が付いていた。思い切ってビルのなかに入ってみた。

 そして、受付で聞いてみた。

「あのー、すみませんが、ここに○○という会社は入っていませんか」
「いえ、そういう会社は当社のなかにないはずです。ここには当社以外の会社は入っておりませんが…」
「…そーですか。ありがとうございました」

 そーだろうなー、と思っていた。「なんなんだろーなー」、と思わず呟いていた。そして、ますます途方に暮れるしかなかった。

桜11

<五日目……>

 手がかりはまったく無く、もう成す術もなかった。途方に暮れるばかりで、何をどーすればいいのか。それが思い当たらなかった。警察に失踪届けを出すということも考えたが、それは思い留まっていた。

 何故なら、この不可解な出来事をなんと説明すればいいか判らなかったからだ。それにどこかしら、警察では埒が開かないという思いがしていた。

 部屋にいても何も思い浮かばないので、近くを散歩することにした。目黒川沿いは桜の花が満開に咲いていた。それは美しい光景であるが、なんだかそれが逆に虚しさを抱かせていた。何故なら、桜の花はほんの短い間しか咲かないからだ。

 桜の花の美しさは、ほんの一瞬でしかない。それが自分の生活にだぶって見えた。約3年に渡る妻との生活が思い出されていた。

 そんなことを想いながら歩いていると、あることに気が付いた。それは、部屋の状況確認だった。妻の持ち物や、自分のものがそのままあるか、まだ確認していなかった。自分は、どうやらかなり動揺していたらしい。

 真っ先にすべきことを何もしていなかったのだ。部屋にもどり、クローゼットを開けて妻の持ち物を確認した。洋服類は、アウターもインナーもほぼ残されているようだった。自分のものも確認するが、それもおなじくだった。

 クローゼットのなかには、重要な書類入れとして使っている棚の引き出しがあった。そこを開けてみた。銀行の通帳や判子はそのままであった。金額を見てみたが、たぶん異常は無いと思われた。

 しかし、見慣れない封筒が一通あった。淡い水色の封筒だった。そういえば、妻は淡い水色が好きだった。何故か懐かしい想いが心を満たしていた。

 封筒には、細い字で小さく自分の名前が、そして右下には妻の名前が書かれていた。封筒のなかには一枚のやはり淡い水色の便せんが入っていた。

 折り畳まれた便せんを開いてみた。そこには自分に宛てた妻からのメッセージが書かれていた。それは細くて綺麗な文字であった。

あなたへ

突然、このようなことになり心苦しく、また申し訳なく思います。

あなたに何か原因がある訳ではありません。

理由は、わたしにあります。それが何かは言うことができません。

とにかく、この3年間は幸せでした。あなたもそうであれば幸いです。

勝手な言い草ですが、どうか探さないでください。

それがわたしの望みです。

警察やそれに類するところに相談などしないでください。

よろしくお願いいたします。

追記、離婚届けを出しました。公正文書偽造になるのは重々承知ですが、
受け入れてくれることを願います。

勝手なことは判っていますが、どうかお許しください。

妻より

 文章を読み終わる前に、自分は涙が止まらなくなっていた。そして溢れんばかりに込み上げてくる、この想いはなんだろうと思っていた。

 心臓の鼓動が早くなっている。なんだか気持ちが悪くなってきた。そして、トイレに駆け込むといきなり吐いていた。目頭から涙がこぼれ落ちた。

桜09

<それから数年後…>

 あれから、数年が経っていた。人間とはよくできたもので、いつの間にか普通の生活に戻っていた。妻はいなかったが、それも慣れてきていた。

 妻が消えた後、妻の望むようにすべてを受け入れた。警察やその他に相談はしなかった。離婚届けの偽造もおなじくだった。会社や同僚、友人には、離婚を報告した。あまり深く詮索しないでくれとお願いした。

 当初は、痛手というか、ショックというか、何だか判らない理由で不眠症ぎみとなっていたが、それもいまではすっかり改善していた。

 あの後、妻の実家が関係していると思われるカルトについてネットで検索してみた。そのカルトは、日本と縁浅からぬ某国に関係していた。キリスト教関係の某団体の系列に属していた。

 その組織では、日本人の若い男女を洗脳し、妖し気な商売をさせていると、まことしやかに語られていた。自分もよく聞いた話しであったが、まさかそれが周辺にも及んでいたとは思わなかった。まさに事実は小説より奇なりであった。

 世の中は、選挙モードになっていた。参議院選挙が近くなり、立候補者に関してあれこれと詮索がはじまっていた。また、しょーこりもなく、怪しい芸能関係者を候補者に立てた政党がマスコミの攻撃を受けていた。

 そんななかで、野党から擁立された立候補者が注目されていた。それはまだ若い女性であった。市民運動家であり、美人候補としてマスコミが取り上げていた。自分はあまり感心がなく、その女性の顔さえよく知らなかった。

 通勤電車で週刊誌の中吊りをなにげなく見たところ、何か懐かしいものを感じていた。そこには、美人候補者として噂の女性の写真が掲載されていた。

 ショートヘアーの良く似合う、細面の綺麗といえる面立ちだった。あれれ、どこかで見た様なという想いが込み上げていた。これは、妻か?、いやいや、よく似ているだけかもしれない。妻はロングヘアーだったし、もう少しふくよかだった。

 この女性は、だいぶスレンダーらしい。違うよな、たぶん違うだろう。そう思いながらも、駅の売店でその週刊誌を買っていた。

 週刊誌を開いて、該当のページを見てみた。見開きに大きく掲載された女性の写真は、まぎれもなく妻、いや元妻であった。間違いはない、いや間違える訳はなかった。なんせ、3年間一緒に生活を共にしたのだから。

 しかし、だからどーしたのか。しばし、歩きながら考えた後、週刊誌を通勤途中にあるコンビニのゴミ箱に捨てた。もう、関係はない…そう思うことにした。

 一瞬揺り戻された記憶を仕舞い込むかのように…そして永遠に。

<消えた女2/おわり>

写真:mika ninagawa http://www.ninamika.com/

ずるいひと なかの綾
ずるいひと

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