■小説自作|コンビニの夜2 本日も平常営業なり

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アタシの夢はいずこへ…

コンビニの夜2 本日も平常営業なり

作:cragycloud

「やばいぞ、やばいぞ」と思っていた。何故なら、ほんの少しのあいだと思っていたコンビニの深夜勤務が、そろそろ半年近くになろうとしていた。「やばいぞ、やばいぞ」という想いが頭から離れない。短大は卒業したが、就職はしていない。短大在学中にはじめたコンビニのバイトにもすっかり慣れていた。

 ところでアタシは、何を目的にしていたんだっけ?、あれれれー、どーしたんだ自分と言い聞かせてみたが、思い出せない。「どーして、どーしてなのー!」と焦るが、何も浮かんでこない。そして、「いやー!」という声と共にベッドから転がり落ちていた。あー、夢か。そーなのねーと少し安堵していた。

 時計を見たところ4時を過ぎていた。午前ではない、午後の4時である。アタシが寝たのは午前11時頃だった、たぶん。だから、まだ寝ていたい気持ちもあったが、なんだか変な夢のせいで、もう寝付けそうもなかった。

 仕方がなくテレビを付けてみた。もう夕方のニュース番組が始まっていた。そこでは、保育園を落ちたせいで「日本死ね」とネット投稿して話題となったネタをやっていた。アタシは、日本はだめだなと思っていた。あれ、この台詞はどこかで聞いたような気がするなと思いつつトイレに向かっていた。

 トイレから出てから、なんとなく気になっていたお腹周りをつまんでみた。ぶみゅとしている。かなりのお肉をつまむことができた。これもやばいなーと思っていた。二の腕もつまんでみる、これまた大福餅みたいだった。

 なにしろ、コンビニ弁当ばかり食べているからに違いなかった。それになんだか食欲が、以前に比べると異常ともいえた。それもこれもコンビニで深夜勤務についてからであるのは言うまでもなかった。

 お腹をさすりながら、しばしボー然としていた。

夏にはまだ早いが…

 もう夏がやってきたのか、と錯覚するほどに暑い。まだ5月だというのに、もう真夏日だとお天気おねーさんが言っていた。やれやれ、もう夏かよ。早すぎるだろうがと思ったが、地球の気象事情はそんな一般市民の想いには御構い無しのようだ。それにしても暑いぞ、地球はどーしたん、と思っていた。

 試供品のダイエット飲料を飲みながら、LINEをチェックしてみた。トモダチの冴子から「みてみてー」というメッセージとともに、インスタグラムのアドレスが貼ってあった。それを見てみると、なんだか派手な化粧をした軽そーな女がいた。メッセージには「佐々木希です!なーんて」と書かれていた。

 思わず、どこが佐々木希やねん、と関西弁でつっこんでいた。

 冴子は短大の同級生で、いまは信用金庫に勤めている。信用金庫は、この女の本性を知る由もないに違いなかった。派手好きで、イケメン大好きの女である。ホストに誑かされて信用金庫のお金をちょろまかしても不思議はない。そんな女が、佐々木希を気取って写真をアップしていた。

「がんばれよ冴子ちゃん」と心の中でつぶやいていた。

 そういえば、冴子とはこの夏には沖縄にいこうね、と約束していた。行きたいのは、やまやまだがと思いながら、また脇腹の肉をつまんでいた。ぶみゅという感触とともに、かなりの肉がこれまたつまむことができた。

 水着を着た自分を想像してみた。だめだこりゃ、とすぐに気がついた。

 ビキニは無理だな、競泳用みたいのはどうだろうか、などといくつかの水着を着た自分を想像してみたが、どれもウエストのくびれが問題であった。ビキニはくびれあってのものだし、競泳タイプはまるでトドみたいになりそうだった。

「よし、痩せるぞ!」、と心に言い訊かせるようにつぶやいていた。今日からはコンビニ弁当は食べないぞー、とこれまた自分に強く言い訊かせていた。

 しかし、お腹が減っていた。痩せる前の腹ごなしをしようと思って、何か食べるものはないかと冷蔵庫を開けてみた。そこには、賞味期限が近づいたコンビニ弁当が、アタシに食べられるをじっと待っていた。

 それをしっかりと食べたあとに、「よし、痩せるぞ!」と決意も新たにしていた。さらに、ビクトリアズ・シークレットの水着を着てやるぞー、と思っていた。

何処からともなく、やってくる25番さん

 深夜のコンビニは、あまりお客さんは多くはないが、それでも誰かはやってくる。それが、コンビニの宿命であるかのように。

 いつの頃からか定かではないが、毎日のように深夜にきておなじタバコを買っていく客がくるようになっていた。そして、その客は「25番さん」と呼ばれるようになっていた。なぜなら、25番のタバコをいつも買っていくからだ。

 しかも、そのお客さんは、25番としか言葉を発しない。それ以外の言葉を知らないかのようだった。そんな訳はないと思うが、とにかくちょっと不思議な雰囲気を漂わせた客であるのは間違いなかった。

 年齢不詳であり、ネクタイをしめた普通の会社員ではなかった。服装は、トレンドを取り入れたお洒落な格好をしていた。かなりファッションに気を使っているようだったが、その物腰から若くはないことが明らかに見て取れた。

 IT系かもしれなかった。IT系の現場仕事では深夜勤務もあると訊いたことがある。または自由業かもしれなかった。どことなく、やさぐれ感がしたからだ。しかし、飲食関係の水商売のそれとは違うようだった。

 時刻は、そろそろ午前1時になる頃だった。そろそろ「25番さん」がやってくる頃合であった。大抵、12時から1時のあいだにやってきていた。

 アタシは、25番のタバコを取り出してカウンターに置いた。そのとき自動扉が開いた、「25番」さんだった。ジャストタイミング、アタシの感は見事に当たった。今日の25番さんは、ストローハットをかぶり、渋いピンクのシャツ、そしてだぶついたジーンズにスニーカーだった。

 アタシは、目の前にきた25番さんが声を発する前にそっとタバコを差し出すと、ニヤリとして見せた。それを見た25番さんは、はっ?とした顔つきをしたあとに、苦笑いをしながらお金をぴったりと置くと帰っていった。

 してやったり、なんとなく満足していた。

 25番さんは、誰かに似ていると思っていた。それが誰なのか思い出せなかったが、ようやく思い出すことができた。中年芸人のさまーずだ。その片割れに似ていたのだ。顔つきとかではなく、全体の雰囲気がそうだった。

 今日の25番さんは、一言も発せずに帰っていった。アタシが言わせなかったのは言うまでもないが、それがなんとなく面白かった。

 アタシは悪い女かしら、なーんて思うとまたニヤリとした。

<次ページに続く>

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