■小説自作|コンビニの夜3 コズミック・サンシャイン・ベイビー

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夏がやってきた。暑いぞ、クソ暑いぞ!

 コンビニ界のプリンセスとは誰にもいわれていない、そんなアタシは二十歳だ。コンビニでバイトを始めてはや半年が過ぎた。

 最近、女優の「広瀬すず」がデビュー前にコンビニで週6でバイトしていたことをネットで知った。なんだ、アタシとおんなじじゃないかと一瞬思ったが、それがどーしたとすぐに感じていた。我ながらなんて醒めているんだと思う。

 アタシは、タレントになるつもりはないし、そんな器ではないのは自分がよく知っている。しかし、最近、よく来る客に「キュートだねー、まるでコズミック・サンシャイン・ベイビーみたいだ」といわれた。

 なにそれ、意味わかんないんだけどー。おっさん、どーでもいいけどー、意味を言ってから帰ってくれよー、気になるじゃんかー、ベイビー。

コンビニの夜3 コズミック・サンシャイン・ベイビー

作:cragycloud

真夏の夜の夢

 ザッザーン、ザップーン、と波が永久運動のように岸壁に打ち寄せては砕け散っていた。満天には星が煌めき、海は月光に照らされていた。

 アタシは、東京近郊にある港の埠頭にいた。波が岸壁に打ち寄せて音を立てる以外、周囲は静寂に包まれていた。時はすでに深夜0時を過ぎようとしていた。アタシは、街を牛耳る暴力組織「花咲組」との対決を前にある想いに耽っていた。

 じゅーくはたち、アタシの人生は暗かった。それでも人生に悔いはない、不条理を正すために戦うのだ、という気持ちを改めて強くしていた。

 そのとき、暗がりからぞろぞろとネズミの大群のように不逞の輩が現れてきた。

「よー、ねーちゃん。よくやってきたな」と先頭にいたネズミ顔の貧相なエグザイル系のチャライ男が言っていた。
「あんたたちも、よくもまー汚い顔ばかり揃えてやってきたなー」とアタシも負けずに言ってやった。しかし、ほんとに薄汚いやつらだった。

「なにー、てめーなめんなよー」
「おめーの顔なんて一万回洗ってもなめらんねーよー」

 集団の中から黒い影がさっと動いた。手にはキラリと光るものが見えた。刃先の長いサバイバルナイフのようだった。アタシは瞬時に動き、突進してきた相手をさっとかわして横顔にストレートパンチを炸裂させた。と同時に左ひざを相手のボディに思い切り蹴り上げていた。

 集団はアタシを取り囲むようにして、少しづつ間合いを詰めてきていた。アタシの命運もここまでか。しかし、それでもやる気は失せていなかった。「来るなら来い」という気持ちが充満していたからだ。

  アタシは、自らを鼓舞するかのように「ドド、ドウリャアーー」と声を発しながらエグザイル系集団の中に突進していった。

 どーなる、アタシ。そして、がんばれ自分と叱咤していたが…。

 そのとき、「ぐおしゃ、でやー!」という意味不明の掛け声とともに夏掛けの布団を蹴り上げていた。かるーい夏掛けは見事に宙に舞っていた。

それから、かるーい夏掛けはニュートンの法則を証明するかの如く、アタシの頭上にフワッと落ちてきた。頭からすっぽりと包まれたアタシは、そこでようやく目が覚めた。それでも、まだ戦う気なのか無意識に拳を握りしめていた。

「あっあー、そうだったか。また夢か、夢なのねー…」

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 いつものことながら、夢から覚めた後はなんだかすっきりしない。ボーッとしたままカーテンを引いて窓ガラスを全開にした。どんよりとした雲が空に広がっていた。嫌ーな感じのする薄暗がりが街を覆い始めていた。

 ドッカーン、ズッズーンという轟音を響かせてカミナリさんが、オラオラ系となって自己主張していた。いましがた見た夢の中でザップーンという波音だと感じていたのは、どーやらカミナリの音のようだった。

 この頃のアタシはなんだか変だ。見る夢がいつもヒーローものばかりだった。いつかは、空を飛んでいたし、あるときはゴジラと戦っていたこともあった。

 心のどこかにヒーロー願望でもあるのかしら、なんて想っている今日この頃のアタシである。だから、なんだか腑に落ちない気分ですっきりしない。

 そのせいか、食欲が異常をきたしている。食欲がないのではなく、ありすぎて困っている。だから、ダイエットをしてるつもりだが、ちっとも効果が現れない。

 ぷみゅとしたお腹をつまみながら、空を見上げていると雨がポツリ、ポツリと落ちてきた。それから、あっという間もなくザーッという音ともに豪雨となっていた。と同時に、カミナリが暗くなった空を切り裂くかのようにピカッと光ると、轟音を上げてどこかに落ちていた。

 カミナリが空を切り裂く光と轟音は、まるでアタシに「もう目覚めたか」、「しっかりしろよ」と言わんばかりであった。

 アタシは、空に向かってカミナリさんに「もう目覚めましたから…」とそっと呟いていた。しかし、それとは裏腹に雨とカミナリはさらに激しくなっていた。

深夜のコンビニは、異端の客を呼び寄せる

ブラックサンダー(黒い雷神)な客は、いいクレーマーか!

 深夜のコンビニには、少しばかり変わったお客がやってくる。関西のどこかのコンビニでは、おっさんが女装(かつらと化粧)し、しかも裸で現れたそうだ。

 これは想像するだけで怖いし、気持ちが悪い。それに対応したコンビニのスタッフにはトラウマが残りそうだ。きっと夢に出てくるに違いない。いやー、怖いなー、うちのコンビニには来てほしくないなー、と思うばかりだ。

 深夜のコンビニには、それほど多くのお客はやってこない。しかし、それでもお客は少なからず、深夜の灯火に惹かれてどこからかやってくる。

 アタシのいるコンビニにも、不思議なお客がやってくる。しばらくは気がつかなかったが、そのお客は中年の男性でいつも「ブラックサンダー」しか買っていかなかった。しかも夜中にである。それだけであれば、何も問題はない。

 しかし、あるときそのお客がどこか変だと判明することになった。

 そのお客は普段は、「ブラックサンダー」を買って帰るだけだったが、ある日何がきっかけか知る由もないが、アタシに話しかけてきた。

「おねーさん、ブラックサンダーおいしいよねー」とお客さんは言っていた。
「はっ、そ、そーですねー」アタシは不意を突かれて答えに窮した。

「しかも安いよねー、ほんとに安すぎるでしょ。こんなにうまいのになんでこんなに安いの。まるでわからんよねー」

 と言ってお客は同意を促すようにアタシを見つめている。いやー、こまったなーと思ったが、それに対してあいにく何も思い浮かばなかった。

「……ブ、ブラックサンダー、お好きなんですね」

「好きなんてもんじゃないよ。もう命よ。これなくして何が生きがいか、というレベルね。いやほんとーよ」

「だいたいさー、なんでこんなに安いのよー。買う方の身にもなれってんだよね。ひとつだけじゃ買いづらいでしょ、安すぎて。だからいつも多く買ってしまうんだよ。そのせいで食べ過ぎてしまうのよねー。だからー、ぼくね、見た目と違って100キロ超えちゃてんたんだよねー」

 いや、見た目通りだとアタシは思っていた。しかし、当然口には出さなかった。

「食べ過ぎは、よくないですよね。やはり」とアタシもなんとか話を合わせてみるが、もう付いていくのが辛くなっていた。

「そうだよ。よくないよ。だけどうまいんだよー、これがー」そう言いながら、そのお客さんは、苦渋の顔と至福の顔を交互に見せていた。

「ブラックサンダーは、お菓子界の王様だよ。本当に無敵だね。でしょ、そう思うでしょ」とまた同意を促す強い眼差しを向けてきた。

「ハ、ハイ、そーですねー無敵です。いやー間違いないですね」とアタシもヤケクソ気味に同意していた。もう、どーとでもなれという気持ちだった。

「ブラックサンダー、バンザイだね。いやほんとーに」と言いながら、そのお客さんはブラックサンダーを愛おしそうにそっと撫ぜていた。

「ブラックサンダー、明日から1個100円にしていいよ。そーしたら1個でも買えるでしょ。ぼくも食べ過ぎないで済むしね」

 そして、「いやー、ごめんね。お仕事中に長く話してほんとごめんね」と言って出口に向かって行ったが、途中で振り返るとアタシに向かって「ごめんね」と言いながら会釈すると、もう堪らんとばかりに叫んでいた。

「ブラックサンダー、バンザーイ!」

「バ、バンザーイ…!」とついツラれてアタシも言っていた。

 そして、ブラックサンダーな客は、自動ドアの向こうに消えていった。

 な、なんなんだよー、あー疲れたとアタシは感じていた。とにかく、やれやれと肩の荷を降ろした気分となったのは間違いなかった。しばらくはブラックサンダー恐怖症になるかもしれなかった。

 また、夢にもきっと出てくるに違いないとも思っていた。

 それはさておき、多少変でもお客さんであるのは違いない。ブラックサンダーなお客さんもけっして悪い客ではなかった。ただ単に特定のお菓子に対する愛情が深すぎるだけだった。それは他人がとやかくいうべきものではない。

 たぶん、お客さんはその愛情をこれまで他人に言えなかったのではないか。それを偶然にもアタシが、解放してしまったのかもしれない。そこで一気にブラックサンダー愛が解き放たれて、バンザイにまで繋がってしまったと思われる。

 そのように考えると、なんだかいいことをしたかもしれないと思えてきた。そうだ、コンビニはきっと深夜の解放区なんだ、そしてアタシはその解放区のアテンダント(案内役)なんだと思うことにした。

 そう考えるとなんだか変わったお客さんも愛おしく思えるようだった。なんだか、次にはどんな変わったお客さんがやってくるか、それが楽しみになるような気がしてきた。一抹の不安を抱えながらではあるが…。

 そして、女装して裸で現れるのだけはかんべんしてくれー!と願っていた。


おまけ:参考にしたネタ ブラックサンダーが好きすぎるチンピラ

100+1 ERIKAS
100の変身と新生エリカを神話的に表現した新感覚の写真集。
100+1 ERIKAS

<次ページに続く>

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