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■小説自作|コンビニの夜4 真夏の夜のヒーロー

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清廉なアタシVS.変なおじさん

rasta

 夢見が悪かったせいでなんだかやる気が出ない。なーんていうのは言い訳に過ぎないが、そんなのは関係なく今日もコンビニの夜はやってきた。

 今日は、芳しのともみさんと一緒だ。ともみさんは元介護士だけあって働き者だ。そして涼やかな人だ。だから、アタシはそれをいいことに無駄口ばかりしている。それでも、ともみさんは嫌な顔もせずに聞いてくれる。

「Bくんって、ともみさんに気があるの見えみえだよね。その態度が、いやらしーたらないよね。ねー、ともさん。そう思わない」
「そんなことないと思うけど、考えすぎよ」ともみさんは、社会人経験があるから人の悪口はいわない。
「そーかなー、アタシは想像力がありすぎるのかもー」と無責任なアタシであった。

 午前0時も過ぎて、少し暇になってきた。しかし、そろそろあいつがやってくる頃合だった。あいつは、要するにおじさんだ、それもかなり変の字がつくおじさんだった。別に危害はないが、アタシに変なことばかり言ってくる。

 このあいだは、「コズミック・サンシャイン・ベイビー」みたいだ、とか言っていた。なんじゃそれは、と戸惑うアタシだった。

 そのおじさんに、アタシは密かにアダ名を付けていた。それが、「ラスタのおっさん」というものだった。ラスタとは、レゲエカラーのことだ。ラスタのおっさんは、いつもこのラスタカラーを身に付けている。

 そして、おっさんの前頭部はハゲていて、それがV字を描くように後退していた。残った頭髪は長く伸ばしていて、ざんばら髪のようだった。最近は、それを後ろで束ねている。そして、なおいっそう変になっている。

 パンツはいつも迷彩柄のワークパンツを履いている。その色違いを何本か持っているようだった。Tシャツなどの上衣とコーディネートしているらしい。

 噂をすればなんとやらで、ラスタのおっさんが現れた。そして、アタシのいるレジに一直線に向かってくると、いきなり言った。

「おねーさん、今日もキュートだね。いやよかった、よかった」
「あ、ありがとーございます」

 キュートと言われて、思わず頬が緩んでいた。なにしろ、キューピーちゃんよりは、ずーとマシだったからだ。

「じゃー、買い物していくね」とラスタのおっさん。
「あー、お願いします」とアタシは言っていた。

 なんだ、このやりとりはと思うが、いつものことだった。今日のラスタのおっさんのコーディネートは、これまた派手だった。目がくらくらするグリーン、イエロー、レッドのストライプ柄のTシャツを着ていた。

 そしてパンツは、渋い色合いの迷彩柄だった、その足先のスニーカーはグリーンで、靴紐がイエローとレッドになっていた。こんなのどこで売ってるんだろうか、とアタシはなぜか興味津々となっていた。

 とにかく夜目にも鮮やかであるのは間違いなかった。そして、夜に出歩くには、安全でいいかもしれなかった。

 ラスタのおっさんが、商品を持ってやってきた。今日は、アイスクリーム、歌舞伎揚げ、おにぎりだった。そして、いつものように25番もと言った。

 25番は、たばこの銘柄に付けられた番号だ。アタシはもう覚えていて、おっさんが現れたときからすでに用意していた。

 会計をしていると、おっさんはアタシの顔をまじまじと見つめながら言った。

「おねーさん、あれだね。なんていったかなー、名前をど忘れしたけど、岡山の奇跡といわれる少女に似ているねー。言われたことないー」
「あー、岡山の奇跡ですかー。たぶん、それは桜井日奈子さんだと思います。残念ながら似ていると言われたことはないです」

 桜井日奈子さんとは、岡山の美人コンテストでグランプリを獲得し「岡山の奇跡」と呼ばれて話題を集めた女子高生(現タレント)である。いまでは、不動産屋の広告で有名となっている、清楚系美少女である。

 なんだか、ムフフと思わず笑みが溢れそうだった。ラスタのおっさん、案外いいやつかもしれない、などと思っていた。桜井日奈子に似ているって、悪くないんじゃない。もっと言ってよ、おっさん。

 ラスタのおっさんは、帰り際に「あっ、そうそう」と言いながら、紙切れを差し出してきた。それは、何かのチケットのようだった。

「これさ、ライブのチケットだけど、あげるよ。時間があったらきてね」とラスタのおっさんは言って帰って行った。

 そのチケットには、「ラスタの夜/レゲエの夜明け」と書いてあった。

 レゲエなんて、あまりよく知らない。ズンチャカ、ズンチャカというリズムはわかるけど、それ以上は皆無の知識だった。どーしよーか、と思案に暮れた。

 チケットは、なぜか2枚あった。日付はだいぶ先だった。芳しのともみさんか、トモダチの冴子を誘うかどうかで迷ったが、冴子はやめようと思った。

 なぜなら、「キューピーみたいだね」と言われたことをまだ根に持っているからだった。いまに見ていろよー、冴子ー!と思っていた。

<コンビニの夜4/おわり>

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