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■社会|中国製造業の驚くべきエコシステム その実態はいかに

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モノづくりの中心は、いま何処に

 中国のバブル崩壊は毎年のように喧伝されているが、一向に崩壊することなく最近では崩壊詐欺とまでいわれている。

 一方、もはや中国の存在なくして世界は成り立たないという説もある。それは、中国が有する膨大な人口は言うまでもなく、世界中の企業が中国の製造業システムに依存しているからに他ならない。

 はたしてその実態はいかにーー。

モノづくりの概念が変わった

 かつて日本は、「モノづくり大国」といわれて、その存在価値を世界に示していた。しかし、最近ではモノづくりの概念がすっかり変わってしまい、かつての日本流のモノづくりは、すでに時代遅れとなってしまった。

 日本のモノづくりは、垂直統合型であり、開発、製造、販売、アフターサービスまで一貫して行うことで、製品の品質性や安全性を高めてきた。

 しかしその後、中国が安い人件費を糧に、製造の一部(組み立て)を担うようになってから一気に流れは変わった。製造の一部を中国に委託することは、大きな潮流となって世界の企業に定着していった。

 日本の企業もそれに抗うことができずに、中国に委託することが多くなった。(その後、中国で人件費が高騰すると揺り戻しが起きたが)

 そして日本の製造業が誇った「モノづくり大国」の存在価値の一端は、中国へとシフトしていくことになった。この時点では、まだ日本をはじめ世界の企業は、製品開発という要の部分は中国にはできないと踏んでいたはずだ。

 油断大敵とはよく言ったもんだ。中国は、製造の一部を担う、単なる組み立て工場からいち早く脱皮しようと考えていた。そして、開発分野に進出し、開発から製造に至るまでの全行程を網羅したシステムを構築していく。

 現在、中国の開発・製造のシステムを活用した「モノづくりしないメーカー」が台頭している。アップルがその代表格であるのは言うまでもない。

 もはや「モノづくりの概念」は、「つくる」から「しない」に変わったのだ。

垂直統合とは
企業(あるいは企業グループ)が、自社の製品やサービスを市場に供給するためのサプライチェーンに沿って、付加価値の源泉となる工程を企業グループ内で連携して、上流から下流までを統合して競争力を強めるビジネスモデルのことをいう。

モノづくりしないメーカーの時代

 中国をいつまでも組み立て工場と思っているのは大きな勘違いのようだ。最近の中国企業は、企画、設計、製造もできるようだ。

 アップルは、自社で企画、設計した製品の製造を中国に委託しているのは有名なことである。しかし、最近の中国企業では、企画や設計にも大きく関与し、どんな製品をつくるかの概要が決まれば、あとはすべてやれるそうだ。

 世界各地でスマホベンチャーが台頭しているが、新興企業といえど一定以上のクオリティーが持てるのは、設計も製造も経験豊かな中国企業に外注しているからだ。そして、その鍵を握るのは「IDH(設計専門企業)」である。(ニューズウィーク日本版、2017/12/19より)

 世界の工場として始まった中国の工業化は、いまではブランド、設計、製造、販売、アフターサービスまで、モノづくりに関連する全行程を徹底的に分業化し、アウトソーシングするシステムが出来上がっているそうだ。

 したがって、モノづくりしないメーカーはマーケティングに専念できる。水平分業の中国製造業システムは、日本のお家芸であった垂直統合型システムを時代遅れにした。

 思い返せば、アップルが中国のEMS(電子機器受託製造)企業と提携して大成功したことがモノづくり概念の転換点だった。

 当時、日本の企業はサムソンにしてやられたと思っていたが、真の要因は「モノづくりしないメーカーとEMSの連合」にあった。奢る平家は久からずや、まさに日本企業はその罠に嵌っていたといえる。

 アップルは、EMSと連合する前にソニーにiPodを売り込んでいたといわれる。しかし、当時のソニーはアップルを舐めきっていた。

 2000年代以降、アップルとソニーは立場が大逆転していった。2017年時点でアップルの時価総額は、約100兆円以上、一方ソニーは約9兆円となっている。

 アップルをはじめ、モノづくりしないメーカーが台頭していくなかで、日本の製造企業ではある変化が起きていた。それは品質不正というまやかしである。

 日本の製造業で広がるそれらの不正行為は、けっして社員のせいではない、関与を否定する経営陣の責任であるのは言うまでもない。

 素材やデバイスでは、まだ日本は優位にあるとされたが、あにはからんや、短期的な収益確保のために自ら罠に嵌るという、いわば自爆したのである。

 モノづくりしないメーカーと「IDH(設計専門企業)」、EMS(電子機器受託製造)などの連合は、やがては素材やデバイスも飲み込んでいくに違いない。

 ソニーその他の日本企業は、イメージセンサーなどのデバイスをモノづくりしないメーカーに提供し収益を上げている(2018年、日本の製造企業は高収益だそうだ)が、それがいつまで続くかである。

 ひたひたと迫り来る中国企業に、日本の製造企業は対処できるか、その時間は残り少ないと思われるがいかに。


スマイルカーブ
製造業の収益構造、両端が収益性が高く、真ん中の組み立てが最も低い。
引用:http://techon.nikkeibp.co.jp/

<旧/モノづくりメーカーの意思決定>
・一に会議、二も三も会議、とにかくずーと会議、根回しに明け暮れて、そのあげくに決断を先延ばし、何も決められない。

<新/モノづくりしないメーカーの意思決定>
・アイデアにはこだわるが、あとはスピード重視で決断、とにかく決断あるのみ。

 上記した新旧の意思決定の違いは、少々極端ではあるが、当たらずとも遠からずであるに違いないだろう。

中国製造業の設計・製造システムが世界を支配するか


世界最大の電気街「華強北」
引用:http://diamond.jp/articles/-/116420

 中国広東省の深圳には、電子機器設計・製造に関連する巨大なサプライチェーン(製造業の原材料の調達、生産、管理、物流、販売までを、一つの連続したシステムとする)が構築されているそうだ。

 深圳では、製造企業に関連するサプライチェーン企業が数多く存在し、常に価格競争が行われており、安価で部品が調達できるといわれる。電子機器製造業に必要な全てが車で1時間圏内に集まっているそうだ。

 また、数が多いだけでなく、どのサプライヤーの製品が良くて、悪いかを判断してくれる機能も有している。それが、深圳のいわばガイド役となるIDH(設計専門企業)といわれる企業である。

 このIDH(設計専門企業)に設計を依頼すると、どの部品が良くて、それをどこから調達すべきか、までを提案してくれる。

 したがって、メーカーは、アイデアと製品の基本概要さえ示せれば、あとはIDH(設計専門企業)が準備を整えて、設計・製造・販売までのサプライチェーンが構築されて一直線となる。

エコシステム(生態系)
 深圳のこのようなサプライチェーンの構造は、業界ではエコシステム(生態系)といわれている。必要に応じて適応範囲を広げて生き残りを図っていくからだ。または、ハードウエアのシリコンバレーともいわれる。

 深圳のエコシステムは、2000年代初頭に始まったといわれる。その当時、中国では政府の認可を受けないと携帯電話を製造できなかった。しかし、携帯電話の需要と利益率の高さから、認可を受けない「山賊メーカー」が多く参入した。

 それら「山賊メーカー」は、最盛期(2011年)には3000社に及んだといわれる。そして、年間2億5500万台といわれる携帯電話を生産していた。

 その後、スマホの時代になり多くの「山賊」が淘汰された。技術が追いつけなかったからだ。しかし、そのなかで生き残ったIDH(設計専門企業)は、その後のエコシステムの中心となり現在に至っている。

 現在中国で、IDH(設計専門企業)、ODM(相手先ブランドの設計・製造)の最大企業といわれるウィングテックは、16年には6000万台のスマホを送り出した。 
 
 設計・製造したブランド名には、ファーウェイ、シャオミ、レノボ、LG電子、モトローラ、ASUSなどの大手スマホメーカーが揃っている。

 現在のIDH(設計専門企業)の特徴は、なによりもそのスピードにあるようだ。日本では製品開発に通常1年かかるものが、深圳のエコシステムを使えば約4ヶ月で、しかも量産までいくそうである。

 なぜそこまで早いかといえば、こだわりを排除しているからといえる。通用化という概念が浸透していて、他のメーカーで使った設計を再利用している。

 通用化(標準化ともいう)とは、パクリ製品が市場を席巻する中国ならでは考え方といえる。使えるものは利用して、早く、そして安く製造するという合理性に支えられた考え方だろう。ある意味では理に適っている。

 中国のあるIDH(設計専門企業)の社長は、次のように語っている。

「メーカーに必要なのはアイデアだけだ。基盤や完成品の設計、ソフトウェア、アプリ、クラウドの構築など、すべてをIDHが担っている」(ニューズウィーク日本版、2017/12/19より)

 現在は、電子機器を中心にしたシステムであるが、それが近い将来には他にも広がっていくのは必然と思われる。ロボットやAIといった、これからの新技術もそれを後押ししていくかもしれない。

<用語解説>
IDH(設計専門企業)
・電子機器製品などのソフトおよびハード両面にわたり、メーカーに変わって設計から各種部品の調達までを担う。
ODM(相手先ブランドの設計・製造)
・メーカーのブランド製品を、その設計から製造までを担う。
EMS(電子機器受託製造)
・メーカーの製品設計に基づいて、製品の組立製造(完成品)を担う。

参考記事:日本の敗退後、中国式「作らない製造業」が世界を制する理由
上記リンク先はニューズウィーク2017/12/19版のネット記事ですが、内容がだいぶ省略されているようです。

冒頭動画:中国広東省 深圳市

おまけ/深圳すごいの実態はいかに

 深圳でEMS(電子機器受託製造)企業「ジェネシス」を経営する日本人経営者、藤岡淳一氏は次のように語る。

「深圳すごい、日本負けた」の嘘──中国の日本人経営者が語る
その強みとは何かーー
 サプライチェーンとエコシステムだ。この数十年で日本から低付加価値の分野が韓国、台湾に移り、深圳に流れていった。人件費が高い場所で付加価値の低い仕事はこなせないのだから自然な流れだ。その後、本来ならば深圳からその先に流れていくはずだが、深圳は後背地に膨大な人口を抱えている。そのため長きにわたりワーカーの人件費は低水準に抑えられてきた。

「日本よりも深圳のほうが生き延びやすい」は幻想ーー
 もちろん甘い話だけではない。日本ならばツーカーの話が通じない。性悪説がゆえに騙されることなど日常茶飯事だ。もともと中国企業に製造を委託したが、うまくいかず私に助けを求めてくるベンチャー経営者も多い。

 実際、深圳の中国企業にとっても楽な環境ではない。ともかく競争が激しく、突然の倒産や夜逃げはごくごく当たり前だ。近年は人件費の高騰が続いており、低付加価値のままではやっていけない。皆が生き残りを掛けてさまざまな道を摸索している。失敗して潰れる企業のほうが多いだろうが、生き残った顔ぶれのレベルは上がっている。

週刊ニューズウィーク日本版 「特集:日本を置き去りにする 作らない製造業」〈2017年12月19日号〉
週刊ニューズウィーク日本版 「特集:日本を置き去りにする 作らない製造業」〈2017年12月19日号〉 [雑誌]

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