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■小説自作|東京ゾンビマンション それは突然やってきた!

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東京湾岸エリアの高層マンションに現れた不審な輩たち

東京ゾンビマンション 作:cragycloud

 いつの頃からか、東京の湾岸エリアには高層マンションが雨後のタケノコのごとく、ニョキニョキと建ち並んでいた。こんな地盤の悪いところにたくさんの高層ビル群を建てて大丈夫かいな?、と他人事のように思っていた。

 しかし、なんの因果か。最近になって、なんとこの高層ビル群の一角に引っ越してきたのだ。いやはや、まさか自分がと思ったがそれも運命か。

 ここに引っ越してきたのには理由がある。それは自分よりふた周りも若い女性を妻にしたからであった。彼女曰く「高層マンションに住むのが夢なの」と。だったら、オレがその夢を叶えてあげるぜ、とばかりに酔った勢いで言ったのが間違いだったか。いや、まだそうと決まった訳ではないが。

 そう言う訳で、高層マンションに住みだして半年が経とうとしていた。

 新婚の妻は、あれほど望んでいた高層マンションをいまでは悪態の限りをついてののしっている。「買い物がめんどーだ」「エレベーターがすぐにこない」「周りに買い物するところがない」、ついでにオレの悪態まで付いてくる。

 なんなん?、なにがそんなに不満なのか、と思うがいかに。しかし、もう諦めた。彼女の言う事にも一理あるからだ。住む前にもう少し検証してからでも遅く無かったはずだ。しかし、当時のオレは焦ったオットセイのごとくだった。

 とにかく、もう済んでしまったことを今更あれこれ言っても始まらない。だから、前向きに考える様にしている。今日だって、休日なのに朝から何度目かの買い出しに行った帰りである。しかし、なんの苦痛も感じない。何故なら、休日に妻とずーと一緒にいるほうが苦痛だからだ。

 マンションの入り口でID番号と指紋認証をして扉を開けて中に入った。

「アイヤー、ホイヤー、チートイツー、ガハハハ」とやけに騒がしい声がする。それはロビーから聞こえてきていた。この高層マンションの1階には入居者用のロビーがあって、そこには多くのテーブルとそれを囲む様に椅子が配置されていた。それは、ホテルオークラのロビーを模倣したものと思われた。

 そのロビーが騒がしいのはいつものことであった。入居者の憩いの場のはずが、いつの間にかそこはある筋の入居者とその客たちの集いの場となっていた。

 ある筋とは、中国人の富裕層とその仲間達のことで、かれらはいつもそこを占有している。自分の部屋で集えばいいと思うが、天井の高いロビーの解放的な空間のほうが居心地がいいらしい。

 かつて、そのロビーの反対側にはコンシェルジェと呼ばれるマンションの管理人がいたそうだ。というのもオレがここに入居したときには、すでに人はいなくなっていた。ただし、変わりに呼び出しのボタンがあった。それは、なんとも豪勢な造りのコンシェルジェ・フロントには場違いな感じが否めなかった。

 コンシェルジェがいた当時は、ときに大声をだすロピーの入居者たちに注意していたと聞くが、それもいまではいない。だから、かれらはやり放題のおかまいなし状態となっている。

 管理会社も対処すると言うばかりで一向に埒が開かないと聞いている。いやはやである。バカ高い管理費がどこに使われているか疑問に感じていた。

 エレベーター・ホールでは待つこともなくエレベーターに乗り込んだ。32階のタッチパネルを触ると静かに扉は閉まった。エレベーターは程よいスピードで上昇して止まった。32階にはたしか10数室ぐらいあったと思うが、確かめていない。たぶん、半分くらいは中国の富裕層と思われた。

 たいがい、どこかの部屋から大きな声がしていたからだ。分厚いと思われるコンクリの壁を越えてまで聞こえる声の元はどんだけ大きいんだと思うしかなかった。入居した当時は気になったが、いまではそれもいつものことと気にならなくなっていた。人間はどうやら何事も慣れる動物のようだ。

 自分の部屋の前で、鍵を取り出しロックを解除してドアを開けた。

「ただいまー、買ってまいりましたよー」
「あぅー、おかえりー、ぎゃくろうさまー」と妻が自分がさも買い物してきたかのように疲れた声で言った。
「あのさー、寝てただろー」
「寝てないって、いま何時だと思ってんの」と妻がいつもの逆切れぎみの調子で言った。

「11時半だ。あぅーって言ったろ、寝てた証拠だ」
「あー、たしかに。バレた?」
「当たり前だ。いつものことだし」

 テレビを付けっぱなしで寝ていたらしい。いまテレビではニュースをやっていた。アナウンサーが、なんとも腑に落ちないという面持ちでニュースを伝えていた。なんでも、渋谷の路上で人が人を噛んだとか言っている。

 はっ、何のことだ?。なんだか興味をそそられて耳を傾けていた。アナウンサーが言うには、午前6時頃、渋谷の路上で歩行者が何者かに襲い掛かられて首や頭などを噛まれて死んだそうである。襲いかかった何者かは、どこかに逃亡し行方がしれないそうだ。

 ところが、噛まれて死んだはずの被害者が何故か病院の安置所で生き返ったと言っている。しかも激しく暴力的になっていて看護士に襲いかかったとか。現在は安置所に監禁している状態だと言っていた。

 原因は不明だと、それは当たり前か。いやまてよ、これがゾンビなのか?。まさか、そんな映画ではあるまいし、と思うがそれを確かめようがない。

 他のチャンネルも回したが、どこも異常なニュースを繰り返すばかりでそれが何を意味しているか、どこも解説していなかった。

「ねー、何?。なにがどーしたの」と妻が寝ぼけたことを言っている。
「いあやー、人がね、人を噛んで死なせたらしいよ」
「えー、何それ。まるでゾンビじゃない」
「そーだよ。まるでゾンビだよ」

 休日の昼食を自宅で食べながら、テレビの中継を凝視していた。そこでは、人が人を襲う様子を写していた。それはまるで映画のなかの出来事のようだった。襲いかかった方は、いかにもゾンビという趣を呈していた。動きはのろいようでいて、襲いかかる瞬間はまるで肉食獣のような俊敏さであった。

 そして、首を噛み切るように何度も噛み付いていた。それは恐ろしいという形相をしたもはや人間とは思えない何かだった。

「ちょっとー、何よこれ冗談でしょ。うそー」
「いやいや、これはどうも冗談ではないようだぞ」

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 リアルな冗談番組と考えたかったが、どこのチャンネルもおなじニュースを流している。しかも、外出は控えたほうがいいと言ってる。しかし、どういう類いの注意なのかはっきりしていない。どこの役所がこの問題の管轄なのか。いま当局も戸惑っているに違いない。

 とりあえず警察が対処しているようだが、問題の解決どころか何がどうなってるかさえ理解するには至っていないようだ。

 先程の渋谷以外でも、品川、目黒、用賀、中野など次々とおなじ事案が発生していると伝えている。だから、どうしたらいいか、それが知りたいがどこもそれを伝えない。なにがどうなっているかもどかしい思いになるが、どうしようもない。

 テレビの画面では品川駅付近の事案を写している。そこでは人々が逃げ惑い、それを追いかける獰猛な動物のような動きをみせる何者かが見えている。それはひとりではなかった、もはや集団といっていい数の何者かがいるようだ。

 まるで猛獣に食われたような人間が横たわっているのが映っては、すぐに画面から消えた。どうやら腕がないか、ちぎれていると思われた。そのとき、画面に大写しで恐ろしい形相をし血を口から滴らせた何者かが現れた。カメラマンが襲われたようだった。カメラの画面はすぐに斜めになり、そして地面に落ちた。

「これはやばいかも」
「携帯はつながるかしら?」
「どこでもいいから掛けてみよう」と、思いついた知り合いのところに掛けてみた。

「もしもし、もしもし」何度かの呼び出しのあとに繋がったようだ。
「あー、ひさしぶり」と知り合いがでた。
「ところでどーなってる。いまどこにいる」
「いま中央高速にいる。交通事故が多発してる。そのせいで渋滞だ。それが何を意味するか。ようやく分かったところだ。クルマは動かない。これから徒歩で逃げる。悪いがこれで切るよ。また掛けるから…」
「オレたちは、自宅にいる。また連絡くれ」

 通話は切れた。向こうも必死なようだ。たぶん、かなり混乱してるのだろう。こちらは高層マンションの32階でじっとしている。はたして、このままでいいのか?それすら分からない。

 試しに警察署に掛けてみた。しかし、混雑しているからまた掛けてくれと自動録音で言っていた。さてどうしたもんか。考えあぐねているとピーンポン、ピーンポンと呼び出し音が鳴っていた。マンションの入り口から訪問者があることの合図だ。

 もしかしたら知り合いかも?、そう思って訪問者を写すモニタを見ることにした。モニタをオンにして覗きこむとそこには恐ろしい形相の何かが映っていた。思わず、びっくりしてその拍子に仰け反っていた。

 そのときオレの後ろにいた妻の頭に後頭部をぶつけてしまった。妻は、んぐっと言って床に倒れ込んでしまった。オレも後頭部を押さえて前屈みにうずくまっていた。くーっ、てててっつーと訳がわからんことを言い放っていた。

 少し痛みが和らいだので、妻の様子を見る余裕ができた。妻は倒れ込んだままだった。どうやらオレは妻をノックアウトしたようだ。

 キッチンでタオルを濡らしてきて妻の頭に添えてみた。しかし、んんっーと寝返りを打ったきりで起き上がる気配がない。仕方がないので抱っこして寝室に運んでベッドに寝かした。頭に冷えたタオルをあてて、しばらく様子をみるしかない。

 もう一度、マンション入り口のモニタを見てみることにした。モニタには1人ではない多くの何かがいるようだった。この高層マンションは、すでに人間ではない何かに囲まれたかもしれない。たぶん、そう思って間違いないようだ。

 マンションの中はどうだろうか?。様子を見てみるか、さてどうする?。なかなか考えがまとまらない。そのときドアをノックする音が聞こえた。同時に何か呼びかける声もしている。

「いるー、いるー、とーしたんかねー、なにかわかるかねー」とたどたどしい日本語で何かを言っている。どうやら、おなじ階の中国人らしい。ドアの覗き窓から見てみるとやはりそうだった。まだ人間であるらしかった。

「あなたはだいじょーぶですかー」と大きな声で訪ねた。
「たいじょーぶね、人間だよ。だいじょーゔ」と言っていた。

 ほんの少し考えたあとにドアのロックを外して開けた。そこには青龍刀らしき長い刀状のものを手にした50歳ぐらいの中国人らしき男がいた。かれは入っていいかと目で促していた。そして戸惑いを隠せないという顔つきをしていた。

 部屋の中に入ると何か飲むものはあるかと訊いてきた。コーラでいいかと訪ねたところ、頷いたので冷蔵庫からコーラを出して渡した。それをぐっと半分近く飲んでから、座っていいかと言ってきた。

「なにが、どーしたのか。なにかわかるかー」と中国人が訊いてきた。
「いや、なにも。ただ、なにか恐ろしいことが起きているようだ」
「中国のことチェレビは言ってるか」
「いや、なにも言ってない。どうやら広がってるのは間違いない」
「そうかー、どうしたらいいんだ」
「….分からない」

 中国人の男は、やはりおなじ階の住人だった。ただし、いつも居る訳ではなく休日を利用して来日したときに滞在しているだけと言っていた。おなじ中国人の何人かで金を出し合って投資目的で購入したものだそうだ。

 また、中国人旅行者に部屋の貸し出しもしていて、このマンションの多くの中国人がそのようなことをしてると打ち明けた。どうりで見知らぬ中国人がやたらと多かった訳である。ロビーの中国人たちはそのような旅行者のようだった。

 中国人の男は、他の同郷人の部屋も訪ねたが留守だったようで、仕方なくこの部屋を訪ねることにしたと言った。テレビを見ても何か不穏なことが起きているのは分かるが、それが何なのか意味が分からないから不安だと吐露した。

「だいじょーぶ、こちらも分かってないから」とオレも同じだと言ってから、これまでテレビで見たことを繰り返す様に話した、そして推測も加えた。

「あれは、やはりゾンビだと思う」
「ゾンビーズか、いついなくなると思うか」と中国人が訊いてきた。
「分からない。何が原因かが分かれば、医療関係者が対処するだろうが」
「武器はあるか?」と青龍刀を指していた。
「いや、ないが…ゴルフのクラブならある」
「それでいいね。用意しといたほうがいいね」

 いつまでも部屋に閉じこもってもいられない。食料はすぐになくなるし、飲料だってそうだ。水道が大丈夫か確認したいが、どこにすればいいだろう。

「近いうちに食料を探しにいかなければならない」とオレは中国人に言った。
「そうだな。そのとおりだ」と中国人もおなじ考えのようだ。
「それから、いまのうちに仲間を捜しておこう」とオレは言った。

 中国人が外の様子を見てみようと言ったので、オレも頷いて窓際に歩いていった。32階の窓から眺める下の様子は、小さい何かが蠢いているようだった。道路の所々に人らしき姿が見えるが、明らかに動きがおかしい。

 それは、アリの大群が動いている様子に似ていた。中国人が望遠鏡か望遠レンズ付きのカメラはないかと聞いてきた。たしか妻が小さな折りたたみ式のものを持っていたはずだ。そういえば、妻はまだ寝たままだったのを思い出した。

 寝室で妻の様子を確認したあとに、クローゼットに入って望遠鏡を探した。それは小物入れの引き出しの中にあった。

 探し出した小さな望遠鏡を窓際に立っている中国人に渡した。かれは望遠鏡を最大倍率にして階下に向けて覗きこんだ。しばらく覗きこんだあと、かれは青ざめた顔つきでオレにも見ろと促してきた。

 オレもおなじく階下に向けて望遠鏡を覗きこんだ。そこに見えたものは…。

 オレは中国人に顔を向けたが、たぶん青ざめた顔つきをしていたはずだ。かれとおなじく…。二人とも想いはおなじはずだ、これからどうしたらいいんだと。

<東京ゾンビマンション/おわり>

冒頭写真:blog.goo.ne.jpより 

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