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■小説|チンピラの夏(1)エンドレスサマー

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朝は、当たり前のように今日もやってきた!

チンピラの夏 その1 エンドレスサマー

作:cragycloud
登場人物:オレ

 暑くて目覚めた、朝は当たり前のように今日もやってきた。

 またかよ、と思いつつもようやくの思いで起きだした。さてと、今日も仕事でもするしかないのが、なんともいまいましい。オレは、やくざだ。といっても一番の下っ端である。小さなテキ屋系の組織の一員になって1年が経とうとしている。

 そして、いまオレは屋台でクレープを焼いている。

 なんてこった、こんなはずじゃなかったが…、もっと違うイメージというやつを抱いていたはずだった。しかし、それがなんだったかもう忘れた。どちらにしろ、碌でもないことを考えていたに違いなかった。

 オレのいる組織は、元はテキ屋だから当然のように屋台の経営をしている。昔のしがらみかなんか知らないが、あちこちのスーパーなどの敷地内で屋台を出している。いまでは車の移動販売がメインとなっている。

 昔と違っていまは便利なもんだ。いま、オレは地元のスーパーの敷地にクレープの屋台を出している。もうかれこれ3ヶ月にはなるだろうか。

 最初は、焼き方も判らなかったが、いまじゃいっぱしの熟練クレープ焼きだ。見た目によらず以外と器用なんだ、オレは。なんてね。

 ところで、オレがいる街は東京の近郊だが、寂れた街だ。かつては栄えた街の中心地である駅前商店街は、シャッター通りになってずいぶんと経つそうだ。人口だけは、周辺の街に比べなぜか増えている。そのせいか車の数がやたらと多いのが目立つ。車ばかりの街といってもいいだろう。

 平日、休日問わず、昼間も夜も歩いている人をほとんど見かけたことがない。なんとも寂しい街だ。この街の住民はコンビニに行くにも車でしか行けないようだ。歩くことをどうやら忘れたみたいだ。

 オレは、これから事務所に行って今日の下準備をしてから、例のスーパーに出勤だ。今日は、休日だから多少は売上が期待できる。とにかく、売上によってオレの実入りも変わってくるから必死だ。

 なんてこった!、と思いつつもどうすることもできない。そんな苛立ちを抱えてもう1年が経とうとしていた。

 いったい、オレはいつになったらこの生活から抜け出せるのか。まったく検討がつかなくなっている。しかし、まだ19歳だ。これからだ、という思いだけがオレを救ってくれる。まだ、時間はある。そうだろ。

 スーパーに着いて屋台の準備をしていると、なんと同級生がやってきた。テイ君という不動産屋の息子だ。俗にいえば成金の息子だ。

「よー、ひさしぶりだな。どうよ、最近は」
「あー、なんとか、やってるよ」

「やくざになったて聞いたけど…」
「聞くな、それ以上」
このテイ君は、なんと名門大学に入った。子供の頃から勉強しかできなかったやつだ。しかし、気のいいやつだから、ときどきは話ぐらいはした。

「今日は、なんだ。ずいぶん早いじゃねーか?」
「あー、これから海に行くんだ。その買い出しだよ」

「おー、いいね。オレも行きたいねー」

 オレのいる街は、海がとても近い。

 それは、海にぐるりと囲まれた半島だからだ。いつでも行こうと思えば、海に行けるのだ。しかし、そんなに行きたいと思わないのは何故だ。しかし、そう思うのはオレだけじゃない、地元の住民はみんなそんなもんだ。

 テイ君が海へと出かけてから、そこそこの忙しさもあって人生への疑問とやらに向き合わなくてすんだ。これは幸いであった。なにしろ暇だとつい余計なことを考えてしまう。オレは、元々はアタマがいいんだろうか。

 そんな訳はないか。スーパーの客は、だいたいは中年以上のおばさんが多いが、ときには若い女性もやって来る。

 年頃のオレとしては、それが楽しみだ。なんてーことを思ってたら、きれいなオネーサンがオレに声を掛けてきた。もちろん、クレープをちょうだいと。

「おにーさん、いつもここで屋台やってるの?」
「あー、ここだけではないです。ほかのスーパーにも行きますよ」

「へー、そうなんだ。まだ若いよね」
「オレすか、19です」

「いいなー、まだ少年じゃない。イケメンだしモテルでしょ」
「そんなことないすよ、そうだったらいいけど…」

「だれかに似てるよねー、思い出せないけど」

 そうだ、オレは以外とイケメンで通っている。なにしろ、桐谷健太に似ていると言われたりするのだ。そうかなー、とオレは思うがまあいい。彼は、軽い役柄が多いがイケメンではあるだろう。

 オレとしては、大森なんとかいう渋い役者のほうが好きだが、こればかりはどうにもできない。ナルシストではないが、まあモテル時期があったのはたしかだ。

 しかし、最近は、つき合っている女はいない。下っ端は金もないし、そんな暇もないのだ。いったい、オレは何を目的にこの商売に入ったのか。またぞろ疑問の虫が騒ぎだしていた。

 そういえば、考えると碌なコトがないと先輩が言っていたのを思い出した。

つづく

追記:
 この小説もどきについて、若干説明します。個人的には、小説を書きたい訳でもなく、ただ突然思いついただけのものである。いつも行くスーパーの駐車場の一画で、クレープの移動販売車があり、そのなかで若いおにーさんがクレープを焼いていたのである。

 そのおにーさんは、とっぽい感じの今風の感じである。それを見てなんとなく、思い浮かんだのが上に書いた文章である。すべて想像である。元になったのは、イケメンのおにーさんが屋台をやっているという事実のみである。

 この物語は、まだ始まったばかりであるが、続きがあるかどうかは神のみぞ知ると思う次第である。あしからず。

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