全てのものには終わりがあり、そして始まりがある
写真:GANREFより、nachtさん
きなこがゆく その1「ゲイノーの人」
作:cragycloud
登場人物:きなこ(空が好きな女子高生)
暑過ぎる夏が過ぎて一ヶ月が過ぎようとしていた。夏休みボケの頭もようやく学校に馴染んできた。空には、青く澄み渡る空が広がっている。じっと空を見上げていると溶け込みそうな気持ちになってくる。雲が気持ち良さそうに漂いながら流れていく。
川沿いの土手から空を見上げてずいぶんと時間が経ったように思うが、まだ見飽きないのは何故だろう。
東京の下町にある川沿いの街が、アタシの住んでいるところだ。ここには、生まれてすぐに越してきたきたそうだ。山の手に近いのに何故か田舎臭いのが特徴だ。いわば、東京の田舎か。地方に行けば、こんな街はいくらでもありそうだ。
それでも、アタシは気に入っている。それは、この土手から見る空が好きだからだ。だが、このことは秘密だ。誰にも言っていない。
アタシは、ほぼ仁王立ちのような格好で空を見上げていた。膝上20センチにした制服のミニスカートが、ひらりと風にはためく。通りすがりの男たちがちらちらと見て行くが、アタシは慣れっこだ。そんなにミニスカートが珍しいか。
そんなに女子高生の太ももが気になるか。男はなんて不思議な生き物だろう。そんなことを思いながら、飽きずに空を見ていると声を掛けられた。
「きなちゃん。なにしてるのー」と声を掛けてきたのは、幼なじみのイツミだった。学校も同じところに通っている。ずいぶんと長い付き合いだ。
「あー、おっ。いっちゃんか。何もしてないけど」とめんどーなので誤摩化した。
「うそー、じーっと空を見上げてたよ」といっちゃんは言った。
「空かー、たしかにそうだなー」とどうしようかなと思っていた。
「きなちゃん、きなちゃん。ところで、オーディションどうだった」
「あんなの、どうでもいいよ。しつこいから受けたけど後は知らないよ」どうでもよかったのでいい加減に対応したから、落ちたに決まってる。
二階堂ふみ
イツミと別れて家に帰る途中、なんとも怪しげな男とすれ違った。そいつの風体は、長髪に作業服のようなつなぎを着て、ピアスを鼻に嵌めていた。ぐえっとアタシは思っていた。なんで、鼻にピアス。何が目的なの。とアタシには理解不能だった。
最近というか、以前にもあったようだが、この土手あたりでは夜は照明が少なく暗いのを幸いにして、痴漢や強盗が頻繁に出没しているのだ。親からも土手あたりには夜は近づかないように言われていた。
アタシは、まだ出会ったことはない。しかし、アタシなら迷う事無くキン蹴りしてやる。そー、迷う事なくね。気性の激しさには、いささか自信がある。何故か知らないが、いつ頃からか喧嘩に負けたことがない。
人づてに聞いたところでは、近隣の学校でアタシは有名らしい。なんでも、カワイイ顔した恐ろしい女子高生というのが、アタシらしい。そういう噂を言う奴らは、アタシが街を歩いてるのを見かけると、「きなこがゆく」と誰ともなく言うそうだ。
何がきっかけでそうなったか。もう覚えていない。何かが、アタシを駆り立てるのだ。そして、何が不満かアタシにも判らない。それがイライラする原因かもしれない。そんなことを考えていたら、またイライラしてきた。
2ヶ月ほど前、そう、夏が始まったばかりだった。ある日、街を歩いていると声を掛けられた。振り向くとニヤケタ顔をした男がいた。
ホストの客引きかと思ったが、ここらにホストクラブなんてないはずだ。なんだろー、いい加減にあしらおうと思ったが、取り敢えず立ち止まっていた。
「あのー、ほんの少し時間よろしいですか。すぐに済みますから」と以外に気弱そうな優しい態度でそう言った。
「あん、誰。あんた!」とアタシは少々つっけんどんに言った。
「あのー、こういうものです」と名刺を差し出した。
「んー、何これ。ロゴス・エンターティメントって?」
「あー、一応芸能プロです。歌手とか女優とかの」なるほど芸能プロの人らしい。ホストかと思ったが、違ったらしい。もっとも前の仕事はホストかもしれない。
「あのー、どこかの芸能プロに所属されてますか?」と前はホストかもしれない芸能プロの人が聞いてきた。
二階堂ふみ
それから、いくつか聞かれた後に、ぜひうちのプロダクションのオーディションを受けてください。としつこく言ってきた。アタシは、芸能人を出しにした詐欺かなんかと考えて、キツく言い返した。
「ちょっと、いい加減にしてくれる。あんまりしつこいと警察呼ぶよ」と言った。
「わかりました、とにかく。気が変わったら連絡ください」と言ってから、アタシを何度か振り返りつつゲイノーの人は去っていった。
その後、しばらくは忘れていたが、ある日財布のなかに見慣れない名刺があるのを見つけた。そうだ、あのときのアイツの名刺だ。ロゴス何とかいうゲイノー関係だ。アタシは、そのとき一緒にいたイツミに事の顛末を説明した。
イツミは興味津々で、ぜひ受けるべきだと力説してきた。アタシには、何か言いようの無いオーラがあって、前から不思議に思っていたそうだ。そして、イツミは言った。
「きなちゃんは、ゲイノーの人になるべく生まれてきたんだよ!」と何故か、彼女は力強く、確信に満ちた目をして言っていた。
それが、あまりに真剣そうだったので気押されたアタシは、仕方なくオーディションを受けたのだった。イツミには、もうどうでもいいと言ったが、実はちょっとは気になっていた。何故だろう、アタシはゲイノーに興味があった訳ではない。
それでも、イツミの言ったことが気になった。アタシに何があるのだろうと。将来の目標があればいいが、特にこれといったものはない。
しかし、ゲイノーが目標になるのか、アタシには判らない。いつか親父が言っていた。アタシが、何故か荒んだ気性にあるのを見据えていたのだ。親父は、
「すべてのものには終わりがあり、そして始まりがある」と言っていた。
この荒んだ気持ちはいつか終わるというのか、そして何かが始まるとでも。アタシには、なんだソレは?。としか感じられなかったが、いま思うとそのとおりだと感じている。いつかは始めるときが来るのだ。このままでいい訳が無い。
それが、いまなのか。実は、それがまだ判らないのが、なんとも歯がゆいのだった。
つづく
きなこは、この先どうなるか。実は作者にも判らないのであった。
主人公の名前だけで書き始めたが、先はまったく見えていない。
以下は、二階堂ふみ主演の映画「ロックンロールは鳴り止まないっ」
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