■小説自作|ザ・ローガンズ 限りあるイノチ、だから(前編)

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もう、がんばることはないぞ

 おれたち、いつの間にか中高年。いまでは体も心も痛いところだらけだ。それでも、まだまだ生きていかざるをえない。家族のためか、それとも自分のためか。とにかく、残された時間はあと僅かなのは間違いない。

■ザ・ローガンズ「限りあるイノチ、だから」(前編)
作:cragycloud
登場人物:おれ(家電屋)
    :海堂(IT専務)
    :鈴木(公務員)
    :博通(宣伝屋)


女性が抱かれたい男、中高年の憧れ?ジェイソン・ステイサム(ちなみに、本文とはなんの関係もありません)
引用:https://iwiz-movies.c.yimg.jp/c/movies/pict/c/p/77/56/240273view005.jpg

プロローグ:日常生活

 朝起きると腰が痛くて、思わず「おっおっ、いっつつー」と声に出すと、すでに起きていた妻が、憐れみに満ちた目線で俺を見つめていた。

 最近の朝の日課となったこの光景は、俺を甚く傷つけていた。それを妻は知る由もないだろう。これまで自覚はなかったが、やはり年を取った証だったのは言うまでもなかった。もう随分と前から新聞の文字が読み難くなっていた。

 いわゆる老眼というもんだ。いやはや、なんてことだ。

 ようやく起き上がってトイレへと向かうと、「ちょちょっと、待てーい」と言いながら高校生の娘がおれを出し抜いてトイレへと駆け込んでいた。

 高校生の娘を最近ではJKというらしい。そのJKの我が娘は、おれがトイレに入った後は臭くて仕方がないと言って、生理的なタイミングがおなじときは、娘が必ず先に入るようになっていた。

 たまーにおれが先にトイレに入ったときは、我が娘は必ず消臭スプレーをふんだんに撒いて臭いの元を断つことをけっして忘れなかった。

 我が娘のようなJKという生き物は、父親をゴミ扱いにすることを生きがいにしているとしか思えなかった。なーんて娘だ。

 いつも、いつも父親をなんだと思ってるんだ、と地団駄を踏む想いだった。

 小さいときは、パパ、パパと言って甘えてきたのに、いまではおやじと言ってはばからない。もっとひどいときは、あれと言って指差してくる始末だった。

 母親には、いまだにママと言ってるのに、その差はあまりにひどすぎた。

 そんなことを想いながら、トイレの前で立っていると中からJKの我が娘が叫んでいた。「ねー、トイレの前にいないでー、セクハラだよー」と。トイレの順番を静かに待っていることさえ出来ないのか、と思うと悲しくなってきた。

 そんな憤りのせいか、尿意がはげしくなってきていた。これはやばいぞ、しかし娘はすぐには出てきそうもなかった。ダイニングキッチンで朝食の用意をしている妻をそっと横目で伺いながら、おれはバスルームへと向かった。

 そして、静かに屈むとパジャマとパンツを一気におろして、チョロチョロと音を立てないように気をつけながら生理的な現象を解決していた。

 尿意を解消したあとは、生き返ったような心地よさに包まれていた。

エピソード1:同窓会


引用:http://www.givetake.com/wp-content/uploads/transporter_3.jpg

 久しぶりに高校で同級生だった博通(ひろみち)からメールがきていた。来週のプレミアムフライデーに同窓会をやらないか、という誘いだった。

 同窓会とは名ばかりの単なる飲み会であるが、おれはその誘いにラジャー(了解)と返事を送っていた。同窓会のメンバーは、博通、鈴木、海堂(かいどう)、そしておれの4人だけだった。高校時代によく一緒にいたメンバーだった。

 大学は別々になったが、それでもたまには会っていた。しかし、社会人となってからはあまり会うこともなく、1年に一回会うか、会わないかという程度だった。

 博通は、広告会社で営業をしている。鈴木は、公務員となって区役所に勤めている。海堂は、ベンチャー企業に入っていまでは専務になっていた。そして、おれは家電メーカーに入ったが、いまでは外資の傘下になってしまった。

 博通は、高校時代からいつも笑わせてくれるお調子ものだった。そのせいか、年上にも受けがよくて可愛がられていた。また、けっこうイケメンで女子にもモテていたようだ。広告会社勤務がよく似合う、そんな感じがした。

 鈴木は、4人のなかでは一番優秀だった。大学も難関を突破している。国家公務員でもなるのかと思ったが、そこは堅実に区役所を選んでいた。真面目で優秀を絵に描いたような高校生だったが、いまではハゲたおっさんになっていた。

 海堂は、不良学生で勉学はまるでダメだった。大学もなんとか卒業し、ようやく入ったのが起業したばかりのベンチャーだった。しかし、そのベンチャー企業はあっという間に成長し、いまでは一部上場企業となっていた。

 そしておれは、家電メーカーに入社したが、数年前に経営不振に陥りあっという間に外資の傘下になっていた。いつリストラに合っても不思議ではない、そんな現状にあった。現在は、家電とはまったく関係のない、サービスを主体とする新規事業の企画および立ち上げの業務を仰せつかっていた。

 久しぶりに会うのは楽しみだが、どことなく緊張する気持ちもあった。なぜなら、他の3人は仕事も順調そうに見えたせいかもしれなかった。これは嫉妬というやつか、それでも久しぶりに会う楽しみの方が強かったのは言うまでもなかった。

 博通から、当日の待ち合わせ場所のメールがきていた。麻布のどこかにある料理屋らしい。グーグルマップのリンクがあったので、それをクリックしてページを保存した。博道のことだから、きっと小洒落たレストランだろうと思った。

 同窓会当日のプレミアムフライデーがやってきた。午後8時の待ち合わせだった。麻布なんてあまり来ないから勝手が分からずに、グーグルマップをプリントしたペーパーを手にして、挙動不審な様相で行きつ戻りつしていた。

 ようやくのこと、目的の料理屋があるビルの前までたどり着いた。シックな趣のビルは、いかにも高級だぞと言わんばかりの雰囲気を漂わせていた。

 待ち合わせの料理屋はビル内にも関わらず、料亭を思わせる門構えを設えた高級そうな料理屋だった。たぶん、高級居酒屋とでもいうのだろうか。店内に入って博通の名で予約していると伝えると奥へと通された。どうやら個室のようだった。

 案内された個室の引き戸を開けると、そこには博通と鈴木がすでに来ていた。真っ先に目に飛び込んできたのが、鈴木の禿げ上がった頭部だった。おでこが見事に後退していて、もはやどこがおでこだったか判別不能になっていた。

「おっ、ひさしぶりー」と、お互いに声を掛け合った。
「ところで、あなたはもしかして斉藤さんですか」と、おれは鈴木に言った。
「ばっかやろー、おれはな鈴木さんだぞー」と言って、鈴木はスーツの襟元を開いて見せた。そこには鈴木と書かれたネームタグがあった。

「しかし、見事だなー。あの芸人にそっくりだっていわれない」
「いわれるよ、うれしくないけどな」と、鈴木はあっさりと答えた。
「やっぱりなー」とおれは言って、博通にも同意を求めた。
「がはははー、そりゃうれしくないよな」と、博通が笑いながら言った。

 鈴木は公務員らしく、目立たないスーツ姿だった。一方、博通のスーツは濃いグレーの生地がいかにも高級そうだった。

「博通のスーツは、仕立てかい」と、おれは気になっていたことを訊いた。
「あー、よくわかったね。お前もつくるか」
「でも高いんだろ、おれには不釣り合いだよ」
「そうでもないよ、既製品の2倍も出せばつくれるよ」

「そうかー、そんなわけないだろー、それいくらだ」
「20万ぐらいかな、たしか」博通は、高くはないと言いたげだった。
「ばかやろー、おれのいくらか知ってんか」
「しらないよー、いくらだ」
「言いたくないね、もう格差がありすぎて」と、半ば呆れたように博通に言った。

「海堂は遅いね」と、おれは二人に訊いた。
「海堂は、なんせ専務様だけあって忙しいみたいだ。そのかわり、二次会はどこかへ連れてってくれるそうだぞ」と博通はにやりとして見せた。
「どこだろ、やっぱり銀座とか…」と、鈴木は期待するような眼差しを向けた。

 そんなよもやま噺に花を咲かせていると、ようやく専務様こと海堂がやってきた。意外にも海堂は、カジュアルな服装だった。若者の服装センスを大人化したような趣味の良さげなファッションをしていた。

エピソード2:ローガンズ結成


引用:https://image.space.rakuten.co.jp/lg01/38/0000666238/22/imga5daedafzik4zj.jpeg

 海堂の会社はスーツを着ないそうだ。そういえば、アップルをはじめ米国のIT企業はおしなべてカジュアルな服装をしている。それはある意味では、「スーツを着なくても仕事はできる」という比喩的な意味を表していた。

 カジュアルな服装=いかがわしい人、スーツ=できる人という通念が、これからは反対になり、スーツ=できない人の象徴となる日も近いに違いない。

 日本でもIT企業は、米国IT企業の先例に習って、カジュアルな服装が多くなっている。時代はスーツからカジュアルへ、儀礼ばかりがまかり通る旧態以前の組織はもう終わりなのかもしれない。そんな感じがする今日この頃だった。

 それは、経団連の代表企業だった東芝の終焉が象徴していた。ちなみに、元東芝の経営者は、郵政会社でも負の遺産をつくるという、おまけを付けていた。そのような時代の変革期に、おれは感慨の念を強くしていた。

 なぜならば、おれは身をもって経験していたからだ。

「専務なんだって、おめでとう」と、おれは海堂に言った。
「ま、とりえず、ありがとう。いい悪いが半々なんだけどね」と、海堂はうれしくもないといった表情をして言った。
「海堂は、創業期からの唯一の残りなんだろう」と、博通が訊いていた。
「いや、正確には二人いるけど、一人は子会社の社長になった」

「そうか、そうか、いやー、そういうことか」と、博通は一人で納得していた。
「ところで、ほんと久しぶりだな。だけど鈴木がいないようだけど」と、海堂がとぼけると、「いるだろー、ここに」と鈴木が言った。

「あれー、あなたは斎藤さんでしょ」と、海堂がまたとぼけると、「それ、もう言われたから、面白くないぞ」と、鈴木がうんざりした表情で言った。
「鈴木、あれ見せてやれよ」と、おれが言うと、鈴木は仕方がないという顔をして、襟元を開いて鈴木と書かれたネームタグを海堂に見せて「鈴木さんだぞ」と言っていた。

「がはははー、うけるなー鈴木、これは鉄板ネタだなー」と、海堂は面白がっていた。海堂は、元不良なだけに砕けた感じが妙に板に付いていた。そして、いまではIT企業の幹部という重責のせいか、どこか堂々とした雰囲気も漂わせていた。

 いま思えば、就職したばかりの頃は、海堂は先が危ぶまれていた。なにしろ、創業したばかりの10人以下の会社にしか就職できなかったからだ。鈴木は、公務員だし、博通は大手の広告代理店、そしておれも一流といわれた家電メーカーだった。

 しかし、あれから幾年月をこえて時代は変わっていた。おれの勤める家電メーカーは経営陣の無能さから、あっという間に業績不振となり、あげくは外資に買収されてしまった。ほんの十年前までは一流企業としてブイブイいわせていたが、なんたる様かと思うしかなかった。

 一方、海堂の入社した弱小ベンチャーは、いまではIT系企業の雄として誰もが認める存在となっていた。栄枯盛衰か、隔世の感というしかなかった。

「ところでなー、おまいらいま充実してるか」と、博通が唐突に言った。
「いきなりなんだそれ、意味がよくわからん」と、おれは尋ねた。
「いやなー、おれたちもいつのまにか中高年となっただろう。それでさ、仕事ばかりしててどうなんだってことさ」
「充実してるかどうか、よくわからんな」とおれは内心の不安を隠して言った。

「おれはなー、正直言ってつまらんな」と、鈴木が言った。鈴木は、一番安定した公務員様だった。学業優秀だった鈴木は、何が目標だったのだろうとおれは思っていた。どんな一流企業でも入れたはずだが、かれは公務員を選んでいた。

 そのあげくに「つまらん」とはいかにと思うばかりだった。

「鈴木よ、おまえ政治家にでもなったらどうだ」と、博通が意味ありげに言った。
「おー、いいね。鈴木にはきっと似合うよ」と、海堂も同意した。
「そうだなー、おれもいいと思うけどな」とおれも同意した。

「まじか、そうか政治家か、考えてみるかな」と、鈴木は案外すんなりと受け入れていた。思うに、鈴木はその気がずーと前からあったのかもしれなかった。

「へー、鈴木。すごいね、やる気だね」と、おれは言っていた。内心では、まじかと驚いていたが、よく考えれば鈴木の目標はそこにあったかと想像できた。
「そのときは、いろいろサポートできるぞ」と、博通は言った。なんせ、かれは宣伝屋だから、政治家の選挙関係にも通じているはずだった。

「ま、それはさておいて、おまいら趣味あるか」と、これまた唐突に博通が訊いてきた。「これといってないね」とおれと鈴木が答えた。海堂はなぜか黙っていた。

「だろうと思ったよ。そこでだ、おれたちで共通の趣味をもたないか」
「で、なにをだ」とおれは言った。
「音楽だよ。バンドだよ。カッコイイだろ違うか」
「なんだよ、いきなり。おやじバンドか、もうダサいんでないのか」と鈴木が言った。実は鈴木はかなりの音楽通だった、ただし楽器を演奏できなかったが。

「いやいや、おやじバンドなんてやる気はないね、ちがうんだ。音楽をやるんだ」
「どこが違うんだ。おやじバンドと音楽とで…」
「主観の相違ってやつだ。おなじくくりで一緒くたにされるのはごめんだ」

 さらに博通は、付け加えるように意味不明なことを言っていた。

あのさ、言っとくけどさ、おれたちこの先もう長くはないんだぜ。限りあるイノチなんだ、わかるだろう。だから、少しこれまでとは違うことしないか

「なるほどな、一理はあるな。いまとは違うことをするのは賛成だ」と、公務員の鈴木が意外と乗り気になったようだった。

 するとこれまで黙っていた海堂が、話し始めていた。

「その前に言っておくことがある。いま博通が言ったことは、実はおれと関係があるんだ。おれは、博通に個人的な、というか会社と無関係ではないが、PRの仕事を頼んだんだ。その企画のひとつがいま言ったことなんだ」

「なんだ、仕事か」とおれは言った。
「なんだ、なんだ、博通の仕事に協力せいということか」と、鈴木もおなじく。
「まー、そういうことになるか。でもな、仕事という気はないんだ。趣味の延長で考えたものだからさ」と、博通は正直に打ち明けた。

「そんな訳なんだけど、どうだろうか。あと費用はおれがすべて負担するから」と海堂が言った。そこまで言われて断われる訳もなく、おれと鈴木は同意していた。

 ただし、鈴木は公務員のせいか、PRを気にしていた。そこはなんとかなる、と博通がひとつの案を出していた。記事や映像などの場合、鈴木にはかぶりもんを付けてもらえばいいと言っていた。

 博通いわく、トランプ大統領のかぶりもんがナイスだと。鈴木は、「なんだそれは」と言っていたが、興味ありげな様子だった。

 そんなこんなで、バンドを結成することになった。

「ところで」とまた博通が言い始めていた。「バンド名は何にする」と一同の顔を見つめながら、「実は…、おれに一案がある」と、博通は勿体ぶって言った。

ローガンズって、どーだろうか

「ローガンズって、ガンズアンドローゼスみたいだな」と鈴木が言った。
「そうだろー、よくないか」
「響は悪くないと思うけど、その意味は」とおれが尋ねると、博通はよく訊いてくれたとばかりに、にやりとした。

「おまえらー、ローガンだろ。小さな文字が見えない老眼のことだぞ」
「なんだそのローガンだったか」とおれは少しがっかりして言った。鈴木は「当たり前だろー、自慢じゃないけど中高年様だからな」と言っていた。

「だろー、老眼は中高年の証だからな。な、海堂、そうだろー」と、博通は海堂に同意を求めた。すると海堂は「おれはちがうよ。老眼じゃない」と言った。

 それには、すかさず3人が揃って、「うそつけー」とハーモニーを奏でていた。

「海堂よ、無駄なあがきはよせ。知ってるぞ、その黒々とした頭髪、染めてるな」と、鈴木が海堂を問い詰めていた。海堂は、「あっ、ばれてたか」と言ってあっさりとそれを認めていた。

「あー、おれも老眼だし、髪も染めてるよ。悪いか」と、海堂は言いながら3人を見つめると、「そろそろ二次会にいくか。お前らを竜宮城に連れってたるぞー、いえー、この世の桃源郷へいざゆかんー」と叫んでいた。

「いよー、いざゆかんー」と、おれと鈴木、そして博通も声を上げていた。そして、「がははははー」と、一同は揃って笑っていた。

<ザ・ローガンズ「限りあるイノチ、だから」前編おわり>

後編につづく…乞うご期待!
エピソード3:高級キャバクラへ突入
エピソード4:ハゲと白髪とEDと絶倫
エピローグ:限りあるイノチ

Gabriela Anders Wanting
誰もが認めるこのCDカバージャケットのかっこよさ。
正直それだけでも、買いです。(アマゾンレビューより)
Wanting

追記:
 最近、アマゾンのマーケットプレイスで詐欺が横行しているようです。とくに、激安品や海外発送品には注意が必要だそうです。
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