パスワードは一万年愛す。タイムレスなスタイルは、過去も未来も時を超えてゆく!

■小説自作|堕ちた天使たち(2)時の過ぎゆくままに身をまかせて

この記事は約11分で読めます。

この瞬間を永遠に…しかし時は過ぎてゆく

 都会のどこかで、脛に瑕持つふたりの女が繰り広げるものがたり。社会の不条理との戦いの幕は、さながら70年代の日活映画?並みの展開で切って落とされる。それは、やがてくる未来のために。そして、堕ちた天使は立ち向かってゆく…。

湖上なつこ/元刑事の調査員
 上司の収賄疑惑を追求したことで警察組織と対立し退職を余儀なくされた。その後、元警察出身の会社経営者の元で調査会社の社員として働いている。モデル並みの容姿だが、目つきが鋭くその視線で睨まれると大抵の男は股間が縮み上がった。

山名うみえ/高級キャバ嬢
 なつこの同級生である。職を転々としていまではキャバ嬢をしている。見た目は派手な軽い女であるが、一方では古風な一面と頼まれると断れない性格であった。

■小説自作|堕ちた天使たち 序章:友、何処よりきたる

堕ちた天使たち(2)時の過ぎゆくままに身をまかせて

作:cragycloud

<深夜の歌舞伎町にて>

 まもなく深夜の2時になろうとしていた。アタシは歌舞伎町の端っこにあるカフェにいた。ホテル街が直ぐ近くにあり、前の道路の向こう側は大久保だ。真夜中にも関わらず煌々と光を輝かすドンキホーテが見えた。店内にはホストとその客の風俗嬢と思われるカップルが数組いた。

 かれこれ一時間以上はここにいるだろうか。なんでこんなところに、という思いが過っては消えていた。アタシは、ちょっと訳ありの案件ばかり扱う調査会社に勤務していた。元警察官というくそなプライドが玉にきずであるが、仕事はできるし、それに美人であった。断っておくが周りがそう言うのだ。

 ただし、気が強過ぎて美人がだいなしとも言われていた。その美人であるアタシの目の前にいるのは、仕事の協力者であった。

 髪には緩くパーマを当て、歩くたびにヒラヒラする服を着た女がいる。どこからどう見ても、普通の勤め人ではないのは明らかだ。しかも、鬱陶しいことに泣いている。やれやれだ、と思っていた。アタシは、忍耐強い方じゃない。だから、ほどほど嫌気が指していた。しかし、彼女が泣いているのはアタシのせいであった。

 彼女はアタシの高校の同級生で高級キャバ嬢をしている。アタシが警察を辞めていまの仕事をはじめてからは、ときどき仕事を依頼していた。どんな仕事かといえば、調査対象の弱みを見つけるようなことだ。今回は、その仕事の最中に危険な目にあったという訳で、泣きつかれているのだった。

「あー、分かったから。悪かった、て謝ってるだろー」
「えー、うそー、そんなこと全然思ってないくせに」
「いったい、いつまで泣くつもりなんだよ」
「そんなの分かる訳ないじゃん。なんたってー、もう少しで殺されるかも知れなかったんだから。あんたにそれが分かるっての…どうよ」

「分かる…よ、なんとなく」
「うそつけー、もう今度こそ絶交だからね。もう連絡してこないで」
「あー、そうね…じゃーそういうことにしようかー」
「あんたには、こころっていうもんがないのよー」
「……..?」

 結局、約束していた報酬にいくらか上乗せすることで納得させた。彼女はお金が欲しい訳じゃないと言いながらも、何故か泣き止んでいた。アタシの相棒は実に正直な女だった。やれやれ。

 そんなこんなで、取り敢えず彼女の泣き言と罵倒の言葉に耐えることから解放された。散々罵倒されてもなんとか堪えることが出来たとは、アタシも成長したのかもしれない。以前のアタシだったら頬を張り倒して黙らせたはずだ。なんせ、気が短く手が早いことに掛けては自慢じゃないが、自信があった。

 そのせいか、なんだか、気分がすっきりとしていなかった。やっぱり張り倒せば良かったか。なーんて思いながら道路の端っこで空きタクシーがくるのを待っていた。

 しばらく待ったが、なかなかタクシーがこない、仕方なくホテル街を抜けて靖国通りに向かうことにした。ホテル街には、ほとんど人通りはいなくなっていた。深夜2時も過ぎたので、さすがの歌舞伎町もようやく静かになったようだ。

 ホテル街の真ん中あたりで3人組の男達がビルから出て来るのが見えた。人通りはまったくない。アタシは、そのまま気にせずに通り過ぎようとした。しばらく歩くと後ろから足跡が聞こえてきた。男がひとり、走ってきてアタシの前に出て進路を塞ぐ形になった。

「おねーさん、こんなに遅くまでお仕事だったの」

 そう言いながら、男はアタシの進路を妨害するようにした。そのとき、アタシの両隣に他の男二人も並んでいた。どの男もホスト風であったが、どこかもっとやさぐれていた。たぶん、どこかの組の下っ端でボッタクリバーでもやってるに違いない。そんな感じがしていた。それは元警察官の感であった。

「おねーさん、綺麗じゃない。どう、これから一緒に遊ぼうよ」
「そうそう、楽しいことしようよ。いいじゃないの」

 女を軽く見ている男達だった。それが日常であり、それしかすることがないのだろう。なんとも哀れな男達だと思っていた。

 左隣の男がアタシの腕を掴もうとしたとき、アタシの右手は勝手に動いていた。男の喉仏目がけてグーパンチを食らわした。そして、右肘を返すようにして右隣の男に肘打ちを食らわした。そのあと、前の男の股間目がけて蹴りを繰り出していた。それらはものの見事に決まり3人の男どもは崩れ落ちていた。

 その間、わずか5秒たらずではなかったか。計っていた訳ではないが、10秒とは掛からなかったはずだ。男達は、アタシをそこらの女と見誤ったのが間違いだった。油断大敵とはよく言ったもんだ。それにアタシは虫の居所が悪かった。

 なんだかスッキリした気分になって帰宅できそうだった。女を甘く見るなよと心のどこかで思いながら、男達を見下ろすと靖国通りを目指して歩き始めていた。そして、二度と後ろを振り返ることはなかった。

 右肘に僅かに違和感があった。「くそー」と思わず呟いていた。

<調査会社の社長室>

 中高年のおやじが、顔を歪めてクスリを飲んでいる。そのあとにクーッとか言いながら、また顔を歪めた。どんだけ顔を歪めれば気が済むんだ、なんてアタシは不思議に思っていた。中高年のおやじはなんともけったいな生き物だ。

「ごくろーさん。経費の上乗せ分はなんとかしよう。彼女は今後もなにかと活用できるだろうし、なかなか有能そうじゃないか、ねー」
「はー、夜の世界になにかと知り合いも多いし役には立ってます」
「ところで彼女はいまどこのお店にいるのかな」

「はー、たしか六本木のはずですが…」
「こんどお店の名前教えてくれるかな、急がないけど」
「はー…」なんだこいつ高級キャバにいくつもりか。それとも自分が密かにやってるショーパブのホステスにスカウトでもしようと考えてるか。

「これ会長から、新しい案件ね」と言って一冊のファイルを寄越した。
「政治家が脅かされてるそうだ。いつものことだから言うまでもないね」
「分かりました。段取りはあとで報告します」

「あ、それからね。個人的なことだけど、なんでいつもズボンなの。たまにはミニスカートでも穿いたら?」とにやけた顔をしていた。
「ミニスカートなんて持ってないので、じゃ失礼します」
「あっそ、似合うと思ったんだけどねー」と言って笑っている。

 セクハラか!ズボンてなんだよ、と思っていた。どうせ中高年には何を言っても無駄だろう。もう諦めの境地になっていた。あの社長は、都内の元警察署長で管内の風俗業者から接待と賄賂を貰っていたのがバレて定年前に退職させられた。それを調査会社の会長が利用価値ありとして入社させていた。

 たしかに裏の世界に通じていたし、その情報網も広かった。まさに蛇の道は蛇の例えどおりであった。しかし、愛人にショーパブをやらせているのは、アタシのような元警察官にはバレバレだった。その愛人は目黒の大鳥居神社近くのマンションに住んでいた。上司の弱みを握っておくことは警察官時代に覚えた。

 ちなみに、アタシはいつも黒のパンツルックが定番の服装だ。ただし、安物ではない。なんとプラダだ。しかし自分で買ったものではない、会長が季節毎に用意してくれていた。たぶん、仕事相手にセレブが多いからと思われた。

<国会議員X先生>

 新しい仕事の依頼者は、衆議院議員のX先生であった。この先生は、ある国家プロジェクトに関わって大手企業に有利となる利益誘導を行っていた。それを某反社勢力に嗅ぎ付けられて、利権の分け前を寄越せとばかりに脅されていた。

 警察に頼める案件でないので、仕方なくアタシの会社の会長に泣きを入れてきたのだった。アタシの役割は、これがマスコミや警察ざたになる前にもみ消すことにあった。いわゆるスキャンダルのもみ消し屋、それがアタシの仕事だった。

 金で済む事もあれば、逆に相手の弱みを握って脅しを掛けるということもあった。元警察官らしからぬことではあったが、不条理には不条理で対応するしかなかった。もはやアタシも真っ当とはいえなくなっていた。

 議員先生の秘書に連絡を入れて事務所で状況のヒアリングをすることにした。永田町の一角にある事務所を訪れた。秘書は真面目で堅いを絵に描いたようだった。しかし、目元だけはいつも笑うことはない、そんな様子だった。

 議員先生は、1兆円近いプロジェクトの中心となっていた。それに関わる大手企業は主にゼネコンだった。当然の様に議員先生に利益が誘導される仕掛けが施された。ゼネコンが主導し幾つかの子会社を経由して先生の懐に入るようにした。

 ところが、議員先生の愛人へのお手当からこれが反社にバレてしまった。銀座でホステスをしている愛人が、銀座に居抜きで物件を契約していた。これを客であった不動産ブローカーが、裏に何かあると探ったのだ。ブローカーは企業舎弟だったので情報網はいくらでもあった。

 その結果、議員先生があぶり出された。そしてプロジェクトの内容も知れることになり、反社の動きが活発化していった。まず手始めに、反社傘下のイエローペーパーから取材と称してアプローチがあった。

 こんな情報があるが、事実かどうか訪ねてきた。このときは広告を出稿することで引き取らせた。しかし、そのあとに某建設会社としてゼネコンの下請けの仕事がしたいという申し込みがあった。これは言うまでもなく反社の会社であった。どうせ請け負ったあとは、さらに下請けに出すに決まっていた。

 議員先生は仕方なくゼネコンに相談した。しかし、ゼネコンではこれを了承するとこの先も腐れ縁を持たれると否定的であった。それは当然であった、なにしろ国家プロジェクトだから世間の目もきびしい。議員先生だけならなんとかなっても、反社までは面倒見切れない。

 そこで、あれこれと結論を引き延ばして現在に至るという具合だった。議員先生としては、愛人の問題が公になるだけでも痛いが、ゼネコンとの関係が知られれば議員生命も終わりであった。

<反社勢力と雑誌記者>

 これはなかなかやっかいな仕事になりそうだと思っていた。どこから取りかかるか、まだ考えあぐねていた。そこで、反社に詳しい雑誌記者に連絡をとることにした。その記者は、アタシが警視庁の刑事だったときにまとわりついてきたうざい奴だった。しかし、その情報量は豊富でありまた確かなものがあった。

 雑誌記者の会社がある新宿で会うことにした。歌舞伎町はしばらく避けようと思っていたので、靖国通りを挿んで反対側にあるJAZZ喫茶店で待ち合わせた。

「いやーおひさしぶりー、元気そうですね。そのスーツ、よく似合ってますよ。なんだか、ぐっとくるなー、いやーほんとにー」と遭ったとたんによく喋る野郎だった。
「あんたもどうよ。出版不況で首にでもなったかと思ったけど」
「いやー、相変わらずきっついなー。でもね、うちは堅い読者がいるから何とかやってます」

「あんたのとこ、やくざ雑誌でしょ。そんなに読者がいるかよ」
「やだなー、やくざ雑誌なんて。それ偏見ですよ。うちはあくまで情報誌ですから」とムッとした顔で唇を突き出して言った。

「ま、ものはいいようだけどね。それよりも教えてほしいことがあるんだけど」
「な、なんでも聞いてください。いまオレ彼女いないすよ」
「んっ……………」

 とんでもなく図々しい記者だったが、やはり情報は確かなものがあった。ゼネコンの下請けを狙っている某建設会社は、関東を根城にする広域反社組織の二次団体の企業舎弟であった。イエローペーパーもおなじくであった。

 二次団体の組事務所は赤坂の放送局近くにある。かつては不動産と建設関係の利権に食い込んで相当儲けたそうだ。しかし、最近では警察の締め付けでしのぎが細っているとか。そこでやくざ金融などにも手を出している。

 やくざ金融をしてるのは債権回収に自信がある証拠だ。それは不動産等の経済やくざだけでなく、暴力も厭わないということを意味していた。これは本当にやっかいな事案だ、と今更ながらに確信していた。

 とにかく、社長に報告し会長にも相談した方がいいかもしれない。たぶん、ぎりぎりの攻防をしなければ、突破口が開けないはずだと想像できた。

 図々しい雑誌記者は、食事しますか、それとも飲みますかとしつこく聞いてきたが、それを軽くあしらって喫茶店の前で別れた。

 新宿は、夕暮れになってオレンジ色に辺りを染めていた。

(つづく)
…………………..
はたして本当につづくかどうかは当方にも分かりません。あしからず。序章とはまったく関係なく始まった(2)ですが、いつも通りプロットはありません。したがって、この先をどうするか。いまはどうしようかなーと漠然としています。

なんとなくアクションを描きたかったのですが、文章で表現するのは難しいと分かりました。いずれ、何かを参考にして再挑戦したいと思っています。

冒頭動画:なかの綾「ラブ・イズ・オーヴァー」

へたなうそ
現役(2013年時)ホステス、なかの綾のカヴァー・アルバム。

へたなうそ

コメント