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■小説自作|愛の関係式 cragycloud

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映画「恋する惑星」より

どこにでも関係式はあるに違いない

愛の関係式

作:cragycloud
登場人物:オレ(ノータリンなプランナー)
    :N君(コムデギャルソンを着たプランナー)

 1992年夏の蒸し暑い夜、オレは東京・水道橋にある某遊園地にいた。そこでは「大人の夜の遊園地」とタイトルされた画期的ともいえる一大イベントが行われていた。その遊園地は、これまで子供向きというカテゴリーにあった。しかし集客は頭打ちであった。そこで若者の集客増を狙って新しい企画が発案された。

 ヤング〜ヤングアダルト層を狙って、7月〜8月までの夏休み期間の夜営業に限定して遊園地を丸ごと改造する。そこでは音楽、お笑い、アートなどいまの息吹を伝えるイベントを次々と繰り出す。さらに遊園地を流行の発信地にするという壮大な実験の場とすることであった。

 それを仕掛けたのは小さな企画会社のまだ若いプランナー兼社長とその一派であった。かれらの後ろにいたのは、某大手施工会社のT社であった。オレは、その企画会社とは関係なかったが、同じ会社の同僚が知り合いであった。その関係でタダ券を貰って遊園地に行ったのである。

 オレは、その現場で思っていた。やられた、くそーオレがやりたかった。そう思ったのであった。何故なら、そこでは当時のサブカルチャーがこれでもかと表現されていたのである。一言でいえば、こんなカッコいいことしやがってと嫉妬していたのである。そして自らの才能のなさを悔やんだのある。いや、努力のなさか。

 そして、これを企画して実行したのはどんな野郎だと興味が湧いていた。一緒にいた同僚と園内を巡るうちに同僚の友人というこの企画の関係者に出会った。そして、その企画関係者たちが常駐する事務所に行く事になった。そこで紹介された企画立案者の若い社長は、清潔感の漂うさわやかなイケメンであった。

 くーっ、と言葉も無くここでもやられたオレであった。なんて世の中は不条理なんだ。こんなさわやかで、しかもイケメンで、なお才能があるとは不公平だ。そのようにオレは感じていた。なんたってオレは美に関してはするどいが、自分の美に関しては1ミリも自信が無い。正直コンプレックスがあった。

 この企画会社の若き社長は、さわやかイケメンで且つ弁舌も滑らかであり、しかも話の内容も論理的であった。もし、かれが詐欺師であったらさぞや優秀に違いないと、そのときオレは思っていた。

 そんなこんなでいろいろ話をしていると、多方面に知り合いがいるのが分かった。ようするに付き合いの範囲が広いのであった。なるほど、これほどの企画を実現するには人との関係式が必要なのだ。そうか。もっともだと感じていた。オレと年齢は変わらないのに、その交遊関係は格段の違いがあった。

 一緒にいたオレの同僚のN君も交遊関係が広く、当時はまだ少なかったクラブ、たしか「アトム」とか「ピカソ」だったかに出入りしていた。若い企画会社の社長ともクラブで知りあったそうである。ちなみに、同僚のN君はコムデの黒いスーツをノーネクタイで着た洒落ものだった。

 クラブにはオレも連れられて行ったが、馴染めなかった。したがって、クラブには嵌らなかった。しかし、これでもプランナーの端くれだ。いつか、サブカルチャーを取り入れた企画をものにしてやると思っていた。そんなときに、遊園地をサブカルで変えた人物に出会った訳である。

 何故、サブカルか。それは若気の至りとしかいいようがない。とにかく、当時はそれがいいと思っていたのである。深い意味も無く若い血潮に忠実だっただけである。そうとしかいいようがない。

 とにかく、若いときにはあとから考えると何故にとしか考えられない不思議なことに夢中になるものである。もっとも、それが青春というものだろう。いっときの熱病のようなものだ。違うか。恥ずかしいと思っても後の祭りであった。

 それはいいとして、そういう訳で「大人の夜の遊園地」に衝撃を受けたオレは、エンターティメントな企画にのめり込んでいった。世の中はバブルも弾けて派手な企画には、及び腰となっていた。しかし、オレは派手で面白いことがしたい。そんな気持ちで一杯であった。

 当時、生意気だったオレは会社で浮き気味であった。同じく浮いていた同僚のとっぽいN君と起死回生の策を練ることにした。ここらで一発大口の仕事をしないと立場が無くなる。それはお互いの暗黙の了解事項であった。そこで、N君が持ってきた話に乗ることにした。

 それは、水道橋の遊園地では、今回の企画が成功したので冬も何かしたいと考えていると聞いてきたのである。そこで、その企画のコンペに参加しようとなった。いわば、N君は知り合いの競争相手になろうということである。

 冬といえばクリスマスである。これは外せない、あとはそれをどう料理するかであった。そこで素案を作って遊園地の関係者にプレゼンしようとなった。そこで、コンペへの参加を打診するのである。本番の企画はそれからである。

 しかし、その前にインパクトある企画で門を開けなければならない。

「N君さ、例の会社は当然参加するだろ」
「もちろん、あそこが本命に変わりはないし」とN君は当然と言わんばかりに言った。

「勝ち目はあるかな」正直、オレも自信が揺らいでいたのである。
「んー、どうかな。でも一部でも良い企画があれば獲得できるかも」とN君は案外楽観的であった。

「全部でなく、一部を請け負うのか」
「そう、それでもよくね」と意外なことを言った。

「まー、そうだな。体制的に不利だしね」たしかに、オレのいる会社は大きなイベントなどはあまりしたことがない。

 たしかにN君の言う通りである。彼は案外現実派らしい。

 そんな会話を交わした後、お互いに企画の素案を考えることにした。N君はクラブよりの音楽とダンスなどを織り交ぜた企画をするに違いない。そこで、オレは彼とは違う方向性で考える事にした。

 数日後、N君と持ち寄った企画の洗い出しを行うことにした。

「どうよ。面白いの考えた」とオレはN君に言った。
「そうね。まー、こんなもんかな」と彼は数枚の企画書を出した。

「おー、何?これ。できんの」とオレは驚いていた。そこには、ちょっと知れた歌手の資料が添付されていた。
「できるにこしたことはない。そんなとこかな」

「あー、素案だしね。それはそ−だね」アイデアだったのを忘れていた。しかし、彼には何か伝手があるに違いない。
「でも、可能性はゼロじゃないから。○○ちゃんは知り合いだから」と当然の様に彼は言った。

 彼の案は、やはりクラブよりのイベントが中心であった。彼の狙いは、もはや一部のイベントを取りにいく方向に傾いていた。

 オレは、ひと呼吸おいてからN君に言った。

「冬の企画だろう、それはクリスマスだ。ということは女と男だ。そして愛だ」違うか。とN君の目を見て様子をうかがった。
「たしかに。日本じゃキリストよりそっちだろな」と彼は言っていた。

「だろ、そしてそこにあるのは何だと思う」
「え、何って。それはセックスか。違った?」

「おいおい、健全な企画なんだよ。ま、そこにいくけど。違うな」
「具体的にいえよ。何をすんだよ」

「まー、待て。慌てるな。切り口は大切だろ。それをこれから説明するから。冬は寒いしできれば温かくなりたいよな。それもできれば人のぬくもりってやつで。違うか。そして、クリスマスだ。クリスマスに何を期待する。若い男は女だ。女は男だ。違うか。そしてそこにあるものは何だ。愛だ、愛!。愛に必要なものは、何だ?。互いに好き合うことか。違うな。それでは不足なんだ。必要なのは関係式なんだよ」

「なんだよ関係式ってのは?」N君は何を言ってんだとばかりに疑問を呈した。
「お互いを必要とする関係式さ」とオレは言った。

「ふーん、なるほど。その関係式にちなんだことを仕掛ける訳か」
「そのとおり、園内至る所に関係式を深める、確かめるような仕掛けを施すんだよ」とオレは勢い込んで言った。

「どうよ、N君の音楽関係のイベントと組み合わせれば大きなイベントになるだろ」と言ってからオレは違うか、とN君の顔を様子見していた。

「いいんじゃね。それで」とN君はオレの説明に少々疲れた顔をして答えた。もう、それでいいやという顔つきであった。
「よし、じゃこれで具体案考えるからね」とオレは決めつける様に言っていた。

 ある意味強引なまでに進めるのがオレ流であった。

「あのさ、その関係式の具体案はそっちメインで考えてよ」とN君は逃げを打ってきた。分かるなー、その気持ちと思っていた。
「あ、逃げんのか。きたねーな。協力しろよ」とオレは言っていた。

 N君は、オレのやり方をよく知っていた。よくお前は意味不明だとも言っていた。その意味不明なやつと一緒に企画を考えるのは、自分のために良くないと思ったに違いない。分かりたくないが、痛いほどに分かる。だから、彼は自分の企画をつめる事に専念してもらうことにした。

 ここで仲違いするのは、本末転倒以外の何者でもなかったからである。

 クリスマスの話をしていたが、まだ夏の終わりにもなっていなかった。秋を越さないとクリスマスもやってこない。いやはや、それを思うとなんだか気が遠くなりそうだった。

 しかも、勢い込んで企画を説明したが、その細部はいまだ薮の中である。なんとかしなければと思いつつ、いつものことながら楽観的に考えた。何とかなるさ。いやはや、オレにはラテンの血が混じってるかもしれない。

 そんな事を思いながら、「あー、愛か。愛の関係式か」と独り言を呟いていた。そういえばオレには、いま何もないな。自分にこそ愛の関係式が必要なんだけどな。いまそれに気付いたかのように戸惑った。いやはや、なんてことだ。

 そして「愛なんて糞くらえー」と心の中で叫んでいた。と同時に一抹の寂しさが襲ってくるような寒気を覚えたのであった。

おしまい。

追記:
 ここまで読んで頂いて感謝いたします。書いてる当人が途中でどうなるかと不安を覚えましたが、なんとか辻褄?を合わせることができました。この物語は、事実に基づいていますが、それは半分ぐらいです。したがって、ほとんどは作り話であります。似たような出来事はありましたが、すでにその詳細は覚えていません。

「愛の関係式」とは、80年代後半にたぶん博報堂だったと思いますが、何かの企画書に書かれていたものでした。そのコンセプトを90年代にいろんな場面で使わせて頂いたことがあります。それをヒントに物語を書いてみました。特に意味もない内容ですが、どこかに面白いと感じた箇所があれば幸いです。beingwildより

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