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■小説自作|なんでも始末屋 その5「ビジュアル系のやばい奴」続編

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マネーローンダリングの闇の奥

<前回のあらすじ>
 元チンピラのオレは、どういう訳かセキュリティー会社の下請けで探偵もどきをしている。主にセレブのスキャンダルをもみ消す、または沈静化させる仕事である。今度の仕事は、ビジュアル系ミュージシャンの大物の素行調査を仕事の元請けから依頼された。相棒のケンタとともにさっそく張り込みをを開始した。

なんでも始末屋 その5「ビジュアル系のやばい奴」続編

作:cragycloud
登場人物:オレ(元チンピラの探偵)
    :ケンタ(相棒)
    :黒澤(オレの元請け)

 オレと相棒のケンタが、ビジュアル系のカリスマ野郎に張り付いてから5日になろうとしていた。怪しい動きがあまり見られないので少々焦りを感じていた。なにしろ、こちらの報酬はある程度の成果がないと実入りが少なくなる。

 ケンタにも約束どおり報酬を払えるか判らない。いまのうちに報酬の値下げを告げた方がいいかどうか、迷うところだ。

 オレは、カリスマの事務所兼用の豪邸にほど近い場所に止めた車のなかで張り込んでいる。しかし、カリスマは、なんでこんな豪邸に住めるのか。不思議である。カリスマと言われる、そのミュージシャンは特に大ヒットをかました訳ではない。

 少なくともオレは知らない。それなのに、渋谷の高級住宅街の一画に豪壮な邸宅を構えている。なにか裏があってもおかしくない。

 カリスマは、このところコンサートの準備らしく、頻繁にスタジオで練習を繰り返している。あとは、いくつかのテレビか映画の打ち合わせをしているようだ。こいつは、ミュージシャンだけでなく役者もしているのだ。

 しかし、最近は以前ほどは忙しくなさそうである。スタジオの練習が終わると連日のように高級キャバクラに繰り出している。それは、現役のモデルやAV女優が多数揃っていると噂される店であった。

 オレたちは、店に入りたくても入れない。残念だがそこまでの経費は認められていない。仕方なく車で待機するのであった。

 いい加減にケンタの顔も見飽きてきたので、オレの言葉尻もキツくなっているようだ。ケンタに無理難題を押し付けては言い合いをしている。ケンタは、お洒落のつもりかフレグランスを大量に振りかけているのだ。

 オレは、それが臭いから車から出てろと怒鳴っていた。

 そんなこんなで、2人で一緒にいると何かと当たってしまうので、別行動を取ることにした。オレは、カリスマの自宅を車で見張り、ケンタはスタジオを張り込むことにした。そして、何か、怪しい動きがあれば知らせることにした。

 ケンタは自分の車を取られたのでぶつぶつと文句を言ったが、オレは聞く耳を持たなかった。

キャリーバッグと怪しい男たち

 そろそろ、スタジオの練習が終わる頃だ。ケンタと合流しようと思ったとき、豪邸の前に外国製と思われる高級車が止まった。なかから出てきたのは、スーツを来た如何にもその筋を思わせる厳つい奴だった。運転手ともう一人いるようだ。

 トランクを開けて重そうな荷物を取り出した。海外旅行のときに使いそうな大型のキャリーバッグだった。それをガラガラと引きながら豪邸内に消えた。オレは、そのあいだに車のナンバーを控えた。

 厳つい奴らはすぐに出てきた。重そうなキャリーバッグは、置いてきたようだ。そして、彼らは、車に乗ってどこかに去って行った。

 オレは、ケンタを拾いにスタジオに向かった。カリスマの動きに特に変わったことはないようだが、あの厳つい奴らは如何にも怪しい。あのキャリーバッグは、なんだろうか。それが、気になっていた。早速、元請けの黒澤に報告した。

 黒澤は、キャリーバッグを運び込んだ車のナンバーを照合してみると言った。そして、運び込んだ人物を特定しろと言ってきた。

 どうやら、黒澤はキャリーバッグの中身に覚えがあるのではないか。しかし、やっかいなことになった。危ない筋を張り込むなどもっての他である。

 厳ついスーツの2人組が、キャリーバッグを運び込んだ翌日のことである。昼を少し過ぎた頃、豪邸の前に黒塗りのレクサスが止まった。

 なかから出てきたのは、厳つい野郎ではなく、メタルフレームのメガネをかけた銀行員か役所の人間のような風体であった。こいつらも2人組であった。しばらくして、彼らは例のキャリーバッグを引き摺って出てきた。

 そして、トランクにバッグを入れるとあっという間にどこかに去って行った。オレは、車のナンバーを黒澤に報告した。

 なんと、あの黒塗りの車は証券会社の車であった。なるほど、なんとなく全体像が見えてきたような気がする。やはり、マネー・ローンダリングか。

気乗りはしないが、危ない筋を張り込む

 キャリーバッグを運び込んだのは、関東の有力な組織筋の関係者であることが判った。オレは、その筋の関係者の張り込みを命じられた。やれやれだ。危ないことこの上ないはずだ。その関係者は、有力組織のいわば企業舎弟か。その筋では有名人であるらしい。

 オレたちは、この人物が、頻繁に打ち合わせか何かで使うホテルのラウンジを張ることにした。

 黒澤からは、カメラと集音器付きのマイクを渡されていた。写真なんか撮れるのか疑問であった。そんな危ないことはケンタにやらせようと思っていた。

 オレたちは、朝も早くからホテルの入り口を見渡せる場所に車を止めて待機していた。かれこれ3時間近く経た頃、例の関係者がホテルに入るのを目撃した。

 オレたちも後を追ってホテルに入った。

 このホテルは、新宿の西口にある。場所柄なのか、怪しい筋の関係者が多いことで有名であった。そして、ラウンジには、怪しげな不動産ブローカーや詐欺師などがたむろしていると言われていた。オレとケンタはいつもと違い、一万円のスーツに身を包んでいた。

 できるだけ目立たない様に配慮したつもりだが、ケンタにはスーツが似合わなかった。

 例の関係者は、ラウンジの奥のガラス窓を背にして座っていた。その前にはその筋と思われる人物がいた。また近くには、その人物のガードと思わしき厳つい奴が座っていた。ケンタにカメラを持たせるとオレはエレベータ近くにいた女性スタッフに声を掛けた。

 そして、ラウンジ入り口の柱を背後にしてその女性と並んでケンタに写真を撮らせた。少し、強引であったが早く終わらせたかったのだ。

 なんとか、柱の左側奥には例の関係者とその筋の人物が写っていた。ケンタは意外にカメラの扱いがうまいようだ。やれやれ、ひとつ終わった。次だ。オレたちは、例の関係者からほどよい距離を取ってラウンジの椅子に座った。

 コーヒーを頼んでそれが運ばれてきてから、辺りを見回して集音器の入ったバッグをテーブルに乗せた。そして、マイクを例の関係者に向けた。スマホのイヤホンを付ける振りをして、集音器のイヤホンを耳に付けた。

 集音器は、バッグに入っておりマイクを少し出している。あまり目立たないが、それでも長い時間この状態は不自然だ。早いとこ済まして、一刻も早くこの場を立ち去りたい。そんな思いを辛うじて抑えながら、落ち着いた振りをしていた。

 あまり感度が良くないのか、聞き取れない。マイクの方向を微調整していると例の関係者と思われる声が聞こえてきた。

 早速、録音をオンにしてしばらく耳を澄ました。対象以外の声も聞こえている。しかし、なんとか、聞き取れそうだった。後は、いつまで録音するかだ。この緊張から解放されたのは、かれこれ一時間近く経ってからだった。

 長い一時間だった。もし、バレた場合はどうしようか、とそればかり考えていた。しかし、ケンタは違った。こいつは鈍感だから、高級ホテルに来たことが珍しくて、写真を撮って来ていいかと言った。

 もちろん、この場では撮るなと小さな声でキツく言い聞かせた。観光で来た訳じゃないぜ。とオレは思っていた。

なんとか仕事は、一段落した

 なんとか危ない筋の張り込みは、終了した。黒澤は、納得したようだった。録音した会話の中身については、堅く口止めをされた。例のカリスマを張ったのは、本当の対象を見つけるためだったようだ。カリスマは、単なる駒のひとつでしかないようだ。

 しかし、それでもなんらかの犯罪に絡んだのは間違いない。いずれは、公になるのではないか。ま、それは知る由もないが。

 仕事は一段落付いたが、高級キャバクラに行けなかったことが、なんとも悔やまれた。ケンタも同じく、そんな思いを抱いているようだ。なんとか、近いうちに行きたいもんだ。そんなことを考えていたら、ケンタが獰猛な犬を連れてオレの部屋にやってきた。

 これから散歩に行くが、一緒に行かないかと言っていた。オレは、行ってやってもいいかもー。と答えていた。

なんでも始末屋「ビジュアル系のやばい奴」おわり
 
<マネー・ローンダリング(money laundering)とは>
資金洗浄とは、犯罪によって得られた収益金の出所などを隠蔽して、一般市場で使っても身元がばれないようにする行為である。マフィアのマイヤー・ランスキーが、初めて行ったといわれる。略称は、「マネロン」。英語の「launder」は「Coin launderette ・コイン・ランドリー」などの洗濯する事を意味する。(ウイキペディアより)

マネーロンダリング (幻冬舎文庫)

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