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■小説自作|アイドルも楽じゃない! その3「逆襲のアイドル」

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アタシは、寝言でゼッテー見返してやると叫んだ!


上の写真は当該小説と特に関係はございません? 写真:朝日デジタルより

アイドルも楽じゃない! その3「逆襲のアイドル」

作:cragycloud
登場人物:アタシ(現役人気アイドル)

 アタシは、いま7万人の観衆で埋め尽くされた大きな会場にいる。おーという観衆の声が地鳴りのように響く。しかし、何故か現実感がないのはどうしてか。アタシが所属するアイドルグループは、年に一回、総選挙と名称された人気投票を行っている。

 体のいい販売促進であるが、いつのまにかファンのみならず一般人も巻き込んだ一大イベントとなった。アタシは、去年は4位であった。

 そして、その後、暴露されたスキャンダルで博多のグループに移籍したのだ。あれから、約1年が過ぎていた。

 アタシは、今年の選挙速報では、なんと1位となっていた。言葉にできないぐらいの驚きであった。これは自分だけでなく、メンバーもあっと驚く結果であったのは言うまでもない。ファンのなかには、やらせに違いないという声が多くあった。

 また、ネットでは、これは終わりのはじまりだとも言われた。おう、おうオメーラーよー言ってくれるじゃねーかー。ゼッテー見返してやる!。とアタシは思っていた。会場では、いま第4位の発表が行われた。

 なんと、去年3位の成りきりアイドルの○○ちゃんだった。これでアタシは、去年より順位は間違いなく上がった。

 次は、アタシか。たぶんそうだろう。だって、あと残ってるのは大本命の二人とアタシだけだから。第3位が発表された。げっ、なんと今年こそ1位かと言われた正統派アイドルの○○ちゃんであった。

 くー、これは、もしかしたら、いや、いや、それはないだろう。

 などと思いつつなんとなくお腹が痛くなってきた。トイレに行きたいような、そんな、それはまずいぞ。さて、いよいよだ。第2位の発表だ。はひゃくしてくれー。とアタシは思っていた。

 トイレに行きたいーと思っていた。ジャーン、ついに2位が発表された。それは、大本命の○○子ちゃんであった。ぐっ、つ、ついにやったぞー。ざまーみさらせー。1位をとったぞー!。とアタシは叫んでいた。

 ぐあはっ、というなんとも言えないくぐもった声で起き上がった。う、なんだこれは?。あ、あっ、なるほどねー。そうだったのだ。アタシは、飛行機のなかであった。博多から東京に向かっていたのだ。しかし、まだ頭がもうろーとしている。

 あれ?、アタシは1位になったんだっけと思っていた。それが夢だったのを理解するのに若干時間を要したのだった。

 アタシは、左の唇の端から流れた涎を拭いながら、辺りを見回した。隣の席に座っている女の子がじっとアタシを不思議そうな顔をして見つめていた。

 5〜6歳ぐらいの女の子であった。くりっとした目元をしたぽっちゃりと可愛い子であった。隣にはおかあさんと思われる女性がいた。女の子は、おかあさんと思われる女性になにやら耳元で囁いている。そして、そのおかあさんが、アタシに言った。

「あのー、もしかしたら○○さんでしょうか」

「う、あっわあ。そう、そうです」まさか、ばれると思っていなかったのでつい慌ててしまった。

「そうですか。この子が絶対そうだといいはるもんですから、ファンなんですよこの子」

「あ、そうでかー。ありがとうごぜいます」ようやく、立ち直って礼儀正しく接する事にした。しかし、まだ寝ぼけた後遺症か。語尾が怪しい。

 アタシは、おかあさんに恐縮しつつ寝言を言っていたか、聞いてみた。なんでも、やったぞー!とか、ざまー!とか言っていたらしい。やはり、そうだったか。

 しかし、幸いにもアタシが、最近注目のアイドルだと気づいたのは、この親子だけのようだ。だいたい、芸能人オーラが無い上にスッピンだから、気づかれるはずはないと思っていたが、恐るべしは子供の嗅覚であった。

 これからは、気をつけようと思っていた。東京に着くまで、アタシのファンだという女の子と話をしたり、持ち物にサインもした。おかあさんには、何度もお礼を言われた。

 アタシは、飛行機のなかで寝言を言っていたことを口止めしたかったが、ついに言えなかった。

 東京に着いて別れ際、おかあさんが言った。

「○○さん、総選挙がんばってください。応援しています」

「ありがとうございます。○○ちゃん、元気でね。バイバイ」

 女の子は、屈託のない笑顔を満面にたたえてバイバイを繰り返していた。そんな、女の子の笑顔を見ながら、アタシは現実に戻っていた。そうだ、夢でない本当の総選挙が、いよいよ明日行われるのだ。夢は、現実になるのか。それはアタシには判る訳が無い。

 まるで、最終判決を受ける前の受刑者のようだ。なんて思いながら、ま、成るようにしかならないからと必死に思おうとしていた。

「逆襲のアイドル」 おわり

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