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■映画|コルビュジェの家 モダンと人と業

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飾らないシンプルな美の建物で起こる人間悲喜劇

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クルチェット邸の室内

モダン建築と住む人、その対比の仕方が隠喩的である

映画「コルビュジェの家」は、アルゼンチンのブエノスアイレスに実在するコルビュジェ設計の建物を舞台に繰り広げられるコメディであり、悲喜劇である。モダン建築の神様的存在としてあまりに有名なコルビュジェである。そのモダンの巨匠が、唯一南アメリカに設計した住宅が、ある意味では映画の主役である。

その邸宅は、クルチェット邸(1948年)といわれる実在の建物である。

映画は、ほとんどのシーンをこのモダンな邸宅を中心に展開される。ストーリーは、端的にいえば隣人同士の諍いから起こる物語である。邸宅の隣の家で、壁を壊して窓を造りはじめたことがきっかけで起こる、人間の業の成せる技ともいえる傲慢が、モダンな建物のなかで極まっていく様がなんとも皮肉が利いている。

またモダンという冷静な美と人間の業との対比は、なんとも秀逸である。ちなみに業の意味とは、理性によって制御できない心の動きのことである。

コルビュジェ設計のモダンな建物は、「簡素、快適、調和」のバランスのとれた建築だそうである。それに対して、人間たちの行動は見事なまでのアンバランスを見せている。デザイナーである邸宅(主役である家)の主人は、高慢ちきな勘違い野郎であり、自分とそれに近い感覚の人しか認めていない。監督は、意図的にデザイナーの嫌みな部分を拡大解釈しステロタイプ化した。

ステロタイプ化(画一)されたこの家の主人のデザイナーは、たいへん分かりやすい。それは繊細でかつ傲慢であり、人への思いやりよりも自分自身に何よりも一番忠実である。デザイナーの妻は、どうやらお金持ちの娘であり、したがってわがままである。娘は、父親を尊敬はしてはいないようである。話しかけてもポータブルプレイヤーのイヤホンを耳から外すことはしない。

ちなみにこのデザイナーは、建築ではなく工業系のデザイナーと思われる。椅子等のデザインをしている設定である。

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クルチェット邸外観

モダンな邸宅に住む住人たちは、隣人が家の壁を壊して始めた窓造りに怯え、そして怒り始める。なんとか、窓造りを止めさせようとするがうまくいかない。デザイナーは、仕事(家でしている)も進展せず、妻にも激しく責められる。そして行き場のない苛立ちが、デザイナーを追いつめて行く。

このようにデザイナーが、隣人の窓造りを止めさせるために右往左往する様が、なんとも滑稽である。しかし、一端冷静になって見るとなぜカーテンを引かないのか。という素朴な疑問があった。隣の家から覗かれるのが嫌なら、普通はカーテンや間仕切りを設けるはずである。

しかしそこは、文化の違いか。なんと、コルビュジェ設計のこの家にはカーテンが見当たらなかった。

この映画は、一応はコメディとされているが、なんとも皮肉がこもったコメディのようである。また、モダンとは何かといま一度考えさせられた。それが、見た後の感想である。

追記、コルビュジェ設計の上野・西洋美術館には、当初トイレが設計図になかったそうである。日本人の弟子たちが、あとから付け加えたというエピソードがある。巨匠コルビは、モダンの美にはトイレはいらないと考えたか。それはないか?。

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クルチェット邸 立面と平面図 ピロティ(中庭に大きな木がある)

コルビュジェの家/ストーリー

デザインした椅子が世界的にヒットしたレオナルドは、建築界の巨匠コルビュジェが設計した南米唯一のモダンな邸宅に妻と娘とともに住んでいる。なんの不自由もなく、仕事も絶好調な彼にある日災いが降り掛かる。それは、隣の家から鳴り響くハンマーの音で始まった。

隣人は、家の壁を壊して窓を造ろうとしていた。レオナルドは、その窓から自分の家の中が丸見えだとして、窓を造るのを止めろと隣人に抗議する。しかし、隣人は光を家に入れたいだけだとして受け入れない。レオナルドは、あの手この手を使って抗議をし続けるのであった。

そして一端は、窓の位置とサイズを小さくすることで納得した。しかし、レオナルドの妻がどうしてもそれを許さなかった。しかたなく、また交渉することにした。しかし….。(以下略、レンタルでどうぞ)


映画予告編

モダンな邸宅は、線と面で構成された美が秀逸

前述したように、この映画の主役はコルビュジェのモダン建築である。映画のストーリーより、はるかに興味深いのが建物が醸し出す雰囲気であった。なお、あくまで個人的な感想である。モダンな建物は、装飾を削ぎ落とした線と面だけで構成された幾何学的絵画のような様相を示していた。

特定の部分を拡大するとまるでミニマルアートである。

映画の中では、幾度となく素晴らしいアングルでその室内を映し出している。線と面が構成する(2次元ではそう見える)、または交差するその様は実にクール(カッコイイ)としか言いようがない。建築といえば外観にばかり目が向けられがちであるが、コルビュジェは室内の空間をおろそかにしていなかった。

当該ユーザーは、これまでコルビュジェの建築の外観は写真で見ていたが、室内はあまり見た事がなかった。映画のなかで映し出された室内の映像は、2次元に置き換えれば見事な抽象画のようであった。

そのようなクールな美しさを保つためには、カーテンは邪魔なのかもしれない。
しかし、実生活にはどうか。そういえばコルビュジェの奥さんは、室内が病院みたいと言ってソファーを花柄の布で覆っていたとか。いやはや。

これには、巨匠コルビュジェも妻には勝てずか。

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映画ポスター

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フランク・ロイド・ライト、ミース・ファン・デル・ローエと並ぶ20世紀モダニズム建築の巨匠、ル・コルビュジエに迫るドキュメンタリー。本人が50年代にラジオ用に録音したインタビューテープを元に、彼の傑作の数々を時代を追って紹介する。3枚組。

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