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■映画|グランド・マスター(一代宗師) 芸術的なカンフー映画

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イップ・マンの如く、この映画も苦境と対峙した!

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この映画は、カンフーを題材にまるで哲学を語っている趣である

ウォン・カーウァイ監督作「グランド・マスター」は、ブルース・リーの師匠として有名なカンフーの達人イップ・マンを主人公とした物語である。2000年代中頃から中国・香港では、このイップ・マンを取り上げたテレビドラマや映画が作られて人気を博したようである。そのいくつかは、日本でもレンタルで見られる。

しかし、カーウァイ監督はそれらの動きとは関係なく、かなり前から関心を寄せていたようである。何かのインタビューでは、そのきっかけは、映画「ブエノスアイレス」を撮影中の96年頃に遡ることができるようである。撮影中に見た雑誌の記事か何かでインスパイアを得たようだ。それから実に十数年を経てようやく実現したのが、「グランド・マスター」であった。

製作期間だけでも8年を要したそうである。実際の撮影期間は3年以上であるらしい。主役のイップ・マンを演じたトニー・レオンは、撮影開始の数年前からカンフーの訓練を積み重ねたそうである。長い製作期間のなかで、リアルなカンフーを映像化するために周到な準備が行われたようだ。

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また、美術・衣装のデザインも秀逸な出来映えである。個人的には、男達が集う遊郭のような場所のセットデザインが素晴らしく思った次第である。その美的空間は、まさに中国ならではのものであり悠久の美を発していた。たぶん、実物以上の美的空間を造り上げたのではないか、と想像する。

このデザインを担当したのは、カーウァイ監督の盟友であるウィリアム・チャンである。彼は、美術、衣装さらに編集も担当している。まさに才能豊かな人である。かつて、2000年公開の「花様年華」でマギー・チャンが身につけたチャイナドレスのデザインでも、その芸術的才能を遺憾なく発揮していた。

映像は、監督の相棒として長く苦楽を共にしたクリストファー・ドイルではなく、フィリップ・ル・スールというフランス人の撮影監督である。その映像美は、クールな趣を呈している。しかし、それは現代的ではなく、どこか懐かしい雰囲気を忘れていない。そんなイメージである。質感としては、04年公開の「2046」の画質に似ていると思うが、当該ユーザーの勘違いかもしれない。

その映像美は、まさに精微を極めた美しさを深く秘めた贅沢さである。この映像を観るだけでも価値ある映画ではないか、と思う次第である。

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「グランド・マスター」は、「楽園の瑕」に似ている!?

この映画の時代背景は、1930年代〜1950年代という激動の中国史である。かつて、カーウァイ監督は、「恋する惑星」「天使の涙」等で現代(当時の)を、そして「欲望の翼」「花様年華」「2046」で1960年代の香港を舞台に描いた。そのようななかで異端であったのが、「楽園の瑕」という中国の武俠小説(ぶきょうしょうせつ)を題材にしたものであった。

その題材の舞台は12世紀であった。現代からも、近い過去の1960年代からも遠く離れたのである。そして、その映画は苦難に満ちたようである。監督は、一端この制作現場を離れて、なんと「恋する惑星」を撮っている。それも、短期間であっという間に撮ったようである。しかし、「楽園の瑕」はまだ完成しない。

劇場公開も「恋する惑星」の方が、先であった。このことからも、いかに「楽園の瑕」が生みの苦しみにもがいたかが伺いしれる。

「楽園の瑕」は、何とか公開されたが、ストーリーの難解さが観客に嫌われたようであり、興行的には失敗であった。しかし、その映像美は素晴らしく、評論家からは評価されたそうである。個人的には、いま観てもこの映画は、難解である。それでも、現在では名作として誉れ高い存在となっている。

前置きが長くなったが、「グランド・マスター」である。この映画も何かその発する匂いというか、漂う雰囲気が前述した「楽園の瑕」に似ているのである。なお、あくまで個人的な感想である。それは、何故かというと、まるで哲学問答をしているかのような台詞にある。

仏典に曰く「旗未だ動かず風また未だ吹かず。揺らぐは人の心なり」、これは「楽園の瑕」のウィキペディアにあった言葉である。映画のテーマらしいが、なんと仏典からの引用である。「グランド・マスター」でも前述した内容とは違うが、”人の心”というものが、ある意味重要なテーマとなっている。

断っておきますが、あくまで個人的解釈です。ご了承ください。

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グランド・マスター/ストーリー

グランドマスター公式サイト

世界をのみこむ戦争の足音が刻一刻と迫る1930~40年代、中国。流派を極めた長は宗師〈グランド・マスター〉と呼ばれるが、北の八卦掌の宗師である宮宝森は引退を決意し、その地位と生涯をかけた南北統一の使命を最強の者に譲ろうとする。候補は形意拳の使い手である一番弟子の馬三と、南の詠春拳の宗師・葉問。パオセンの娘で、奥義六十四手を唯一受け継ぐ宮若梅も、父の反対を押して名乗りを上げる。

だが、野望に目の眩んだマーサンがパオセンを殺害、ルオメイはイップ・マンへの想いを胸の奥底に沈め、女としての幸せを捨て、仇討ちを誓う。継承者争いと復讐劇、愛と憎しみが絡み合う、壮絶な幕が切って落とされた。八極拳の宗師で一線天と呼ばれる謎の男も、不穏な動きを見せている。果たして、力と技と心で闘いを制し、真のグランド・マスターとなるのは誰か──?(公式サイトより)

<葉問/イップ・マン>
1893年広東省生まれ。7歳で詠春拳の陳華順(チン・カジュン)の弟子となり技を磨く。その後、戦争を逃れて香港に渡り武館を開く。あのブルース・リーに武術を伝授したことでも有名だが、戦時中、日本軍に家も財産も接取されてしまった経験から、「詠春拳を日本人に教えてはならない」という遺言を残したとも言われている。1972年没。

<詠春拳(えいしゅんけん、咏春拳)とは>
広東省を中心に伝承されていた徒手武術を主とする中国武術。少林武術を祖とし、一般的には短橋(腕を短く使い)狭馬(歩幅が狭い)の拳法とされている。200年から300年の歴史があると考えられている。拳術を中心技術として刀術と棍術とを含むが、伝承された型を分析すると、むしろ刀術を基礎として、それを徒手拳術に応用した部分も多く見受けられる。練習に人を象った木の人形(木人樁、もくじんとう)を使用することでも有名である。(ウィキペディアより>

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ウォン・カーウァイ監督

<スタッフ&キャスト>
監督:ウォン・カーウァイ
脚本:ゾウ・ジンジ、シュー・ハオフォン、ウォン・カーウァイ
出演者:トニー・レオン
   :チャン・ツィイー、他
音楽:梅林茂、ナタニエル・メカリー
撮影:フィリップ・ル・スール
編集:ウィリアム・チャン
アクション指導:ユエン・ウーピン
衣装:ウィリアム・チャン、アルフレッド・ヤウ
美術:ウィリアム・チャン、アルフレッド・ヤウ
公開:中華人民共和国 2013年1月8日 日本 2013年5月31日
上映時間:123分

グランドマスター/トニー・レオン、インタビュー
http://eiga.com/movie/57641/interview/

今も絶大なる人気を誇る永遠のアクションスター、ブルース・リー唯一の師として知られる伝説の武術家・葉問(イップ・マン)。
彼の知られざる実話をもとに、中国武術を受け継ぎ、その技と精神を磨き上げて次世代に継承していった各地の宗師(グランドマスター)たちの壮絶なる運命と頂上決戦を描いた、アクション・エンタテイメント超大作!
「楽園の瑕」ウォン・カーウァイ監督、クリストファー・ドイルが撮影を担当し、レスリー・チャンやトニー・レオンら豪華キャストが出演したアクションドラマ。伝説として語り継がれる剣士たちの壮絶な戦いと青春群像を鮮烈な映像で描く。

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