インバウンドにうつつを抜かして未来を失う?
かつて百貨店は流通小売の王様であり、消費者の憧れだった時代があった。しかし、それもすでに遠い過去となった。流通王の座をスーパーのダイエーに奪われて以降、百貨店は流通の中心から遠ざかって久しい。
百貨店に変わって流通王となったダイエー(スーパー、GMS)も、経営の失態から失速し、いまではイオン傘下となっている。百貨店もおなじく、再編を余儀なくされて合併や買収を経て現在に至っている。
とにかく経営の再建が急務だった百貨店は、禁断の果実に目が眩んでしまった。そして、中国からの観光客を当て込んだインバウンド消費にのめり込んでしまった。目先の果実に先を争って奪い合うという見苦しさを演じていた。
そこには、長い経験で培った百貨店の理念や哲学など、みじんも感じられなかったのは言うまでもない。利益のみを追求したその醜い様子には、ある意味では百貨店の最後に相応しい行為であった。
まさに、インバウンド消費は百貨店王朝の最後を飾ったといえるだろう。
<百貨店とは>
名称は百(数多い)貨(商品)を取り扱うことに由来する。また、英語における類義語を起源とするデパートメントストアともいう、通例、都市の中心市街地に複数のフロアを持つ店舗を構える。(ウィキペディアより)
顧客を忘れた百貨店に未来は訪れない
三越伊勢丹・新宿
引用:http://www.fashionsnap.com/news/images/2016/05/isetan-shinjuku_20151113_1_002.jpg
終わりのはじまりどころか、すでに終わった業態、それが百貨店であるに違いない。百貨店はすでに終わったと言われてからも、業界の再編などでなんとか生き延びてきた。しかし、それもついに尽きたかもしれない。
2015年に起きた中国からの観光客による爆買いといわれたインバウンド消費行動が、百貨店の見通しを誤らせたとみられる。しかし、一般人でもインバウンド消費がいつまでもつかと疑問に感じていたのは確かである。
中国人もいくらお金があるとはいえ、何が良くて、そして悪いかが知れるというもんだ。2016年になってから、来日する中国人はやはり学習してきて、もはや高額商品を買い漁ることもしなくなってしまった。
それは、少し考えれば予想できたはずだが、百貨店は2015年の爆買いが忘れられなくて、莫大な投資をインバウンド対応に向けてしまった。
そして、ついに百貨店は、観光客目当ての土産屋になってしまった。
さらに小売業の真骨頂である、顧客満足の向上も忘れ去ってしまった。小売業の存続は、ある意味では顧客をどれだけ維持できるかにかかっている。要するに、何回も買い物をしてくれる固定客を増やし、それを維持することにある。
しかし、インバウンド消費への対応は、いわば一回限りのサービスの提供といっていいだろう。百貨店は自ら、その優位性を放棄してしまった。
かつての百貨店は、顧客満足の提供に長けていたはずだ。しかし、時の流れは残酷であり、劣化するのは運命としか言いようがない。従来の顧客を重視しようとせず、サービスも劣化してやまないといわれている。
最近の百貨店では、かつての顧客重視、満足の姿勢はどこへやらで、爆買い消費の夢をまだ追いかけているらしい。その姿勢に、固定客であった優良顧客が揃って百貨店から逃げ出しているといわれる。
一度逃げた顧客を再びもどすのは並大抵のことではできない。なぜなら、信頼を壊したからに他ならないからだ。壊すのは簡単だが、作り上げるには時間と継続する意思が必要となる。いまの百貨店にそれを望むのは酷かもしれない。
“爆買い”終焉で続々閉店の三越伊勢丹 かつての日本人常連客からは「どうでもいい」の声
「昨年5月ごろに、婦人雑貨売り場でサイズ違いの靴を持ってくるよう店員さんにお願いしたのに、何分たっても戻ってこない。そこで彼女を探すと、中国人と思われるお客さんの対応をしていたんです。店内には、私のあとに、20人くらいの中国人観光客と思われる一団がやって来たんですが、ほかにいた2~3人の店員さんも、彼らの対応に追われていた。さすがに私も苦言を言ったのですが、『ツアー客の皆さまは、時間に限りがございますので』なんて言われたんです。“もうここで買い物しない”と誓いました」
<百貨店2016年6月の売上高の対前年増減率>
爆買いが突然消滅…全大手百貨店、連続売上増天国が逆回転で連続売上減地獄突入
(1)銀座三越 ▲11.0%
(2)松屋銀座 ▲10.7%
(3)大丸京都店 ▲ 7.0%
(4)伊勢丹新宿店 ▲ 5.7%
(5)松坂屋名古屋店 ▲ 5.3%
(6)日本橋三越本店 ▲ 3.7%
(7)西武池袋本店 ▲ 2.7%
(8)大阪タカシマヤ ▲ 1.8%
(9)新宿タカシマヤ ▲ 1.0%
(10)阪急うめだ本店 ▲ 0.8%
(11)日本橋タカシマヤ ▲ 0.3%
(大丸心斎橋店は26.2%減だが、本館建て替え工事中のため対象から外した。▲はマイナス)
松屋、免税品低迷で一転大幅減益 17年2月期(日本経済新聞)
そもそも百貨店の苦境は予想できた
百貨店は、いうなれば大きなセレクトショップだった。自ら発信すべき商品はないに等しかった。海外ブランドや国内有力ブランドを取り揃えていても、そこにはなんの新鮮味もない。いまや、すべてのブランド品は直営店で買う方がステイタス性が高いし、それに見合うサービスも受けられる。
かつては、たしかに百貨店でなくては買えない商品もあったが、時代は変わった。変わっていないのは、百貨店だけと言ってもいいかもしれない。
百貨店が優位性を持っていたファッション=アパレルも、専門店が成長し定着化するにつれて優位性も失われてしまった。高額商品である、ブランド品もしかりである。とにかく百貨店で買う理由が見当たらない。
百貨店は、過去の優位性にあぐらをかいて百貨店業を深堀りしていく努力を怠ったというしかない。例えば、独自の商品政策で特徴を打ち出し続けることをせずに、単なるスペース貸しという安易な方向へと流れた。
その行為には、ファッションビルとどこが違うのかと疑問に感じざるを得ない。
また、独自の百貨店ブランドの育成にも失敗している。なんらかの商品開発はしてるだろうが、スーパーのプライベートブランドほどにも浸透していない。いったい全体、百貨店は何をしてきたのか実に不思議である。
百貨店が現在苦境に陥っているのは、ごく当然としか思えない。プライドばかり高く、未来をみようともせずに、その場しのぎばかりに精を出していたからだ。
その場しのぎといえば、ある百貨店ではTカードを導入するらしい。それは自らのサービスを他者に依存するということにならないか。しかし百貨店の他者依存は、いまにはじまったことではないので、いまさらであるのは言うまでもない。
百貨店、本格的崩壊期へ…
百貨店業界の蹉跌は、「バブル崩壊」というマクロ環境の大きな変化に対して、「ターゲット顧客は誰なのか」という再定義をきちんとせず、「お金を落としてくれる人がお客様」とでもいうように、可処分所得の高い高齢者を中心顧客に置いてしまったことに始まる。その結果、百貨店という業態自体が旧態依然としたポジショニングになり、若年~中年までの新規顧客層には魅力的に映らず、むしろ遠ざける結果となってしまった。さらにショッピングセンターなど業際を越えた新たな競合が勃興し、中心顧客すらも奪われるようになった。
百貨店の行く末は
百貨店の行く末なんて、「もうどーでもいい」ことなのかもしれない。なんせ、かつての優良顧客さえ見放しているようだから。(上記リンク先より)
そこをあえて予想するとすれば、たぶん百貨店という業態は静かに消えて無くなるに違いない。それは誰も気がつかないうちに進行すると思われる。
予想される業態は、都心立地を活かしたショッピングセンターか、いわば不動産業が中心となるのではないか。とすれば、地方に展開した店舗は閉店を余儀なくされる。これはすでに、三越伊勢丹などにその予兆がみられる。
あとは、高級志向の特定顧客だけをターゲットにした業態である。これはニューヨークなどの高級百貨店が参考になると思われる。しかし、かなり高度なノウハウが必要となり、現在の百貨店にできるか疑問である。
やはり、立地を活かしたショッピングセンター、不動産業が有力と思われる。当たらずとも遠からずと考えるがいかに。
冒頭写真:三越伊勢丹・日本橋(重要文化財)
引用:http://www.fashionsnap.com/news/images/2016/05/mitsukoshi_20160520_001.jpg
追記:
近い将来にかつて百貨店だった場所に、安売りの殿堂「ドンキホーテ」が出店する日がやってきそうな予感がする。ドンキもインバウンドの恩恵を受けたが、なにも特別なことをする必要もなかった。いつもどおりのドンキが中国人に受けただけであった。ドンキの方が百貨店よりも顧客満足を提供しているかもしれない。
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