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■小説自作|コンビニの夜8 踊るキューピーハニーとゴミ怪獣

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臭い匂いは、元から断つのが秘訣だぞ

 東京臨海部にゴミ怪獣が現れた。芳しのキューピーハニーは、ゴミと砂塵が舞い散るなかで怪獣と対峙していた。その対決の行方はいかにーー。

■コンビニの夜8「踊るキューピーハニーとゴミ怪獣」

作:cragycloud
登場人物:
アタシ(コンビニで夜勤のバイトをする21歳の女性)
キューピーハニー(主人公アタシが夢で見るヒーロー)


引用:http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3f/a3/07598ad5756b65232fb39dd22916231c.jpg

ゴミチラカシーノ、現る

 ピッピッ、ピーヒャラ、ピーヒャラ、ピッピッ、ピーヒャラ、ピーヒャラと腕時計型端末のコール音が鳴り響いていた。コール音がなぜか最近変わっていた。

「う、うるせーな」と感じながらも、根が真面目でおまけに可愛いアタシは、端末の応答アイコンをタッチしていた。すると、渋さを取り繕ったような声がした。

「おはよう、キューピーハニー。緊急指令10257号を発令する。東京臨海部に怪獣が現れた。すぐに現場に急行してくれ。このテープは、いつものように15秒後に消滅する。では健闘を祈る。ブブ、ブチッ、ツーツー」

「もしもしー、なにこれ、ふざけてるんなら切りますよー」と言い返すとテープは消滅するどころか、慌てて応答してきた。だいたい、いまどきテープってなんだよと思いながらアタシは機嫌が悪くなっていた。

「ちょっと待って、ハニーちゃん。わたしだ、ボスだよ」
「そんなの判ってますよ。いったい何ですか。悪ふざけなら他でやってくださいよ。こっちも忙しいんですからね」

「あ、ごめんねーハニーちゃん。あのね、あれ一度やってみたかっただけなんだよ。ハニーちゃんならジョーダン通じるかな、と思ってね」
「あっそ、で、用事はなんですかー」

「臨海部にね。怪獣が現れてゴミを散らかしてるらしいんだ。すぐに行ってくれないか」とボスは急に低姿勢でアタシに言っていた。

「そうですかー、ゴミですかー、なんだかやだなー」最近アタシは美容に気を使ってるから、汚いところには行きたくなかった。
「何を言ってるんだ、ハニー。キミの使命を忘れたのかい」
「えーと、し・め・いって何かしら」

「んん…、ハニーちゃんね、あのね…。あっ、そういえばハニーちゃん、最近一段と綺麗になったと評判らしいね。うちにくる情報では、ハニーの赤い戦闘服姿は超カッコイイと巷では人気らしいよ。綺麗で可愛いし、スタイルも抜群だと」

「えっ、やっぱりー。そうよねー、アタシも薄々感じていたんだけど、滲み出る魅力は隠せないのよねー」
「んー、そうだね。いあやそうだよ、その通りだ。ところで怪獣やっつけに行ってくれるかなー、ハニーたん」

「いいともー、ラジャーボス。ところで怪獣の名は、なんてーの」
「怪獣の名はだな、ゴミチラカシーノというんだ」

「ヒョエー、なんてダセーんだ。ボス、すぐにやっつけてくるから任せてね」
「たのむぞ、ハニー。いや、芳しのキューピー・ハニー」

 そして、赤い戦闘服に身を包んだアタシは、東京臨海部に駆けつけた。そこには、埋め立て地のゴミを掻き出して、周囲に撒き散らしている怪獣がいた。ゴミチラカシーノは、ゴミから生まれた怪獣だった。

「おい、そこの汚ねー怪獣、よく訊けよ。芳しのキューピー・ハニー様が、お前を元のゴミにもどしてやるからな」

 怪獣ゴミチラカシーノの周りではゴミが宙を舞い、同時に砂埃が渦を巻いていた。また匂いも強烈な異臭を放っていた。怪獣は一心不乱に地面を掘り起こしては、それを撒き散らしていた。

「くっせー、くっせーぞ。もうがまんならん」とハニーは言うなり、空高く舞い上がっていた。そして、「ハニーフラッシュ!」の掛け声とともに怪獣目掛けて急降下をしていた。

 キューピーハニーの必殺技、「脳天瞬殺ドロップキック」だった。

 ハニーの必殺技は、怪獣ゴミチラカシーノの脳天あたりに見事に命中していた。すると怪獣は、地面を掘り起こすのを止めて立ちすくんでしまった。一瞬怪訝そうに辺りを見回したあと、「ク、ク、クエーー、カ、カ、カエーー」と叫びながら、じぶんで掘った穴のなかに崩れ落ちていた。

 そして、ゴミのなかに溶け込むようにして消えていた。

「しかし、くせーな、もうゴミのなから一生出てくんなー」とキューピーハニーは、勝利のポーズを取りながら、ゴミと同化した怪獣に向かって叫んでいた。

 しかし、思えばこの怪獣もある意味では人間が造り上げたしろものといえた。それを思うと、なんだかやるせない想いになるのだった。

<アタシの部屋>

 なんだか、くせー、くせーぞと感じて目が覚めた。そしたらなんと、横向きで寝ていたアタシの鼻先には自分の靴下が置かれていた。どうりでくせーはずだった。アタシは、靴下を掴むと思いっきり部屋の隅に向かって投げつけていた。

 臭い匂いの元を絶ったアタシは、またベッドにもぐると眠りについた。

コンビニ24時間営業の危機


引用:http://image.space.rakuten.co.jp/lg01/95/0000919795/99/img9641a4aezik6zj.jpeg

 長い冬もようやく終わり、もうすぐ春がくる。そう思うと年ごろの乙女はウキウキするらしい。しかし、アタシは、春が待ちどうしくない、なぜなら花粉症だからだ。クシュクシュ、グジュグジュがまたやってくる。

 今日も元気にコンビニの夜勤の仕事をしている。午前0時を過ぎたころ常連のお客さんがやってきた。

「おねーさん、ハルキ読んだ」と常連のお客さんが言っていた。
「はっ、ハルキですかー、それなんですか」
「えっ、ハルキしらないの。一度読んでみるといいよ」と言ってお客さんは帰って行った。

 そうか、ハルキとは読むもんなんだ。しかし、何かなーハルキって、とまだ疑問が残っていた。そこで、同僚のともみさんに訊いてみることにした。

「ねー、ともみさん。ハルキって知ってますか」
「ハルキって、もしかしたらムラカミハルキのことかしら」
「ムラカミハルキ、それなんの人ですか」
「知らないの、有名な小説家よ」

「へー、そうなんだ、知らなかったけど」
「ほんとー、うらやましいわ貴方が…」
「読んだ方がいいですかねー」
「読まなくてもいいんじゃない、なんの役にも立たないから」
「そうですかー、じゃ読みません。本好きじゃないし」

 ハルキの件は、そんな訳であっという間に疑問が解けた。

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 そんなことよりも、最近気になっていることがあった。それは、アタシの生存権にも関わる問題でもあった。それは、コンビニが24時間営業をやめるかもしれない、ということだった。

 24時間営業が、コンビニの経営を圧迫しているのは薄々感じていた。都会はいざ知らず、アタシのいる地方都市では夜中にくる客はとても少なかった。それでも、夜勤の時給は昼間より20%増しぐらいになっていた。

 アタシが夜勤にしたのも、時給が良かったからだった。ところが、最近になって24時間営業が危ぶまれている。ファミリーレストランも牛丼店も、いまでは24時間やってるところはずいぶんと少なくなった。

 そんな訳で次はコンビニか、ということらしい。

「24時間営業、もう限界だよ」便利さの裏にコンビニオーナーの悲鳴
 1店舗を24時間、365日回すのに必要なアルバイトの人数は、だいたい20名ほど。大学生が中心だが、なかなか集まらない。特に深夜に2人体制を組むのが難しいという。

「ファミレスだって深夜営業をやめてるし、すき家もワンオペを批判されて、深夜をやめているところもあるのにね。でも、コンビニだけは別なんだ」

 なぜか。理由の一つはATMだ。

「今、コンビニにとってATMとトイレは、店に来てもらうきっかけとして、絶対外せないもの。ずっと店を開けているのは、ATMを守るという意味があるんだ。だから、ATMのある御三家は、24時間営業は絶対にやめられないんだよ」

 さらに、深夜シフトには、季節商品のバナーの貼り付け、雑誌の搬入、掃除といった店の運用に欠かせない重労働が多い。時給を割り増してもなり手が少ない。

 コンビニの夜勤は、お客が少なくてもやることはけっこうある。昼間の営業時間にできないことを夜にやってるからだ。

 24時間営業の危機は、夜勤の人員が集まらないということも大きな要因だといわれている。アタシのいるコンビニでも、夕方から夜10時までバイトしていたJKコンビがいなくなって、昼間と夜勤からのシフトチェンジでなんとか凌いでいる。

 芳しのJKコンビは、コンビニに華を添えていたが、いまでは同じ時間帯を男性スタッフが入れ替わりになっている。なんとも、華がないが致し方がなかった。その分、夜勤ではアタシと麗しのともみさんが華を添えている。

 アタシは、また一番若い女性スタッフになっていた。心なしか男性スタッフからは、ちやほやされてきている様に思ったが、それは気のせいかもしれなかった。

 JKコンビがいた頃は、アタシはおばさん扱いされてたのに、と思うと地団駄を踏む思いとなった。男は身勝手で信用できないという思いを強くしていた。

「ねー、ともみさん。コンビニも24時間営業なくなるかしら」
「んー、そうね。いずれはそうなるかも。でも、すぐにという訳ではないと思うわ。アマゾンゴーみたいのができるまではね」
「やっぱり、そうですよね」
「夜やってる仕事をどうするか、それを解決しないと、ね」

「ところで、ともみさんアマゾンゴーってなんですか」
「んー、知らないの…」

 ともみさんは、いまはコンビニで夜勤の仕事をしているが、前は介護の仕事をしていたそうだ。腰を痛めてやむなく退職したが、しかし、介護の資格もあるからいずれは復職する気持ちがあるらしい。

 一方、アタシには何もなかった。あー、アタシはどーしよーか、思えば一年前もおなじだった。進歩がないとしか言いようがなかった。

 なんだか、アタシに残された時間がどんどん少なくなってる様な気がしてきた。

 それを思うと、なんとも気も焦るが、アタシにはどうすることもできなかった。ま、なんとかなるさ、と思うことにした。それで良いとは思わないが、元から楽天家のアタシはくよくよと悩むこととは無縁だった。

 それでもアタシのあしたはどっちだろう、なんてふと想うことがたまにあったが…。それが人間であり、生きてる証のように。

 なーんてね!

<コンビニの夜8「踊るキューピーハニーとゴミ怪獣」/おわり>

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