景気を浮上させる鍵 それは雇用環境の改善しかない
未来が見えない、そんな雇用構造こそ諸悪の根源ではないか
日銀がいくら金融政策を打ち出しても、市場の反応は鈍くなっている。マイナス金利の効果もあまり効かなくて、株式市場は現在駄々下がりとなっている。中国経済がーとか、原油価格が云々という理由はもっともらしいが、それは言い訳でしかない。
安倍総理は、景気が実感できないのは「たまたま、そうなっているだけ」という認識にあるらしい。その理由は、ハローワークなどの求人募集が増加してるからと答えている。雇用需要が増えているのは、景気がいい証拠だろうと言いたかったと思われる。その通りなら言う事はないが…。
景気回復実感ない人は「たまたま」、世論調査73%でも首相強弁(北海道新聞)
しかし、それは一面しか捉えていない、雇用の裏側を無視していると思われる。政府や官僚は、雇用構造の実態から目を反らしている。それは、大企業の意向が強くあるからに他ならないだろう。小泉改革以降、雇用環境は大企業の都合のいいことばかりが優先されてきた。そのあげくが、現在の日本の姿に現れている。
安倍総理とその政府は、労働法を改正して大企業のご機嫌を取ったばかりだ。その変わりに社員の給与アップを求めているが、それは企業には両刃の剣に等しい。
何故なら、大企業はコスト削減を理由に非正規の人材を多くしたのに、正規の給与アップなんてしたら元の木阿弥だからだ。もし給与アップするなら、さらに非正規を増やすしかない。もちろん、正規もリストラしてだ。
したがって、政府も本気ではなく、嘘も方便で言っていると思われる。要するに国民に対するポーズであり、見せかけである。
政府のやっていることは、物事の根本を正さずに表面を取り繕うことばかりである。雇用を改善し景気を浮上させたいなら、労働法を再改正して小泉改革以前にもどすことではないか、と思われる。正規と非正規の分断こそが、日本が培ってきた企業と社員の間にある信頼関係を壊してしまった。
それは、グローバル化という大きな流れのなかで、それに対応していくには必然であるという人達もいる。新自由主義のエコノミストに多いと思われる。その考え方は、とにかく規制緩和をして市場に任せろを合い言葉としていた。(ソニー元会長の出井氏は、社員の90%?を非正規にしなければ、世界で競争できないと発言していた)
しかし、そんな新自由主義を取り入れた(とくに人件費削減)日本の企業は、なぜ爆発的に好業績にならないのか。それが不思議である。せっせと使い捨て人材を増やしてコストを削減したはずなのに、一向によくなっていない。それどころか、東芝やシャープなんて、どーしたんかいな?、と言いたくなるぐらいの体たらくである。
「逆もまた真なり」という言葉があるが、それを企業に当て嵌めてみれば、経営幹部こそ非正規にしてみるのもありではないか。一度試す価値は大いにあると思うがいかに。(逆もまた真なり=一見、正反対の事柄でも本質は同じである)
企業の業績の結果は数字に現れるが、けっして数字合わせで好業績になる訳ではない。会社と労働者が一体となって、目標に向かっていくことでそれは達成される。そのとき会社は、労働者にやる気と生き甲斐を与えて、働いた人に報いなければならない。それが、よりよき成果となっていくに違いない。
ところが、小泉改革以降、現在に続く雇用環境は、労働者を単に数字合わせとしか見ていない。もはや労使一体どころではない。正規はいずれはリストラの玉であり、非正規はいつでも切れるコスト削減要員でしかない。
こんな状況で企業の業績がよくなれば、それは運がよかったと言うしかない。現在の政府は、その運に縋っているかもしれない。しかし、それは言葉を変えればバクチでしかない。手っ取り早く結果を出そうしている。
とにかく、労働者は人間であり機械ではない。このままの雇用環境が続けば、やがて労働者は、自販機とおなじ程度にしか働くなるに違いない。要するに金額に見合った以上の働きはしないということだ。
ちなみに、日本の企業が世界に羽ばたいたのは、一部の経営者が偉かったこともあるが、それだけではない。会社と一体となって働いた労働者のおかげであったはずである。しかしそれは、いまや遠い過去になろうとしている。
エコノミスト誌の元編集長ビル・エモット氏は、日本の現況を以下の様に見ているようである。
エコノミスト誌の元編集長ビル・エモット氏「正規・非正規雇用の分断こそ日本の弱点」(ニューズウィーク)
日本の経済発展と社会調和にとって、最大の障害は、労働市場の深刻な分断だ。日本の賃金労働者は約60%のインサイダー(正規雇用労働者)と約40%のアウトサイダー(非正規雇用労働者、多くはパートタイマー)に二極化している。
前者が、高いレベルの雇用保障と福利厚生など賃金・給与以外の経済的利益(ベネフィット)を享受している一方、後者の大多数は低賃金で、そうしたベネフィットも皆無に等しく、不安定な雇用を余儀なくされているのが実情だ。
日本は迅速に労働法制を調整し、フルタイム、パートタイムに関係なく、働くすべての人が同等の雇用保障とベネフィットを受けられるようにする必要がある。
労働市場の分断を解決しなければ、日本は家計需要の慢性的な低迷、生産性上昇の停滞に悩まされ続けるだろう。そして、増加し続けるアウトサイダーの人的資本は、着実に蝕(むしば)まれていく。
技能習得にもっと投資しようというインセンティブが、会社側にも個人(非正規雇用労働者)側にも、働きにくいからである。
日本では、いま労働者の半数近くが非正規になろうとしている。これでは、とても景気が浮揚するとは思えない。それでも政府は「景気がいい」と喧伝しているが、どこを見て言っているのか実に不思議である。
中国からの観光客によるインバウンド効果もいつまでも続くものではない。なにより、それを良く知るのは日本人ではないか。いまの中国人とおなじことを過去にしてきたことを忘れた訳ではないだろう。
とにかく、この現状から目を背けているとしか思えない。一体、日本の未来を何処に向かわせようとしているか。それが気がかりである。やっぱり、あのとき根本を正すべきだったと思ったときには、もう遅いかもしれない。
思えば、どこか不可解でもある。それが何に起因しているかと言えば、景気を浮揚させる要となる消費者は、そのまま労働者であることである。その労働者の大部分を痛めつけて、景気がよくなる訳はないと思うのは、どこか違うだろうか。
これはもしかしたら、何かの思惑があるのかもしれない。それは日本のいい意味での特殊性を壊して、競争力のない国にしようという魂胆かもしれない。そして、そこには言うまでもなく何処かの国の影が…と思うがいかに。
前にも掲載したが、盛田昭夫ソニー創業者が語った言葉を以下に紹介します。
「判断のすべてが経営幹部のみに集中している会社は発展しない、というのが日本では一つの常識である。社員の一人ひとりが意思決定に貢献できることが大事であって、工場労働者といえども、その働きを単なる肉体労働や機械的労働にとどめておくべきではない。それは彼ら自身のためにもならない。」
日本の企業が強かったのは、欧米には見られない労使の協調性にあったはずです。それが強みとなり成長する原動力となっていた。現在、それらは過去の遺物となりそうですが、はたしてそれでいいのか疑問を感じざるを得ません。
盛田氏のいい分は、企業のあり方として利に適っていると思います。理想はその発展系ですが、現在の企業経営者の多くはどうやら違うようです。残念ながら。たぶん、アメリカ型の経営者を目指してるはずです。
それがどんなものかは言うまでもないと思われますがいかに。
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