■海外ドラマ|ジェネレーション・キル イラク戦争と米軍兵士の真実を描く

スポンサーリンク

イラク戦争とは、一体なんだったのか

 イラク戦争は、2003年にアメリカ軍を中心とした諸国連合の侵攻によって始まった。戦争自体は、アメリカ軍と諸国連合がサダム・フセインを排除し勝利したが、軍事介入の理由となったイラクの大量破壊兵器はついに見つからなかった。

 イラクを独裁的に支配していたサダム・フセインは、元はといえば、アメリカによって育てられていた。イラン・イラク戦争(1980〜1988)では、アメリカはイラクを支援していた。また、アメリカはイランの旧政権の支援者でもあった。

 1990年、イラクはクウェートに侵攻を開始し、あっという間にクウェートを併合してしまった。これに対し、アメリカをはじめとする諸国連合は、事態解決に向けた活動を開始した。国連の認可に基づき、アメリカを主体とした多国籍軍が構成された。そして1991年1月、イラクへの侵攻(湾岸戦争)を開始した。

 湾岸戦争後、イラクが受諾した停戦決議(決議687)において、イラクには大量破壊兵器の不保持が義務づけられていた。そして、2003年に開始されたイラク戦争は、大量破壊兵器の不保持の義務違反を理由としていたが…。

 イラク戦争終了後、大量破壊兵器は見つからなかった。独裁者サダム・フセインとその一党は排除されたが、イラクは民主化どころか混迷を増して現在に至っている。さらにいえば、ISISというイスラム過激派を生み出し、イラクだけに留まらず、中東全体の混迷度を深めている。

ジェネレーション・キル イラク戦争と米軍兵士の真実を描く

「ジェネレーション・キル」は、イラク戦争を題材にケーブルTV局のHBOが製作した全7話のミニシリーズである。HBOは、「バンド・オブ・ブラザース」「ザ・パシフィック」など戦争ドラマの傑作を製作しているが、当該ドラマもそれらに劣らない見応えのある出来栄えとなっている。

 原作は、イラク戦争に従軍したローリング・ストーン誌の記者エヴァン・ライトが書いた「Generation Kill (2004)」となっている。ちなみに、エヴァン・ライトの役柄は、そのままドラマにも登場している。なかなか勇気のある従軍記者だったようだ。従軍した約2ヶ月のあいだ死と隣り合わせだったと言っていいだろう。


「ジェネレーション・キル」2008年放映、製作HBO。

海兵隊第1偵察大隊の海兵隊員たち

「ジェネレーション・キル」は、高度に訓練された第一偵察大隊の海兵隊員が、イラク戦争の最初の40日間にわたって続いた、装備不足、無能な指揮官、変化する交戦規則、そして不明な戦略のなかで、アメリカの侵略の槍の先端となって戦った若い海兵隊員たちが経験した真実を描いている。

 第一偵察大隊の海兵隊員たちは、高度な訓練を受けてイラク戦争に投入された。一説では、偵察員の育成には一人当たり100万ドルかかるといわれる。(確かではないが、ドラマのなかでも似たことが言われていた)

 ところが、実際の現場では、偵察ではなく強襲戦闘行為が主な任務となっていた。さらに、かれらには援護する戦車や装甲車もなく、ハンヴィーという移動車両のみだった。車両に搭載されたM19重機関銃も故障しがちだった。

 第一偵察大隊の海兵隊員たちは、海兵隊は現地調達が基本だ、と自虐的に言って自らを鼓舞するしかなかった。ボロいハンヴィーに、装備品も不足するなかで海兵隊員たちは、くだらないジョークを口々に飛ばしながら移動していく。

 戦闘行為の際の交戦規定も徐々に変化していった。当初は、撃たれたら撃ち返すというものだったが、敵は民兵も多く、誰が敵なのか見分けもつかない。そんな状況でいつしか、銃を持つものを、さらに動くものは撃てとなっていく。

 大隊の指揮官は、功を焦るあまり危険な任務に突き進んでいく。そして偵察という任務から徐々に離れていった。当初の戦略が変化し、戸惑う海兵隊員と指揮をとる一部の将校・下士官とのあいだでは軋轢が生じていた。

 とくに、中隊長、そして現場のリーダーとなる小隊長のなかに能力不足が著しい将校がいて、部下たちを悩ませていた。

 部下たちは、それらの将校の指揮ぶりに疑念を抱いていたが、絶対的な階級社会である海兵隊では何もすることができず、厄介者あつかいするだけであった。

 大隊長は、上司である師団長の意図をくみ取り、偵察大隊でありながら、功を焦るあまり、果敢に攻めていく作戦を次々と実行していく。

 それに対し、なにも進言できない無能な中隊長、部下たちのあら探しばかりして無駄な命令を下す上級曹長、さらに無能な小隊長などを抱えながら、海兵隊員たちは、否が応もなくイラク中枢へと進軍していった。

 進軍する最中では、味方に誤射されたり、誤爆されたり、また民間人へ誤射するなどが、度々起こっていた。また、空軍が偵察報告を無視して、女子供しかいない村を誤爆しこっぱみじんにする様を目撃したりした。

 アメリカ軍は、イラク軍に対して圧倒的な戦力を有していたが、なぜか現場は混乱していた。戦略は曖昧となり、さらに装備品は届かず、食料も不足していた。

 海兵隊員たちは、イラク侵攻に際し高度な訓練をしてきたが、それを生かすも殺すも、戦略と作戦を指導する指揮官次第であるのは言うまでもなかった。

 そして、ついにイラク軍は崩壊する。戦力の差を考えれば、アメリカと有志連合軍が勝つのは当たり前であった。しかし、現場では戦争に付き物の混乱が生じていた。それは、このあとのイラクの運命を象徴していたともいえる。

指揮官と部下と戦争のあいだ

 ドラマの中では、無能な指揮官と有能な部下の軋轢という、一般社会にもよく見られる光景が繰り広げられる。

 第一偵察大隊では、大隊長は、上昇志向が強く、なんとか功績をあげたいという思いに固執している。中隊長は、大隊長の命令に異を唱えずに従うので何かと優遇されている。小隊長のひとりは、無能をさらけ出してばかりいるが、上級幹部の甥ということで解任されることはない。上級曹長は、階級を盾に部下へ理不尽な要求ばかりしている。

 無能な小隊長のひとりが、捕虜にいきなりナイフで切り掛かった事案に対し、大隊長曰く、「ここは戦場だ。部下に十分な働きをしてもらうために、信頼を覆す証拠がない限り、部下を信頼する」として問題ないとされた。

 一見すると正論だが、問題を過小に判断していた。なぜなら、問題の小隊長は、部下たちを何度も危険に晒していたからだ。それをなんとか回避していたのは、部下たちの独自の判断だった。

 一方、有能な指揮官もいた。しかし、有能な指揮官は、大隊長以下の指揮系統によって疎外されていた。これなどは、一般社会でも独善的な経営者が、なぜか無能な幹部によって囲まれているのとおなじだ。

 戦争という非日常的な現場では、何が起きるか分からない。イラク戦争の現場では、アメリカ軍の圧倒的な戦力とともに、致命的ともいえる戦略と指揮系統、そして兵士たちとのあいだの問題が浮き彫りとなったに違いない。

 アメリカが、イラク戦争後、イラクやアフガニスタンで混迷するばかりとなったのは、その辺りに原因があるのかもしれない。

「ジェネレーション・キル」は、見終わったあとにすっきりするものが、ひとつも見当たらない。なにか、喉に骨が突き刺さったままのような気分になる。それは、そのまま「イラク戦争」の意味に当てはまるに違いない。

 今さらであるが、「イラク戦争てのは、なんだったんだ」と思うしかない。それが、ある意味ではこのドラマの価値を高めている、と思われる。

主要な登場人物


ブラッド・コルバート軍曹/通称アイスマン
経験豊富で有能な下士官。たえず冷静沈着な状況分析と的確な指示をする。


ナザニエル・フィック中尉
コルバート軍曹の上長にあたる。まだ若いが有能な指揮官。アホな大尉どもの無茶な要求に抗議することから、疎んじられている。


ローリングストーン誌記者/エバン・ライト氏
死と隣り合わせの戦場に同行した非常に勇敢な記者。


フェランド中佐/大隊長
愛称、ゴッドファーザー。功を焦るあまり無茶な作戦と命令が多く、兵士達はイカれた将校と密かに言っている。


エンシノマン (あだ名) 大尉/中隊長
一見すると立派な将校だが、実はアホなことばかりする。上長の言うままに無茶な進撃を命令することが多い。当然、兵士達から総スカンされている。


マッグロー大尉 (通称キャプテンアメリカ)
アホな大尉として兵士たちから忌み嫌われている。やたらと銃を乱射し、捕虜にはナイフで切りかかる。親族に大佐がいるので罷免されない。

公式サイト:ジェネレーション・キル

「ジェネレーション・キル」は、現在(2017年2月)huluで配信されています。

イラク戦争のアメリカ
2003年5月のブッシュ大統領による「主要な戦闘終了」宣言から年月を経るにつれ、イラク戦争はますます混迷を深めている。あの戦争は一体何だったのか?本書は、イラク戦争を理解するための必読書として必ず名前があがる本の日本語版である。
イラク戦争のアメリカ

スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

おすすめ記事