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■映画|「2046」ニーゼロヨンロク 豊穣なる情動が溢れる

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2046、それは豊穣なる情動が溢れるかの如く

1960年代の香港を舞台とした、ウオン・カーウァイ監督の情感溢れる恋愛ストーリー。92年(日本公開)の「欲望の翼」、01年(同じく)の「花様年華」に続く60年代シリーズ3部作の最後を飾る作品である。アジア各国のスターを集め、5年の歳月をかけて完成した。

本作は、現実世界と小説世界が入り交じる様に展開していく。現実世界では、チャウ(トニー・レオン)とバイ(チャン・ツィイー)の、小説世界では、タク(木村拓哉)とワン(フェイ・ウオン)の恋愛感情が情感たっぷりと描かれる。「2046」の由来は、「花様年華」のなかでチャウが宿泊する部屋番号であった。

また、香港返還から50年後という意味も含んでいる様である。

2046affiche1
恋愛感情が迸る、情感溢れるが如くのポスター

2046|ストーリー

1960年代、失った愛に取り憑かれている男、作家のチャウ(トニー・レオン)は、滞在していたシンガポールから久しぶりに香港へと戻ってくる。そして、オリエンタル・ホテルの2047号室を住居とする。

当初、彼は2046号室を希望したが住人の殺傷沙汰によりそこは改装中だった。ホテルのオーナーの娘ワン(フェイ・ウォン)は、日本のビジネスマン、タク(木村拓哉)と恋愛をしている。

これに反対する父親のため文通さえままならない。それを知ったチャウは、自分が間に入り手紙のやり取りを仲介する。

この遠く国を隔てた恋人どうしの関係にインスパイアされたチャウは、未来小説「2046」を書く様になる。小説のなかでは、永遠の愛を求めた人達が「2046」へ向かって列車に乗る….。

しばらくして、隣の2046号室にバイ(チャン・ツィイー)というダンサーが越してくる。はじめチャウを邪険に扱ったバイだが、いつしかベッドを共にする仲となる。

バイはチャウにどんどん引かれていく。一方、チャウはいまだ失った愛に取り憑かれている。ふたりの間の心は、すれ違う列車の様に。そしてバイはチャウにあなたを忘れられないと懇願するが….。


チャイナドレスが魅力的なチャン・ツィイー

2046|感想として

本作は、すべてにおいて豊熟した果実の様である。「花様年華」の続編と云う位置づけであるが、チャウ(トニー・レオン)は前作とは一変して、やさグレ感漂う遊び人であり、けっして誠実とは云えない人物となっている。

それは、前作で人の良い、誠実そうな人物が人生経験を積み男として熟したとも云えるが…。

チャウを愛する様になるバイを演じる、チャン・ツィイーの熟成途中の匂い立つ様な色っぽさも堪らない魅力を発している。

映像もこれまでにない程に完成度が高く、まるでアートといっても過言ではない。衣装、部屋の内装などの美術も能力の高さを魅せている。

チャン・ツィイーのチャイナドレスの素敵さを観るだけでも価値がある。彼女が住む2046号の内装および小物が奏でる情感もまた素晴らしい。一つ難点がある。それはストーリーの分り難さである。

しかし、本作の素晴らしさを堪能するには、頭で考える事無く只ひたすらにムードに身を任せることである。それは、たぶん間違いない。


主人公チャウを演じるトニー・レオン

欲望の翼、花様年華、そして2046

叶わない愛の想いは、何処にいくか

「欲望の翼」のラストシーン、主人公ヨディ(レスリー・チャン)が死んで映画は終わったと思ったが、そうはならなかった。場面が切り替わると唐突にトニー・レオンが登場する。天井の低い薄暗い部屋の中で身づくろいをしている。

 そして、トランプとカネの札束を懐に入れると、オールバックにした頭髪の乱れを気にしつつ部屋を出ていく。そして映画は終わる…。

 このラストシーンはとにかく意味不明である。トニーは、なにか得体のしれない人物を想像させるが、それが本編とどういう繋がりがあるのか。当時、予定していた「欲望の翼」の続編は、トニーを主人公としていたのだろうか。

 それから、しばらくして「花様年華」が公開された。チャウ(トニー・レオン)と、チャン夫人(マギー・チャン、「欲望の翼」ではスーを演じた)が主人公となっていた。なお、チャウは「欲望の翼」のあの男なのか不明である。

「欲望の翼」と「花様年華」のあいだには、直接的な関係性は感じられない。しかし、その根底に流れる愛するという気持ちは、ある意味では共通項がある。

「欲望の翼」では、やさぐれた主人公ヨディ以外、周囲の男女ともに密かに想いを誰かに募らせていた。その行き場のない想いこそが、限りある青春という一瞬であるとでも言う様に…。そして、その瞬間は二度ともどらないと。

「花様年華」では、もう青春はとっくに過ぎた大人同士の愛のあり方が問われている。その愛は、端的には不倫となるが、愛するという気持ちは高まれど、それが許されるのか、という葛藤とのあいだで揺れ動かざるを得ない。

 愛する想いは募れども、たんなる欲望とは一線を画す大人の愛の有り様を情感たっぷりに描いた。それが「花様年華」だったといえる。

「欲望の翼」では、若い男女の想いは交差しても、その募る想いは叶わなかった。そして、「花様年華」もまたおなじく、その想いが叶うことはなかった。

「2046(ニーゼロヨンロク)」では、「花様年華」の設定が引き継がれている。タイトルの2046は、「花様年華」でチャウ(トニー・レオン)が小説を書くために借りたホテルの部屋番号だった。

 その部屋につながる廊下のカーテンは赤く染まっていた。チャウに想いを寄せるチャン夫人(マーギー・チャン)が、赤いコートを着てその部屋を訪問するシーンがとても印象深い。赤い色は、当然情熱の深さを意味しているはずだ。

「2046」の主人公チャウ(花様年華とおなじ)は、やさぐれていてまるで「欲望の翼」の主人公ヨディを彷彿させる。チャウは、妻の不倫と別れ、そしてチャン夫人との叶わなかった想いを引きずっているようだ。

 魅力的な女性であるバイ(チャン・ツィイー)との出会いも、チャウにとっては一時の慰めでしかなかった。しかし、バイはその募る想いを深くしていた。

 ダンサーであるバイは、チャウの気を惹くために別の男性を部屋に引き入れたりする。まるでチャウに当てつける様に。しかし、チャウはバイの想いを叶えようとせず、ついに別れを切り出す。

 バイの愛する気持ちは、行き場を失って絶望の淵にと追い込まれてしまう。しかし、その想いも、やがては時間の経過がやさしく包み込んでしまう。

「欲望の翼」「花様年華」、そして「2046」に共通するものがある。それは、愛する気持ちが叶わないということだ。その状況は異なれど、結果はいずれもおなじく、とても深い愛の喪失感しか残らない。

 しかし、それゆえにとても美しいといえる。それは何故だろうか。

 なお、あくまで個人的見解であることをご了承ください。いまだ観る機会が無かった人には、ぜひこの深い愛の情感を堪能して頂きたいと思います。

■2046 ニーゼロヨンロク 2004年

<スタッフ>
製作・監督・脚本:ウォン・カーウァイ
美術・編集:ウィリアム・チョン
撮影:クリストファー・ドイル、クワン・プンリョン、ライ・イウファイ
音楽:ペール・ラーベン、梅林茂

<主要キャスト>
チャウ・モウワン:トニー・レオン
タク:木村拓哉
スー・リーチェン:コン・リー
ワン・ジンウェン/WJW1967:フェイ・ウォン
バイ・リン:チャン・ツィイー
公開:2004年10月23日/日本
上映時間:129分

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