景観の重要性は、経済優先に歯止めを掛けるか
経済優先か、景観重視かで揉めていた鞆の浦に決着がついた
ポニョのモデルといわれる広島県・福山市の景勝地「鞆の浦」では、交通アクセスなどの改善を目的に埋め立て・架橋事業を行うとしていた。しかし、住民の間から景観論争が巻き起こり、約30年に渉って係争問題となっていた。
行政では、鞆港沿岸の約2ヘクタールを埋め立て、海上に長さ約180メートルのバイパス橋を架けるとしていた。これによって渋滞を緩和し、交通アクセスの利便化を図ろうという目論みであった。
一見すると利に適っているように思えるが、鞆の浦の事情を顧みると違った側面が見えてくる。とにかく、鞆の浦は景勝地として名高く、その名は全国に知れ渡っていた。そして、ポニョのモデル地となってさらに揺るぎないものとしていた。
広島県福山市の景勝地「鞆ともの浦」の埋め立て・架橋事業で、同県は事業に必要な埋め立て免許の申請を近く取り下げる方針を固めた。
これに伴い、事業に反対する住民らは訴訟を終結させる考えで、全国的な景観論争に発展した事業計画が、30年以上の時を経て、正式に断念されることになった。
反対住民らは2007年4月、埋め立て免許交付の差し止めを求めて県を提訴。県は08年6月、免許認可を国に申請したが、国が埋め立ての可否を判断しないまま、09年10月、広島地裁が「景観は国民の財産」として住民勝訴の判決を言い渡した。
景勝地とは何だといえば、人間が人工的に作り上げたものではなく、自然によって長い歴史の間で築かれたものということができる。それを一度壊してしまえば、二度と蘇ることはないと言っても過言ではない。
<名勝地(景勝地)>
景色の良い土地のこと。名勝地、景勝地ともいう。
日本における文化財の種類のひとつで、芸術上または観賞上価値が高い土地について、日本国および地方公共団体が指定を行ったもの。特に、文化財保護法第109条第1項において規定された、国指定の文化財の種類のひとつ。
それ故に、景勝地の価値は高く、未来に残す意味がある。現在に生きている人々だけによって、利便性がよくないという理由から、それを壊して人工物を造成する権利はないと言っていいだろう。
欧米云々をいうのは意に添わないが、欧州などの歴史的景勝地のなかには、狭い道路はそのままに、クルマなど通ることができない街などが多く残されている。それは、経済や利便性よりも、歴史性や景観に敬意を表した結果ではないか。
ところが、日本では(日本だけではないが)、歴史性や景観などが疎かにされて、スクラップ&ビルドばかりが重用されている。あげくに、せっかくの景観がだいなしとされていく。経済性、利便性を重視した行政は、結局は土木・建築業者、不動産業者を潤わせるだけでしかない。
そのせいで、日本全国津々浦々で画一化した景観が進んでいった。地域特有の景観を壊し、建築業者が推奨するハコモノをせっせと造りあげた。そして、いまや地方はどこに行っても似たような街並や景観のオンパレードとなっている。
行政は、近代化、または現代化することが地域発展のためと勘違いしている。いや、穿った見方をすれば、行政側の利に適った結果なのかもしれない。それが何を意味するかは想像におまかせするが…。
「鞆の浦」の埋め立て・架橋問題で、裁判所は次のような判断を下している。
曰く、「景観は国民の財産である」と。
これは言うまでもなく、現在に生きる人々のためにだけ景観はあるのではない、ということを意味している。
これを機会に、日本の景観論争がより活発となり、経済優先の開発ではなく、自然や歴史と共有していく流れが大きくなることを願います。
鞆の浦だけではない、景勝地の景観問題
神奈川県・逗子市小坪地区に、高さ130メートルの高層ビルが計画されています。この小坪という地区は、自然豊かな海辺の町であり、当然のように景観も素晴らしい場所である。ここに、高層ビルが建つというのは何故か。
どうやら、オリンピック目当ての事業構想らしい。ホテルが足りない首都圏の需要を見込んだものであるのは間違いないようだ。それにしても、この景観地になんで高層ビルが必要かと思わざるを得ない。たぶん、経済性を考慮した結果だろう。
しかし、もし高層ビルが建った場合、その景観はいかがもんか。高層ビルから眺める景色は、さぞ素晴らしいに違いない。一方、ビルの外から眺める景色はどうだろうか、高層ビルが景観をだいなしにしているのは間違いない。
高層ビルのなかでは気が付かないが、景観にとっては大きな迷惑でしかない。こういう事業を推進する人々は、高層ビルの経済性だけで完結していて、きっと周りが見えていないと思われる。
オリンピックが終わったあとは、マンションにでも衣替えして売るつもりかもしれない。何故なら、素晴らしい景観が壊された地区にわざわざ行く観光客などいるはずもないからだ。不動産屋はそこまで考えているはずだ。
この高層ビル計画は、地元民の反対で行政も事業計画を却下したといわれている。しかし、また雲行きが怪しくなっきたそうだ。なんでも、国の後押しでプロジェクトが推進されるかもしれないとか。
昨年、私たちは県知事とJOC、そして逗子市長宛てに最終的には18,780名の直筆署名と21,539名のchangeでの賛同署名を添え要望書を提出しました(数は逗子市長宛てのもの)。
また、逗子市では私たち以外にも多くの方が声を上げ、7件もの陳情が提出され12月半ばには実質的に高層ホテルの拒否決議を市議会が可決。条例の主旨から外れた高さの建築と市有地の利用を前提とした計画を認めることなく、住民の理解と積極的な情報公開を求めるというものです。
もう大丈夫じゃないか?、高層ホテルは無理ではないか?、そんな風に希望を抱いていました。
ところが、「(仮称)三浦半島魅力最大化プロジェクト素案」というものが新たに俎上になっているとか。
これは、国家戦略特区の特例を活用した「新たな宿泊施設・観光施設の誘致」を行うというプロジェクトらしい。この特例では、都市計画で定めた容積率などが緩和され、逗子市で制限していても、反対の声が上がっていても、住民の合意すらなく高層ホテルが建てられる可能性があるそうです。
これは逗子・小坪だけでなく神奈川県全域でも同じだそうです。他県でもおなじようなことが計画されているかもしれない。
いやはや、そもそも魅力化とはどういうことなのか。高層化なのか、それが懸念されるがいかに。
生活地へ―幸せのまちづくり 浜野安宏
愛する我が街を持て、護れ、再生せよ。都市の過剰な高層化、巨大商業による地域社会の均質化に待ったをかけ、再生への具体的な行動作法を公開。
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