■ドラマ|前略おふくろ様 純朴な青年と周囲の人々が織り成す青春物語

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純朴さと下町情緒が切なくも愛しくなる

「前略おふくろ様」は、失われゆく情緒が残る東京下町・深川の料亭を舞台に、ひたむきに生きる純朴な板前の青年と周囲の人々が織り成す人間模様をコミカルに、また切なく描いた青春ドラマ。1975年〜77年までに第2シーズン(全50話)まで放映された。

 主演は萩原健一、カルトドラマとなった「傷だらけの天使」(1974年〜75年)の主演を経て、ふたたび伝説となるドラマへの出演となった。企画・原案は倉本聰、脚本は倉本聰、市川森一、金子成人、高階有吉が担当している。

 このドラマで萩原健一は、「傷だらけの天使」のアウトローから一転して、純朴な青年を演じてイメージチェンジをしている。また、東映ヤクザ映画で注目されていた室田日出夫と川谷拓三が、一般にも知られることになった。おなじく、ヤクザ映画が多かった梅宮辰夫も新たな魅力を発揮していた。

 このドラマは、二重の意味で切なさと愛しさが漂っていた。なぜなら、純朴と下町情緒(人情含む)という、時代の変化によって失われゆくある要素が盛り込まれていたからだ。しかし、それは前面には出さず、淡々と描くことで人間模様をより際立たせていた。

前略おふくろ様 お元気ですか


引用:http://pds.exblog.jp/pds/1/201007/01/78/b0100078_13454643.jpg

「前略おふくろ様」の冒頭シーンがとても印象的である。大抵はサブが母親に手紙を書くシーンであり、それにサブこと片島三郎(萩原健一)のモノローグが重なっていた。そのあとタイトルバックとなり、テーマ曲が流れてくる。

 この冒頭の一連の流れが、実によくできていた。毎回観るたびに否が応もなく、切なくも愛しくなるような想いが込み上げてきた。とくにテーマ曲が秀逸であり、情緒性も豊かに、失われゆくものを愛しむかのようなメロディーを奏でていた。

 萩原健一は、「傷だらけの天使」で反抗心に満ちたアウトローを演じて、それがあまりに嵌りすぎてカリスマ的な人気俳優となっていた。当時の傷だらけのファン達は、当然のように続編を期待した。しかし、当の本人はそれを否定するかのように、ある意味では対極にある「前略おふくろ様」に出演した。

「傷だらけの天使」は、常識、既成概念などから遠く離れ、いわば不条理に対する反抗心に満ちていた。そして端的にいえば、アナーキーで破天荒なドラマだったといえる。それが、のちに伝説的なドラマといわれる由縁ともなっていた。

失われゆく下町情緒や人情に対する哀悼になっていた?

 それに対し、「前略おふくろ様」は、失われゆく日本の伝統や情緒、東京の下町、老舗料亭、純朴な青年、それらが絡み合うように展開するドラマだった。それは想像するに、失われゆく下町情緒や人情に対する哀悼になっていたと思われる。

 主人公の片島三郎(萩原健一)は、まじめで純朴一筋の青年であり、仕事(板前)にはひたむきな姿勢で努力をしている。「傷だらけの天使」のアウトロー木暮修とは、まるで正反対にいる人間であるのは間違いない。

 とにかく、前述したように破天荒な「傷だらけの天使」とは表面的には対極にあるドラマだったといえる。とはいえ、時代の変化とともに人間を取り巻く環境も変わってしまうことには、一抹の不安を投げかけていた。

 それは「傷だらけの天使」の反骨精神とは違っているが、根元の部分では日本社会の有り様に疑義を呈していたように思われる。

「前略おふくろ様」は、ただひたすらに、失われようとしている下町情緒や人情を愛しみつつ、それでも時代は無情に流れていく、という様子を淡々と描いていた。時代の変化に抗っても、それは叶わないとでも言うようにである。

 まさに、失われゆくものに対して「切なくも愛しい」という、そんな想いが詰まったドラマだった。(あくまで個人的な見解であるが)

 ついでにいえば、このドラマの時代(70年代)にまだ残されていた日本の情緒性や人情は、2017年現在では、ほぼ跡形もない。それは間違いないと思うがいかに。

前略おふくろ様 第1話の冒頭シーン

 いまでは語り草となったモノローグではじまる冒頭シーン。企画・脚本の倉本聰は、のちに「北の国から」(1981年〜)でもこの手法を踏襲している。

モノローグ(サブ)
前略おふくろ様 
長いことご無沙汰しております。
おれは元気にめいっぱいまじめに…

(サブ=手紙を書きかけのまま眠っている)

モノローグ(サブの母親)
前略三郎様
これでまる一年あなたの手紙をもらっていません。
母は、ちっとも心配はしていませんが、
生きてるか、死んでるか、それだけ簡単にお知らせください。
生きてる場合はいざしらず、死んでる場合は、
お葬式とか、いろいろ都合がありますから。

ご存知の様に、こっちには結婚式とかお葬式とかが、
好きな親戚がいっぱいおります。
あなたが死んだと聞いたら、きっとタダ酒が飲めると
大喜びで集まってくるでしょう。

あたしも苦労の種が減って、こんなうれしいことはありません。
母に期待ばかりさせていないで、死んだなら死んだと
一刻も早く知らせてちょーだい。

母は、遠く山形からどきどき期待して待っています。

(サブ=起き上がって鼻をかんで、また眠りにつく)

タイトル「前略おふくろ様」、そしてテーマ曲が流れる。

母親からの手紙は、息子を想う気持ちが込もっていて思わず切なくも愛しくなる。

現代では想像しにくいが、当時(70年代)はメールなどはなかった。電話はあっても、想いを伝えるには手紙が唯一の手段だった。
前略おふくろ様のみどころ


引用:http://4.bp.blogspot.com/-vjNEMCEJnaE/UeZggBsqbpI/AAAAAAAABz4/vsiJ5Kyorqw/s1600/mo0.jpg

「前略おふくろ様」のどこが面白く、また観る価値があるか、それを要約してご紹介いたします。なお、あくまで個人的な見解であることをご了承ください。

<ドラマの設定に意外性がある>
 東京下町、深川、料亭、そして主人公が板前という地味な設定が、過去にはないドラマの発想として意外な効果を上げていた。

 朝の連続ドラマやホームドラマでよく見かける人情物語とは一線を画していたのは言うまでもない。あくまで純朴な青年が成長してゆく青春ドラマであり、その背景に情緒や人情という下町風情が溶け込んでいた。

 たんなるホームドラマにならなかったのは、脚本はいうまでもなく、出演陣の好演によるところが大きいと思われる。配役も見事な適材適所となっていた。

<萩原健一の演技が見事>
「傷だらけの天使」では、アナーキーで破天荒な主人公を演じたが、それとは一転して、純朴でひたむきな板前の青年を独自性溢れる演技で魅せている。

 主人公・片島三郎は、小心で自己主張がうまくない。そんな三郎を、おどおどするときの顔の表情や、独特のしゃべり方、間合いの取り方などで個性的に表現していた。それはあきらかに萩原健一にしかできないものであった。

 いわば萩原健一は、俳優として唯一無二であることを証明していたといえる。

<室田日出夫と川谷拓三>
 ふたりとも、東映のヤクザ映画では常連だったが、一般には馴染みがなかった。それを抜擢した製作陣の目の付け所が慧眼だったといえる。気性が荒く、暴力的というところは活かしつつ、一方でこわもての可愛いところを見せている。

 こわもてが可愛いかった、という意外な演技が受けたのは言うまでもない。その後、室田日出夫と川谷拓三は、俳優として活躍の場を広げていった。

<音楽がドラマを盛り上げる>
 テーマ曲は言うまでもなく、劇中に流れる音楽もまたドラマを盛り上げていた。どの曲も、情感をたっぷり染み込ませたような仕上がりとなっていた。

 作曲は、萩原健一とはグループサウンズ時代以来、縁浅からぬ井上尭之と速水清司である。演奏もまた井上尭之バンドとなっている。

 日本の情緒性が感じられて、どこか懐かしくもあり、それを愛おしむかのような哀愁を帯びたメロディーとリズムが特徴である。

他にも、若かりし頃の桃井かおりや、小松政夫のコミカルな演技など、みどころはたくさんある。
ストーリーおよび登場人物


引用:http://pds.exblog.jp/pds/1/201303/29/99/f0089299_14294132.jpg

<ストーリー>
 小心で純朴な母親思いの青年、片島三郎(24歳)は、東京下町・深川の料亭「分田上」で三番板前をしている。山形県上山市蔵王出身で8人兄弟の末っ子であり、集団就職により上京していた。母親には長いこと連絡をしていなかった。

 仕事場では先輩の秀次や政吉からは「サブ」、おかみさんや中居さんからは「サブちゃん」、親戚の海や鳶の利夫からは「お兄ちゃん」と呼ばれている。そして女性にはなぜかよくモテた。鳶の頭領の娘かすみからも好意を寄せられるが、本人はどっちつかずの態度を取っていた。

 純朴で仕事にはひたむきな片島三郎を中心に、かれと周囲の人々が織り成す人間模様を失われゆくある下町情緒を絡めながら描いていく。

<主要な登場人物>
片島三郎(萩原健一)
 山形から集団就職で上京し、東京下町の老舗料亭で板前をしている。純朴な青年であり、仕事にはひたむきな情熱を傾けている。

 萩原健一は、「傷だらけの天使」では、毎回デザイナーズブランド「メンズビギ」の洋服を粋に着こなしていたが、「前略おふくろ様」では、一転して髪を短くし、伝統的な料亭板前の装いでほぼ通している。

 しかし、そこはショーケンである。なんでもない板前の装いが実に格好いい。白い板前服に料亭の法被を着て、足元には雪駄を履いていた。板前の伝統的なファッションと言っていいだろう。それを自分なりに着こなしていた。

村井秀次(梅宮辰夫)
 三郎が尊敬する先輩、老舗料亭「分田上」で花板をしている。ヤクザ映画への出演が多かった梅宮辰夫がイメージチェンジを果たした役だった。また、自らの趣味でもある料理の腕前が、演技にも活かされていたようだ。

政吉(小松政夫)
 老舗料亭「分田上」の向こう板(2番手)をしていている。三郎の先輩にあたる、三郎とのコミカルなやりとりが面白く、ドラマにリズムを与えていた。

岡野海(桃井かおり)
 三郎のはとこ。突然、三郎の前に現れていろいろと問題を起こしていく。桃井かおりが、自由奔放な娘を好演している。

渡辺かすみ(坂口良子)
 三郎に想いを寄せている。鳶集団である渡辺組の親方の娘。料亭「分田上」で中居をしている。

浅田ぎん(北林谷栄)
 料亭「分田上」の女将。元は「深川小町」と呼ばれた美人芸者。生粋の江戸っ子で口は悪いが人情には厚い。

浅田ミツ子(丘みつ子)
 料亭「分田上」の若女将。ぎんの娘、養子の夫は不倫して家を出ている。

半田妻吉(室田日出男)
 深川の鳶集団、渡辺組の小頭。通称「鬼の半妻」といわれる。室田日出男は、ヤクザ映画「仁義なき戦い」などで注目されるが、一般にはあまり馴染みがなかった。このドラマ出演で好演し広く知られる様になった。

利夫(川谷拓三)
 深川の鳶集団、渡辺組の鳶。気性が荒く、三郎はなんども絡まれてしまう。川谷拓三も室田とおなじく、ヤクザ映画への出演で注目された。萩原健一が、その映画を観て、ぜひ共演したいと製作陣に頼み込んだといわれる。

片島益代(田中絹代)
 三郎の母親。なんと伝説の女優、田中絹代が演じている。ちなみに、田中絹代はドラマの第2シーズンが終了する少し前に亡くなっている。享年67歳だった。


Hagiwara Kenichi Zenryaku Ofukurosama 投稿者 jrapaka2
前略おふくろ様 主題歌 歌:萩原健一(AMPサイトでは視聴できないかもしれません。その場合はリンク先で視聴してください)

<スタッフ>
企画・原案:倉本聰
チーフ・プロデューサー:梅谷茂(日本テレビ)
プロデューサー:清水欣也、武井英彦(日本テレビ)、平島定夫、工藤英博(渡辺企画) 
脚本:倉本聰、市川森一、高階有吉、金子成人
演出:田中知己、吉野洋、高井牧人
音楽:井上堯之、速水清司(演奏:井上堯之バンド)
製作:日本テレビ、渡辺企画

冒頭写真:片島三郎(萩原健一)
http://image.space.rakuten.co.jp/lg01/95/0000919795/88/imgec1468a6zik4zj.jpeg
参考:ウィキぺディア、ほか

追記:
現代のドラマにはない唯一性や良心性が残されたドラマといえる。ぜひ、若い人たちに観てもらいたいと思うがいかに。

前略おふくろ様 DVD-BOX
東京の下町を舞台に、照れ屋な板前の青年と周囲の人々との触れ合いを描いた青春ドラマ。出演は萩原健一、梅宮辰夫、田中絹代ほか。
前略おふくろ様 DVD-BOX

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