それ!は、どこからやってきた?
「遊星からの物体X」は、B級映画のカリスマと云われるジョン・カーペンター監督のSFホラーの傑作である。
公開年の1982年は、SF映画の金字塔である「ブレード・ランナー」も公開されている。「遊星からの物体X」は、1951年の作品のリメイクであるが、より原作に近いと云われている。
当初、この企画に難色を示す製作会社によって、その実現性が危ぶまれたが、79年のエイリアンの大ヒットにより製作されることになった。
70年代後半から80年代の初頭にかけて、SF映画の傑作が連続して製作されている。「スターウォーズ」、「エイリアン」、「ブレードランナー」、そして「遊星からの物体X」である。これらは、当然ながらCGが全盛となる以前の作品である。
そこでは、ミニュチュア模型、特殊メイクアップ、マットペインティング、セットデザイン、特殊撮影などアナログな技術と知恵を結集して創られたものが発する、独特の個性が感じられる。
いまでは、この手の映画は全編にわたりCGが多用されることは当たり前であるが、何故かクオリティーは高いが、個性が感じられない。
その個性がないとは、他とは違うという差別化できる要素が見当たらないことである。もっと、端的に云えば、似たり寄ったりと云うことも出来るだろう。
遊星からの物体Xに登場するクリーチャーはCGではない、等身大の模型?と特殊メイクアップ、そして特殊な撮影方法によるものである。しかし、CGよりもリアルな感覚をもって観ている側に迫ってくるのである。
遊星からの物体X[THE THING]
<ストーリー>
舞台は南極である。1982年冬、アメリカ南極基地に向かって一匹の犬が、何かから逃げるように走っていた。それを追うヘリコプターがいた。ヘリからは犬に向けて銃が連射されていた。
基地に逃げ込んだ犬を目がけて、ヘリの搭乗員が発砲を繰り返す。基地のスタッフが、それに対応して発砲しヘリの搭乗員を殺してしまう。
起きた出来事に呆然とする基地のスタッフたちは、戸惑いながらもヘリがやってきたノルウェー基地を目がけて探査へと向かった。
ノルウェー基地では、異様な光景が広がっていた。基地には、何かを記録したビデオが残されていた。それを持ち帰り観てみると、ノルウェー基地のスタッフは南極の深い氷のなかから、何かを発見し持ち帰ったようであった。
何かを発見した場所を目がけて、再度探査に向かった。そして、その場所には、宇宙船らしき物体があった。そして…。
緊張感と期待感を膨らませる、SFホラーの傑作
映画の冒頭シーン、雪原を追っ手から逃げる犬
上記したのは、ストーリーの冒頭部分である。この冒頭部分が、何とも云えない緊張感と期待感を膨らませる心憎いほどの演出である。また、犬がヘリに追いかけられて雪原を走るシーンの背景に流れる音楽は、得体の知れない何事かを象徴するような響きで観るものの期待感をさらに煽るのである。
南極というある種閉ざされた空間で起こる、これからの出来事がただ事ではないことを想像させる巧みな演出である。
さすが、恐怖感の演出に長けたジョン・カーペンターである。カリスマと云う称号が、伊達ではない証拠である。決して大作ではないが、南極基地やその室内の様子など、細かい部分もよく再現されていてリアリティーも申し分ない。
そして、もっとも重要なクリーチャーのデザインであるが、当時、若干22歳という若さであったロブ・ボッティンが担当した。このクリーチャー・デザインは、大変評価も高く、その後のCG全盛時代にも多くの影響を与えたと云われている。
DVDにある特典映像のなかで紹介されているが、宇宙船が埋まっていた雪原のクレーターは、マット・ペインティングで出来てるらしい。なんとも壮大な光景に映像では見えるが合成である。当然、いまならCGだろうが…。
しかし、そんんなこと気にすることないぐらいリアリティーがある。昨今、シチュエーション・スリラーなるジャンルが人気であるが、本作やエイリアンなどはその類いの映画にとっての先駆けとなったのではないか、と思うのである。
氷に閉じ込められていた宇宙船
エイリアンでの異性物は、人間に寄生し成長するという設定であった。本作の異性物は細胞単位で生息し、人間のなかに入り込み同化するという、さらにやっかいな設定になっており、よって「それ」から逃れる方法があまりない。基地のスタッフたちは次々と異性物に同化されてゆく。
そして同化した人間は焼却することでしか異性物を殺せない。残った人間たちは、絶望のはてに、最後は焦土作戦に討ってでるが、これは未来のない戦いである。
そして結末は…。この文字どおりに映画は終わるのである。何とも余韻の残るエンド・シーンである。
遊星からの物体X(原題:The Thing)
<スタッフ&キャスト>
監督:ジョン・カーペンター
脚本:ビル・ランカスター
原作:「影が行く」ジョン・W・キャンベル
音楽:エンニオ・モリコーネ
配給:ユニバーサル・ピクチャーズ
公開年:1982年
主演:カート・ラッセル
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