欧米人はオカルトが好きらしい!
ロマン・ポランスキー(以下、ポランスキー)ほど、妖しげな雰囲気が漂う映像を撮らせたら天下一品の監督はいない。デビッド・リンチの師匠と云っても良いぐらいである。ポランスキーが、ハリウッドにやってきてはじめて撮ったのが、映画「ローズ・マリーの赤ちゃん」である。
この撮影時、スタッフ、キャスト、製作のほとんどがポランスキーの演出に懐疑的だったそうだ。当時としては演出方法が独特だったこともあり、映像としてどう繋がるのか分らなかったのである。しかし、スタッフ、製作者への試写会ではじめて目にしたその映像にみな驚いたそうである。
何とも云えない恐怖感、怪しげであり不気味な雰囲気を漂わすその空気感に驚かされたのである。ポランスキーは、このとき、ハリウッドでの地盤を築く足がかりを確かなものとしたのである。
ナインスゲート/ロマン・ポランスキー監督
ロマン・ポランスキーの本領発揮!
「ナインス・ゲート」は、そんなポランスキーが久しぶりに本領を発揮した映画である。ロサンゼルスで起こした未成年者レイプ事件以来、アメリカを脱出しヨーロッパに逃げていたのである。したがって、ハリウッドとは疎遠になっており、その活動はヨーロッパが拠点となっていた。
そんななか、久方ぶりに公開されたのが「ナインス・ゲート」であった。
主役には、ジョニー・デップを迎えている。個人的には、「チャイナタウン」のジャック・ニコルソンが適役だったように、本作でのジョニーもまさに適役であった。どこか投げやりで太々しい態度、かつユーモラスな言動という役どころは実にはまり役である。
本作のテーマは、古書の稀観本「影の王国への九つの扉」である。この本は端的に云えば、悪魔の手引書である。ちなみに、映画は、原作の一部をクローズアップしたものだそうである。
欧米では、古書の収集家というものが存在するらしい。それは、大金を出して収集するお金持ちである。このような人達を顧客に古書の売買を手がけるのが、ジョニー・デップ演じるコルソである。このコルソは業界内で有名なやり手の古書ブローカーである。その手口はけっして良心的とは云えず、嘘もうまい。
しかし、どこかに金持ちに対する反発のようなものが感じられる。所詮、持ち主も買い手も金持ちであるからという心構えである。このように太々しいコルソのもとに、金持ちの出版社オーナーから三冊ある「影の王国への九つの扉」の真贋を調査するよう依頼される。それはいわゆる悪魔の書であった。
ここから、映画のなかでは怪しげで、不気味な雰囲気が色濃く漂ってくるのである。
舞台は、主にヨーロッパである。古書と悪魔とヨーロッパは、とても相性が良いようである。宗教と対立する悪魔、それに付随する古書、そして歴史あるヨーロッパの景観、これらが見事に融合して発する魅力は、深い味わい感でいっぱいである。これは日本人には、ぜったいに出来ない芸当であろう、と思う。
なぜなら、日本人には悪魔という存在が、宗教上いまいちピンとこないからである。また、映画に出てくるヨーロッパの雰囲気(室内外の景観)が魅力的である。金持ちの蔵書室、ホテルの雰囲気、その室内、朽ち果てた貴族の家、壮大な貴族の館などをを眺めるだけでも楽しめるのである。
ポランスキー監督は、何故このような魅力溢れる雰囲気やサスペンスを構築できるのか。それは、生い立ちも関係しているようである。なんでも、かれの親族はほとんどナチの収容所で死んでいるそうである。かれ自身はなんとか、かろうじて生き延びたのである。
さらに、ハリウッドで成功した後、妻で女優のシャロン・テートをマンソン・ファミリーに殺されている。このように、普通人ではとうてい味わえない苦悩を抱えていたと考えるのは、早計か?。
ナインス・ゲート|ストーリー
古書専門の売買ブローカーであるコルソは、ある日、出版社のオーナーであるバルカンからこの世に三冊ある「影の王国への九つの扉」の真贋を調べるように依頼される。
この本は、悪魔を呼び出す手引書であると云われたものである。コルソは、他の二冊の持ち主を訪ねて、その違いを調べていくうちにある事実を発見する。
その後、持ち主は次々と殺されていく、コルソにもその手が迫っていた。そして、コルソはバルカンの真の目的を知ることになるのだが…。
<スタッフ&キャスト>
監督・脚本:ロマン・ポランスキー
原作:アルトゥーロ・ペレス=レベルテ『呪いのデュマ倶楽部』(集英社)
コルソ:ジョニー・デップ
謎の女:エマニュエル・セニエ(ポランスキーの妻)
貴族の女:レナ・オリン
上映時間:133分
公開年:2000年(日本)
以下は、ナインスゲートの原作本。
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