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■映画|ラスト・タイクーン 映画、それが人生だ!

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ハリウッドの黄金期に現れた映画の天才!


主人公を演じたロバート・デニーロ

ラスト・タイクーン それはハリウッドの夢の後

「ラスト・タイクーン」は、実在した映画製作者をモデルとした物語である。そのモデルの名は、アーヴィング・サルバーグである。彼は、映画の天才と当時のハリウッド(1920〜30年代)では言われていたそうである。

スコット・フィッツジェラルドの遺作であり未完の「ラスト・タイクーン」を原作としたこの映画は、1976年にエリア・カザン監督作として公開された。70年代には、1920年〜30年代を舞台とした傑作がいくつか製作されたが、この映画もそのひとつである。この映画の前、1974年には、同時代を描くポランスキー監督の「チャイナタウン」が公開されている。両作品に漂う雰囲気は、どこか似ているような気がする。それは、題材の時代性のなせる技か。

当該ユーザーは、公開時には観ていない。それどころか、この映画を知らなかった。フィッツジェラルドの作品「グレート・ギャツビー」を読んだ頃にこの映画のことを知ったように思うが、それもたしかではない。とにかく、公開からずーと後になって知り、いつか観たいと思ってはいたが、ビデオレンタル屋にはなかった。その後はしばらく忘れていたが、ごく最近になってツタヤの復刻版レンタルでようやくのこと観たのである。

期待したどおり、映画の出来具合は申し分なかった。と個人的には感じた次第である。時代の雰囲気がとてもよく表現されていて素晴らしい。映画製作がいわばもうひとつの主人公であり、その描写は非常に丹念にされていた。エリア・カザンはやはり才能のある監督である。現在では、50年代の赤狩りのときに仲間を売ったこともあり、いまいち評判がよくない気がするが、その才能はたしかであった。

舞台である1930年代(モデルのサルバーグ晩年期)のハリウッドの雰囲気が、良く描かれたこの映画は、まるで黄金期のハリウッドの夢を追体験するかのようである。


事務所の100萬弗の椅子(と言われた)に座る主人公

映画黄金期の製作風景が、とても興味深い

個人的には、ストーリーよりも物語の背景となっている映画製作の現場風景がとても興味深かった。CGなど無い時代の撮影風景は、まるでアンティークの家具のような雰囲気である。スタジオ、セット、照明装置、衣装、化粧部屋などどれも見事な再現ぶりである。当時のスタジオを実際に見た訳ではないが、そう思うしかないほど素敵なセットや装置である。

主人公である映画製作者は、映写室でラッシュを観ながら編集に次々と指示を出していく。現在の映画製作でプロデューサーが編集を実際に行うことはないと思うが、当時は違ったようである。1930年代にも編集担当がいたはずであるが、この主人公は自らが最終編集権を有していたようである。とにかく、ばっさりと思い切り良くフイルムを切り刻んで行く。

この映画のモデルとなった「アーヴィング・サルバーグ」に関した書物を読むと、彼は実際にフィルムを編集する能力に長けていたとある。映画会社と監督の芸術性のあいだでうまく調節するかのようにフィルムを編集、カットしたりする能力は天才的であったと誰もが認めていたそうである。しかも、そうすることで映画をヒットさせて、会社に大きな利益を与えていた。いまでは、彼は神話そのものである。

サルバーグは、まだ映画の頂点にいるうちに亡くなってしまった。セルズニック(「風と共に去りぬ」の製作者)のように晩年になって失敗を繰り返すこともなかった。彼は、ハリウッドが栄華を誇る最高のときに仕事をし、そして去って行った。ハリウッドの黄金期は、サルバーグと共にあったと言っても過言ではないだろう。


上/サルバーグの肖像写真 下/サルバーグとノーマ・シアラーの結婚式

■アーヴィング・サルバーグ(1899〜1936)伝説の映画製作者

1923年、若干24歳でMGMのスタジオの副所長となる。以後は「映画の天才」として、また「ハリウッドの貴公子」としてその名を轟かした。

20年代〜30年代のMGMの黄金期は、「夜空の星の数より多いスターをもつ」と言われた。それを支えたのが、まさにサルバーグであった。

彼は、映画製作の文字通り天才であったらしい。彼の元ではどんな困難も立ちどころに解決したという逸話が残されている。そして、事務所の彼の椅子は「100万弗の椅子」と言われたそうである。

彼は、誰よりも早くスタジオに来て、誰よりも遅く帰ったそうである。34歳の時過労が元で倒れる。9ヶ月の療養の後復帰するが、その2年後また倒れて37歳の若さでこの世を去った。

この映画では、主人公モンロー(サルバーグ)は、妻に先立たれたという設定であるが、実際はサルバーグのほうが、妻ノーマ・シアラーに看取られて亡くなっている。

彼が亡くなった後、アカデミー賞では彼の功績をたたえてアーヴィング・サルバーグ賞というものを設けている。

■原作者F・スコット・フィッツジェラルド(1896〜1940)

フィッツジェラルドは、ハリウッドの貴公子サルバーグとは会ったこともなかった。彼が、ハリウッドに脚本家として招かれた頃には、すでにサルバーグはいなかった。しかし、伝説は残されていた。聞かされるサルバーグの逸話の数々に触発されて「ラスト・タイクーン」の構想を思いついたようである。

この原作を書いた当時、フィッツジェラルドは、妻ゼルダを療養院に預け単身でハリウッドにいわば出稼ぎに来ていた。そこでは愛人シーラ・グレアム(ゴシップライター)と住んでいた。相変わらず酒飲みで荒れた生活をしていたそうだ。再起をかけた「ラスト・タイクーン」執筆途中、長年の不摂生が元で亡くなっている。44歳であった。

■The Last Tycoon 1976年

監督:エリア・カザン
脚本:ハロルド・ピンター
原作:F・スコット・フィッツジェラルド
製作:サム・スピーゲル
出演者:ロバート・デ・ニーロ
   :ジャック・ニコルソン
   :トニー・カーティス
   :ロバート・ミッチャム
   :ジャンヌ・モロー
製作会社:パラマウント映画
公開:アメリカ合衆国 1976年
  :日本 1978年
上映時間:123分
 
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