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■企業|アパレル業界の業績が低迷する 専門店の閉店ラッシュが止まらない

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アパレルのアベノミクス効果は長続きせず

店舗撤退が加速するアパレル専門店

 一時期はアベノミクス効果で高価格品が売れたといわれていたが、それもほんのつかの間であり、最近ではその高価格品も売れなくなったそうだ。インバウンド消費も一段落し、百貨店は投下した資金を回収できそうもない。

 アパレル業界(衣料品の製造・小売などの総称)では、2015年頃から事業の縮小、撤退などが多くなっている。これまでブランドを多発して、多店舗化を推進してきた専門店チェーンほど業績の下振れリスクが拡大している。

 2015年、アパレル大手のワールド、TSI(旧東京スタイル)などは、いくつかの事業子会社の整理、ブランドの廃止、店舗の閉鎖を余儀なくされている。ちなみにワールドは、ほんの10年前ぐらいにはSPAの優等生として持ち上げられていた。

<SPAとは…>
製造から小売まで一貫した体制で行う業態のこと。

 2016年、ギャップは低価格ブランド「オールドネイビー」を日本から撤退させた。ユニクロも、価格改定と、売上目標数値を下方修正している。おなじく、アパレルの有力販売先である百貨店も閉店ラッシュを迎えている。

 消費者の生活背景には、「少子高齢化」「非正規の増大」「実質賃金の低下」など、アパレル消費を縮小させる要因が横たわっている。さらに、スマホを主流とするネット関連消費もあり、衣料品に使う費用も限られてきている。

 要するに消費者の価値観の変化が顕著となって現れている。

 そのような背景のなかで、アパレル関連企業は、数値主義に偏った経営をしてきた。それは各種データに基づいた効率、合理的な手法であったが、それが逆に仇となり、似たり寄ったりのブランドや製品が跋扈してしまった。

 ブランドを多くして、多様なニーズに応えようとしたが、データに基づいた製品づくりをした結果、製品はどこも似通ってしまった。いったいブランドの個性や価値は、どこにあるのかが問われたのは言うまでもない。

 そして、現在多くのブランドが淘汰され、店舗も閉鎖されてしまった。

 計画上の数値では売れるはずだった、店舗を増やせばそれだけ収益も増大するはずだった。しかし、消費するのは顧客である。その動向を数値では判断できなかったといえる、それは消費者=人間の変化を読みとれなかったと同義である。

 アパレル業界では、これまでの経営手法が通じなくなった、と言うことができるだろう。流行をマスメディアとともに作り上げて、それを有名人などを通じて世間に浸透させていく。いわゆる、AIDMAの法則をなぞればよかった。

 そして、消費者がブランドに飽きたら、また新しいブランドを立ち上げればよかった。それで十分に購買動機を刺激できた。

 しかし、時代は変わった。ネットの時代となり、中途半端な仕掛けなどは背景が透けて見えるようになってしまった。旧態依然の古い価値観で無理を通せば、むしろ逆流を起こして何の効果も得られない。

 いまアパレル業界に求められるのは、ブランドの存在意義や顧客との関係式を見直し、製品やサービスの仕組みを作り直すことにあると思われるがいかに。

 ちなみに、海外ではすでに新しい価値観に見合う業態が登場している。

2016年アパレル業界動向
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アパレル業界の常識がもう通じない

かつてアパレル業界が、我が世の春を謳歌した時代があった

 それは70年代から80年代にかけて、ファッションが世の中の重要な関心事になった時期である。女性誌では、ananやnonnoなどが部数を増やしていた。

 70年代には、多くのデザイナーが登場し自身のブランドを設立していた。やがて80年代となり、かれらを中心にしたデザイナーズブランドの大ブームが到来していた。当時の若者の間では、デザイナーズブランドを身に着けることが、いわば価値共有のコミュニケーション手段ともなっていた。

 当時のデザイナーズの服は、かなり割高であった。しかし、デザイナーズの服ということで、消費者もいわば納得していた。しかしいま思えば、その品質はとんでもなく悪かった。デザイン性はあっても長く着れるものではなかった。

 のちに知ったが、デザイナーズブランドの製品は、工場価格の4倍以上していたらしい。たしかではないが、業界の人からそう訊いた覚えがある。大儲けしたのは間違いない。その証拠に、ブランドの経営者たちは代官山や渋谷、青山、六本木などに次々と自社ビルを建て始めていた。

 その代表格が、ビギグループである。ビギというブランドは、もとはデザイナーの菊池武夫をメインに据えたブランドであった。しかし、すぐに多ブランド展開をはじめている。それは、いまの多くのブランドの先駆けとなっていた。

 当時のビギの社長(菊池ではない)は、ひとりのデザイナーに依存した経営では限界があることから、複数のデザイナーのブランドを設立していた。それが功を成してビギグループは、並み居るデザイナーズのトップに立つことができた。

 そして、その次にしたことが現在のアパレルの問題点を象徴している。

 ビギでは、さらなる売上増を目指して、ブランド間で売れ筋を共有していくことにした。要するに売れ筋を追求し、効率よく販売しようとした。その結果、各ブランドの個性が失われて、似たような服ばかりが出回るようになってしまった。そのあたりから、顧客離れが顕著となってビギは失速していく。

 しかし、ビギにはすでにストックした資産が多くあり、徐々にアパレルから不動産業にシフトしていた。いまでは、アパレル業界での存在感は無いに等しいが、主な収益は不動産業(ホテルやレストランあり)で稼いでいると思われる。

 アパレルでは、MD(マーチャンダイジング)という企画担当と、営業が打ち合わせしながら商品政策を進めていくといわれる。営業はデータを中心に売れ筋を、MDはブランド特有の個性的なものを主張する。

 例えば、上記のビギグループでは、営業7、MD3という比率で商品化が決定されていたとか。これは、デザイナーズということでMDの方針が考慮されていた。しかし、いまの多くのブランドでは、営業9、MD1という比率だといわれる。

 さらにいえば、現在のアパレルは多ブランド化に対応するため、自社企画ではなく商社やOEM(他ブランドで企画・製造する業者)への依存度を高めていた。これは、いうなればアパレルのノウハウを他に委託していたことに他ならない。

 とすれば、おのずと製品が似通ってくるのは否めない。いわば経営の効率化を追求した結果、ブランドは死に至ったといえるだろう。

 別の意味でいえば、データをブランドの理念や存在意義より上に位置づけることで、顧客の信頼は失われていった。顧客は、なにも売れ筋が欲しい訳ではない。ブランドに価値を見出していたから購入していたのだ。

 他のブランドと似たような製品ばかりとなっては、顧客が離れていくのは必然であろう。アパレル界を席巻した合理的な数値経営の泣き所が露呈している。

 やがてAIが進歩すれば、いつの日かブランドの理念やコンセプトを記憶させるだけで、より正確なブランドに適したデータを示すときがくるかもしれないが、現時点ではそれは無理筋というもんだろう。

 とにかく、アパレル業界の低迷は、ある意味では必然といえる結果だった。それは、アパレルだけに留まらず、すべての業界で起きている「人材をコスト」とする使い捨て、「効率重視」の経営方針と無関係では無いはずだ。

 「……日本は、年功序列、平等、忠誠心、画一的、出る杭は打たれる、調和、協調、足並みを揃える、学閥、官僚、暗黙の了解、不透明……。 そんな自由の反意語のような言葉がみんな当てはまる社会じゃないですか」(青色発光ダイオード(LED)の開発者、中村修二氏)

「組織の壁が厚すぎる。過去の成功経験を引きずるし、スピード感に欠ける」「日本のブランドには、哲学がない。流行に左右され、売れ筋を中心に生産する QR(クイッ ク・レスポンス)の普及で、どのブランドも同じようなデザインばかり。海外でも通用する1本筋の通った強いブランドづくりが必要だ」(カリスマ・バイヤーの藤巻幸夫氏)

 とりもなおさず、いま必要なのはイノベーションであるのは間違いない。

<価値基準の複合化・高度化>
1. 価格+品質
2. 価格+品質+品揃え
3. 価格+品質+品揃え+デザイン
4. 価格+品質+品揃え+デザイン+新鮮さ
5. 価格+品質+品揃え+デザイン+新鮮さ+店舗
6. 価格+品質+品揃え+デザイン+新鮮さ+店舗+接客
7. 価格+品質+品揃え+デザイン+新鮮さ+店舗+接客+サービス

業界の常識を覆すイノベーションとは

アパレル業界のイノベーションとはなんだろうか

 それは、既存の常識を打ち破る、誰もやっていなかったことであるのは間違いない。しかし、それが何かは簡単では無いと思われる。

 すでに高級ブランドは確立され、低価格ブランドも多発されている現状にある。価格、品質、デザイン、品揃えでは、革新的といえるブランドの擁立は難しいと思われる。それでも、デザインには若干の期待は持てるが。

 そのような背景のなかで、アメリカに常識を打ち破るアパレル企業が現れたそうである。かのユニクロもその動向に注視しているといわれる。

 それが、サンフランシスコを本拠とする「エバーレーン」という企業である。

 この会社、店舗を持たずにインターネットを通じて自社商品を顧客に提供している。これはどこにでもあるが、その先がイノベーティブである。

 このアパレル企業のすごいところは、なんといっても商品価格の内訳を明らかにしているところだ。生産コストを明確にした上で、提示価格を示している。

ファストリが恐れる米アパレル「エバーレーン」
 エバーレーンが多くの支持を得る理由の一つが、生産過程の透明性にある。生地や縫製、流通コストがどれくらいかかり、エバーレーンがどれくらいマージンをとるか、といった情報をオンラインで明確に開示する。

 例えば、下記のシャツであれば、1枚当たり生地に16.81ドル、生産地の労働力に7.59ドル、関税で1.79ドルなど費用合計が28ドル、エバーレーンがそこに40ドルを上乗せし、68ドルで販売すると開示されている。

 一方、“伝統的なブランド”では、同じ商品が140ドルで販売されているということも併記される。

 いわば、「顧客の知りたいニーズにすべて応える」という、これまでになかったスタイルである。ある意味では、業界の掟やぶりともいえるに違いない。

 このような業態を「ブランド・ディスラプター(旧来型の“ブランドを破壊する者)」というらしい。アメリカでは、この「エバーレーン」以外でもいくつか注目される企業が昨今現れているといわれる。(上のリンク先を参照ください)

 これらの業態の革新性のもとは、顧客視点であるのは間違いない。そこに焦点を当てた結果見えてきたのが、いままで隠されていたものを顧客に見える形にすることだった。案外簡単そうだが、実際は困難が多かったと思われるが。

 これを日本でやろうとすれば、業界はこぞって反対するに違いない。なにしろ、収益の構造が丸裸となるからだ。好き好んで収益の構造を晒す企業は、日本にはいないはずだ。しかし、それこそが常識であり、覆すに値する。

 ユニクロが、これはやばいと感じているらしいが、はたして日本にも上陸するか否か、それが待たれるのは言うまでもない。

 ちなみに、日本でもライフスタイルアクセント(熊本市)の「ファクトリエ」といった同様のサービスがあるようだ。これは知らなかった。ただし、品質の高さと適正な利益のために価格帯は中価格帯以上となっている。

「ファクトリエ」ウェブサイト
ファクトリエは最高の品質をあなたに届け、日本の工場を救う全く新しいファクトリーブランドです。本物の価値をもっと身近に。

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冒頭写真:ジュリアン・オピ
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