80年代にコンセプトという言葉が定着した!?
感性の時代に登場したコンセプターという申し子!
現在では当たり前に使われるコンセプトという言葉が、一般に認知されたのは80年代であったと記憶している。アート、またマーケティングの世界ではすでによく使われていたが、世間一般に浸透し始めたのは、80年代のはずである。
80年代は、その幕開けを飾った西武百貨店のスローガン「不思議大好き」が、時代の趨勢をすでに予知していたように、感性という曖昧なものが時代を支配した。
趨勢=動き、勢いの意。
そのような時代に、企業活動の中心的役割を果たしたのが、マーケティングであった。70年代までのセールスプロモーションという概念は、古くなり変わって登場したのがマーケティングであった。しかし、もとはといえばプロモーションはマーケティングの一部であった。
何故、プロモーションではいけなかったか。それは、広告・宣伝という狭い範囲での考え方では、時代に沿わなくなっていたからである。
かつてセールスプロモーションを看板にした会社は、こぞってマーケティング会社に変貌を遂げた。いまでは、猫も杓子もマーケティングを冠に付ける、しかし、その実態は、たいしたことはない。看板を付け替えただけだからである。これは、経験者である当該ユーザーが言うので、間違いない。たぶん。
コンセプターの登場!
それはさておき、80年代に登場した「コンセプター」という職業である。この名称を名乗った人は、そう多くはいない。しかし、注目を集める商品や仕掛けを作り世に送り出すことで話題を提供した。そして、かれらは有名人となった。
代表的なコンセプターは、なんといっても「坂井直樹」である。ウォータースタジオという会社を率いて数々の商品開発に関わっていた。特にかれを有名にしたのが、日産自動車の「Be-1」(1987年)であった。これは、いわばコンセプトカーであったが、限定数販売されて評判となった。
その「Be-1」の特徴は、時代の思想ポストモダンに相応しく、どこか懐かしい匂いのする車であった。けっして未来志向の車でない。懐かしくはあるが、どこにもないというのが新しかった。そして、それは人々の心を魅了した。
そして、それらのクルマはパイクカーと呼ばれた。
ーパイクカー(pike car)とは、レトロ調であったり先鋭的であったりと、デザインが特徴的な自動車の一つ。また、デザインが評価された過去の車をモチーフにした車両もパイクカーと呼ばれる。ー
かれは、その後も「パオ」(1989)、「ラ・シーン」(1994)などの車の開発に携わった。しかし、それは大量に売れた訳ではなかった。ご存知のように日産の危機を救うほどのことはなく、徒花として終わった。
坂井氏の他にも、コンセプトを売りにしたのが空間プランナーたちであった。なかでも有名だったのが、「山本コテツ」であった。かれはディスコの空間にこれまでになかった近未来指向の空間を造り上げた。ただし、実際に設計したのは、シド・ミードである。(映画ブレードランナーのデザイナー)
空間プランナー(当時の)の仕事は、コンセプトを打ち立て、それを設計するデザイナーを選定し、実現させるスポンサーを見つけることであった。したがって、顔の広さ、交友関係が大事であった。ブローカーと違うのは、コンセプトがあるかないかである。不動産屋は、こぞって空間プランナーに仕事を依頼した。
なんせ、バブルで不動産の利用方法が必要とされた時代であったからである。
エモーショナル・マトリクスという手法!
80年代に一世を風靡したコンセプター、坂井直樹氏がコンセプト開発にあたり考案したのがエモーショナル・マトリクスであった。これは、いわばポジショニングマップであった。基本となるものは、縦軸に世代をおいて、横軸に意識&価値観を位置づけてある。そして、マップのなかに9個のキーワードファクターをマトリクス上に表したものであった。
エモーショナル=情感、物事に接したときに心にわき起こる感情。
以外と単純ではあるが、なかなか興味深いものであった。誰にでもテンプレートがあれば出来るが、問題はそのあとである。実際にこのマトリクスを使って商品開発やプロモーションを構築するにはテクニック以前に感性が必要であった。
そして、それはいまでも変わっていないはずである。感性がなければ、ただ単に宝の持ち腐れとなる代物である。そこで、やはり坂井氏の登場となる訳である。企業内の開発担当には、知識や経験はあっても感性に欠けるきらいがある。坂井氏は、そこまで読んでいたか知らないが、自らの手法を公開することで自分自身のブランド化を成し遂げたのであった。
ただし、その裏には仕掛人、電通がいたと言われている。この辺り、現在のコンセプター佐藤可士和氏にも通じるものがある。
<エモーショナル・マトリクス概要>
■縦軸(世代)
アダルトー中高年
ヤングアダルトー20代から30代半ばぐらい
ヤングー10代のミドル、中・高校・大学(10代後半)
ジュニアー小学生まで
■横軸(意識・価値観)
コンサバー保守・伝統的指向
アグレッシブー現代・活動的指向
<ポジショニング/ファクター>
オーセンティック(本物指向)
トラディショナル(伝統的指向)
プリティアイビー(かわいい、アメリカントラディショナル)
リファインド(洗練指向)
フリー(自由、きまま)
カジュアル(きどらない、飾らない、動きやすい)
モダン(現代的、クールさ)
パフォーマンス(一目を引く、演出性)
ポップカジュアル(カラフルな普段着感覚)
エモーショナル・プログラム(会員になるとダウンロードできるらしい)
https://www.emotional-program.com/download/index.php?page_no=5&
上記キーワード・ファクターの意味は、当該ユーザーが勝手に解釈しました。したがって、本来の意味とは違うかもしれません。あしからず。
80年代のある時期。このマトリクスを使って世相、流行を分析するテレビ番組があった。番組名は忘れてしまった。あと、フジテレビ「カノッサの屈辱」という番組では、マーケティング分析の手法を取り入れた特異な内容であった。このようにマーケティング的手法が飛躍したのが、80年代であった。そのように考えるが、違うか。たぶん、当らずとも遠からずである。
■追記、当該サイト記事「アミューズメントの黄昏 栄枯盛衰か」が、All About/News Digに掲載されました。リンク先は以下のとおりです。なお、当然のごとく本サイトでもご覧頂けます。(2014/4/1掲載)
「All About/News Dig」とは、All Aboutが運営する時事コラムのサイトである。ブログ記事を募集していたので、本サイト「パスワードは一万年愛す」を1週間程前に登録したのであった。
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<エモーショナル・プログラム>
日産Be-1や、Camedia C-1・C-21、NEC Simplemなどを世に出した名コンセプター、坂井直樹による市場分析、ブランド開発のためのマーケティング・メソッド。「Emotional Program(エモーショナル・プログラム)」と呼ばれるこの手法は、生活者個々の「エモーショナルスタイル」に訴えかけ、市場の潜在ニーズを掘り起こす。
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