その美術には、卓越した技量と独自の視点が際立っている
日本画にあらず、しかし日本的な美が共通している
先日、NHKの日曜美術館で「山口晃」の特集を観た。普段は余り観る事の無い番組だが、その内容に惹かれた訳であった。山口晃氏(以下、敬称略)は、かなり前から注目の現代美術作家である。その画風は、とても特徴的であり、そこに惹かれるファンも多いとか。俗にいうところの日本画風であるが、実はそうではない。
なにしろ、油絵具と水彩を中心に描かれている。油絵具で描く日本画はないだろう。当然の様に山口晃は日本画家ではない。現代美術の作家である。
そして、もう一人似たような雰囲気を漂わす現代美術作家がいる。それが、「会田誠」である。会田誠氏(以下、敬称略)も、なぜか日本画風のタッチで少女像を描いて有名となった。そして、海外でも個展を開いてその認知度を高めている。いまでは海外でも非常に人気が高いとか。
この二人は、いわば村上隆以降の日本発の現代美術を担っているといえる。まだまだ、村上氏の海外での人気には追いつかないと思われるが、近いうちに逆転するかもしれない。そんな感じがするぐらいに独自性を発揮している。
ちなみに、この二人も村上隆とおなじく芸大卒である。ただし、村上氏が日本画専攻だったのに対し、油絵を専攻していたとか。しかし、それがなぜ日本画風な表現に辿り着いたのか。興味深いところである。
冒頭作品:山口晃「日本橋 新三越本店」
会田誠/AIDA Makoto 作品とプロフィール
絵画のみならず、写真、立体、パフォーマンス、インスタレーション、小説、漫画、都市計画を手掛けるなど表現領域は国内外多岐にわたる。
1965年 新潟県生まれ
1989年 東京藝術大学美術学部絵画油画専攻卒業
1991年 東京藝術大学大学院美術研究科修了(油画技法・材料研究室)
会田氏は、上記にあるように芸大で油絵を専攻していた。しかし、かれが有名となった作品は油絵ではなかった。いつ頃か不明(たぶん90年代半ば)であるが、制服を着た少女を漫画風のタッチで描いた作品で一躍注目を集めたはずである。
それらの作品の特徴は、精密な画風とその内容が若干?いかがわしいところにあった。描き方は、漫画チックではあるが、どこか日本画風でもあった。そして何よりも技量が半端無く素晴らしかった。そして、どこかで観たような気がするが、実はどこにも存在しない絵画であった。それは間違いないだろう。
少女が首輪を付けて四つん這いになっている様を描いたり、また特撮ドラマのヒロイン?が怪物に犯されているような内容のものもあった。いささか、サディスティックな様相をあからさまに描いたことで一部の良識層から非難を浴びたこともあった。しかし、それでもなお、その独自性故に評価は年々高まっている。
美術評論家の一部では、日本の現代美術といえば「会田誠」しかいない。とまで言う人もいるようである。
山口晃/YAMAGUCHI Akira 作品とプロフィール
合戦図、時空の混在、更には画面を埋め尽くすように描き込まれた街の鳥瞰図等のモチーフを使い、観客を飽きさせないユーモアとシニカルさを織り交ぜた作風に代表される。
1969年 東京都生まれ 桐生市育ち
1994年 東京芸術大学美術学部絵画科油画専攻卒業
1996年 東京芸術大学大学院美術研究科絵画専攻(油画)修士課程修了
山口氏は、会田誠の後輩にあたる。また、おなじく油絵を専攻している。しかし、何故かその後は会田誠とおなじく通常の油絵ではなく、日本的な美の表現様式を中心に描くようになった。この辺りの経緯は日曜美術館で次の様に語っていた。
芸大で油絵を描いているうちに、何故か描きたいものが無くなったそうである。それは欧米の様式、または文脈を前提とした上で何かを描くということに疑問を感じたことにあった。そして、だったら描きたい事をそのまま行おうと考えて、いまの画風になったとか。
実は、山口氏は、幼い頃から精密な絵を描いていた。(チラシの裏等に精密なマシンの絵などを描いていた)いわば、それを復活させたのがいまの画風なのかもしれない。かつてチラシの裏に描いていたものが、いまでは現代美術となったのである。当人もそこに至るとは考えていなかったかもしれない。
山口晃作品の特徴は、「精密な描写」「日本画風の描き方」「世界観の独自性」などがあるだろう。世界観の独自性は、山口氏ならではの発想が思う存分に発揮されている。「過去、現在、未来」がひとつの画面に同居する様は、まさにその本領の発揮の場といっていいに違いない。
また、その作品には隠喩が込められているのも見逃せないところである。
作品写真の出典とプロフィール:ミズマ・アート・ギャラリーより
なお、上記内容はあくまで個人的な見解であることをお断りしておきます。
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