既成の価値観を越える自分なりのこだわり
こんなものがあってもいいじゃないか
1970年代、その後の雑貨文化に大きな影響を与えた2つの雑貨店がオープンした。それがチープ且つキッチュ、と同時にどこか懐かしさが漂う雑貨を取り揃えた「文化屋雑貨店」と、中国・アジア雑貨をメインとした「大中」だった。
文化屋雑貨店は、1974年に渋谷・ファイヤー通り沿いにオープンした。その後、地上げにより1989年に神宮前に移転している。雑貨文化を切り開き、多くの人々に愛されたが、2015年に惜しまれながら閉店している。
大中は、ダイエーグループ(当時は最も勢いのあった流通業)の新規事業として、1972年に大阪・京橋に一号店をオープンした。中国雑貨をメインにした大中の業態は、その後のアジア・エスニック雑貨文化の先駆けとなった。
大中は、最盛期には全国に16店舗を展開していたが、徐々に縮小し直近では原宿に実店舗を残すのみとなっていた。しかし、それも2018年3月末で閉店する。
これで雑貨文化の草創期を担った2つの雑貨業態が消えることになる。時代の流れと言ってしまえば、それまでであるが、どこか寂しいものがある。
役に立たなくても楽しい
文化屋雑貨店と大中に共通するものは、端的に言えばガジェット商品であることだ。その意味は、ちょっと変わっていて面白いということである。一般日用品と違って、「持つこと、使うこと」に楽しさがあることが特徴だった。
そんな雑貨業態は、80年代に裾野が広がり最盛期を迎えたが、その後は徐々に淘汰されていった。しかし、その概念の一部は、100円ショップに、あるいはドンキホーテやヴィレッジバンガードなどに引き継がれたと思われる。
昨今では、個性的な小売の実店舗が消えていくことが多くなっている。それは、ネット通販のせいばかりではない。もっと大きな時代の流れがありそうだ。
ストリートに彩りを添えていた個性的な雑貨店が少なくなるのは、街の魅力にも影響しそうな感じがしてならない。文化屋雑貨店と大中は、いわば時代の役目を果たし終えたのかもしれない。そして、新しい何かのために…消えていく。
現在、ネットで全てが事足りる世の中であるが、それだけではなんとも面白くない。とくに街に体験できる刺激(個性的な実店舗)が少なくなるのは、なんとも物足りないように感じて仕方がない。
街の再開発で生まれたコンクリ箱物の複合ビルには、上質で品のいい小綺麗なショップが軒を連ねている。しかし、そこにはいつでも代替えが効くような商品ばかりが並んでいる。したがって、いつしかネットに代替えされてしまう。
次代の生活者に刺激を与える業態(実店舗)が、いつ現れるか否か、それが待たれるのは言うまでもないだろう。
文化屋雑貨店・閉店のお知らせ
文化屋雑貨店
新しい美意識・価値観を提案する
文化屋雑貨店は、1974年に元デザイナーだったオーナー氏が、当時の小売業態の画一的な商品や売り方に飽き足らず、個人の趣味趣向性をより強く反映した当時ではまったく新しいタイプのお店だった。
文化屋雑貨店が取り揃えた商品群は、どれも当時の大手量販店にはない商品ばかりだった。とにかく視点が違っていた。基本的には安価であり、チープ且つキッチュであったが、デザインには独特のこだわりを示していた。
また、高度経済成長によって時代遅れとされた、どこか懐かしさが漂う商品を積極的に取り扱っていた。それも単なる中古品ではなく、面白く魅力的な文化という位置付けにして再提案し、商品の新たな魅力を掘り起こしていた。
ワクワク、ドキドキがある
どこか奇妙(懐かしくも新しい)だけど、洒落ていて面白い。そんな雰囲気が商品だけでなく、お店全体から濃厚に漂っていた。まるで昔の駄菓子屋のようであり、お菓子の代わりに雑貨を販売していた、といった趣にあった。
店内には、ワクワクやドキドキ感がいつも充満していた。それは発見や発掘に近い感覚であり、上記したように駄菓子屋で味わうものと似ていた。
代表的なヒット商品は、ヒョウ柄の各種商品群だったはずだ。ペナペナのビニール製のヒョウ柄のバッグなどは、若い女性に人気を集めていた。他には、懐かしい漫画の絵柄をキャラクターに用いた商品群も人気だった。
文化屋雑貨店の品揃え方針は、売れ筋とは反する概念にあった。他にはないが、しかし売れるとも限らない、そんな商品群で構成されていた。
数字を追うことばかりの現在の小売店チェーンにはけっしてできない所業である。なにしろデータで商品構成を決めるので、ある意味仕方がない。そして、流行を追うばかりで流行を作り出せなくなっている。それはデータ重視の弊害である。
一方、文化屋雑貨店は、ある意味ではノーコンセンプト、ノーターゲットで始まった。その業態を方向づけるのは唯一、オーナーの頭の中にあった。
その商売の仕方を端的にいえば、好きなモノやコトに触発されて、商品を集める、または開発し、そして店舗に集積して販売した。
それは同時にリスクではあったが、幸いにして文化屋雑貨店はなんと40年も続いた。まだ継続できたはずだが、オーナーの違うコトをしたい意向が強かったようだ。ある意味では、一定の役割を果たしたという想いかもしれない。
思えば70年代は、若者の反逆の時代だったともいえる。60年代の学生運動は敗北したが、それに変わって70年代には新しい動きが顕著となった。
既成の価値観を打破する
例えばファッションでは、デザイナーが台頭していき、新しい業態としてブティックが登場している。このブティックという概念は、勘違いされることが多いが、けっしてお洒落な洋品専門店のことではない。
ブティックとは、オーナー個人の美意識・価値観に基づき、それを商品や店づくりに強く反映した業態のことだ。ある意味では、既成の価値観を打破し、自分なりのこだわりをメッセージしていくことを目指していた。
ブティックの考え方は、いまではセレクトショップに引き継がれている。文化屋雑貨店も、その成り立ちを考えるとブティックの考え方に近いようだ。やはり大きな流れのなかで、必然的に誕生したといえるのかもしれない。
ちなみに、文化屋雑貨店は、ファッションにも大きな影響を与えた。著名デザイナーのポール・スミスなどは、来日する度にお店を訪れて多くの商品を買い求めたといわれる。他にも海外のファンは多数いるようだ。
文化屋雑貨店はすでにないが、そこで生まれた雑貨文化はけっして廃れることはなく、次代に引き継がれてゆくに違いない。そのように思いますがいかに。
文化屋雑貨店・神宮前本店
おなじく店内
写真引用:文化屋雑貨店ツイッターより
おなじく:文化屋雑貨店 東京/フェイスブック
文化屋雑貨店の実店舗は無くなったが、イベントなどでときどき復活しているようだ。また、香港には香港文化屋雑貨店があり、そこに商品が送られて販売されているそうである。どうやら文化屋雑貨店は新しい時代に入ったようだ。
外部関連記事:「文化屋雑貨店」が“閉店後”も異彩を放つワケ
中国雑貨店 大中
エスニック雑貨・文化を先駆ける
先日、アジアン・中国雑貨専門店「大中」が、唯一の実店舗となっていた原宿店を3月末に閉店することを発表した。ちなみに大中は創業から46年となり、大中・原宿店は37年が経つそうである。
大中は、1972年に1号店となる「大中 京橋店」を大阪市内にオープンし、一時期は全国に16店舗を展開していたが、現時点では原宿店が唯一の実店舗となっていた。現在の親会社はダイエーではなく、マルシェガーデン。
原宿にしか実店舗がないのは、ごく最近になって知った。渋谷のスペイン坂や、六本木のアクシス前(たしか)にもあったはずだが、いつの間にか消えていた。
雑貨業態の苦戦が伝えられるなかで、それでも大中は老舗だし大丈夫だろうと思っていたが、あにはからんや、であった。
カラフルポップな中国の雑貨たち
大中は、多くの人が知るように中国の雑貨専門店としてオープンした。70年代では、日本では見かけることの無くなったブリキのおもちゃなどが、当時の若者にはめずらしくもあり、同時に新鮮でもあった。
大中のおもちゃ箱をひっくり返したようなカラフルでポップな商品群は、見ているだけでなんとなく元気を与えてくれるような気がした。
また、そんな中国雑貨の意外な魅力は、日本にはない異国情緒を強く意識させて、日本以外のアジア諸国にも目を向ける機会を創出していた。
大中が若者に支持されると、その後はアジア雑貨、いわゆるエスニックの生活文化が日本にも導入されて広く興味を持たれることに繋がっていた。
ちなみに、大中がオープンした70年代初頭は、中国本土ではまだ文化大革命(1966年-1976年)の最中にあった。したがって、大中のカラフルな商品群は、主に香港経由で仕入れされたものと思われる。
当方は、80年代に元ダイエー社員で大中の立ち上げに関わった人に出会っていた。その人はダイエー退社後に大阪にワンダー貿易を創立し、「宇宙百貨」や「上海タイムス」などの中国・アジア雑貨店を全国に展開していた。
その人は頻繁に香港を行き来していたようなので間違いはないだろう。
中国も70年代は遠い昔となり、いまでは世界第2位の経済大国となった。輸出する商品群も、異国情緒あるものではなく、いまや最先端の電子商品となっている。
とにかく「時代は変わる」、それは言うまでもないようだ。
大中・原宿店の閉店に関しては、以下のオフィシャルサイトを参照ください。
写真引用:大中 DAICHU OFFICIAL BLOGより
キッチュなモノからすてがたきモノまで 文化屋雑貨店
高度成長期のイノベーションにあえて逆らうかのように古くからある雑貨を集め、一大ムーブメントを起こした文化屋雑貨店。40周年を迎えてますます意気揚がる名物店主の長谷川義太郎さんがズバッと語るクリエイティブ論と、それにまつわる商品のビジュアルを満載。
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