■映画|ボーダーライン アメリカとメキシコの国境沿いに広がる深い闇

その境には、暗くて深い闇の奥が広がっている

アメリカとメキシコの国境沿いで繰り広げられる麻薬戦争の実体!

 ボーダーラインとは、端的には境界を意味する。また国と国との線引き=境を表している。この意味は、いままさに旬であるに違いない。

 なぜならば、アメリカのトランプ大統領は、メキシコとの国境沿いに具体的な壁を造ることを公約して当選したからだ。そして、いまそれを実行しようと着々と準備が進められている。壁の試作品の高さは、5〜9メートルあるそうだ。

 さらにいえば、世界各地で格差の拡大という階級化社会が進展している。日本も例外ではない。アメリカの国境沿いの壁は言うまでもなく、格差、階級もおなじく、まさにボーダーライン(境界)そのものといえる。

 日本の財務大臣は、「いま好景気を感じられない人は運が悪い」といったそうだ。それは、いみじくも、いまの好景気(政府やメディアと一般人では認識が違う)で恩恵を受けているのが、一部の大企業や富裕層のみであることを意味している。

 したがって、「富裕層になれなかった人は運が悪い」と同義であろう。

 世はまさにボーダーラインが人の運命を左右する。ときには命もである。

ボーダーライン=境界の生と死と

 映画「ボーダーライン」(原題:Sicario)の原題の意味は殺し屋だそうだ。

 映画のストーリーを簡単に説明すれば、「CIAの捜査官と殺し屋が、FBIを巻き込んで、メキシコの麻薬マフィアの元締めを始末する」というものだ。

 しかしそのタイトル(原題)は、単純すぎるきらいがある。たぶん映画会社は、アクション映画として、観客に判りやすく訴求したかったに違いない。

 映画をご覧になってみれば判るが、殺し屋が必然的に存在する、その背景にある世界の方がより重く意味をなしている。アメリカとメキシコの間にある、いまそこにある危機こそが、真の主題であり、殺し屋は単なるひとつの駒でしかない。

 映画では具体的には描かれないが、境界に横たわる深い闇の世界こそが、殺し屋より不気味なのは言うまでもなく、ボーダーラインに深い意味を与えている。

 メキシコからアメリカへと国境を越えて不法入国する人々があとを絶たないといわれる。かつてはメキシコ人が中心であったが、いまでは中南米からの人々が多いそうだ。なぜなら、政情不安と経済の低迷が激しさを増しているからだ。

 そして、ある意味では不法入国者より始末が悪いといわれる、麻薬の密輸入(本作のテーマ)が盛んに行なわれている。メキシコでは麻薬マフィアが幅を利かせていて、警察も買収されていてなんの役にも立っていないようだ。

 それどころか、むしろ警察もマフィアに加担している。(映画では、その背景としてメキシコ国内の格差拡大が何気に描かれる)

 本作の公開時(2015年)、フアレス市(映画の舞台)のエンリケ・エスコバル市長は本作のボイコットを市民に呼び掛けた。市長は、「ボーダーライン」における暴力事件の描写は正確だが、すでに過去の物であると言っている。

 メキシコでは、長い間「メキシコ麻薬戦争」といわれる武力抗争が続いている。それは、メキシコの麻薬カルテルが、90年代にコロンビアの麻薬カルテルに変わって台頭してからより激しさを増して、現在に至っている。

「メキシコ麻薬戦争」は、政府当局とマフィアだけでなく、マフィア同士の縄張り争いも加わり、複雑な様相となっているようだ。また、その抗争の激しさは、警察だけでは手に負えなくなり、メキシコ軍までが投入されている。

メキシコの麻薬カルテルの残虐性と戦闘能力
 殺戮行為は残虐を極め、警官、敵対組織の売人、麻薬組織を批判した弁護士、麻薬栽培を拒否した農民等相手を選ばず殺害、死体を損壊した上に「Z」の刻印をして路上に晒すなどの事件を頻繁に繰り返している。

 戦闘力は単なる麻薬組織の私兵のレベルにとどまらず、高性能のボディアーマー、ヘリコプター、機関銃、対空ミサイル、自作の装甲車や半潜水艇まで所有している。傘下には専門の盗聴・無線傍受部隊や情報収集組織を配置している。(ウィキペディアより)


海外ポスター
引用:https://www.cinematoday.jp/news/N0095400

「ボーダーライン」の続編は、2018年6月29日全米公開予定。

メキシコ麻薬戦争の概要


FBI捜査官のケイト(エミリー・ブラント)
引用:https://cinema.ne.jp/recommend/sicario2016040907/

 90年代、コロンビアの麻薬カルテル(組織)が壊滅し、麻薬供給の支配権がメキシコの麻薬カルテルに移行した。

 以後、メキシコの麻薬カルテルは、アメリカへの麻薬供給源となりいっそう力を付けていくことになった。と同時にメキシコ国内では、カルテル同士の間で莫大な麻薬利権をめぐる縄張り争うが激化していく。

 警察、弁護士、一般人などを巻き込んだ麻薬戦争は、その後激化し国家全体の問題となった。2006年に誕生したカルデロン政権は、麻薬カルテルへの対応を強化し、峻烈な掃討作戦が実行された。

 その結果、多くの麻薬カルテルのメンバー、幹部が逮捕、射殺されている。しかし、一方では有力ボスが逮捕、射殺されると、新興勢力が台頭してくるという、いわばいたちごっこを繰り返している、といわれる。

 それでも、政府の掃討作戦は一定の成果を上げたといわれて、評価されている。最終的な掃討ができるかどうかは、いまだ不確定要素の方が強いようである。

 メキシコの麻薬カルテル壊滅には、アメリカの国内での過剰な麻薬市場を撲滅するしかない。なぜならば、そこにニーズがあるから麻薬カルテルが存在できるし、拡大することができる要因となっているからだ。

 しかし、アメリカは麻薬撲滅に本気ではないとしか思えない、それどころかその戦争には負けたという認識が広がっている、といわれる。

ドゥニ・ヴィルヌーヴとその作品の魅力


国境沿いの砂漠

芸術性を兼ねた娯楽映画を創る

 本作の監督であるドゥニ・ヴィルヌーヴは、2017年、SF映画の金字塔「ブレードランナー」の続編「ブレードランナー2049」を監督し公開している。

 その前年には、やはりSF映画である「メッセージ」で大きな注目を集めた。

 その作品の魅力は、端的にいえば映像が美しく、そこから漂う雰囲気も只ならぬものを感じさせてやまない。より判りやすくいえば、リドリー・スコットに若干似ている気がするが、それはあくまで個人的な見解であるが…。

 さらにいえば、描かれる世界には何かしら意味(メッセージ)が含まれていて、けっして判りやすくはないものの、観たあとに余韻が残る作品となっている。

「ボーダーライン」では、ほんの一瞬であるが、アメリカとメキシコの国境沿いの砂漠を空撮で撮った映像が素晴らしく美しい、それは単なる美しさではなく、得体の知れない不気味さも同時に感じさせる不思議な映像美となっていた。

 なにか得体の知れない何かを感じさせる砂漠の光景は、そのままアメリカとメキシコの国境沿いにある出来事を暗示させるかのようだ。

 また、本作品で全編に流れる雰囲気は、とてもリアルではあるが、同時にどこかこの世の出来事とは感じさせない趣となっている。主人公(女性FBI捜査官)もそこに戸惑い、しかし、現実には人がいとも簡単に殺されていく。

 現実ような夢のできごと、夢のような現実のできごと、これもまたいみじくもボーダーラインということができようか。

 そのあたりの描きかた、演出の仕方がドゥニ・ヴィルヌーヴは秀逸である。監督としての力量は、半端ないものを感じさせてやまない。

 映像は美しく、物語は単なるストーリーをなぞるだけでなく、起伏に富み、かつ問題提起も含んだ意義深い作品となっている。(本作だけでなく)

 一方、アクション映画として観ても十分堪能できるあたりはさすがである。

 映画の収益性と芸術性を兼ね備えた監督として、いまもっとも注目すべき監督なのは間違いないだろう。今後は、クリストファー・ノーランのような、より大きな予算の作品で監督する機会が増えてくるに違いない。

ボーダーライン(原題:Sicario)/作品概要

ストーリー

 巨悪化するメキシコ麻薬カルテルを殲滅すべく、特別部隊にリクルートされたエリートFBI捜査官ケイト(エミリー・ブラント)。

 特別捜査官(ジョシュ・ブローリン)に召集され、謎のコロンビア人(ベニチオ・デル・トロ)と共に国境付近を拠点とする麻薬組織・ソノラカルテルを撲滅させる極秘任務に就く。

 仲間の動きさえも把握できない常軌を逸した極秘任務、人が簡単に命を落とす現場に直面したケイトは、善悪の境界が分からなくなってゆく。

 麻薬カルテルを捕えるためにどこまで踏み込めばいいのか?法無き世界で悪を征する合法的な手段はあるのだろうか?得体の知れない悪を前に、知れば知るほど深くなる闇の行く末とは―。
ストーリー引用:https://filmarks.com/movies/60878

<スタッフ&キャスト>
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
脚本:テイラー・シェリダン
出演者:エミリー・ブラント
   :ベニチオ・デル・トロ
   :ジョシュ・ブローリン、ほか
公開:2015年 日本2016年
上映時間:121分

冒頭画像
引用:http://border-line.jp/

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