パスワードは一万年愛す。タイムレスなスタイルは、過去も未来も時を超えてゆく!

■海外ドラマ|THE WIRE/ザ・ワイヤー 米国の根深い闇を描いた傑作ドラマ

この記事は約6分で読めます。

警察と犯罪の関係式から社会システムの疲弊が暴かれる

「ザ・ワイヤー」は、ドラマの秀作を数多く創出しているHBO(ケーブルテレビ局)が製作し、2002年〜2008年に第5シーズンまで放映された。HBO製作ならではの見ごたえ十分な出来具合であり、同時に単なる娯楽作品ではない質の高さが感じられる。

 ワイヤーというのは、盗聴、または盗聴器を意味している。それは、なかなか尻尾を掴ませない犯罪組織に対し、密かに盗聴装置を仕掛けて証拠を掴んでいく捜査手法のひとつであるのは言うまでもない。

 また、もうひとつの意味もあるようだ。それは、人と人との関係式を意味する「ネットワーク」である。誰と誰が繋がっていて、そして何が行われているか。それが犯罪組織の裏にある鍵であるのは、これまた言うまでもない。

 さらにいえば、それは政治、経済、行政、警察もおなじ構造にあるといえる。

警察VS.麻薬組織、そこに米国の闇のシステムが垣間見れる

13283 (1)

「ザ・ワイヤー」では、警察VS麻薬組織の戦いを主軸にしながら、その裏にある米国の社会システムの疲弊が描かれている。テーマは、「米国の人種と格差問題」といっても過言ではないと思われる。

 最近、米国では白人警官による黒人への暴力行為が問題視されている。1964年の「公民権法制定」からずいぶんと時は経ったが、いまだその溝は深いままのようだ。トランプ氏が大統領候補になったように、米国(とくに白人層)は、いま公民権以前の1950年代にでも逆戻りするかのような情勢を見せている。

アフリカ系アメリカ人公民権運動とは
1950年代から1960年代にかけて、アメリカの黒人(アフリカ系アメリカ人)が、公民権の適用と人種差別の解消を求めて行った大衆運動である。

 そのような現在の状況を考慮しながら、このドラマを観るとさらに興味が倍増するに違いない。この問題はいまや米国だけのものではなく、欧州でも難民がやがておなじような立場に立たされると思われるからだ。

 このドラマの舞台は、米国メリーランド州のボルティモアである。

 ボルティモア市では黒人の方が白人よりも人口が多く、市長も黒人がなっていた。だからといって黒人が優遇されているという訳でもなかった。多くの黒人は底辺層にあり、犯罪に手を染めざるを得ない環境に常に晒されていた。

 地域を東西に分断して麻薬犯罪組織が跋扈している。そこでは黒人のボスが君臨して、おなじ黒人の年少者たちを麻薬の売人として手足のように使っていた。

 西地区の黒人ボスは、黒人社会の底辺からのし上がった叩き上げの武闘派である。それに対し、ナンバー2の黒人は大学で経済学を学んでいる頭脳派である。この好対照な麻薬組織のボスと参謀を、警察の刑事たちは捕らえることを狙っていた。

 一方警察の幹部たちは、犯罪および殺人の件数を低下させることに躍起となっていた。それは市長の選挙対策であり、また警察トップの命運も握っていた。

 市長と警察幹部は同じ穴のムジナであり、利権も共有していた。したがって警察は、市長の意のままに動いていた。市長に都合の悪いことは、当然のように見てみない振りを決め込んでいた。そして市長は賄賂を貰うことが常態化していた。

 警察が本来の役目より、単なる数値上の成果でしか動かないことから、それに不満を感じる刑事も少なからずいた。そんな刑事たちを中心に、下っ端の売人ではなく、元締めであるボスを対象にした捜査を本格化させようと動き始める。

 しかし、警察トップは手間のかかるボスの捜査より、売人を逮捕して件数を増やすことを要求する。市長も警察トップも犯罪の本質に切り込まないで、すぐに結果が現れる小物の逮捕のほうが都合がよかったからだ。

 警察が本末転倒に陥るなかで、捜査する刑事たちは不条理を感じざるを得なかった。しかし、それでもなお不屈の闘志をみせる刑事たちの執念が実って、ようやく特別捜査班が結成されることになった。

 そして、ここからドラマの内容がどんどん濃い内容となっていくのである。「ザ・ワイヤー」の意味である、盗聴がいよいよスタートしていく…。

3c704eb6c86cf080169b9145c2ed7b11

THE WIRE/ザ・ワイヤー:第一シーズン概要

<概要>
 物語の舞台はメリーランド州西ボルティモア。麻薬の売買が絡んだ殺人事件をきっかけに生まれた、特別捜査班と麻薬組織の追跡劇を縦糸に、ボルティモア市警察内部の政治的駆け引きや麻薬取引の世界での権力闘争を横糸にして、硬派で型破りなドラマが展開していく。

<ストーリー>
 ボルティモア市警察殺人課の刑事、ジミー・マクノルティは殺人事件の裁判が行われている法廷に立ち寄る。被告人は、西ボルティモア地区の麻薬売人組織のボス、エイヴォン・バークスデールの甥、ディアンジェロだ。

 麻薬の売買が絡んでいると思われる殺人事件を何件も捜査してきたマクノルティは、この事件も麻薬がらみだと睨んでいた。ディアンジェロを目撃したという証人の証言に続いて第二の証人が召喚されたが、彼女は証言を翻し、その結果、ディアンジェロは無罪放免の身になった。

 正義がまっとうされなかったことに苛立ったマクノルティは、判事を訪ね、エイヴォン・バークスデール率いる麻薬組織のことを伝える。

 判事は警察の上層部を通して、誰も手をつけていなかったバークスデールの麻薬組織の捜査を命じ、その結果、麻薬課の警部補セドリック・ダニエルズを指揮官とする特別特捜班が組織されることになった。

引用:http://www.superdramatv.com/line/wire/story/

ザ・ワイヤー/第一シーズン予告編(英語)

このドラマには徹底したリアリティーがある

 このドラマは、全編にわたってリアリティーに満ち溢れている。それは製作担当者の経験がものを言っているようだ。中心の製作者は、13年間、ボルティモア・サン紙の犯罪記事担当の記者だった。そして彼と脚本を書いたプロデューサーは、ボルティモア市警察殺人課に20年勤続した元刑事だそうである。

 かれらの経験がこのドラマにそのまま活かされている。そのリアリズムは、実際の犯罪者が、このドラマを観て警察の捜査に対抗するテクニックを学んでいる、という報告まであるといわれている。

 また俳優が活きいきとしてリアリティーさをさらに高めている。

 特捜班の刑事たちもとても好演しているが、それ以上に黒人俳優たちがより魅力的な様相を示していた。とくに黒人ボスのバークスデールと、ナンバー2のストリンガーを演じた俳優が魅力的な演技を見せていた。

 ボスのバークスデールは、まるでヒップホップのスターのようないでたちをしているが、これが実に様になっていた。一方、ナンバー2のストリンガーは知性があるのを隠しようがないところが、これまた様になっていた。

<主役級の黒人俳優二人の経歴>

バークスデール=ウッド・ハリス/Wood Harris
1969年、シカゴ生まれ。ノーザン・イリノイ大学の舞台芸術科を卒業した後、ニューヨーク大学に進み芸術修士を取得したという高学歴の持ち主。1994年、トゥパック・シャクールなどが出演しているバスケットボール・ドラマ「ビート・ザ・ダンク」で映画デビュー。

2000年、TV映画「Hendrix」で伝説的ギタリスト、ジミー・ヘンドリックスを演じて注目される。同年、出演した「タイタンズを忘れない」では、全米黒人地位向上協会のイメージアワードの助演男優賞候補にもなった。ウッドの代表的な出演作品リストに加えられている。

ストリンガー=イドリス・エルバ/Idris Elba
1972年、ロンドン生まれ。シエラレオネ出身の父親とガーナ出身の母親の間の一人っ子。高校時代に、演劇指導の教師に勧められて演技の道に入る。この「THE WIRE/ザ・ワイヤー」のストリンガー・ベル役で大いに注目を集め、「アメリカン・ギャングスター」、「28週後...」、「リーピング」などに出演。

参考:THE WIRE/ザ・ワイヤー
http://www.superdramatv.com/line/wire/

なお、THE WIRE/ザ・ワイヤーは、現在huluで第4シーズンまで観られます。

コメント