このホテルは、いつでも泊まれます!
70年代は、アメリカ西海岸ブーム
サーフィンが注目され始めたのもこの頃だったはずである。平凡出版から雑誌ポパイが創刊された。そこで紹介されたアメリカ文化は、西海岸の明るい陽光に溢れたどこまでもハッピネスな生活風景であった。これに憧れた人は多いはずである。
とくにロサンゼルスが人気であった。猫も杓子もロスであった。極端な話、ロスならどこでもよかった。そんな平和な時代であった。しかし、当時、あまり話題にも上がらなかったことに、ロサンゼルスの陰の部分があった。ロスはメキシコに近いこともあり、不法移民が多い事で知られる。
ヒスパニック系住民はかなりの数にのぼり、その多数は貧困層であった。このような背景からヒスパニック系ギャングが生まれ、次第にそれは黒人ギャングを凌ぐ勢いとなっていた。ロスは、光の部分はワスプの明るい世界であり、陰はギャングに支配された闇の世界であった。
ドラッグと暴力に支配されたアンダーワールドこそ、真のロサンゼルスの姿であった。
カリフォルニア・ホテルのならずもの
イーグルスは、歌手のリンダ・ロンシュタットのバック・バンドをしていた。その実力はすでに評価されていたが、まだ自立は出来なかった。その後、かれら最大のヒットとなった「ホテル・カリフォルニア」を収録したアルバムを発表し誰もが認めるミュージシャンとして名を残すことになった。
この曲は、カリフォルニアという地名から、陽光まぶしいポパイ的世界を歌ったものと勘違いされるかも知れない。しかし、この曲は、陰の西海岸、アンダーワールドを歌ったものである。原題は、「デスペラードス・アット・ホテル・カリフォルニア」であり、その意味は、カリフォルニア・ホテルのならずものである。
ホテル・カリフォルニアの歌詞とその解釈
■「ホテル・カリフォルニア」歌詞和訳とその解釈
暗い夜の道をもう長いこと走っている。
かなたに小さな灯火が瞬いている。
今夜の宿を求めてそこに近づいていく…。
ひとりの女が立っていて、ろうそくに灯りをともし、
わたしを部屋に案内する。
ここは、天国か、地獄か、とわたしは思う。
ホテル・カリフォルニアにようこそ。このすてきな場所に。
いつでもいい部屋があります。
どうやら、この歌の主人公は、追われているらしい。長い道のりを車で飛ばし逃げてきたようである。そして、たどり着いたのが、ホテル・カリフォルニアであった。このホテルはただの宿ではない。どうやら売春宿であるらしい。しかもアウトローが逃げ隠れる場所である。
彼女の心は、ティファニー・ツイストだ。
彼女は、メルセデス・ベンツを手に入れた。
彼女は、友達と称するたくさんの男たちと踊った。
あるダンスは覚えているが、あるダンスは忘れた。
主人公の元・彼女のことなのだろうか。ツイストという捩じれた心をもった彼女だったらしい。また、たくさんの男友達がいたようだ。ベンツは誰に買ってもらったのだろう。あまりに、多くの男友達がいてよく覚えてないようだ。
わたしは、ワインを注文するが、
あの酒は1969年以来置いてませんと云われる。
天井は、鏡張りになっていて、
氷の上のピンクのシャンパンを映している。
彼女は云った。わたしたちはみんな囚人なの。
わたしたちがつくった仕掛けの。
ホテルの当直番は云う。
わたしたちは、ここに泊まるべくプログラムされている。
あなたは、好きなときにチェックアウトできるが、
決してここを離れられない。
1969年製のワインがないのは、1960年代の終わりを告げている。このホテルは、いつでも泊まれるが、泊まったら最後、出られないようである。そんな仕掛けがしてあるようである。ここは囚人を収容するホテルなのかも知れない。
イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」は、なんとも隠喩的表現が豊かな歌詩である。作者は、どうもホテルに捉えられているようである。幾日もマイホームに帰らない生活をしていたのではないか、と思われる。
このレコードのレーベルは、アサイラム・レコードというのだが、この意味が面白い。追われている囚人を匿う場所のことであり、ルナティック・アサイラムというと精神病院を意味するらしい。なんとも、どこまで隠喩的なのか。
参考文献:海野弘著「四都市物語」複製の旅より
以下、イーグルスのライブDVDです。
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