グランド・ホテル!高級ホテルを舞台に境遇の異なる数名の客が織りなす人間模様を見事に描きだした。映画史に残る作品である。
ロンドンの最高級ホテルで事件は起きた!
真の高級ホテルとは!?
格式を確立したホテル
さて、ロンドンで取り上げる内容は、ホテルである。1920年代当時、ロンドンのホテルといえば、何と云ってもサヴォイ・ホテルである。19世紀末にできたこのホテルは、オーナーがアメリカ旅行をした際に、訪れた高級ホテルに刺激されて造ったそうである。どうやら、高級ホテルはアメリカの方が早かったようだ。しかし、その後、サヴォイ・ホテルは高級ホテルの代名詞的存在となっていく。
なにしろ英国にはアメリカにはない伝統・格式というものがあった。端的に云えば、それは貴族文化である。これは、アメリカにはないものであった。現存する伝統・格式を再利用したのである。なかなか目の付けどころが鋭い経営者である。こうしてサヴォイ・ホテルは、欧州一の格式ある高級ホテルの地位を確立したのである。ちなみに、パリのリッツ・ホテルは、サヴォイから独立したリッツが創立した。
19世紀末のサヴォイでは、シュトラウスが演奏するワルツを聴きながら、食事ができたそうである。なんと贅沢なことであろうか。1920年代になると、それはジャズに変わっていた。
比較的、最近のサヴォイ・ホテル
サヴォイ・ホテル殺人事件!
1920年代当時のサヴォイでは、最先端のジャズが聴けたそうである。いわば流行の先端も発信していたようだ。金持ち、セレブが集まる流行の発信基地である、このサヴォイで1923年に殺人事件が起きたそうだ。金持ち夫妻のあいだで諍いがあり、妻が夫を殺害したのである。これは、当時大変な話題となり新聞は盛んに書き立てたそうである。なにしろ話題の中心にあるサヴォイでの出来事である。
また、この当事者の関係に注目が集まった。それは、妻が美人のパリジェンヌであり、夫が金持ちのアラブ系エジプト人であったのだ。さらに夫は金で貴族の称号を買っていた。1920年代は、アラブなどのエキゾチックな文化がもて囃された時代であった。それもあって、さらに注目を集める結果となった。これは、まるで映画のなかの出来事のようである。格式ある高級ホテルで金持ちの夫が妻に殺される。舞台設定が出来過ぎである。
サヴォイ・ホテルのロビー?
ヒロインとなった美人パリジェンヌ
事件当夜、夫妻はホテルのレストランで食事をしながら口論をしていたようだ、この食事には、給仕をする従僕と音楽を演奏するバンドがいたようである。それから、彼らはスウィートの部屋にひきあげるとそこでも諍いを繰り返した。そして、しばらくした後、部屋から銃声がした。ポーターが急いで部屋に入ると夫が床に倒れていた。このとき、外では雷雨が轟いていたとある。なんと、まるでシナリオのようだ。
この事件は、裁判となってからも注目を集めていた、何しろエキゾチックなプリンス?が美人のパリジェンヌに殺されたのだ。また、被害者、加害者双方が暴露合戦をする様相となったようである。例えば、夫は、秘書とホモセクショナルな関係にあったとか、回教徒には妻に離縁する権利がないことを隠し、妻を回教徒に改宗させたとか、妻は不道徳な女であったとか、いろいろ暴露しあったそうだ。
その裁判の結果であるが、美人でパリジェンヌの妻は、弁護士の卓越した手腕によって無罪となったのである。なんと、まあというしかないが…。なんでも、弁護士は次のように云って同情を誘ったそうだ。「裁判官のみなさん、あなたがたがこの西洋の女に門を開けて、暗い夜の砂漠でなく、彼女の友達のもとへ、神の偉大なる西洋の太陽のもとに帰してあげることをのぞみます」、この演説によって、夫を殺した美人のパリジェンヌは一転、こんどはヒロインとなったのである。
映画なら、ここでエンドマークがでるだろう。
参考文献:海野弘著「四都市物語」より
1920年代から30年代にかけてロンドンの名門ホテル「ザ・サヴォイ」のバーでヘッドを務めたアメリカ人の名バーテンダー、ハリー・クラドックが1930年に著したロングセラー本の改訂版。800種以上のカクテル・レシピがABC順でシンプルに見やすく紹介されている。(アマゾンより)
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