美術品だけでなく本物と偽物の間には、ミステリーが隠されている?
「鑑定士と顔のない依頼人」(原題:ベスト・オファー)は、「ニュー・シネマ・パラダイス」で有名となった名匠ジュゼッペ・トルナトーレの最新作である。この作品は、1年ほど前に日本でも公開されている。しかし、残念ながらそのときは何の興味もなかった。たぶんそれは、日本語のタイトルのせいではないかと思うが…如何に?。鑑定士に興味を覚える人がどれだけいるか?である。
そんな訳で、最近になってこの作品をDVDで観たのは偶然の賜物であった。たぶん、レンタル店舗に行ってなければ、観ることもなかっただろう。何故なら、ネット(映画批評およびレンタル)でもそのタイトルを見たはずであるが、なんの興味も抱かなかったからだ。
それは、「鑑定士と〜云々」というタイトルにあったのは前述したとおりである。レンタル店でこの作品を借りたのは、実は数本借りたおまけの一本としてであった。たまたま、そのレンタル店では、海外ドラマの旧作が1本無料というキャンペーンをしていた。そこでもう一本余分に借りたのが、この作品だった。
そのおかげで、この名作に巡り会えた訳である。もっとも、映画はあくまで個人の好みの問題もあるので一概に名作とは言えないが、個人的には久しぶりに観た衝撃的?ともいえる作品であった。そして、見終わった後の満足度が高かったのは言うまでもない。
美術品とおなじく、愛にも本物と偽物があり、それが問題だ!
<天才的な美術品鑑定士>
映画の主人公ヴァージルは、欧州のどこか(映画では舞台を特定していない)で美術品の鑑定士をしている。また、自らオークションを主催している。かなり有能な鑑定士で、かつ競売の腕もあるという具合である。有能で自信家の人にありがちな自己中心的で、他人を思いやる性格には著しく欠けていた。
そんな彼の様相は、映画の冒頭シーンで描かれている。古い屋敷のなかで美術品を鑑定しているのだが、実に尊大な態度で次々と断定的に品定めしていく様子から自信家で自己中心的な嫌なやつという雰囲気が良く表れている。
ヴァージルは、天才的な鑑定士の才能と、競売の腕前を自らの欲望を満たすことに最大限の活用をしていた。それは、本物を偽物として実際の価格より安く査定し、それを自ら(ダミーを使って)が競り落とすのである。そしてその作品は、別ルートを経て高値でどこかに売られるという具合である。
また、彼はお気に入りの作品を、自分の邸宅の「秘密の部屋」に飾っていた。その作品のすべてが女性の肖像画であり、しかも壁に隙間がないほど無数の作品が飾られていた。ある意味では偏質的ともいえる性質であった。
それが、ヴァージルの真実(裏ともいえる)の姿であった。
ヴァージルのダミーとなって作品を競り落とす人物は、元画家であったが、ヴァージルが作品を認めなかったことで大成できなかったと恨んでいる。そのいきさつは映画では描かれてないが、この人物が後に起きるミステリーの重要人物であった。
そして、ここからがミステリーのはじまりである。それは、美術品の真贋を見極める達人、鑑定士ヴァージルが陥る「愛の真贋の罠」ともいうべきものであった。
<顔のない依頼人クレア>
ある日、鑑定士ヴァージルの元にクレアと名乗る女性から、両親が残した美術品を査定する依頼があった。自尊心の強いヴァージルは、どこの誰だか分からないのではじめは断った。それでも、しつこく依頼をしてくることから、仕方なくそれを受けて依頼人クレアの邸宅を訪れる。
歴史を感じさせるが、いまにも朽ちかけそうな邸宅に一歩踏み入れると、そこには無数の美術品が所狭しと飾られていた。無限にありそうな部屋数は、まるで迷路のようである。そして、そこに入った者を惑わせるに十分な雰囲気を備えていた。
しかし、邸宅に依頼人クレアはいなかった。管理人が出てきて言うには、クレアは人と会うことができない病気と打ち明けられる。クレアは、「広場恐怖症」といわれる病気で、ある時期から人に合うことも外出もしていない。
そんな依頼人に対し、ヴァージルはまた仕事を断る姿勢を見せたが、すぐにクレアの懇願に負けて依頼を受けて仕事をはじめていく。そして徐々にヴァージルは、姿を見せない謎の依頼人クレアに興味を抱くことを禁じ得なかった。
<クレアの秘密の部屋>
ヴァージルは、クレアの邸宅で美術品の鑑定をしているとき、彼女が邸内にいるのに気付く、そして潜んでいる場所を見つけた。しかし、それでも彼女は「秘密の部屋」にこもって出てこようとはしなかった。
そんなある日、クレアと秘密の部屋の壁越しに仕事の話をした後で、帰ると偽って密かに邸内に留まった。そして、彼女が「秘密の部屋」から出てくるのを待った。部屋からそっと出てきたクレアを覗き見たヴァージルは、もはや彼女への想いを隠しきれなくなっていた。
そして、ある日ついにクレアとベッドを共にする日が…。
それからのヴァージルは、もはやクレア無くしては考えられない様相となってしまった。「秘密の部屋」に住むクレアに嵌ってしまったヴァージルは、もはや自分の「秘密の部屋」に飾られた女性の肖像画よりも、クレアのほうが大事になってしまっていた。
<美術品鑑定士は、愛の真贋を見極めるか>
しかし、こわいのは、ここからだ!
美術品鑑定士として、その真贋、いわゆる「本物か、偽物か」を見極める目と経験を持つ有能なヴァージルである。しかし、彼に「愛の真贋」を見極める目があったかどうかである。それが、この映画の真骨頂のミステリー部分である。
ヴァージルは、自身のコレクションを「秘密の部屋」に飾って、それを眺めて至高の時を過ごしていた。しかし、クレアに出会ってからは、彼女といることが至高の時となってしまった。ちなみにクレアが住んでいたのも「秘密の部屋」であった。
ラストの落ちはあえて控えますが、想像はできると思います。また、たぶん想像どおりである。まだ、ご覧になっていない方は是非ご覧ください。贅沢な美の探訪と共に極上のミステリーが味わえます。たぶん。
この映画の原題である「ベスト・オファー」とは、実に示唆に富んだものである。
ちなみに、オファーの意味は以下のとおりです。
オファー【offer】
提示。申し込み。特に商取引で、品名・数量・品質・価格を示しての売り手の申し入れ。
■「鑑定士と顔のない依頼人」原題:BEST OFFER 2013年
<ストーリー>
物語の始まりは、ある鑑定依頼。引き受けたのは、天才的鑑定眼をもち、世界中の美術品を仕切る一流鑑定士にして、オークショニアのヴァージル・オールドマン。
それは、資産家の両親が亡くなり、屋敷に遺された絵画や家具を査定してほしいという若い女性からの、ごくありふれた依頼のはずだった。
ところが──依頼人は嘘の口実を重ねて決して姿を現さない。ヴァージルは不信感を抱くも、屋敷の床にもしそれが本物なら歴史的発見となる、ある美術品の“一部”を見つけ、手を引けなくなる。
やがて、彼女が屋敷の隠し部屋で暮らしていることを突き止めたヴァージル。
決して部屋から出てこない彼女と壁ごしのやり取りを重ね、我慢できずに姿を覗き見たヴァージルは、美しいその姿にどうしようもなく惹かれていく。ところが、ある日、彼女が忽然と姿を消す─。
果たして奇妙な鑑定依頼の本当の目的とは?ヴァージルの鑑定眼は本物か、節穴か?
謎はまだ、入口に過ぎなかった──。(公式サイトより)
<鑑定士と顔のない依頼人>
アカデミー賞外国語映画賞受賞『ニューシネマ・パラダイス』の伝説のコンビ、
監督トルナトーレ×音楽モリコーネが仕掛ける、豪華で知的で刺激的な謎が散りばめられた“極上のミステリー”。真実が明らかになる時、誰もがその“衝撃”にのみこまれる―!
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