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■デザイン|ジャパニーズ・アイデンティティー 建築からみる日本の主体性

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日本の美を形成するアイデンティティー

日本の美は、いくつかの要素から構成されている

アイデンティティー(identity)
自己が環境や時間の変化にかかわらず、連続する同一のものであること。主体性。

いつ頃からか忘れたが、日本的な美に関心が向いていた。かつては、欧米の様式美にしか興味がなかったのに、不思議なものである。もちろん、日本の美の素晴らしさには気が付いていたが、何故かそれを重要視はしていなかった。インターナショナルなスタイルこそ現代に相応しいとさえ思っていた時期もあった。

単に年を食ったせいかもしれないが、そうとばかりも言えないに違いない。何故なら、当方はいまだに演歌は歌わないからである。直接は関係はないが、年を食ったら演歌を歌うとかつては思っていたが、いざ自分がそうなってみると案外そうではなかった。これには時代が変わったとしか言い様が無い。

それはさておき、日本の美の認識について、実は意外と理解されていないのではないか、と感じていました。そこで、日本の美とはいったい何なのか。そして、どのように形成されたものなのか。それを解き明かしたいと考えました。多少大袈裟ですが、要するに個人的に理解していない部分を知りたかったからに他なりません。

そのようなことを考えていたときに、たまたま目にしたのが「JAPANESE IDENTITIES」という本でした。そこでは、日本の建築からみる独自性(または主体性)を整理し、特質を分類して紹介しています。これが、実に目から鱗が落ちるかのごとく分かりやすく解説されていました。

興味深い内容だったので、それを紹介したいと思います。なお、以下の内容には上記した「JAPANESE IDENTITIES」を要約し、独自解釈を付け加えています。(したがって、本の内容どおりではないことをご了承ください)

冒頭写真:桂離宮

日本建築からみる10の特質

■ 1)自然との共生

日本建築の特性は、なによりもまず自然との対話や一体化にあったようだ。自然を取り入れる、溶け込ませる等々の手法が積極的に行われている。これは西洋の建築のあり方とは対極にある。西洋では、自然に打ち勝つという考え方が主流となっている。素材も強固な石材が使われたことからもそれが伺える。

日本のそれは自然を敬うという考えにも通じる。日本の自然が、穏やかで且つ季節性も豊かだったことも影響していると思われる。

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武家屋敷

■ 2)装飾を廃した簡潔性

日本建築の素材は、その多くが木材である。自然の恵みのひとつである木材という比較的シンプルな素材を用いて、それをあまり加工せずに特性を活かして使用している。装飾はほとんど施さずに、簡潔性(シンプル)故の美しさが特徴である。

ちなみに装飾性が特徴の日本建築も有るが、それらは中国の影響が強くあり日本の美の特性とは若干異なっている。したがって、装飾を廃した簡潔性こそ日本の美の本来の姿であると思われる。

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伊勢神宮

■ 3)侘びと寂び

侘びは、「簡素で奥深いこと(味わい深い)」。寂びは、「古くて趣があること(経年美)」。これこそが、日本人の美意識の特徴を表しているといっても過言ではない。日本特有の仏教概念に由来すると思われる、無常感を端的に表したものといえるだろう。

代表的には、寺院の庭や建物に取り込まれて、閑寂で単色の抽象的世界を示している。現在では、多くの海外観光客がこれに魅了されている。それは、他には無い特異なものであるからに他ならないだろう。

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銀閣寺

■ 4)両極性

日本の美の本来の姿は、簡潔性にありとしたが、実はその反面では実に装飾過多な美も創りだしている。その多くは、中国に影響を受けたものと考えられるが、それを取り入れるのも日本人の特徴のひとつでもある。

過去から現在まで、実に多くのものを海外から取り入れては独自な美として昇華していく、これもまた日本の特性のようである。

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日光東照宮

■ 5)部分から全体へ

西洋の建築では、全体をまず構想してから部分を構築していく。しかし、日本では部分をまず考えてから、それを紡ぐ様に全体に拡げていくそうである。「神は細部に宿る」という考え方があるが、それを実践していたのが日本の美の構築であった。

西洋が全体のバランスを重視していたのに対して、日本では型に嵌まらない有機的で自由な形態が特徴となっていた。

■ 6)非対称

対称(シンメトリー)的な建築は、権威を象徴している。西洋建築の宮殿などでは概ね、このシンメトリーな構造が使われていた。しかし、日本ではそれと異なり、非対称(アシンメトリー)の構造が主流となっている。中国から伝来してきた仏教寺院も日本ではいつの間にか、非対称に変わっていた。

それは、日本では権威主義的である対称的な構造が相応しくないと考えられたようだ。画一的な対称よりも、より自由な非対称を選んだのは、部分から発想する日本人ならではの特性に合致していたと思われる。

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法隆寺

■ 7)木材による柱梁構造

西洋をはじめ、世界の多くの国では石材が建築資材として使われた。それは耐久性があったのは言うまでもない。しかし、日本では木材が多く使われた。何故なら、国土の大部分が木で覆われていたからだ。そこに、資材活用を見いだしたのは当然であった。そして、日本ならではの気候も影響していた。

夏は暑く、湿気が高い。石造りではとても我慢できなかった。木材の良さは、この暑さ対策でもあった。湿気を吸収し、暑さを逃がすという木材の特性が日本の風土に合っていたのである。木材を使用することは、その構造にも特徴が表れた。それは石造りと違って、アーチ構造等はなくほぼ直線の形状となっていた。

■ 8)五感で感じる

視る、聴く、嗅ぐ、味わう、触れるの五つの感覚。これは、人間の有する代表的な特性である。それらを取り込むことで自然と共生する豊かさを享受することが日本の美の特徴となっていた。

木材の香り、畳の匂いもそうである。開け放たれた障子から吹き抜ける風の感触もまた然り。そして、四季折々にその感じ方は違っていた。実に洗練された美の楽しみ方だったと思われる。しかし、それも現代では無いに等しいか。

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嵯峨野竹林

■ 9)奥の概念

日本の美の様式には、奥に行けば行く程に尊重されるというものがある。いわゆる「奥ゆかしい」といわれるものである。
<おくゆかしい【奥ゆかしい】>
深みや品があって、心をひかれるさま。

神社や仏閣では、その奉る本尊はずーと奥にあるのが普通であり、それが奥になればなるほど、神聖があり格調も高くなる。しかしその形態は、ときに権力を象徴するものともなる。それは二条城や江戸城などに見てとれる。幾つもの識見の間や長い廊下等の演出で権威性を高める演出を施している。

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千本鳥居

■ 10)巧みの技

日本の木造建築を支えていたのは、巧みの技を有した名匠たちの存在にあった。木材でしか建築をしてこなかったのは、世界でもまれのようであり、したがってその技術は日本特有のものとして発展してきた。いまでも残る歴史的建造物もかつての名匠たちがいかに優れていたかを証明している。

これらを考えると、木材と日本人は切っても切れない関係にあることが分かる。コンクリート建造物が、僅か50年程度で劣化して立て替えとなる現状を、かつての名匠たちはいかに思うだろうか。

それに引き換え、かつての名匠たちが残した建造物は何百年、または千年を超えても存在している。そして、悠久の時の流れを刻みながら、現在に、そして未来まで…。(と願うばかりである)

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参考文献:「JAPANESE IDENTITIES」より

なお、個人的な独自解釈を加えており、上記資料とは内容が若干異なっていることをご了承ください。だいたい同じですが、一応お伝えしておきます。

JAPANESE IDENTITIES―建築を通してみる日本らしさ

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