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■アート|美術愛好家の夢をつなぐ スタートトゥデイ前澤社長のアートコレクション

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アート収集にかける情熱が半端ない

日本に現れたニュータイプのアートコレクター

 ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイの社長、前澤友作氏のアート収集の勢いがとまらない。

 2016年、ニューペンティングの伝説的な存在だったジャン=ミシェル・バスキアの作品を約63億円で落札して注目を集めたが、2017年には、なんと前回を大きく上回る123億円でおなじくバスキアの作品を落札して話題となった。

ニューペインティングとは
1970年代後半から1980年代にかけて、アート市場で注目を集めた動きであり、新表現主義、トランスアヴァンギャルドともいわれた。その画風の特徴は、強い情動性に基づいた個性があり、ペインティングの復活を印象づけていた。

 バスキアの123億円の落札は、アメリカの美術作家では最高額となるそうだ。前澤氏は、これでバスキア作品の1番目と2番目に高額な作品を手にいれた。

 よほどバスキアに惚れ込んだようだ。ちなみにバスキアは、現存する作家ではない。27歳という若さで1980年代後半に夭折している。したがって、その活動歴も短く、残した作品の総数は約900点(意外と多い)といわれている。

 900点が多いのか、少ないのかは知る由もないが、たぶんスケッチや小品などを含むものではないか。大型の代表的な作品はそれほど多くないに違いない。

 すでに他界し、残された作品も限りがあるので、今後も高値で推移しそうだ。それにしても、123億円は高過ぎるような気もするがいかに。

 前澤氏は、バスキア落札で俄然注目されたが、それ以前からアート収集には情熱を傾けていたようだ。ちなみにアート収集の中心は現代美術となっている。

 たとえば、アンディ・ウォーホル、リキテンスタインほかのポップアート、ドナルド・ジャッドほかのミニマルアート、ジェフ・クーンズほかのシュミレーショニズム、さらには日本人アーティストの河原温など…。

 その他にも多くの現代美術作家の作品を収集している。それらの作品は自宅以外にも、ZOZOTOWNの社内でも展示されている。できるかぎり多くの人に作品が触れる様にするのが、前澤氏のスタンスであるようだ。

 その姿勢は、作品を囲い込んでしまうコレクターとは一線を画している。

 123億円で落札したバスキア作品も、これから世界中に貸し出していくそうだ。そして、その後は千葉に建設される美術館に所蔵されるようである。

バブル期のアート収集家との違い


アンディ・ウォーホル
https://www.fashionsnap.com/article/office07-starttoday/index2.php

 1980年代半ばから後半にかけて、空前のバブル景気に沸いた日本では有り余ったお金を美術品に投資することが流行った。

 その多くは、金の使い道にこまった金満企業が投資として購入していた。したがって、購入された作品はゴッホやルノワールなどの印象派、あるいはピカソなどのすでに評価基準が定まったものに限られていた。

 端的にいえば、有名な作家とその作品ということができる。アートが好きとか、嫌いとか関係なく、儲かるという言葉がキーワードとなっていた。

 80年代は、海外高級ブランド品が売れたが、それとおなじくアートもブランド品を購入したのだ。価値を決める判断基準がそこにしかなかった。

 そのような価値基準しかもたない経営者は、「儲かりまっせ」の一言でいとも簡単に詐欺師にしてやられた。それが有名なイトマン事件である。(老舗商社が、闇の紳士たちの仕掛けに乗っかり、被害額は数千億円以上となった)

 あの当時(1980年代)、もしバスキアの作品を購入して現在まで所有していたら、その価値は膨大に膨れ上がっていたはずである。しかし、そんなアートの目利きが企業にできる訳もなく、無駄に高い金額で印象派などを購入していた。

 とにかくバブル期のアート収集家は、一発当てた金満家および金余りの企業だった。アートに対する関心もお金=価値であり、見る目はまったくなかった。

 そしてアートに消えたお金は、その後一体どうなったのか。90年代初頭のバブル崩壊でその価値が元の木阿弥となったのは言うまでもなかった。

「ゾゾタウン」前澤友作氏は、アートの新たなゴッドファーザーとなるか
「シンワアートオークション(Shinwa Art Auction)」の羽佐田信治氏(Shinji Hasada)は1980~1990年代の好景気時代について「バブルのとき、多くの日本人が投資目的として絵画を買い集めました」と語る。

関税の数字を見ても、1985年に輸入されたアート作品は2億4600万ドル(約273億4200万円)だったものが1990年には34億ドル(約3779億1000万円)へと急騰している。だが、バブル時代に購入された名画は、日本の経済が破たんした途端に投げ売りされた。今の日本のアートコレクションのマーケットは、当時のピークの約20分の1に縮小したと羽佐田氏は説明する。

 一方、現代のアート収集家である前澤氏も有数の資産家である。IT企業を創業して大成功を収めたのはいまさら言うまでもない。なんでも日本の資産家番付では、第11位にランクインしているらしいぞ。(資産=35億ドル/約3892億円)

 余談であるが、あのホリエモン曰く、「日本の経営者は弛んでいる。弛んでないのは、孫さん(ソフトバンク)、柳井さん(ユニクロ)、前澤さんぐらいのもんだ」、と前澤氏の経営能力を高く評価している。


ジュリアン・オピー
https://www.fashionsnap.com/article/office07-starttoday/

前澤氏はアートの目利きか、たんなる道楽か

次世代アーティストを支援する

 そんな前澤氏が、バブル期のコレクターとは一線を画しているのが、アートの収集だけでなく、次世代の無名のアーティストを支援していることだ。

「現代芸術振興財団」という公益財団法人を立ち上げて、次世代のアーティストを発掘する場とした。もはや前澤氏は、日本の現代美術における最大のパトロンと言っても過言ではない。またバブル期の収集家とは雲泥の差と言わざるをえない。

現代芸術振興財団のサイト
http://www.gendai-art.org/

 前澤氏のアートの視点は、どこに向かっているか。それはたんなる個人的な趣味や趣向性を満足させるだけでなく、この先の未来にはアートの感性こそが、社会や企業、環境にもたらす何かを生み出すと予感しているのかもしれない。

 それはやがてくるAIの世界とも無縁ではないはずだ。

 やがてくるAIが主導権を握る世界では、人間の技術的なスキルが必要なくなるかもしれない。そのとき人間に残された能力には何が求められるか。

 それが、アートの感性ではないか。前澤氏は、そのためにいつも身近にアートを置くことで感性を刺激し、また磨くことをしているのではないか。

 あくまで推測ではあるが、そのようなことが想像できる。

 それはさておき、前澤氏は有り余る資産を背景にアート収集を勢い付けているが、バブル期の紳士とは違い、アート収集のセンスの良さが見てとれる。

 当方も好きな、ジュリアン・オピー(Julian Opie)の作品が、ZOZOTOWNの社内に多く展示されている。その他の作品も当方のアートの好みと近いものがある。千葉の美術館ができたときには、ぜひ訪問したいと考えている。

 ちなみに当方がセンスがいいという訳ではない。前澤氏がすごいのは実際に収集していることだ。それがアーティストの最大の支援であるのは言うまでもない。

 そしてアートが、とにかく好きという姿勢が収集した作品からも滲み出てくる様だ。それにしても、どーしてそこまでアートが好きなんだろう、と端からは不思議に思うばかりだが、本人はまさに夢を叶えた気分なのではないか。

 とにかく好きなアートに囲まれたいまの気分は、きっと最高に違いない。

 だから、より多くの人たちとその気分を分かち合いたいという気持ちが、美術館建設や、作品のオープンな展示などの姿勢となって表れているようだ。

 そのような姿勢は、間違いなく一般人のアート好きにも夢を与えてくれている。


バスキア、リキテンスタイン、ウエッセルマン、河原温など
引用:現代芸術振興財団より
http://gendai-art.org/figures/index.html

冒頭写真:123億円のバスキア作品と前澤氏(引用:現代芸術振興財団)

その他引用:【オフィス訪問レポ】vol.7: ZOZOでおなじみスタートトゥデイ」本社を訪問 アートや家具もすごかった

追記:
 忘れていたが、80年代バブル期にも現代アートを収集していた事業家がいた。それが、アルファキュービックというアパレルの創業者である。

 レノマというブランドが受けて、一時期は相当な勢いを見せていた。そして創業者は現代美術を収集していた。収集したアート作品は、青山のフロムファーストにあったアルファキュービックのお店などに飾られていた。

 当方はそれを見た記憶がある。陳列されていた洋服よりも、展示されていたアート作品の方が格好いいと感じて通りすがりに眺めていた。

 ちなみに、アルファキュービックは90年代に入ると失速し、90年代後半には倒産した。創業者が収集したアート作品は、その後どうしたのだろうか。

 前澤氏のZOZOTOWNは、いま絶好調らしいが、将来も安泰とはいかないはずだ。これからが、前澤氏の経営者としての能力が試されるに違いない。

 そのとき、アートの目利きとしての感性をどう活かすかに注目したい。

Basquiat
Basquiat

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